エピソード9/絵美の母

絵美えみ「ただいま~」


絵美が自宅へと帰って来た。


家の奥の方から母親の返事が届く。


絵美の母「おかえり~」


絵美は家に帰ると、先ず自室へ行く。


そして制服から普段着へと着替える。


着替えを済ませた絵美はリビングへと向かった。


リビングでは絵美の母親が麦茶を飲みながらテレビを見ている。


番組は夕方のニュース番組だった。


絵美「私も飲もう~っと」


絵美はそう言うと、リビングの隣の台所へ行って麦茶を入れた。


そしてリビングに戻り、母から見て右の側に座った。


絵美の母「あんた、今日は何処に寄り道をしてきたの?」


絵美「とし君チ」


絵美の母「俊君チって、あんた、まさか、変な事をしているんじゃないでしょうね?」


絵美「変な事はまだしていないよ」


絵美の母「まだって、あんた、」


絵美「チューはしちゃったけど」


絵美の母「ふーん。まあ、いいわ」


絵美「でね、夕飯の支度を始める前に、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」


絵美の母「何?」


絵美「今度の日曜日にね」


絵美の母「うん」


絵美「俊君がお父さんとお母さんに紹介をして欲しいって言っているんだけど」


絵美の母「あら、まぁ。今時、珍しい子ね~」


絵美「でしょ~」


絵美の母「あんたは山ノ井やまのい君の親御さんとは面識があるの?」


絵美「うん。お母さんとは、この間。お父さんは俊君が小さい時に事故で死んじゃったって」


絵美の母「あら、そうだったの」


絵美「俊君のお母さん、とてもいい人だよ」


絵美の母「それで今度はウチの番って訳ね」


絵美「うん。俊君ね」


絵美の母「うん」


絵美「親に隠れて付き合ったりしたくないって言うの」


絵美の母「本当に今時、珍しい。天然記念物みたいな子ね」


絵美「親に隠れて付き合ったりすると、親子の距離が開いちゃうんじゃないかって」


絵美の母「そうかもしれないわね」


絵美「それで私が嬉しかったのがね」


絵美の母「うん」


絵美「親に知っていて貰えば、私がお父さんに何でも話せるんじゃないかって」


絵美の母「へぇ~」


絵美「そして私とお父さんに、そういう関係でいて欲しいって、言ってくれた事なんだ」


絵美の母「随分、しっかりした事を言う子だこと」


絵美「でしょ。私なんか、まだまだだな~って」


絵美の母「そりゃあ、ねぇ。でも、そんなもんじゃないの!?」


絵美「そうかな!?」


絵美の母「だって、まだ高校生になったばかりじゃない」


絵美「うん」


絵美の母「山ノ井君の方が生意気なだけだわよ」


絵美「お母さんからすると、俊君は生意気なんだ」


絵美の母「でも、素敵な男の子じゃない」


絵美「うん」


絵美の母「日曜日が楽しみだわ。お母さん、早く会ってみたいわ」


絵美「お母さんは、そう言ってくれると思ったんだけど」


絵美の母「何!?」


絵美「私、お父さんに紹介をするの、ちょっと怖くて」


絵美の母「そうね」


絵美「だから、私、最初は、お父さんに紹介をするのは渋っていたんだけど」


絵美の母「ふふふ」


絵美「俊君が私の事を本当に大切にしてくれていると思ったから」


絵美の母「そうだね」


絵美「ちゃんと紹介をしなきゃいけないなって思ったんだけど」


絵美の母「うん」


絵美「お父さん、大丈夫かなって」


絵美の母「何が心配なの?」


絵美「由佳ゆかはお父さんにばれて、無理矢理に別れさせられちゃった事があるから」


絵美の母「由佳ちゃんに、そんな事があったのね」


絵美「だから、私はそうなったら、嫌だと思うから」


絵美の母「大丈夫よ」


絵美「そう!?」


絵美の母「確かに男親にとって、女の子供というのは特別だったりするから、」


絵美「うん」


絵美の母「時には由佳ちゃんのお父さんみたいに厳しくなったりもしちゃうけど」


絵美「うん」


絵美の母「お父さんは解ってくれると思うよ」


絵美「そうかな!?」


絵美の母「だって、山ノ井君、絵美の話を聞いている限りじゃ、とてもいい子じゃない」


絵美「うん」


絵美の母「それにいざとなったら、お母さんが何とかしてあげるわよ」


絵美「本当!?」


絵美の母「大丈夫」


絵美「お母さん、ありがとう~」


絵美の母「それじゃ、夕飯の支度をするわよ」


絵美「うん。今日は何?」


絵美の母「今日は筑前煮と蛸の唐揚げ、それにもやしのサラダ」


そう言いながら、絵美の母はリモコンでテレビを消し、立ち上がって台所へ向かった。


絵美「了解~」


絵美もそう言って立ち上がり、台所へ行った。


そして二人は夕飯の支度を始める。


日が暮れるには、もう少し時間がかかる、そんな夏の夕方だった。

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