第4話 厄介な人魚

 こんばんわ。


 君は、UMA未確認生物、なんかに興味があるかい?


 では、人魚というものを知っているかい?

 あの、人なのか魚なのかわからない存在。

 いや、この世の者なのかさえわからない。


 そもそも人魚の定義があやふやなんだが、まあその事はおいておこう。

 未確認なものというのは、確認してしまえばなんでもない。

 僕にとってはただの厄介ごとなのだよ。


 僕の友人に【発掘屋のしんちゃん】という男がいる。

 しんちゃんは発掘屋と言われているが考古学者だ。

 今回はそのしんちゃんが持ち込んできた厄介な人魚の話をしよう。


 あれは梅雨も開けきらない夏だった。

 その日、僕は暇を満喫していて、それはもう忙しくしていた。


 そろそろ温泉でも行こうかと思っていた時だ、しんちゃんからの電話が鳴った。


「がんちゃんが喜びそうなものがでたよ!

 早く来てくれ」

 それはもう、秘密基地を作った子供のようなはしゃぎようだった。

 

「ずいぶん不躾じゃないか。

 これでもいそがしいんだがね」

 僕は、乗り気じゃない事をにおわせたのだが


「すごいから!まじで!!」

 などといわれてしまってはいくしかなくてね。

 しんちゃんのいる大学にいったんだよ。


 「きたな?

 好奇心はおさえられないだおうと思っていたよ」

 などとどの口がいうのか、呼んだのはそっちだというのに。


 「今回、ある家の倉から、なんと!

  人魚のミイラが出たんだ!」

 それはもうキラキラした目で僕に言うのだよ。


 「それで?

 なぜ僕なんだ?」


 「それが持主がいうには、これはきっとよくないものだから処分してもほしいそうだ。

 その代わり、お祓いをしてちゃんと供養した方がいいなんていうんだよ。

 しかもこれをくれたのにお祓いの代金まで処分料金として払うとさ」

 どうやら僕は、いい友達をもったようだ。

 

 部屋の中には木箱があった。

 しかも大きい、木箱というよりは、小さな箪笥ほどもあった。

 僕は嫌な予感を感じつつ、しんちゃんの話を聞く事にした。


 「ところで、がんちゃんは、進化論をどう思う?」


 「学校でも習う、今や当たり前ことだが、僕の立場から言えば、進化論は半分は正しいとは思う」


 「さすがです。

 実は俺もそう思うんだ。

 進化論はね、アウストラロピテクス、ジャワ原人、北京原人、ネアンデルタール人、約五万年前から約一万年前までの時代になると、クロマニョン人になっていったと習ったろう?

 

 実際、猿から進化したというのは、今まで出てきた化石で証明するには無理がある。

 例えば原人や猿人の骨の化石の層から何が出るか知っているかい?」

 得意げにしんちゃんは授業をはじめる。


 「それは現人類の骨だよ。

 僕はね、人間というのは今とほぼ変わらない存在で誕生したと思うんだ。

 人間と猿の遺伝子は99パーセントは一緒だというが、その1パーセントがどれだけ大きいと思う?

ネズミ、犬、ネコとの違いは3パーセントから10パーセントだ。

 人間の男と女は0.1パーセントの違いだけでこれほど違うんだよ?

100パーセント言えるのは人間の進化は未だ謎だらけなんだ。


 そして、原人や猿人と言われるものは、本当は現人類とは関係ない、絶滅した種じゃないかと考えてみるのも面白い。」

 確かに面白い切り口だと納得していた。


「だが、はたして過去に人間は進化や変異をしなかったのか?

