エピソード4/由佳の部屋にて
由佳「毎日、毎日、私達と帰ってるじゃん。たまには山ノ井君と一緒に帰ったりすればいいのに。せっかく帰り道が一緒なんだから」
絵美「そうなんだけどね~。
由佳「へぇ。もう名前で呼んでるんだ」
絵美「うん」
由佳「それにしても、男って本当に鈍いよね」
絵美「鈍い!?」
由佳「もうちょっと、女心を分かって欲しいなって言うかさ」
木綿子「それ、分かるなー」
由佳「そういう話を聞くと、バイトや勉強と絵美と、どっちが大事なのよって言いたくなっちゃうのよね」
絵美「あはは」
由佳「何、笑ってんのよ。あんたの心配をしてあげてんのに」
絵美「えへへ」
由佳「まー、他人の私が心配をしても、仕方がないんだけどさ」
絵美「俊君ね、今度の期末テストで一番を取るんだって」
由佳「そうなんだ。え!?一番?」
木綿子「本当に?」
絵美「あはは~」
由佳「何、笑ってんのよ!?」
絵美「私もそれを聞いた時に、由佳達と同じ様なリアクションをしちゃったんだ」
木綿子「山ノ井君って、一番を狙えるくらいに頭がいいの?」
絵美「うん。実力診断テストは5番だったって」
由佳「すごい頭いいんじゃん」
絵美「そうだよね」
由佳「私、最近やっと、立ち直れてきたかな~って思っていたけど、そういう話を聞くと、ちょっとまだ凹むんだよね」
木綿子「なんで?」
絵美「由佳も俊君の事を好きだったんだよ」
木綿子「そうだったんだ~」
由佳「木綿子と親しくなったのは最近だからね~」
木綿子「小学生の時も由佳とは時々、遊んだじゃん」
絵美「ね~、
木綿子「希とは高校が別々になったのもあるし、高校に入ってすぐ、希に彼氏が出来ちゃったから」
由佳「どいつもこいつも、彼氏、彼氏って」
木綿子「私の相手なんかしてる暇はないわっていう様な感じでさ、そんな時に丁度、由佳から声を掛けてくれたから、助かったわ」
由佳「私の方だって、絵美と山ノ井君が出来ちゃうし、木綿子が居てくれなきゃ私、一人ぼっちになっていたところよ」
絵美「私が居るじゃ~ん」
由佳「あんたはもっと、山ノ井君と遊ぶと思っていたのよ」
木綿子「そうだよね」
由佳「そうしたら、全然、山ノ井君とは遊ばないで、私達と一緒に居るんだから」
絵美「そんな事を言われたって~」
木綿子「それより平気なの!?由佳?」
由佳「それが、よく分かんないんだよね」
絵美「何が?」
由佳「だから、立ち直ったと思っていたんだけどさ、山ノ井君の頭が良かったなんて事を知っちゃうと、」
絵美「うん」
由佳「逃した魚は大きいって感じで、ちょっと凹んじゃうんだよね」
絵美「俊君は魚だったんだ」
木綿子「ただの例えでしょう」
絵美「分かっているわよ。意味は」
木綿子「意味は!?」
絵美「使い方は知らなかった」
由佳「まったく」
絵美「えへへ」
由佳「とにかく山ノ井君、見た目は余りパッとしないけど、その他のところは結構、ポイントが高いんだよね」
絵美「でも、俊君の見た目、カッコイイとかは思わないけど、そんなに悪くもないと思うけどな~」
由佳「私だって悪いとは言っていないわよ。パッとしないって言っているだけでしょ」
木綿子「パッとしないって、十分に悪口の様な気がするけど」
絵美「そうだよね」
由佳「だったら、そこは私が悪かったのかもしれないけど、そこが問題なんじゃないでしょ」
木綿子「そういえば、そうだね」
由佳「とにかく山ノ井君、総合点は結構、高いんだよね」
絵美「うんうん」
木綿子「私はちょっと、ついていけないかな」
由佳「その上、更にポイントアップな話を聞くとねぇ」
木綿子「そっか」
由佳「大きいでしょう!?逃した魚」
絵美「そうかな~」
由佳「そりゃ、あんたはいいわよ。私が逃した魚を釣り上げちゃったんだから」
絵美「えへへ」
由佳「私さ、
絵美「そうだよね」
由佳「健二の時はさ、健二の方から私を好きになってくれたからさ」
木綿子「そうなんだ」
由佳「お父さんに別れさせられた時は、大喧嘩して、沢山、泣いたりもしたんだけど」
木綿子「へぇ~」
