エピソード44/共犯者
絵美「お母さん。私、こんなにお年玉を貰っちゃったんだけど」
絵美の母「あら、やだ。俊君」
俊之「何ですか?」
絵美の母「これ。こんなに貰ったら、悪いわよ」
俊之「いいんですよ。ウチは親戚の数が多いだけですから」
絵美の母「そんな事を言わないで、俊君から返して貰えないかしら」
俊之「そんなもん。あげた方からすれば、返されたって困るでしょ」
絵美の母「それは、そうかもしれないけど」
俊之「いいじゃないですか。どっちみち、何れは俺達が、それを返さなければならなくなったりするのかもしれないし」
絵美の母「そう!?」
俊之「使うのに気が引ける様だったら、何かの時の為に貯金でもしておいて下さいよ」
絵美の母「分かったわ。とにかく、俊君のお母さんにはお礼を言っておかなくちゃ」
俊之「そんなに気を遣わなくても、いいと思いますけど」
絵美の母「そうはいかないわよ。もう帰ってきているの?」
俊之「いえ。まだ、実家の方で後片付けを手伝っていると思います」
絵美の母「そう。じゃあ、それは後にするとして。俊君、今日はウチで夕飯を食べていきなさいよ」
俊之「そのつもりで今日、来たんですけど」
絵美の母「あら、そうなの」
俊之「そうすれば、お袋は実家の方の残り物で夕飯を済ませられるだろうし」
絵美の父「あはは。本当に俊君はしっかり者だな」
絵美の母「それじゃ、夕飯の支度をしなきゃ。絵美、手伝って頂戴」
絵美「分かった」
絵美の母と絵美は立ち上がって台所へ行く。
絵美の父「俊君の親戚って、そんなに沢山、いるのか?」
俊之「はい。お袋の方が5人兄弟だし」
絵美の父「そっか」
俊之「親父の方はもっとですから」
絵美の父「もっとって、どれくらいなんだ?」
俊之「親父は9人兄弟なんです」
絵美の父「それは、すごいな」
俊之「だから、親父方のお年始に絵美を連れて行けば、もっとお年玉を貰えたのかもしれません」
絵美の父「ははは。何を言っているんだ」
俊之「っても、親父の親戚は半分くらい、遠くに住んでいるんで、滅多に会えないんですけどね」
絵美の父「そうだろうな。ウチも
俊之「じゃあ、来年か再来年には、お母さんの田舎へ帰るんですか?」
絵美の父「いや。今は絵美も隆行も学校が忙しないから、絵美が高校を卒業してからにしようと思っているんだよ」
俊之「なるほど」
絵美の父「本当は今年、帰ろうかとも思ったんだけど、ウチもそんなに裕福ではないからさ」
俊之「ははは」
絵美の父「短くするよりは、長くする方をね」
俊之「そうですよね」
絵美の父「それで、その時に今度は俊君を連れて行きたいと思っているんだけどね」
俊之「いいんですか?」
絵美の父「俊君さえ良ければ構わないさ」
俊之「じゃあ、楽しみにしています」
絵美の父「そうか。じゃあ、決まりだな」
俊之と絵美の父は暫く、二人で話を続けた。
そして夕飯の支度が出来る。
俊之「俺、
絵美の母「お願い」
俊之は立ち上がって、隆行の部屋へ向かう。
そして隆行と一緒にリビングへ戻ってくる。
俊之は絵美の隣に座り、皆で夕飯を食べ始めた。
俊之と隆行はいつもの様に、すごい勢いで食べている。
絵美の父「俊君は本当によく食べるな」
絵美の母「育ち盛りだもんね」
絵美の父「本当に気持ちがいいくらいだよ」
俊之「ありがとうございます」
絵美の母「おかわりも、たんとあるからね」
俊之「はい」
俊之は絵美の家でも自宅と同じくらいの量を食べる。
俊之は食べる事に関しては何処でも遠慮はしない。
そして夕飯を済ませると、絵美と二人で絵美の部屋へ行く。
絵美「あ~、今日は疲れたな~」
俊之「そっか。悪かったかな」
絵美「ん~ん。すごく楽しかったし」
俊之「じゃあ、良かった」
絵美「ねぇ」
俊之「何?」
絵美「
俊之「そう!?」
絵美「うん」
俊之「でも、よくそう言われるんだよな」
絵美「でしょ~」
俊之「
絵美「そっか。
俊之「多分だけどね」
絵美「だけど、光さん、可愛そうだったね」
俊之「何で?」
絵美「だって、みんなに虐められていたじゃん」
俊之「あはは」
絵美「それって、笑うところ!?」
俊之「いや。光ちゃん、本当は彼女がいるんだよ」
絵美「え!?そうなの?」
俊之「うん。でも、それを知っているのは、俺と聡ちゃんと爺ちゃん婆ちゃんくらいかな」
絵美「そうなんだ」
俊之「光ちゃんは、
絵美「どうしてなんだろう!?」
俊之「だから、兄弟だから照れ臭かったりするのかもしれないね」
絵美「でも、聡子さんは知っているんでしょ!?」
俊之「うん。聡ちゃんと光ちゃんは本当に仲がいいんだ」
絵美「それは今日、見ていて私も思ったけど」
俊之「ウチのお袋とは歳が離れているし、亨叔父さんや弘叔父さんとは同性じゃん」
絵美「うん」
俊之「だからだと思うよ」
絵美「でも、隆行は違うじゃん」
俊之「ああ。それは2人姉弟だからなんじゃないかな」
絵美「そうなの!?」
俊之「3人以上だとさ。例えば、光ちゃんの場合で話をすると」
絵美「うん」
俊之「亨叔父さんや弘叔父さんに、光ちゃんが虐められたりしてさ」
絵美「うん」
俊之「そういう時に聡ちゃんが、光ちゃんを庇ったりしていたんじゃないかな」
絵美「そっか」