 それがたとえとても小さな数字だとしても、そんな存在がいたとしてもおかしくないと思うんだ。

 それとね、人間というのはおかしな生き物だ。

普通の陸上の生物にあって、海の生物にないものがわかるかな?」


ほう、僕に謎かけなど無意味だと知るがいい。


「毛だね、魚には毛がないし、海の哺乳類は毛が少ないものが多い。

つまり君が言いたい事はだ。

人魚というものがミッシングリンクの謎を解き明かすかもしれないということだろう?」


「なんだ、つまらないなあ。

がんちゃんには、話がいがないな。


まあ、そんなところなんだけどねか。

特に今回のやつを見ればわかるさ」


しんちゃんが見せてきた、人魚のミイラはまさに本物らしい人魚ではあった。

僕は嫌な予感がしてメガネを外して観察した。


 まったく厄介だよ。

 こなきゃよかった。

 その時の僕はただただ後悔をしたのだ。


 おとぎばなしの人魚は下半身が魚で、上半身が人間だと言う事がほとんどだろう。


 その昔、人魚のミイラの剥製と偽って、猿と魚を縫い合わせたまがい物が出回った。

 今回は、その両方とも違う。


人魚というよりは、半魚人やカッパだ。

ほとんど人間で、非常にグロテスクだったんだよ。


 「これは物の怪かもしれない」


 いったいいつものものなのか、お札だらけの木箱。

 ミイラ化して水分のぬけた死体にはしっかりと鱗や水かきがのこっている。

 でも一番気になるは、禍々しい霊気がまとわりついている事だった。

 へたに触れば、なにかのきっかけで誰かが呪われる。

 

 「しんちゃん。

 まず見てほしいが、これはほぼ人の形をしている。

 この鱗や水かきはどの生物とも違うが、形はほぼ人といっていい。

 しかも男だとわかる。

これだけなら、人の進化やらなんやらでもよかったのだがね。


 これは鬼や妖怪の類いかもしれない。

 すでに半分は彼岸の存在だ。

 なんというか、まだ半分生きていて、半分死んでる。

 非常に厄介だ」


 僕はメガネをかけ直す。


 「生きている?

 どういうことだい?」


 「これは魂がまだ留まっているんだよ。

 しかも、会話もろくにできないほど禍々しい。

 もしこれを研究でもして長い間一緒にいたら取り憑かれるか、最悪死ぬよ?

 僕なら燃やす」


 「そんな!

 これはミッシングリンクを解明できるかもしれないものなんだよ?

 そんなことできるわけない」

僕の話を聞いてなかったのか、危険よりも好奇心がすでに勝っている。

 これだから考古学者ってやつはばかなんだ。

 世の中には見つけちゃいけないものがあるってことをわからないんだ。

 ダーウィンなど知った事か。


 「君はすでにこれに魅了されているようだ。

 危険だから、とにかく燃やすか他に回したほうがいいね。

 依りしろがのこっている物の怪の場合だったら面倒だ。

 それからだ、君はいずれ、好奇心で身をほろぼしかねないぞ。

あまりこういうものには関わらない方がいい。

専門は違うだろうに」


 僕は厳しい言葉をぶつけた。

 人の狂気は非日常から始まりやすい。

 この友人が取り憑かれでもしたら目覚めが悪い。


 「わかったよ。

 教授に相談するよ」

 渋々だが納得してくれたので僕は自分の仕事をする。

 新しい札を貼り、結界を強めた。


 それで燃やして終わればよかったんだがね。

 結局、教授の知り合いの大学にもっていったそうだ。


 後日、その地域では大雨が続いた。

 ある研究員が、取り憑かれたように研究室にこもって研究していた。


 大雨の夜、大学の近くにいた人間は不気味な声を聞いたそうだ。

 甲高いその声はまるで歌うような声で、雨の中でも鮮明に響いた。

 研究員はその夜以降、行方不明だそうだ。

 人魚のミイラと共に、彼岸の彼方へといったのだろう。


 一度は確認された人魚は、また元の未確認な存在へかえったのさ。

まだまだ誰かの家の古い蔵なんかにはこういったミイラは眠っている。

干からびて動かなくても、そこにはまだ魂があるかもしれない。

 まだみぬ存在を見つけたとしてもだ。

 君は好奇心に、取り憑かれぬように気をつけたまえ。


 向こうは既に、狂気の領域で非常に厄介だ。

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