その3 「親子丼?」
「だからさ――」
私はあきれて二の句を継ぐ気すら起きなくなってしまった。
「うぅ~……」
涙目でおでこを押さえながら彼女が私を睨んでいるが、その態度を見た限り今後も自分の腕を上達、あるいは修正するつもりはないようだ。
「はあ、もう一度だけ聞くけど、このご飯の上に乗っかってる黄緑色のぬるぬるしたものは何なの」
目の前に置かれているどんぶりを指さしながら私は問い詰めた。
「親子丼」
「親子丼」
私と彼女の言葉がピッタリ重なる。コントか。
「どうやったら卵が緑色になるのよ」
「三つ葉を入れたから」
「三つ葉を入れたから」
もう一度言葉が重なる。私は再び彼女にデコピンをくらわせた。
「あいたっ」
「あんた、錬金術の才能あるわ」
「絶対それ、褒めてないよね」
さっきと同じ様に睨んでくる。褒めてたらデコピンなんてしない。
「でもさ、なんかこれお肌に良さそう――」
私は連続で彼女にデコピンを放ち、言葉を紡げなくする。主成分はコラーゲンとでも言いたいのか。卵からコラーゲンが取れたらそれこそ錬金術だ。
「これ以上やられたら真っ赤なおでこのトナカイさんになっちゃうよっ!」
さすがの彼女も我慢出来なかったのか私の腕を掴んで止めてきた。だけどその例えはどうかと思うんだ。大体、トナカイの額は毛に覆われて真っ赤かどうかわからないじゃない。光らないだろうからサンタクロースもあきれるしかない。
「また今日も私が作るのか」
私はあきらめて冷蔵庫を開け、どんな食材が残っているか確認した。
「何だかんだ言って優しいよね」
「餓死されて幽霊になったら困るもの」
あきれながら答えると、えへへーといった間の抜けた笑い声が聞こえてきた。
「そういう所、本当に好きだよ」
「はいはい」
確かにこの錬金術師さんにご飯を作るほどのお人好しよね。ま、悪くないけれど。
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