青い鳥と赤い鳥

福蘭縁寿

-blue-

 今日は皆さんにある村の少女の話をしましょう。ある村では、青い鳥と赤い鳥がいると言い伝えられてきました。鳥といえば白くて赤いトサカがついている鳥しかいなかったので、青や赤の鳥のことはほとんどの人が信じていませんでした。そんな中、出会ったのです。

 これは、ある少女の話。


 あるところに貧しい少女がいました。少女には両親がおらず自ら働いて生活をしていました。親がいない少女のことを人々は助けることなく、知らないフリをしてきました。誰かが少女に向かって石を投げても、十分に食べることができず痩せていったときも。唯一、話しかけられることがあるのは働いているときの仕事の説明や小言だけでした。働き先でこんなことがありました。


「あんた、早く運びな。水も運べないのかい」


 領主を務めている家で働いていたときのことです。重いバケツを持とうとしてよろけたときにこう言われました。そして、少女がもう一度持とうとしたとき、仕事を教えてくれている女にバケツをとられ、中に入っていた水をかけられました。それでも少女は泣かずに笑顔で言いました。


「ごめんなさい。今、片付けます」


 少女は何をされても何を言われても、このようにいつも笑顔で過ごしていました。それは亡き母の遺言である「何があってもいつも笑顔でいなさい。笑顔でいればきっと貴方は幸せになれるはずだから」という言葉が心にあるからです。少女はこぼれた水を片付けてまた仕事に戻りました。どうして私はこんな扱いを受けるのかなどと考えもせずに、少女はこの日も働いていました。水を汲んでいるときです。ふと空を見上げると、青い鳥が飛んでいるのが見えました。


「綺麗な鳥だわ」


 すると、その青い鳥は少女の肩に止まりました。


「まぁ、小鳥さん、どうしたの?」


 鳥は一度首を捻ると、また何処かへ飛んでいってしまいました。綺麗な鳥を見た少女はその日はいつもより笑顔でいました。ご機嫌な少女を見た仕事場の女は、少女はきっと領主に媚を売って賃金を上げてもらったのだと勘違いをしました。あの娘だけいい思いをするのは腹が立つ。そう思った女は、少女に何か悪さをしようと思ったのです。


 次の日。少女と女が掃除をしていたとき、女が誤ってテーブルの上の花瓶を落として割ってしまいました。女はそれを少女のせいにしようとし、掃除を少女に任せ早速、領主の下へ行きました。


「領主様、下働きの娘が領主様の大事になさっている花瓶を割りました。ですが、娘は故意にはやっておりません。どうか許してやってください」


 女は、少女を庇うような言い方をして自分で少しでも立場をあげようとしました。しかし。


「嘘をつく奴は、この屋敷にいらん。出ていけ」


 嘘がばれてしまった女は、屋敷から飛び出しました。なぜ嘘がばれたのか。前はばれずに少女に厳しい罰が下ったのに、すぐに私のことを信じてくれたのに。何を間違ったのかと考えながら走っていたところ、地面にあった石にも気付かずにそれを踏み、転んで井戸に顔を強打した女は、呻きながら井戸に手をつき立ち上がり、よろけて井戸に落ちていきました。それを知らない少女は、言いました。


「領主様の下へ行ってから全然戻ってこないわ。どうしたのかしら?」

 

 掃除を終わらせて、領主に報告に行くと女は仕事を辞めたと聞かされる。驚いた少女は、この仕事の何が不満なのかしらと不思議に思いましたが、そんなことを気にしている場合じゃありません。なぜなら、今日は安く野菜が買える日なのです。急いで売り場の畑に向かう途中に声をかけられました。


「あら、今日は野菜を買いにいくのかい」

「早くしないとなくなってしまうよ」


 声をかけてきたのは村の人々でした。少女は元気に返事をしながら向かいますが、着いたときにはもう野菜は残っていませんでした。これでは当分食べるものがありません。しかしそこに野菜を買っていった人々が近づいてきました。


「買えなかったの?」


 少女は、はいと答えます。


「そうなの。それじゃあ、私のを分けてあげるよ」


 いくらかと聞くと。


「いいよいいよ。あなたにあげるよ」


 そういって、野菜をくれたのです。少女はこうやって話しかけられることも物をもらうこともなかったので、戸惑いました。しかし、きっと神様からのプレゼントだと少女は思ったのです。そのときから、少女は村の人々におすそわけを貰ったり会話をしたりしました。あるとき、働いている家の領主に話があると呼ばれました。


