エピソード10/最後の試練
今日は
絵美の父「まだ来ないのか?」
絵美の母「二時頃って言っていたから、もうすぐでしょ」
絵美の父「せっかくの休みなのに」
絵美の母「ふふふ」
絵美の父「来るなら早く来て、早く済ませて欲しいもんだよ」
絵美の母「最初は逃げ出そうとしていたくせに」
絵美の父「逃げ出そうとなんかしていないぞ」
絵美の母「そうかしら!?」
絵美の父「まあ、いい」
絵美の母「ふふふ」
絵美の父は落ち着かなくて、どうしようもない感じである。
絵美の母は、そんな夫の姿がたまらなく可笑しかった。
そして数分もすると、玄関の戸が開く音がする。
絵美「どうぞ~」
俊之「お邪魔します」
絵美の母が玄関まで出迎えに来る。
絵美の母「いらっしゃい」
俊之「こんにちは」
絵美の母「はい、こんにちは。どうぞ上がって」
先ず絵美が先に家に上がり、その後に俊之が続いた。
そして絵美の母、絵美に続いて、俊之が廊下を歩いて行く。
リビングに着くと、テーブルの奥の側で絵美の父が胡座をかいていた。
絵美の母はリビングを抜けて台所へ行く。
絵美は俊之の隣に立っていた。
俊之は先ず、挨拶をする。
俊之「
俊之はそう言いながら、深々とお辞儀をした。
絵美の父「まあ、先ずは座りなさい」
俊之「はい」
俊之は絵美の父に促されて、絵美の父と対面する位置で正座をした。
絵美は俊之から見て左の側に座る。
そして絵美の母がお茶を入れて持ってきた。
絵美の父と絵美、そして俊之の分のお茶をそれぞれ置いて、絵美の母は再び台所に戻る。
絵美の父「絵美の方から話は聞かせて貰った」
俊之「はい」
絵美の父「山ノ井君だったね」
俊之「はい」
絵美の父「一つだけ聞かせて貰いたい」
俊之「何でしょうか?」
絵美の父「山ノ井君は絵美の事を好いてくれているのか?」
俊之「はい。それはもう、誰にも負けない自信があります」
絵美の父「判った。だったら、絵美と交際して貰って構わないよ」
絵美「お父さ~ん。ありがとう~」
俊之「ありがとうございます」
絵美の父「ただし、高校生らしい付き合いをしなさい」
俊之「高校生らしい付き合いですか」
絵美の父「約束は出来るか!?」
俊之「う~ん」
絵美の父「約束が出来ないのか!?」
俊之「お父さんの言う高校生らしい付き合いというものが、ちょっと俺には解らないので、何とも言えないというのが正直なところです」
絵美の父「判った。はっきり、言おう」
俊之「はい」
絵美の父「セックスは大人になってからにしなさい」
絵美「お父さん、何を言っているのよ。もう~」
俊之「それは約束は出来ません」
絵美の父「何!?」
絵美「俊君!?」
俊之「お父さんは子供のセックスに反対の様ですが、」
絵美の父「当たり前だ」
俊之「俺は大人のそういう押し付けが、子供達のモラルを低下させている要因の一つだと思っているのです」
絵美の父「何だと!?」
俊之「勿論、それだけが子供達のモラル低下の要因ではないでしょう。しかしセックスに関しては、それが一番、大きいと俺は思うのです」
絵美の父「どういう事なのか、ちょっと詳しく話を聞かせて貰おうか」
俊之「はい。先ず、殆どの大人はお父さんと同様に、子供のセックスには反対の立場を示すでしょう」
絵美の父「だろうな」
俊之「しかし子供は中学生くらいの年齢になれば、自然と性に対して関心を持ってしまいます」
絵美の父「ふむ」
俊之「だから、早ければ中学生の内に経験を済ませてしまう子もいますし、逆に大人になるまで経験が出来ない子は半分もいないのではないでしょうか」
絵美の父「そうなのか!?」