俊之「それで、聡ちゃんと光ちゃんとの間で、そういう信頼関係みたいなものが出来たんじゃないかって」
絵美「なるほどね~」
俊之「絵美と隆行の間じゃ、絵美が隆行を庇ったりしなきゃならない状況になったりしないでしょ」
絵美「そうだね~」
俊之「だから、照れが残ったりしちゃうのかもね」
絵美「そっか~。でも、男の人って本当に面白いね」
俊之「あはは。それは男からしたら、女の子は面白かったりはするし」
絵美「そうなの!?」
俊之「うん」
絵美「どういうところが?」
俊之「いや、急に言われても、すぐには思いつかないけど」
絵美「そっか」
俊之「俺、これまで絵美に、女の子の心理みたいなものを訊いた事が何度かあるでしょ」
絵美「そうだね」
俊之「それで、いいんじゃないのかな」
絵美「どういう事?」
俊之「だから、分からないから、分かり合おうとする」
絵美「うん」
俊之「そういうところも、恋愛の一つの側面なんじゃないかって」
絵美「そうだね。でも、光さんの彼女って、どんな人なんだろう~?」
俊之「あはは。やっぱり、そこに行くんだ」
絵美「うん。だって、気になるじゃん。俊君は知っているの?」
俊之「いや。俺も詳しくは知らない」
絵美「そうなんだ。残念~」
俊之「ただ、結構、長く付き合っているみたいだけどね」
絵美「へぇ~。長くって、どれくらいなんだろう?」
俊之「大学の時からって言っていたから、5年以上にはなるんじゃないかな」
絵美「そんなに長く付き合っていて、他の人達にバレていないの!?」
俊之「みたいだね。聡ちゃんや爺ちゃん達が上手くフォローをしているんじゃないかな」
絵美「そっか」
俊之「それに、亨叔父さんや弘叔父さんは言いたい放題じゃん」
絵美「そうだったね」
俊之「光ちゃんは、それでいいんだって」
絵美「そうなんだ」
俊之「言いたい事を言わせておいた方が上手く誤魔化せるんだってさ」
絵美「なるほどね~。それで光さん、あれだけ言われていても、全然、動じていなかったんだ」
俊之「そう。でも、それが分かっていると、あの時のやりとりって、また違った面白みがあるでしょ」
絵美「そうだね~。でも、だったら、先に教えておいて欲しかったな~」
俊之「先に教えても、よく分かんないって」
絵美「そう!?」
俊之「だって、光ちゃんの事を何にも知らなかった訳だし」
絵美「そっか」
俊之「光ちゃんの事を、ちょっとは分かってからだから、面白いんだよ」
絵美「そういうもんなのかな~」
俊之「とにかく、他の人には話をしちゃ駄目だよ。特にウチのお袋とか」
絵美「分かった」
俊之「って、俺はこうして絵美に話をしちゃっているけど」
絵美「あはは。本当だね」
俊之「まあ、絵美だったら大丈夫だと思うから、話をしたんだけどね」
絵美「光さんは、そうは思っていないのかもしれないよ」
俊之「大丈夫だよ。絵美から他に広がりさえしなければね」
絵美「何、それ。ひょっとして、私も共犯者に巻き込まれたって事!?」
俊之「そう」
絵美「俊君ったら、もう~。でも、私、こういう秘密は大好きだから、いいや」
俊之「あはは。そうなのか」
絵美「うん。えへへ」
俊之「そんじゃ、今日はそろそろ帰ろうかな」
絵美「もう帰るの?」
俊之「絵美、明日からバイトだろ!?」
絵美「うん」
俊之「今日は疲れたって、さっき言っていたし」
絵美「うん」
俊之「だったら、今日は少し早めに休みなよ」
絵美「分かった。じゃあ、そうする」
俊之と絵美は立ち上がり、絵美の部屋を出て玄関の方へ向かう。
途中、リビングの戸を開けて、絵美の両親に挨拶する。
俊之「お邪魔しました」
絵美の母「あら、今日は早いのね」
俊之「はい。絵美、疲れているみたいだから、早く休ませようと思って」
絵美の母「そう。ありがとうね」
俊之「それじゃ、また来ます」
絵美の母「いつでも、いらっしゃい」
俊之はリビングの戸を閉めて、再び絵美と一緒に玄関へ向かう。
玄関に着くと、俊之は自分の靴を履いて絵美の方へ向き直る。
俊之「これ、ちょっと見てみて」
俊之が何かを摘んでる様な感じで、絵美の顔のちょっと上の方に右手を出した。
絵美が顔を上げて俊之の手を見る。
絵美「何!?何にも無いよ?」
突然、俊之が絵美の唇に自分の唇を重ねる。
数瞬の間、唇を重ねた後、ゆっくりと唇を剥がす。
絵美「俊君ったら、もう~」
俊之「お休み」
絵美「お休みなさ~い」
俊之が玄関から出て、自宅へと帰って行く。
絵美はリビングへ戻った。
絵美「お母さん、お風呂、沸いている!?」
絵美の母「沸いているわよ」
絵美「それじゃ、私、今日はお風呂に入って寝るね」
絵美の母「そうしなさい」
絵美はリビングを出て風呂場へ向かった。
風呂から出ると、自室へ戻って、すぐベッドに横になる。
そして幾らもしない内に眠ってしまう。
時刻はまだ、9時を幾らか回っただけであった。
普段はこんなに早く寝る事はない。
絵美はそれだけ気疲れをしていたのだろう。
でも、気疲れはしても、楽しかったし、幸せも感じていたのである。
絵美の寝顔が、それを物語っている様だった。
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