エピソード8/立葵の花が咲く頃
今日も
絵美「俊君、期末テスト、何番だったの?」
俊之「ああ、2番だったよ」
絵美「すごいじゃ~ん」
俊之「本当は1番になりたかったんだけどね」
絵美「2番でも、すごいよ~」
俊之「順位はともかく、良かったなって」
絵美「何が?」
俊之「前に言っただろ。1番になってから、告ろうと思っていたってさ」
絵美「うん」
俊之「結局、その前に告る事になっちゃって、付き合う事になったんだけどさ」
絵美「そうだね」
俊之「1番になってからだと、もっと、もっと、遅くなっちゃったんじゃないかってね」
絵美「そっか」
俊之「或いは、付き合う事自体も出来なくなっちゃっていたのかもって」
絵美「そうかな~」
俊之「だから、本当に良かったなって、今になって、つくづく思うよ」
絵美「そっか」
俊之「しっかし、暑いな~」
絵美「もう夏だもんね」
俊之「ごめんね、ウチ、クーラーがなくてさ」
絵美「ウチもクーラーはないから平気」
俊之「それなら良かった。それよりも、もうすぐ夏休みか~」
絵美「俊君、夏休みもアルバイトをするの?」
俊之「うん。でも、何日かは休むつもりだよ」
絵美「そりゃあ、ねぇ~」
俊之「だから、夏休みは何処かへ行こうな」
絵美「うん」
俊之「そう言えば、俺達まだ、ちゃんとしたデートって、した事がないんだよな」
絵美「そうだね~」
俊之「ゴールデンウィークはお休み中だったしな」
絵美「うん~」
俊之「そう言えば、
絵美「どうなのって!?」
俊之「彼氏が出来たとかって話はないの?」
絵美「中々ね~」
俊之「佐藤って結構、もてると思うけどな」
絵美「そうだよね~」
俊之「どうなのよ?」
絵美「何が?」
俊之「だから、何もないっていうのも、おかしいって言うかさ」
絵美「うん。何もない事もないんだけどね~」
俊之「何があったの?」
絵美「何もなかったみたい」
俊之「なんじゃ、それ!?」
絵美「だから、何もない事もないんだけど、何もなかったみたいなんだ」
俊之「よく分かんないけど、これ以上、俺が首を突っ込んでも仕方がないしな」
絵美「夏休みにね、
俊之「海かぁ。俺はちょっと苦手なんだよな」
絵美「そうなんだ~。ちょっと意外~」
俊之「泳げない訳じゃないんだけど、余り得意じゃないからさ」
絵美「そっか」
俊之「海はちょっと怖いっていうか」
絵美「海は波があるからね~」
俊之「だからよ~、俺とはプールへ行こうぜ」
絵美「いいよー」
俊之「楽しみだなー」
絵美「何が?」
俊之「絵美の水着姿」
絵美「やっぱり」
俊之「あはは。ばれちゃってた!?」
絵美「なんかね~、俊君の話の落としどころっていうの!?」
俊之「うん」
絵美「なんとなく、解ってきたんだ」
俊之「そっか~」
絵美「だからさ、俊君が楽しみだなーって言った瞬間」
俊之「うん」
絵美「私が何が?って訊いたら、私の水着姿って言うだろうなって」
俊之「もう完全に読まれちゃってる訳ね」
絵美「そう」
そう言って、二人は笑った。
数瞬の間、笑い合った後、俊之が切り出す。
俊之「その前にさー」
絵美「何?」
俊之「親を紹介してくれよ」
絵美「うん。今週の日曜日にね」
俊之「うん」
絵美「お父さん、家に居るって言っていたから、どうかな!?」
俊之「分かった。バイトを休まなきゃいけないな」
絵美「アルバイトを休んでまで、会わなくてもいいんじゃない!?」
俊之「だって、平日は無理なんだろ!?」
絵美「うん。お父さん、何時頃に帰って来るか、分からないからさ~」
俊之「それに始めから紹介して貰う日は、休むつもりでいたからさ」
絵美「そっか」
俊之「俺のバイトさ」
絵美「うん」
俊之「こういう時、便利なんだよね」
絵美「便利!?」
俊之「うん。そう、いつもいつもは出来ないけどさ」
絵美「うん」
俊之「月に一回くらいだったら、急に休んだりしても、全然、大丈夫なんだ」
絵美「そうなんだ~」
俊之「普通のバイトじゃ、時給は良くても、そういう融通って、中々ね~」
絵美「そうだよね」
俊之「勿論、普通のバイトだって、病気とかで急に休まなければならなくなる事もあるだろうけど」
絵美「うん」
俊之「そうなった場合、周りに迷惑を掛けちゃうでしょ」
絵美「そうだね」
俊之「俺のバイトは急に休んでも、周りに迷惑は、そんなに掛からないんだよね」
絵美「そっか~」
俊之「遅れた分は翌日以降に、すぐ取り返せるから」
絵美「なるほどねぇ」
俊之「だから、自給が安くても、簡単には辞めらんない」
絵美「私もアルバイトをしようかな~」
俊之「小遣いが足りないの?」
絵美「全然、足りないよ~」
俊之「そっか~」
絵美「夏休み、どうやって、遣り繰りしようかって」