俊之「実際には分かりませんが、感覚として、それくらいだと感じます」
絵美の父「そうか」
俊之「でも、周りがどうだからとか、それが遅いか早いかが問題じゃないのです」
絵美の父「じゃあ、何が問題なんだ!?」
俊之「いや、問題と言うと語弊が出てくるのかもしれませんが、全てはタイミングだと思うのです」
絵美の父「タイミング!?」
俊之「はい。男にならなければならないタイミングとでも申しましょうか」
絵美の父「ふむ」
俊之「子供にも、そういうタイミングが来てしまう事もあると思うのです」
絵美の父「それは、そうかもしれないが」
俊之「逆に女性の方も、そういうタイミングを待ち焦がれていたりする場合もあると思うのです」
絵美の父「うーむ」
俊之「その様な時に男になれない様では、相手の女性に愛想を尽かされてしまう事だってあるでしょう」
絵美の父「確かに、それは、そうだな」
俊之「だから、俺の場合は絵美さんに愛想を尽かされるのは嫌なので、その様な約束は出来ないのです」
絵美の父「なるほど。それは判った」
俊之「勿論、そのタイミングが大人になってからであれば、お父さんのお考え通りにはなるでしょう」
絵美の父「ふむ」
俊之「しかし俺達が大人になるまで、そういうタイミングが来ないなんて保証は何処にもないのです」
絵美の父「保証という言い方をすれば、そうなのかもしれんが」
俊之「そして、そのタイミングというものは、お互いの信頼関係を築いていく過程で生まれてくるものだと考えます」
絵美の父「それは、そうだな」
俊之「それを踏まえた上で、俺と絵美さんは、すでにキスまでは済ませています」
絵美の父「何!?それは本当か?」
絵美「うん」
俊之「だから、早ければ近い内にでも、そのタイミングが来ても、おかしくないと思いますし、近い内かどうかは別として少なくとも、大人になるまで、そのタイミングが来ない方が考え難い様に思います」
絵美の父「う~む。まあ、いい。取り敢えず、それは判った」
俊之「はい」
絵美の父「それより、さっき、モラルがどうのこうの言っていたが」
俊之「こらから、お話をしようと」
絵美の父「そうか。じゃあ、聞かせて貰おう」
俊之「今、お話をした様に子供にも、そういうタイミングが来てしまう事もあるでしょう」
絵美の父「うむ」
俊之「なのに大人は子供だからという理由だけで、セックスをするのは悪い事だと決め付けてしまうのです」
絵美の父「う~む」
俊之「そこで子供達はセックスをしたくなったら、大人に隠れてセックスをするしかなくなってしまいます」
絵美の父「なるほど」
俊之「隠れてセックスをする事で、セックスをする事に罪悪感が生じます」
絵美の父「うむ」
俊之「セックスをする事に罪悪感を感じてしまうと、セックスをするという段階でモラルが破壊されてしまうのです」
絵美の父「う~む」
俊之「それで、そこでモラルが破壊される事により、子供達は避妊をしなくなったりしちゃうんじゃないかと思うのです」
絵美の父「なるほど」
俊之「セックスという悪事をするのなら、避妊もしなくていいや、と。それが人間の心理なのではないでしょうか」
絵美の父「確かに山ノ井君の言う事に、一理、あるとは思う」
俊之「ありがとうございます」
絵美の父「まだ何か、あるかね!?」
俊之「はい」
絵美の父「じゃあ、先ず山ノ井君の話を全部、聞いちゃおう」
俊之「はい。それで避妊をしない事で出来てしまった子供、望まれないままに出来てしまった子供の未来は、大変に厳しいものになりかねません」
絵美の父「そうかもしれないな」
俊之「下手をすれば中絶という、生まれる前に命を断たれてしまう事だってあります」