由佳「後から分かったんだよね」
木綿子「何が?」
由佳「私がそんなに健二の事を好きじゃなかったって事」
木綿子「ふーん」
由佳「だから、結果的には、それで良かったのかもって思ったんだ」
木綿子「由佳って結構、ドラマをしてるんじゃん」
絵美「だよね~」
由佳「そうかな!?」
木綿子「そうだよ。今時、お父さんに無理矢理に別れさせられるなんて」
由佳「でしょ!?だから、私、まだお父さんの事を許していないんだ」
絵美「そうなの!?」
由佳「だって、お父さん、健二の事を悪者にして別れさせたのよ」
絵美「由佳のお父さんは由佳の事を思って、でしょう」
由佳「それは、そうだろうけど、健二の事を悪者にしたのも事実よ」
木綿子「由佳も色々と大変なんだねー」
由佳「私もって事は木綿子も色々、あるの?」
木綿子「当たり前でしょ。私だって年頃の女の子なんだから」
絵美「何があったの?」
木綿子「私の話は今度でいいわ。今日は由佳の話。ほら、続けて」
由佳「どこまで、話をした!?」
木綿子「由佳のお父さんが
由佳「そうそう。でも、私はお父さんとは違って健二の為にもと、結果的にだけど別れる事になって良かったんじゃないかって」
木綿子「なるほどね」
由佳「そして、それは私自身の為にも良かった事だと思ったりもするんだ」
木綿子「結局はお互い様って事ね」
由佳「だって、そうでしょ!?」
絵美「何が?」
由佳「私からしたら、大して好きでもない相手の事を、好きだと勘違いをしたまま、一緒に居るのは良くないでしょう」
絵美「うん」
由佳「健二からしても、勘違いをされたまま、一緒に居られたって迷惑なだけじゃん」
絵美「迷惑って言うのはちょっと、言い過ぎな感じがするなー」
由佳「迷惑は言い過ぎだとしても、間違いではないでしょ!?」
絵美「うん」
由佳「だからさぁ、解った瞬間に吹っ切れたというか、」
絵美「うん」
由佳「完全に納得して、すっきり出来た感じだったんだ」
絵美「そか」
木綿子「でも、それって結構、ずるい感じがするなー」
由佳「なんで?」
木綿子「それって、由佳が川崎君の事を好きになれなかった言い訳の様に聞こえるけど」
由佳「木綿子って結構、きつい事を言うね」
木綿子「でも、ずるかったり、言い訳をする事が悪い事だって言っている訳じゃないのよ」
絵美「どういう事?」
木綿子「みんな、そうやって多少、強引にでも、自分を納得させて前へ進もうとしたり、過去に決着をつけたりするんじゃないのかな。要するに、そうするのが当たり前なんじゃないかって事」
由佳「木綿子の言う通りかもしれない。でも、今回はそれが出来ずに、ちょっと引きずっている」
木綿子「そっか」
由佳「それで引きずっている自分に、また凹むんだ」
絵美「由佳」
木綿子「そりゃ、何でも簡単に納得が出来たら、悩みなんてなくなっちゃうんだろうけどね」
由佳「みんな絵美のせいなんだからね。分かっているの!?」
絵美「え!?なんで、そうなるの!?」
由佳「あんたが山ノ井君の事、好きだって事を隠していたからよ」
木綿子「そうだったんだ~」
絵美「その事なら、本当にごめんなさい」
由佳「まったく。私が山ノ井君の事を好きになったって言ったら、絵美はもっと前から山ノ井君の事を好きだったなんて言うから」
絵美「だって~」
由佳「なんで、もっと前から、教えてくれなかったのよって事」
絵美「恥ずかしかったんだもん」
由佳「私、それを知っていたら、山ノ井君の事を好きになっていなかったのかもしれないのよ」
木綿子「そうだね~。そういう話だったら、私も絵美に非があると思うな」
絵美「だから、本当にごめんなさい」
由佳「じゃあ、なんで私が山ノ井君の事を好きになったら、言う気になったのよ!?」
絵美「由佳も俊君の事を好きになったって事が嬉しくて、つい」
木綿子「あははは」
由佳「あんた、ちょっと、おかしいところがあるよね!?」
絵美「そう!?」
由佳「普通、自分が好きな相手を他の人に好きになられたら、困ると思うけど」
絵美「うーん」