俊之「大変なんだな~」
絵美「俊君、バイト代、月に幾らくらいなの?」
俊之「五万円くらいにはなるかな」
絵美「すご~い」
俊之「八月は夏休みだから、二十万円くらいは稼げるかもしれない」
絵美「そんなにお金を稼いでどうするの?」
俊之「秘密」
絵美「ひどーい。そんなに稼げるんだったら、アルバイトを少し減らして貰って、私ともっと遊んで欲しいって、思っちゃうな」
俊之「ごめん、ごめん。貯金をしているんだ」
絵美「貯金!?」
俊之「うん。一応、俺、奨学金制度を狙っているんだけど」
絵美「大学の!?」
俊之「そう。でも、奨学金制度を使えるかどうか、分からないじゃん」
絵美「うん」
俊之「で、使えなかった時の事を考えて、少しでも学費の足しになればと思って、今から少しずつって感じ」
絵美「俊君、偉いなー」
俊之「だって、以前程ではないにしても、未だに学歴社会である事に変わりはないじゃん」
絵美「そうだよね~」
俊之「だったら、大学くらいは行っておかないと、将来が不安でさ」
絵美「私は大学なんて行けないよー」
俊之「そんな事を言う前に、ちゃんと勉強をしろよ」
絵美「俊君の意地悪」
俊之「ははは。まあ、そんなに心配はしなくていいさ」
絵美「何で?」
俊之「前に言っただろ」
絵美「何を!?」
俊之「絵美は俺が絶対に幸せにしてやるって」
絵美「俊君」
俊之「だから、俺、今、勉強とバイトを頑張っているんだよ」
絵美「うん。ありがとう」
俊之「まあ、あれだ」
絵美「何!?」
俊之「夏休み中のデート代は俺に全部、任せておきな」
絵美「えー、そんなの悪いって」
俊之「大丈夫。それくらいは計算の内だから」
絵美「でも~」
俊之「それよりもさ」
絵美「うん」
俊之「さっき絵美、小遣いが足りないから、バイトをしようかなって言っていたじゃん」
絵美「うん」
俊之「バイトをしてもいいんだけどさ」
絵美「うん」
俊之「バイトよりも、もう少し勉強をして欲しいなって、俺は思うんだ」
絵美「えーーー!?」
俊之「何、そのリアクションはよー!?」
絵美「だって、俊君、本当にお母さんみたいな事ばかり言うんだもん」
俊之「俺達、学生なんだぜ。学生の本分は学業だよ」
絵美「そうなんだけどさ~」
俊之「成績なんて、どうだっていいんだよ」
絵美「そうなの!?」
俊之「どうだっていいって事はないかもしれないけど」
絵美「ほら~」
俊之「成績そのものよりも、勉強をするって事が大切だと、俺は思うんだ」
絵美「どういう事?」
俊之「体だってさ、サボっていたら、鈍ってきちゃうでしょ!?」
絵美「うん」
俊之「頭だって、同じなんだよ」
絵美「そうなのかな~」
俊之「特に俺達くらいに成長途中の子供はねぇ」
絵美「うーん」
俊之「どうした!?」
絵美「俊君の言っている事は解るんだけどさ~」
俊之「うん」
絵美「私、勉強って、大ッ嫌いなんだよね」
俊之「ははは」
絵美「本当なんだからね」
俊之「分かったよ。仕方がない奴だ」
絵美「仕方がないなんて、言わないでよー」
俊之「そんな事を言う奴は、チューをしてやる」
俊之はそう言って、絵美をベッドに押し倒し、唇を重ねた。
二人は数瞬の間、唇を重ねた後、俊之が体を返して絵美の隣で横になる。
俊之も絵美も足だけがベッドの外にある状態だ。
俊之「日曜日かぁ~」
絵美「俊君、不安なの?」
絵美は体を起こして、俊之に訊いた。
俊之「不安がないって訳じゃないけど、楽しみの方が大きいかな」
絵美「そっか」
俊之「やっぱさ」
絵美「何!?」
俊之「絵美のお父さんとお母さんにも認めて貰ってから、初めて、ちゃんとした交際が始まるって思うんだ」
絵美「うん」
俊之「俺達、今はまだフライング状態」
絵美「そうかもしれないね~」
俊之も体を起こした。
俊之「俺、早くちゃんとした交際をしたいって思うから、絵美の両親と話をするのが待ち遠しいんだよね」
絵美「私、お父さんにもう一度、釘を刺しておこうっと」
俊之「頼むな」
絵美「それと今日、お母さんに話をして、協力をして貰わなきゃ」
俊之「大丈夫なの!?」
絵美「うん。お母さんにはもう、ね、俊君と付き合っている事は話をしてあるんだ」
俊之「そうなんだ」
絵美「だから、今日、俊君の事を詳しく話しておけば、きっと助けてくれると思うんだ」
俊之「そりゃ、心強いな」
絵美「じゃあ、私、そろそろ帰らないと」
俊之「うん」
そして俊之はいつもの様に絵美を絵美の家の前まで送って行く。
帰り道、とある民家の庭先で、沢山の立葵が見事な花を咲かせていた。
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