絵美の父「うむ」
俊之「俺は決して中絶を否定するつもりはありません」
絵美の父「ん!?」
俊之「どうしようもない場合もあると理解をしています」
絵美の父「うむ」
俊之「しかし、だからこそ、中絶しなければならない状況を、出来る限り作らない様にしなければならないと考えます」
絵美の父「そうだな」
俊之「その為に大人は子供達に、セックスをするなと教育をするのではなく、セックスをする時には、ちゃんと避妊をする様に、との教育をすべきだと思うのです」
絵美の父「なるほど」
俊之「そうする事でセックスに対する罪悪感を無くし、そうなる事で子供達は大人に対して、後ろめたさを感じる事も無くなるので、気軽に性の相談や話も出来る。そんな環境を作る事が出来るのではないかと思うのです」
絵美の父「そうかもしれないな」
俊之「お父さんは俺と絵美さんがキスをしていた事を知らなかった様ですが、」
絵美の父「それを言われると参るな」
俊之「お父さんに性への理解があれば、絵美さんもお父さんに話をする事が出来たのではないかと思うのです」
絵美の父「それは言わんでくれよ」
俊之「俺は絵美さんとお父さんには性の事でも何でも話せる、そんな関係でいて貰いたいと思っています」
絵美の父「そうか、そうか」
俊之「そして、そうなる事が出来れば、絵美さんをより幸福に出来ると思っています」
絵美の父「うむ」
俊之「だから、反対される事も覚悟の上で参上をさせて頂きました」
絵美の父「ほほう」
俊之「今日、きちんとお話をして、ご両親に理解を頂いた上で、これから絵美さんと、ちゃんとした交際をしていきたいと思っています」
絵美の父「ふむ」
俊之「もし、お許しを頂けない場合は、お許しを頂けるまで何度でも、参上をさせて頂きたく思っています」
絵美の父「そうか」
俊之「一応、俺の言いたい事は、一通り言わせて頂きました」
絵美の父「取り敢えず、山ノ井君がどれだけ真剣に絵美やその他の色々な事、そして私達の事までをも考えてくれていたって事は判った」
俊之「ありがとうございます」
絵美の父「今度は私の話を聞いて貰いたい」
俊之「はい」
絵美の父「山ノ井君の話を聞いていると、とても高校生とは思えなかったんだが、」
俊之「すみません」
絵美の父「高校生は高校生でしかない」
俊之「はい」
絵美の父「高校生である以上、私から見たら、まだまだ子供なんだ」
俊之「そうですか」
絵美の父「そして絵美は私にとって、ただの子供ではない」
俊之「はい」
絵美の父「かけがえのない実の娘なんだ」
俊之「はい」
絵美の父「山ノ井君の言っていた事が正しい事だとしよう」
俊之「はい」
絵美の父「私は他の子供達には山ノ井君の様な考えで接する事も出来るのかもしれない」
俊之「はい」
絵美の父「しかし絵美に対してだけは、そうはいかないんだよ」
俊之「はい」
絵美の父「それが親と子というものなんだ」
俊之「はい」
絵美の父「理屈じゃないんだよ」
俊之「はい」
絵美の父「そして親である以上、子供のセックスを推奨する訳にはいかない」
俊之「俺も決して推奨をしている訳では」
絵美の父「判っている。でもね、大人の世界では容認をしてしまう事で、推奨をしていると受け取られてしまう事もあるんだよ」
俊之「そうなんですか!?」
絵美の父「だから、容認をせずに、何かを認めなければならなくなった時、大人はどうするか、解るか?」
俊之「いえ、解りません」
絵美の父「見て見ぬ振りをする事しか出来ないんだ」
俊之「見て見ぬ振りっていうのは、容認をする事ではないんですか?」
