9 鈴子

 濃厚な気配がするので二階の窓から街路を見下ろすと人がいる。

 一目で隣のクラスの女子だと気づく。

 相手はまだ気づいていない。

 高校の帰りに偶然を装って誘われたので二回ほど買物に付き合ったが、そうしない方が良かったようだ。

 

 上から見下ろしていてもわかるくらいに緊張している。

 勇気を振り絞ってここまで来たが、どうやらそれが限界か。

 

 今宵、ぼく以外の誰も家にいないことを知っている顔だ。

 学校で話した覚えがあるから耳にしたのか。

 直接か間接かは知らないが……。

 

「あ、上野くん」

 

 面倒を避ける前に気づかれてしまう。


「あの、これ」


 何かを差し出すが二階からではわからない。


「下りるから、そこで待ってて」


 窓を閉めて階段に向かう。

 ああ、酷いことをしてしまいそうだ。

 そう思うが、もう引き返せない。

 あの子もきっとそれを望んでいるはずだ。

 そう告げる心は誰の心か。


「これ。無くしたって聞いたから」


 玄関ドアを開けるとボールペンを差し出される。

 数日前から行方不明の一品だ。


「ありがとう。捜してくれたんだね」


「ううん。偶然」


 まさか彼女が隠したとも思えないので本当だろう。

 不美人に画策は似合わない。


「ま、どうぞ。お茶くらい飲んでいってよ」


「あの、でも……」


「いいから、いいから」


「そう、じゃあ、お邪魔します」


 紅茶を入れて味わうところを観察する。

 猫舌でお湯が熱いのか、はふはふ、はふはふ、を繰り返している。

 可愛いが子供か動物のような可愛さだ。

 本当にぼくに抱かれに来たのか。


「ええと、西尾さんだっけ」


「あ、はい」


「名前は……」


「鈴子です」


「英語とか得意だっけ。ちょっと教えてくれない」


 自分で言いながら、すでに馬鹿々々しくなっている。


「はい」


 コクリと首肯く仕草も彼女は可愛い。


「じゃ、飲み終わったらお願いします」


 その間ずっと鈴子を見つめる。


 太ってはいないが、痩せてもいない。

 全体のバランスは微妙なところだ。

 尻がぺったんこに見えるが、胸はけっこうあるようだ。

 腰のくびれがどうなっているのか想像できない。

 服を脱がしたらどんな感じなのだろう。

 そんな興味だけが沸いてくる。


「ああぁ……」


 椅子に座ったところを後ろから軽く抱きしめる。

 首を回してキスをする。

 子供の頃の家族以外ではキスが初めてだろうとわかるが止まらない。

 すべてが不器用、それが魅力。

 

 ベッドに運んでも目を開かない。

 服を脱がせても目を開かない。

 だけど歓喜の表情は浮かべている。

 

「きれいだよ。目を開けてごらん」


 鈴子が見るのは満面の笑みを湛えたぼくの顔だ。

 おそらく生涯の宝になるだろう。


 初めてだとわかっているので入念に秘所の緊張をほぐす。

 ふうん、ちゃんと痙攣するんだな、と感心する。

 

「そろそろ入れるよ」


 道は思ったほど細くはないが、それでも十分に狭くキツい。

 かなり痛そうなのに踏ん張っている。

 が、このままでは通過できない。できそうにない。


 それで両足を上に向けさせて、性器が丸見えになる形で再開する。

 しばらく入口付近を彷徨いつつ、頃合を見計らってズブッと奥まで突き入れる。

 数回ピストン運動を繰り返すと鈴子が静か過ぎて飽きてしまう。

 泣き喚くなり喜び叫ぶなりしてみろよ。

 怒りの発作がぼくを襲う。

 すると不意に高まりが訪れて、ぼくが焦る。

 フィニッシュの直前に抜こうとするが阻まれる。

 両脚で挟み込まれて抜け出せない。

 それで鈴子の中に出してしまう。

 すぐに引き出して鈴子の頬をビンタする。

 グッと睨まれるが、抵抗を止めるまで叩き続ける。

 

 あの行為は鈴子の意思なのか、間違いなのか、それとも歓喜か、偶然か。

 

「早く洗わないとダメだ」

 

 無抵抗にはなったが、それでも嫌がる鈴子を無理やり風呂場まで連れて行って首を絞めながら奥までを掻き出すように繰り返し洗う。

 

 その間数分。

 

 すっかりふやけてしまった鈴子の秘所に最後にそっと口づけすると、ひゃあ、という可愛い悲鳴。


「前にも間違って出してしまったことがあるけど大丈夫だったから……」


「うん」


 鈴子の目は濡れている。

 その目の色にぼくはまた欲情するが、鈴子が言うことを利かないので諦める。


「どうしたいの」


「帰ります」


 鈴子が一枚ずつ服を着ていく後姿をじっと見つめる。

 ずんぐりした瓢箪のような体形だ。


「じゃ、また……」


 ぼくが言う。


「さっきはごめんなさい。でもありがとう」


 鈴子が応える。


 数ヵ月後、鈴子の妊娠が発覚する。

 ぼくの予想通り、誰にも口を割らずに押し通す。

 中絶は頑なに拒んで両親も半ば諦めた頃合に流産し、鈴子とぼくの子共はこの世から消える。


 それ以外のぼくの幻想の子供たちは今どこにいるのだろう。

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