その4 「炊き込みご飯?」

 私は頭を抱えるしかなかった。

「一体どうしてこうなったのか、考えてもわからないんだけど……」

「作った私もわからないよー」

 妙に呑気な声がますます私を悩ませる。

 今目の前にあるのは、蓋の開いた炊飯器。中にはご飯が入っている。しかしそのご飯の色は輝くような純白ではなく――何故かパステルブルーだ。それでいてラベンダーの香りがする。まったくもってわけがわからない。着色料も香料も使っていないでこうなったらしい。

 作ろうとしていたのは、

「炊き込みご飯、なんだよね?」

「炊き込みご飯なんだよねー」

 ニュアンスを変えて私のセリフをそのまま返してきた。はにかんだって私の機嫌は良くならないぞ。

 私はもう一度炊飯器の中身を確認した。パステルブルーのご飯の中に、たけのこやらキノコやらが見える。そして器用な事にそれらは元の色のままだし、匂いも炊き込みご飯のそれなのだ。

 何年か前に、青い着色料のふりかけというのが発売されていた事がある。何でも視覚的に食べ物らしさを失わせる事で食欲を減衰させるという、ダイエット商品だったらしい。

 つまり『青』という色は、多くの場合において食べ物にはあり得ない色だ。

 それなのに、ご飯の色以外の要素が全て食欲をそそるという、何とも複雑な存在になっている。何から何まで、不思議すぎるものに出来上がっている。

「……食べてみる?」

「人に勧める前に、まずは自分で食べてみたらどう?」

「えー……あ痛っ」

 嫌そうな顔をしたから、すかさずデコピンした。自分が嫌な者を人に勧めるな。

「私だってさー、こんな変なもの作りたくないよー。でも私が作ると何故かいつもこうなっちゃうんだよ」

 そりゃあ、こんな得体の知れないものを好きで作るのはマッドサイエンティストくらいなものだろう。

「……仕方ない、コンビニでご飯を買いに行くわよ」

 今から作り直すと最短でも一時間以上はかかるし、お腹が空いているのにそんなに待ってはいられない。

「じゃあさー、アイス買っていい?」

「私の分をおごってくれるなら」

「いいよー」

 これでチャラにするわけじゃないけど、彼女だって悪気があってあんなのを作ったわけじゃないし、このくらいで妥協してもいいだろう。

 まったく、私は本当に甘いわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る