絵美の父「少し違う。容認は全面的な賛同は出来なくとも、表面上は認めなければならない場合。見て見ぬ振りは知らぬ振りでもあり、表面上、認める訳にはいかない事を、内心、仕方なく認めざるを得ない場合。知らなかったという言い訳を作る事」
俊之「そうですか」
絵美の父「この事はいずれ、山ノ井君が大人になれば、判る時もくるだろう」
俊之「はい」
絵美の父「とにかく親は子供のセックスを表立って認める訳にはいかないんだよ。セックスをするのは大人になってから、と言う外はない」
俊之「はい」
絵美の父「それが親の立場というものなんだ」
俊之「なんか、大人って面倒ですね」
絵美の父「ははは。確かに面倒なのかもしれない。ただ、さっきも言ったけど、いずれ嫌でも判らなければならなくなったりもする」
俊之「はい」
絵美の父「そして、それが大人になるという事なのかもしれない」
俊之「はい」
絵美の父「だから、今はまだ、高校生でしかない山ノ井君に、きちんと理解をする事は出来ないのかもしれない」
俊之「はい」
絵美の父「山ノ井君が絵美と結婚をして子供を作り、子の親になれば、きっと私の言った事は、きちんと理解が出来る時も来るだろう」
俊之「え!?」
絵美の父「本来であれば、まだまだ子供でしかない山ノ井君に、絵美の事を任せる訳にはいかない」
俊之「はい」
絵美の父「しかし山ノ井君を見ていて、山ノ井君なら絵美の事を幸せにしてくれるだろうと思ってしまったんだ」
俊之「本当ですか!?」
絵美の父「いや、山ノ井君にしか絵美を幸せにする事は出来ないとさえ思えるんだ」
俊之「ありがとうございます」
絵美の父「だから、山ノ井君と絵美の交際に関して、私は見て見ぬ振りをさせて貰う」
絵美「お父さん」
絵美の父「絵美の事は山ノ井君にお任せしよう」
俊之「ありがとうございます」
絵美の父「そして絵美の交際相手として歓迎もしよう」
絵美「お父さん、大好き!」
絵美はそう言いながら、父の首に抱き着いた。
俊之「とても素敵なお父さんだね」
俊之は優しい眼差しで絵美に声を掛けた。
絵美「うん」
絵美は元の位置に座りながら応えた。
絵美の父「ははは。私の事を褒めてくれたとて、容認は出来ないぞ」
俊之「解っています。その事も含めて、本当に素敵だなと思ったんです」
絵美の母「本当に今日のお父さん、カッコ良かったわ」
それまで台所の入口の所で立って話を聞いていた、絵美の母が言った。
絵美「本当にすごくカッコ良かった」
絵美の父「なんだ!?急に。今まで私の事なんか、褒めてくれた事なんて無かったのに」
絵美の母「ふふふ」
絵美「本当にカッコ良かったんだもん」
絵美の父「まあ、いい。それより、山ノ井君」
俊之「はい」
絵美の父「絵美を嫁さんに貰ってくれるんだろ!?」
俊之「いえ、今、それを約束する事は出来ません」
絵美の父「どうしてなんだ!?」
俊之「勿論、今の俺の正直な気持ちとしては、将来、絵美さんと結婚が出来たらいいな、とは思っています」
絵美の父「うむ」
俊之「しかし今はまだ、それは俺の一方的な願望でしかありません」
絵美の父「そうか」
俊之「まだ俺達は、そこまでの信頼関係を築けてはいないと思います」
絵美の父「なるほど」
俊之「それに相手を選ぶのは女性の権利だと、俺は思っているんです」
絵美の父「ほほう」
俊之「そして男は気に入った女性に選んで貰える様に頑張るんだって」
絵美の父「なるほど」
俊之「だから、絵美さんに選んで貰える様、頑張るって事は約束が出来ます」
絵美の父「判った」
俊之「ありがとうございます」
絵美の父「しかし、山ノ井君」
俊之「はい」