「領主様、お呼びでしょうか?」

「あぁ、最近頑張っているそうだね。だから賃金を上げようと思うのだが、どうかね?」

「いいのですか? ありがとうございます」


 こうして少女は初めの頃よりゆとりを持って生活できるようになりました。自分の好きなことにも取り組むようになったある日。一通の手紙が今までの少女の人生を変えました。

「どうか、私たちの養子になってほしい」と書かれた手紙でした。何年も両親がいなかった少女はとても喜びました。そして、すぐに返事を書きました。少女はその手紙を持って差出人のところへ走りました。扉の前まで来ましたが、少女はノックをすることが出来ませんでした。なぜなら少女は、憧れていた家族というものに自分がなってもいいのかと思ったからです。何度もノックをしようとしては出来ずに手を下ろしていました。すると、扉が誰かに開かれました。


「あら、あなたは……」


 中から出てきたのは綺麗な女の人でした。


「あの、お手紙を拝見しました。それで、これが返事です」


女の人は少女から手紙を受け取り読み始めました。


「お願いしますってことは……、いいのね?」

「もちろんです」


 少女は、次の日から女の人とその旦那さんと一緒に暮らし始めました。少女にとっては誰かとご飯を食べること、庭の花に水をやること、色々なことが初めてでした。そんな風に過ごしていたある日。女の人から嬉しい報告があったのです。


「私、子供ができたのよ。あなたの弟か妹ができたのよ」

「本当ですか! 私に兄弟が出来るなんて考えたこともなかったのに。嬉しい」


 無事に生まれたのは男の子でした。少女は毎日毎日、弟の世話をしたり遊んだりしました。そして、三年が経とうというときに、ようやく落ち着いてきた少女の家は鳥祭りに参加することにしました。鳥祭りとは年に一度だけ鶏肉が食べられる日です。少女は早速、鶏肉を買ってくることにしました。久しぶりに以前働いていたお屋敷の近くに来ました。そこには前と変わらず話しかけてくれる人がいました。


「久しぶりねぇ。元気だったかい?」

「そういえば、弟が出来たんだってね」


 少女はみんなに挨拶をしながら鶏肉を売っている場所まで来ました。


「おばあさん、鶏肉を四人分くださいな」

「はぁい。鶏肉だね」

 

 鶏肉を受け取った少女は、真っ直ぐ家に帰ります。ただいま、と言うと。おかえり、と返事がくるこの家を少女は大好きです。そんな家で少女は生まれて初めて鳥祭りに参加するのです。幸せで幸せで、こんなに幸せになれたのも村の人のおかげだと思った少女は祭りが終わったあとみんなに挨拶に行くことにしました。

 そんなことを考えていると、弟が服の裾を引っ張って遊んでほしそうに少女を見ています。


「よし、ご飯が出来るまで遊ぼう」


 二人は積み木をしたりして遊びました。そして夜ご飯の時間になりました。みんなで手を合わせていただきます。初めて食べた鳥はとても美味しく、また来年も家族で食べたいと思いました。


 次の日。少女は村のみんなに挨拶に行きました。みんなが親切にしてくれたから私はここまで幸せになれました。ありがとうございます。こう挨拶をしている途中に、お屋敷にいた少年が失踪したという話を聞きました。


「なんでみんないなくなるのかしら? 分からないわ」


 少女はそう思いながら、村のみんなに挨拶をしていきます。ある家に行ったときです。中にいた青年が声をかけてきました。


「こんにちは。あっ、あの。僕ずっと前からあなたのことが気になっていて、それで……。あの」


 何かを言っているのだけれど、何かは分かりません。少女は少年に何が言いたいのか聞きました。


「えっと、何でしょうか?」

「あなたに一目惚れをしたのです。一生あなたと過ごしたい、そう思いました」


 少女は顔を真っ赤にしました。青年の言ったその言葉は、所謂プロポーズだったからです。


「私はあなたをよく知りません。だから……」

「それはよく分かっています。だから、これから僕と過ごしてお互いを知ってからでいいのです」


 青年の笑顔に心惹かれた少女はこれを受けました。二人で過ごすうちに、少女も少年もお互いのことを理解し、一層惹かれていきました。

そして、青年と過ごすことを決めたあの日から二年経ちました。二年間考えていた言葉を少年は口にしました。


「僕と一生を過ごしてくれませんか?」


 少女はこの言葉に涙し言いました。


「喜んで」


 これが、とある村の少女のお話です。青い鳥に出会った少女は少しずつ幸せになっていったのです。さぁ次はどんな話をしましょうか。おや? 今日はもう時間がないようですね。それではまたお会いしましょう。楽しいお話を持って。

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