その5 「カップラーメン?」
この前のゆで卵の件があったからもしやとは思っていたけど、悪い意味で期待通りの事を彼女はやらかしてくれた。
「……これは何?」
「多分……カップラーメン」
自信なさげに答えるな。キチンとラベルに書いてあるでしょうに。
私達の目の前にあるのは、発泡スチロールで出来た丼型の器に入っている、無数の細長い棒状の物体。それらはお湯の中でまるで剣山のようにそそり立っている。
彼女が言うように、これはカップラーメンだ。つまりこの立っている棒状の物体は、麺だ。
お湯を注いだはずなのに、麺が固く、しかもそそり立っているのかがどう考えてもわからない。パスタだってお湯に入れれば柔らかくなる。何故お湯に入れたら固くなるのだろう。
「それでさ――」
「食べるわけないでしょう」
先手を打ったら「だよねー」と言わんばかりの表情を見せてきた。このやりとりも何度目になると思っているのか、さすがに次に何を言うかくらい予想がついてしまう。
「……わかったよ、私が食べてみる」
だけど、さすがにこのセリフは予想できなかった。
「い、いや、ちょっと、大丈夫なの?」
「変なものは入れていないし、ラーメンなんだから食べても食中毒になったりはしないよ、多分」
「自信が無いならやめなって」
私も大丈夫だとは思ってるけど、かといってそれを了承するほど突き放しはしたくない。
「心配してくれてありがとう。だけど、自分で作ったものだから責任は取るよ」
そんな死にそうなセリフを言わないで。どんな顔をすればいいかわからなくなるから。
「はむっ」
食べた。食べてしまった……と思った。
ガギッ、という音がはっきりと聞こえてきたが、彼女が口にした麺は短くなっていない。何度も何度も噛みついているようだが、まったく折れていない。
「か、固い……」
「どういう事なの……」
思わず困惑の意志が口から漏れてしまった。
カップラーメンの麺が食べられないくらい固くなってるなんて、一体どうすれば出来るのだろうか。
「食べようと思ったけれど、これじゃ食べられないよ」
「さすがに仕方ないし、捨てるしかないわ」
お湯を注いだだけで廃棄物にしてしまうなんて、もはや呪いとしか思えない。あるいは前世の因縁か。いずれにしてもオカルトな何かが絡んでいる可能性を考えるしかない。私はオカルトを信じない方だけど。
「そういえば、味はラーメンっぽかったよ」
「味はしたのね」
つくづく、彼女が作るものは謎が多い。
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