7 嘘
「やっぱりあたし聞かなかった方が良かったみたい」
「全部嘘だよ」
「実際どうなの。好きなの」
「マスターベーションしてたときは抱きたかったな。でも好きかどうかは……」
「会いたいな」
「冗談言うなよ」
「でも知ってるんでしょ。話してなくても……。健が自分でしてたって」
「たぶんね」
「それってどんな気持ち」
「ぼくは恵がした次の日がわかるよ」
「えっ」
「そんな気持ち」
「まったくいじわるね。でも添い遂げさせてあげたいな」
「恵はどうなるんだよ」
「そっか。あたしは振られるんだよね。四年前なら泣いて終わったけど今は自信ない。毀れるかも……」
「恋じゃないから。単に肉欲だから……」
「それで他の人としなかったんだ」
「事故はあったけどね」
「天子さまじゃないからね」
「未だにぼくに執着してるのは恵だけだよ」
「……ってことは、すぐ前まではいたんだ」
「口を滑らせたな」
「誰」
「言うと思う」
「いや、思わない。でも気になるよ」
「恵は正直だな」
「健は嘘つきなの」
「うん」
「でもまあ悪い嘘は言わないわよね」
「最近はね」
「昔は言ったんだ」
「そうじゃなきゃ、よく殺されなかったわね、なんて言われないだろ」
「ああ、そうか」
「まだ聞きたい」
「名前を聞いていないわ」
「特定されるから言わない」
「あたしが知りたいだけ話してくれるって言ったわよ」
「困ったな。言ってもいいの」
「うん。覚悟はできてる」
「鈴子」
「綺麗だけど普通なのね」
「恵は何を期待したんだ」
「夢とか音とか海とかアマテラスとか太陽とか」
「平塚らいてう、かよ」
「そんなイメージだったな」
「探すなよ」
「苗字は」
「山田」
「嘘」
「田中」
「嘘」
「市川」
「どうだろう」
「荻原」
「それっぽいな」
「灰島」
「グレーだ」
「矢田部」
「うーん」
「十條」
「なんだかな」
「西尾」
「またわからなくなったわ」
「三宅」
「大概にしてよ」
「こんなもんかな。正解はあるよ。だから嘘は吐いてない」
「会う機会はあるかな」
「まず無理だと思うな。中学のときに引っ越したし、その後のやり取りもないから……」
「一心同体だったんでしょ」
「小学校のときに転校してきて初めて出会って彼女はぼくだと思ったという意味ではね。でも、そんなことはありえないから」
「マスターベーションしているってわかっても……」
「妄想だから」
「健に恋をしていないっていう彼女の心がわかっても……」
「妄想なんだよ。だから恵に話したくなかったんだ」
「でも話してくれた」
「全部嘘だけどね」
「作り話の方がキツイと思うけど……」
「だから妄想なんだって。そもそもの最初から……」
「それって、どういう」
「端からそんな人はいないんだよ。だから全部ぼくの妄想」
「嘘」
「だから言ってるじゃん。ぼくは嘘つきなんだって」
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