エピソード21/朝帰り

絵美えみ「ただいま~」


絵美が自宅へと帰って来た。


絵美の母「おかえり」


家の奥から絵美の母が返事をした。


絵美は家に上がると、そのままリビングへ行く。


絵美の母は台所に居た。


絵美の母「遅かったわね。それとも、早かったのかしら!?」


絵美「どうして?」


絵美はリビングで座りながら、母に訊き返した。


絵美の母「とし君、今日はアルバイトじゃないの!?」


絵美「午後からにしたんだって」


絵美の母「そうなんだ。どうりで中途半端な時間に帰って来る訳ね」


そう言いながら、絵美の母もリビングに来て座った。


絵美「お父さんは?」


絵美の母「隆行たかゆきと釣りに行ったわ」


絵美「そうなんだ」


絵美の母「この間の釣りで、余程、気分を良くしたみたいね」


絵美「そっか。でも、隆行がお父さんと二人で出掛けるなんて、珍しいね」


絵美の母「隆行はこの間の汚名返上しに行ったみたいよ」


絵美「ふ~ん」


絵美の母「それより、あんた」


絵美「何?」


絵美の母「俊君のところに泊まって、セックスはしたの?」


絵美「実は、昨日、俊君チには泊まっていないんだ」


絵美の母「じゃあ、何処に泊まってきたのよ?」


絵美「へへぇ~。昨日は俊君と一緒にホテルへ行ったんだ」


絵美の母「あら、そうだったのね」


絵美「この前、俊君チへ泊まりに行った時にさ」


絵美の母「うん」


絵美「俊君のお母さんに、家でHをしちゃ駄目だって、言われちゃって」


絵美の母「まったく、この子ったら」


絵美の母は頭を抱えた。


絵美「それで、俊君のお母さんがホテル代を出してくれて」


絵美の母「そんな事まで、して貰っちゃったの!?」


絵美「うん」


絵美の母「恥ずかしいったりゃ、ありゃしないわ」


絵美「でも、今後は自分達でなんとかしなさいって言われた」


絵美の母「そんなの当たり前でしょ」


絵美「そうだよね」


絵美の母「それにしても、俊君のお母さん、よく出来たお人だわ」


絵美「うん。私もそう思う」


絵美の母「そう思うって、あんた」


絵美「どうしたの!?」


絵美の母「何でもないわ。それより、あんた」


絵美「何?」


絵美の母「そんなにセックスがしたいの?」


絵美「え!?」


少しの間をおいてから、絵美が答える。


絵美「うん」


絵美の母「じゃあ、仕方がないわね」


絵美「何が!?」


絵美の母「来月からは、私がホテル代を出してあげるわ」


絵美「本当に!?」


絵美の母「俊君だって、お金を貯める為にアルバイトをしているんでしょ!?」


絵美「うん」


絵美の母「だったら、ウチは絵美も隆行も俊君に勉強を見て貰う訳だからね。だから、家庭教師代って事でね」


絵美「お母さん、ありがとう~」


絵美の母「それに、迷惑をかけた上にホテル代まで出して頂いちゃって、今更、山ノ井やまのいさんに何とお詫びをしたらいいのか分からないわ」


絵美「えへへ」


絵美の母「だから、それくらいさせて頂かないと。その代わり、月に一回分だけだからね」


絵美「うん」


絵美の母「それと」


絵美「何!?」


絵美の母「ちゃんと勉強はしなさいよ」


絵美「勉強はちゃんとしているよ~」


絵美の母「それは解っているわよ。だから、そのご褒美でもあるんだから」


絵美「そうなんだ」


絵美の母「そして、今後もって事」


絵美「了解。大丈夫」


絵美の母「大丈夫!?」


絵美「私、今は勉強を好きになったから」


絵美の母「本当なの!?」


絵美「本当だよ」


絵美の母「でも、あんた、ウチで一人で勉強をしているところなんて、見た事が無いけど」


絵美「一人で勉強なんて、する訳が無いじゃん」


絵美の母「そんなんで、よく勉強が好きになったなんて、言えるわね」


絵美「えへへ」


絵美の母「まったく」


絵美「でも、私もう、俊君に教えて貰わなくても、自分で勉強が出来る様になったんだよ」


絵美の母「そうなんだ」


絵美「ただ、俊君が傍に居ないと、勉強をする気になれないんだ」


絵美の母「本当に呆れちゃうわね。まあ、いいわ」


絵美「えへへ」


絵美の母「それじゃ、ちょっと掃除をするから、自分の部屋へ行っていなさい」


絵美「はーい」


絵美はそう言うと、立ち上がって自室へと行った。


自室に行ってから、幾らもしない内に絵美の携帯が鳴る。


由佳ゆかからの電話だった。


絵美「もしもし」


由佳「あんた、今、何処に居るの?」


絵美「今はウチに居るよ」


由佳「そっかぁ。じゃあ、これから、ウチに来れる!?」


絵美「いいよ」


由佳「そんじゃ、後でね」


絵美は携帯を切ると、リビングへ戻り、掃除をしている母に声を掛ける。


絵美「お母さん」


絵美の母「ん!?どうしたの?」


絵美「私、由佳んチに行ってくるね」


絵美の母「あんた、お昼はどうするの?」


絵美「いらない」


絵美の母「分かったわ」


絵美「それじゃ、行ってきます」


絵美の母「いってらっしゃい」


絵美は家を出ると、自転車に乗って、由佳の家へと向かった。


もう幾らもしない内に正午になる。


照り付ける太陽が、まだ夏が終わっていない、という事を主張しているかの様だった。

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