第5話 厄介な自殺者
こんばんは。
毎年一体何人の人間が自ら命を絶っているか、君はなんとなくでもその多さを知ってるだろう。
毎年、この国での自殺者は約三万人だと言われている。
実際には、自殺だと言われるものはほとんどは、他殺なんだがね。
なんで?って顔をしたね?
死んだものが、僕に語るんだからしょうがないだろう?
首つりや溺死なんかは結構他殺が多いよ。
暇があったら調べてみるといい。
さて今回の話は本物の自殺者の話だが、地縛霊の話といってもいい。
ちなみに、地縛霊と浮遊霊は違う。
おおまかにいうとだ、人間のほとんどは心の中に、何かしら信仰を持っているものなんだ。
神など信じないと言う人間は多いんだが、実際に、死の間際や絶望的な状況のもとでは誰しも祈るんだ。
例え特定の神に祈らずとも、その祈りはどこかの神に届いていることがほとんどだ。
浮遊霊とはね、稀に死んだ事を見落としたのか、迎えが遅れてふらふらしている霊。
または生前悪さを働きすぎて裁かれる事になるだろうと思って逃亡したもののことを言う。
逃亡したもの人に悪さをしたりするので注意だ。
地縛霊、これは文字通り死んだ土地に縛られている霊だ。
この場合多いのが死んだ事に納得できないものが多い。
他殺、自殺、事故、戦争などで死んだものは死んだ事自体が理解できない、納得できない。
なので成仏できなかったりするんだが、心を入れ替える事ができれば大抵は成仏する。
だが地縛霊は特に人を巻き込むんだよ。
非常に厄介なのは自殺者なんだ。
そんな男の話をしよう。
△▼△▼△▼△▼△▼
梅雨も開け、よく晴れた日の午後。
僕がまだ新宿にいた頃、その日は特に用事もなくて、同棲していた友人のハルちゃんと、歌舞伎町へと繰り出そうかと思っていた。
アダルトショップの前で、ハルちゃんが楽しそうにしていたのを覚えている。
夜の店になかなか入れてもらえずにいた僕たちは、そのまま大久保方面に歩いていった。
そのとき、あるビルの横にある、駐車上から違和感を感じて、僕はメガネを外し近寄ってみる。
ビルの真下あたりの地面から、黒い手が僕にのび、それをふりほどいた。
黒い手はやがて大きくなり、男の霊へと姿を変える。
「なんで、なんで、なんで」
「おわらない、おわらない」
絶望した男の顔だ。
これは厄介だ、自殺者の霊だと思ったよ。
ハル「馬鹿な男だな。
賭けに負けたな」
ハルちゃんもすぐにそれが何なのか分かったようだ。
この男の霊は、そう、賭けに負けたんだろう。
「俺が、みえるのか」
「ああ、あなたはもう、どうしようもない。
人に取り憑いたりもしたんだろう?」
「なんで、なんで!
なんで終わらない!!」
本当にどうしようもない。
怒り狂った霊はおぞましい形相で叫んだ。
懐から一枚のお札を取り出す。
男は吸い込まれるように消えていく。
少し強引だが、しばらくはこの札に霊を縛ることにした。
金にもならないどうしようもないものだが、ここにいても人に悪さをする。
霊が人に取り憑いたり悪さをすればそれは大罪だ。
いずれくる迎えに魂を裁かれ消滅する。
どうせ救われる事はない、使い道があるかもしれないので、封印することにしたんだ。
何事もなかったかのように、僕たちは歩き出した。
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僕だからいいけど、事故や事件が多い場所には地縛霊が多いから近寄るな。
自殺の現場が一番厄介な理由はね、彼らにとっての救いとは、消えること。
生前たえきれなくなって賭けにでるんだ。
死んですべて終わると思って。
これで楽になるって思って自ら命を断つ、その後、自分の死体を見下ろす。
終わりという希望に賭けて、絶望するのさ。
しかも自殺者には、死後は苦しみしかない。
本当に消滅するまでさまようか、希望などない地獄で延々と苦しむんだ。
ごくまれに地獄から天国に行ける事もあるそうだが、その頃には自我などもうないと思うよ。
だからね。
どんなに苦しくても、理不尽でも、
その命が終わるまで人は生き続けなければいけない。
死んだら終わりという考えで、悪さをしたり逃げ出してはいけない。
パスカルの賭けを覚えておくといい。
フランスの哲学者ブレーズ・パスカルが提案したもので、理性によって神の実在を決定できないとしても、神が実在することに賭けても失うものは何もないし、むしろ生きることの意味が増す、という考え方である。
それでは、
神がいるか、いないか、賭けをしよう。
いないに賭けたときには、得るものなにもない。
むしろ0か地獄だ。
掛け金は、君の人生だ。
君はどちらに賭けるんだね?
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