絵美の父「生意気なのも程々にしておいた方がいいぞ」
絵美の母「本当に、そうよ~」
俊之「すみません」
絵美の父「それと普段、絵美の事を何て呼んでいるんだ?」
俊之「呼び捨てをさせて貰っています」
絵美の父「じゃあ、そんなに気を遣ったりせず、私達の前でも呼び捨てして貰って構わないよ」
俊之「解りました。それと生意気ついでに、一つ、お父さんに図々しいお願いがあるんですけど、いいですか!?」
絵美の父「何だ?」
俊之「俺のお父さんにもなって欲しいんです」
絵美の父「何だ!?いきなり?」
俊之「俺、小さい時に事故で父を亡くしたもんで」
絵美の父「そうか、解った。本当の父親だと思って貰って構わない」
俊之「ありがとうございます」
絵美の父「じゃあ、これからは私達も俊君と呼ばせて貰うよ」
俊之「はい」
そして絵美の母がお茶を持ってやって来て、俊之から見て右の側に座る。
絵美の母「それで今度は私の方から俊君にお願いがあるんだけど、いいかしら?」
俊之「何ですか?」
絵美の母「ちょっと絵美の勉強をみてやって欲しいんだけど」
絵美「ちょっと、お母さん、何を言っているのよ」
俊之「ははは。俺の方は構いませんよ」
絵美の父「ん!?俊君はそんなに成績がいいのか?」
絵美の母「絵美の話だと、相当にいいらしいけど、この間の期末テストはどうだったの?」
俊之「俺は2番でした」
絵美の父「ほほう、それなら丁度いいじゃないか」
絵美「何が丁度いいのよ~!?」
俊之「勉強をしている間、一緒に時間を過ごせるんだよ」
絵美の父「そういう事になるな」
絵美「俊君と一緒に居れるのは嬉しいけど、勉強をするんじゃ、嬉しさが半減しちゃうじゃん」
絵美の父「ははは」
絵美の母「まったく、この子ったら」
俊之「俺は絵美と一緒に勉強が出来るんだったら、すごく幸せだけどな」
絵美「分かったよー。私も俊君が一緒に勉強をしてくれるんだったら勉強をする」
絵美の母「俊君、それから、ついでと言っちゃ何だけど、もう一つ、お願い出来るかしら?」
俊之「何ですか?」
絵美の母「時々でいいから、
俊之「いいですよ」
絵美の母「隆行、来年、高校受験なのよね」
俊之「因みに隆行君の成績はどんなもんなんでしょう?」
絵美の母「中学の成績は絵美より少し、いいくらいかな」
俊之「だったら、何とかなるかな」
絵美の母「お願いね」
俊之「それじゃ、俺がバイトのない日に、週に二日くらいで隆行君をみましょうか?」
絵美の母「それで構わないわ」
絵美の父「ん!?俊君、アルバイトをしているのか?」
俊之「はい」
絵美の父「何をしているんだ?」
俊之「大工の手伝いです」
絵美の父「将来は大工になろうとしているのか?」
俊之「いえ、そこまでは考えていないのですが、親戚の伯父さんが大工をしていて、中学の時から働かせて貰っていたので、そのままって感じです」
絵美の父「そうか。中学の時からねぇ、偉いな」
俊之「それに、どんな仕事に就くにしても、大工仕事を覚えておけば、何かと重宝されるんじゃないかと」
絵美の父「ははは。俊君は呆れる程にしっかり者なんだな」
絵美の母「本当に、そうね~」
俊之「すみません」
絵美の母「それと絵美の方はどうしようかしら?」
絵美「あ~あ」
絵美の父「どうしたんだ!?」
絵美「せっかく私の事は忘れ去られたと思っていたのに」
絵美の父「ははは」
俊之「絵美の方は俺がバイトを終えたら、こっちに来ます」
絵美「え~」
俊之「どうした!?」
絵美「勉強をするなら、俊君チでしたいな~」
俊之「だったら、俺がバイトのない時は、ウチですればいいじゃん」