由佳「だって、ライバルになるって事じゃん」
絵美「それは、分かっているけど、」
由佳「けど、何よ!?」
絵美「由佳だったから」
由佳「私だったから!?」
絵美「うん。他の子だったら、困ったのかもしれないけど、由佳だったから、なんか、仲間が増えた様な感じがして、嬉しかったんだ」
由佳「やっぱり、あんた、変よ」
木綿子「でも、らしいと言えば、らしいと思うけど」
由佳「普通は逆だよ」
絵美「逆って!?」
由佳「親しい人と好きな人がかぶったら、余計に複雑だって」
絵美「うーん」
由佳「私は絵美が山ノ井君の事を好きだったって聞いて、複雑だったんだよ」
絵美「そうだったんだ」
木綿子「普通はそうだろうね。でも、普通じゃないところが絵美らしい」
絵美「もー」
木綿子「ひょっとしたら、山ノ井君も普通じゃないんじゃないの!?」
由佳「木綿子の言う通りかもしれない」
絵美「なんでー?」
由佳「だって、せっかく彼女が出来たのに、全然、デートもしないで、バイトや勉強ばかりしているなんて、普通の男の子じゃない気がするわ」
木綿子「それに絵美と付き合える男の子なんて、それだけで普通じゃない気もするよ」
絵美「木綿子、ひどーい」
由佳「とにかく目の前で、いちゃいちゃされるのも、腹が立ったりするのかもしれないけど、余りなんにもないのも、それはそれで気が気じゃないって言うか」
木綿子「由佳はそうかもしれないわね~」
由佳「じれったいと言うか、一言、言ってやりたくなっちゃうんだよね」
木綿子「言ってみたら!?」
絵美「えー!?そんな事、止めようよー」
木綿子「いいじゃん。その方が由佳もすっきりするってもんよ」
絵美「うー」
由佳「山ノ井君、もう家に帰って来ているかな!?」
絵美「そんなの分かんないよー」
木綿子「電話をしてみればいいじゃん」
由佳「絵美、電話をしてくれる!?」
絵美「私は嫌よ」
由佳「じゃあ、いいわ。木綿子、そこの卒業アルバムを取って」
木綿子「どっち?」
由佳「どっちだっていいわよ。ずっと同じ学校だったんだから」
木綿子「そうだったわね」
そう言いながら、木綿子は小さい方のアルバムを取って、由佳に渡した。
絵美「本当に俊君に電話をするの!?」
由佳「ここまで来たら、一言、言ってやんなきゃ、気が収まんないわ」
そう言いながら、由佳は卒業アルバムを開いて、俊之の家の電話番号を探す。
絵美「勉強の邪魔をしちゃ悪いって」
木綿子「一日くらい、平気だって」
由佳「見ーつけた」
そう言うと、由佳は自分の携帯で電話をした。
数回の呼び出し音の後、俊之の母が電話に出る。
俊之の母「もしもし」
由佳「山ノ井さんのお宅でしょうか!?」
俊之の母「はい」
由佳「
俊之の母「同級生の子かしら!?」
由佳「はい」
俊之の母「ちょっと待っててね」
そう言ってから、俊之の母は俊之を呼びに行く。
暫くすると、俊之が電話に出る。
俊之「もしもし、佐藤か!?何の用?」
由佳「ちょっと話をしたい事があるんだけど、今、出て来れる?」
俊之「さっきシャワーを浴びてきて、これから飯を食おうと思っていたんだけど」
由佳「じゃあ、ご飯を食べた後でいいわよ」
俊之「いいよ。飯より先にそっちを済ませるよ」
由佳「別にそんなに急ぐ訳じゃないけど」
俊之「食後にすぐ、出掛けたりしたくないんだよ」
由佳「そっか。じゃあ、どうすればいい?」
俊之「今、自宅か!?」
由佳「うん」
俊之「だったら、佐藤んチの近くに公園があっただろ!?」
由佳「うん」
俊之「これから、すぐに、そこへ行くから待ってて」
由佳「分かった」
そう言うと、由佳は電話を切った。
木綿子「どうすんの?」
由佳「そこの公園に来てくれるって」
絵美「私、どうしようかな」
由佳「一緒に来てよ」
木綿子「私も行こうっと」
そして三人は由佳の部屋を出て、近くの公園へ向かう。
時刻は夜の9時を回ったところだった。
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