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 今日はある村の少年の話をしましょう。


 少年は、父が領主という家で暮らしていました。家には使用人がいて、何一つ不自由なく過ごしていました。自ら働かなくてもいい環境にいた少年は毎日を適当に過ごしていました。これといって何がしたいわけでもなく、趣味があるわけでもないのです。そんなある日。最近、家で働いていた使用人を気に食わないと思うようになりました。特別、理由はありませんでした。その使用人は少年に石を投げられても、水をかけられても泣かずに笑顔でいました。泣いて自分にすがればいいと思っていた少年はこれを見て、どうして思ったとおりにいかないんだと腹を立てました。


「おいそこの女、なんで泣かない?」

「どうして私が泣かないといけないのですか?」


 その使用人は何のことか分かっていませんでした。この使用人が泣くことはないと感じた少年は、それから何もしなくなりました。

変化しない毎日を過ごすことに飽きてきた頃、少年は不思議な色の鳥があの使用人の肩に止まったのを見ました。それを見て、自分も欲しい、あいつだけずるい、どうして自分のところには来ないのかと腹を立てました。


 次の日、家で働いていた使用人がいなくなったと聞きました。いなくなった使用人というのは、年をとっていて意地の悪い女で嫌いだったため、それを聞いても何とも思いませんでした。自分のために働くものが減ったと思いながら庭を歩いていたときのことです。赤い色をした鳥が少年の前を通って近くの木に止まりました。止まったまま飛んでいこうとしないので、生け捕りにしようと考えました。こんな珍しいものが他の人に捕られるのは許せなかったのです。ゆっくり近づいて手を伸ばしたとき、鳥は少年のほうを向きましたが逃げませんでした。そして少年はすぐさま鳥を掴みました。しっかりと握ったまま自分の部屋に戻って鳥籠にいれました。鳥は暴れも鳴きもしませんでした。自分に逆らわないところを少年はとても気に入りました。


「お坊ちゃま、鳥籠を掃除いたします」

「自分でやるから触るな」

「かしこまりました」


 鳥のことは全て少年が自らやっていました。餌をあげ、掃除をして、鳥を中心に何ヶ月も過ごしていました。そんなある日、少年は無性に鶏肉が食べたくなりました。この村では鶏肉は決まった鳥祭りの日にしか食べることが出来なかったので、食べることは出来ないはずでした。何処にも売っていませんし、飼ってもいないからです。ですが、今目の前に赤い鳥がいます。ずっと可愛がっていた鳥がいます。少年は、この鳥はあの赤いトサカを持った鳥よりおいしいのではないかと思いました。そして少年は、この鳥を食べることにしたのです。調理を使用人に頼もうと思いました。しかし、このようなことを頼めそうな、不思議な鳥といた使用人は、つい最近養子にいって、もうここにはいないので使用人の中で頼めそうな人はいません。仕方がないので夜に一人で調理しようとしたのです。


 夜になって、鳥籠から赤い鳥を掴んで出しそのまま調理室まで行きました。その間、その鳥はまた暴れも鳴きもしませんでした。いざ調理しようと思っても、何を作ろうかと考えました。丸焼きがいいか、いや食べにくそうだ。身をほぐして何かに混ぜようか、それなら、スープにしよう。そう思い、包丁を持って鳥をまな板に押さえつけました。包丁を振り下ろす寸前、鳥が静かに鳴きました。それでも少年はそのまま突き立てました。多くのことを家庭教師や父や母から教わっていた少年には調理は造作も無いことでした。捌いて水を入れた鍋に入れ、煮込んで、味付けをして完成しました。それを残さずたいらげました。


「おいしかった」


 片付けをして少年は部屋に戻り、何も無かったかのように眠りにつきました。鳥はどうしたのかと聞かれれば、逃げてしまいました、と言う準備をして。


 次の日、父にあの鳥はどうしたのかと聞かれてこう答えました。


「鳥籠を掃除しようと思って開けたら、逃げてしまいました。きっと、こんな狭いところより広い空がよかったんだと思います。残念ですが、鳥が幸せならいいのです」


 模範解答のような答えに父は納得し、そうか、と言って行ってしまいました。


 少年は鳥がいなくなったことでまた退屈になりました。また不思議な鳥を探そうと思って庭を散歩しました。毎日探しましたが見つかりません。これだけ探しても見つからないならもう諦めようとしました。その日は早めに寝て次から何か新しいことをしようとしました。


 結局、新しいことは何も思いつかずに以前のように過ごしていました。


 ある年の鳥祭りの日に少年は森を歩いていました。なぜ歩いていたかは少年自身にも分かりませんでした。ある場所まで行くと木の下に何か仕掛けがあります。きっと、今日食べる鳥を捕まえるための仕掛けでしょう。少年はそれを見て悪戯をしようと思いました。少し触って壊してやろうとして、手を伸ばしたとき視界が真っ暗になったのです。そのまま気を失いました。

どれくらいの時間が経ったのでしょうか。少年が気づいたときには目の前に、人が二人立っていました。


「あっ、目を覚ました。ほら、逃げないように押さえておいてね」

「うん、分かった」


 見たところそっくりなので、双子だろうか、男女の双子は珍しいな。と思いました。それにしても、二人は少年より体が明らかに大きいのです。まるで、人と鳥のような大きさの違いがあるのです。これはどういうことだろう。夢でも見ているのか。そう不思議に思っていると、一人が少年の体を押さえつけました。


「これでいい?」

「大丈夫じゃない? ちょっと待ってて取りに行ってくる。大事なもの忘れてきちゃった」


 この二人は何を言っているのでしょうか。少年は全く訳が分からないまま、抵抗しようにも押さえる力が強いのでどうにもできずにいました。


「お待たせー。これでバッチリ」


 そう言って、手に持っているのものを構えました。それは包丁でした。少年はパニックに陥りました。自分は、何も悪いことはしていないのに殺されるのではないか。そう思っても少年にはどうすることもできません。ただただ、包丁が振り下ろされるのを待つしかないのです。


「それじゃあ、やるからしっかり押さえておいてよね。いい?」

「うん、押さえておくよ」


 そう言って、包丁が少年に振り下ろされました。最後に聞こえたのは、「捕まえられてよかったよね」という言葉でした。


 これがある村の少年の話です。赤い鳥に出会った一人の少年の話。どうでしたか? 次はとうとう最後の話です。おや? また今日は時間がなくなってしまったようです。それではまたお会いしましょう。

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