絵美「え!?俊君、アルバイトがない時は隆行の方をみるんじゃないの!?」
俊之「隆行君の方は夕飯の後、数時間って感じだと思うよ」
絵美の母「そうね」
俊之「だから、それまでの時間は一緒に勉強が出来るよ」
絵美「えー!?それじゃ、私は毎日、勉強をしなきゃならないの!?」
俊之「そう」
絵美「何で!?そうなるの!?」
俊之「でも、毎日、毎日、勉強だけする訳じゃないしさ」
絵美「本当!?」
俊之「あはは。そりゃ、息抜きも必要だからね」
絵美の母「俊君、ごめんね~」
俊之「いいんですよ。俺、絵美のそういうところ、可愛らしくて好きですよ」
絵美の父「本当に絵美の取り柄は素直なところだけだな。それで、その素直過ぎるところで時々、私達は恥ずかしい思いをしなくちゃならない」
絵美の母「本当に、そうね」
俊之「だってさ」
絵美「も~。お父さんも、お母さんも」
絵美の母「ねぇ、俊君」
俊之「何ですか?」
絵美の母「今日、お夕飯、ウチで食べてらっしゃい」
俊之「それじゃあ、ご馳走になります」
絵美の母「それじゃ、目一杯、腕を振るわなきゃね。絵美、いらっしゃい、夕飯の準備をするわよ」
絵美「うん」
そう言うと、絵美は母と一緒に台所へ行った。
俊之「俺、ちょっと電話をさせて貰います」
絵美の父「どうぞ、どうぞ」
俊之は立ち上がって廊下に出てから、携帯で自宅に電話をかけた。
俊之「もしもし、おっかあ!?」
俊之の母「何?俊之なの!?」
俊之「今日、俺、夕飯はいらない」
俊之の母「何で?」
俊之「絵美んチで、ご馳走をしてくれるって言うから」
俊之の母「あら、そうなの!?」
俊之「うん」
俊之の母「じゃあ、今度はウチが絵美ちゃんに、ご馳走をしなきゃね」
俊之「まあ、それは、また今度でいいから」
俊之の母「そうね」
俊之「そんじゃ、そういう事だから」
俊之の母「了解」
俊之は電話を切ると、リビングに戻って、元の位置に正座をする。
俊之「すみません」
絵美の父「構わないよ。それに足も崩して貰っていいんだよ」
俊之「それじゃ、そうさせて貰います」
そう言って、俊之は正座から胡座に座り変えた。
絵美の父「足は大丈夫か!?」
俊之「さっきまで、ちょっと痺れてましたけど、電話をしている間に治りました」
絵美の父「そうか」
俊之「お父さん、休みの日はいつも何をしているんですか?」
絵美の父「ははは。私は大体、ウチでゴロゴロしているのが関の山かな」
俊之「そうなんですか」
絵美の父「時々、釣りに行ったりはするけどね」
俊之「今度、俺を連れて行って貰えませんか?」
絵美の父「おお、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」
俊之「俺、釣りって、やった事がないんです」
絵美の父「だったら、尚更、教え甲斐があるってもんさ」
俊之「お願いします」
絵美の父「いつ頃がいい?」
俊之「俺、夏休み中だったら、比較的、自由に時間は作れます」
絵美の父「じゃあ、来月の頭くらいまでに決めて連絡をするよ」
俊之「お願いします」
絵美の父「携帯の番号を教えてくれるか?」
俊之「はい」
俊之はそう言うと、携帯の番号を絵美の父に教えた。
そして、その後も俊之と絵美の父は様々な事を話する。
途中、隆行が帰って来た。
そして俊之が隆行の家庭教師になる事を決めたと紹介をして、その後、
俊之はその後も川村家の人達と様々な話をして、結局、俊之が自宅へ帰って来たのは、夜の十時を過ぎた頃だった。
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