第99話 今日のお恭の明日

 今日もお芳の留守を幸いに、隣の本田屋の前を行ったり来たりしていると、運よく鶴七に声をかけられる。


鶴七 「まあ、お恭さん。素通りは無しですよ。ちょっとお寄りになってください

   まし。新柄が入りましたよ」

 

 やはり、お恭も新柄と言う言葉に弱い。さらに、そう言ってるのは他ならぬ鶴七なのだ。


鶴七 「そんな、ご覧になるだけでよろしいので、ささっ、どうぞ」

 

 鶴七はそれとなくお恭の肩の当たりに手をやり、店の中へといざなう。また、本田屋の男店員はイケメン揃いなのだ。これも悪くない。


鶴七 「お恭さんには、これがお似合いかと…」

 

 と、鶴七が目の前に広げた反物に思わず目を見張るお恭だった。姿見の前で当てて見れば、もう、欲しくてたまらない。


----どうして、この人、私の好みがわかるのかしら…。

鶴七 「良く、お似合いです」

お恭 「でも、おっかさんが何と言うか。うちのおっかさん、好みがうるさく

   て…」

鶴七 「これでしたら、きっとおっかさんもお気に召しますよ」

お恭 「そう、かしら…」

鶴七 「そうです。その時にはおっかさんにお似合いのもお勧めします。ですか

   ら、大丈夫ですよ」

お恭 「それじゃ、今度、おっかさんと一緒に…」

 

 きっと、母も鶴七を気に入るだろうと、気分良く帰ってみれば、そこには婿候補の冴えない男が二人待っていた。


----こんなの、いや!


 それにしても、鶴七と店でしか会えないのがつまらない。今度、母が来たら何とかしてもらおう。


----ひょっとして、婿に、なんて話に…。

女中1「お恭さん、また、手が止まってるよ。それに、なに、にやにやしてんの

   さ」

お恭 「まあ、そんなあ…。にやにやなんかしてませんたら」

女中2「また、隣に行ってたよね」 

お恭 「行ってませんたらっ」

 

 お恭が鶴七に気があることくらい、みんな知っている。


 そして、またもお芳の留守に抜け出したお恭だったが、さすがに続けて本田屋の前を通るのは気が引ける。そこで今日は反対の道を行くことにした。繁華街だけあって、どの店も品揃えが充実している。見るだけでも楽しい。


男  「すみません、白田屋の方ですよね」

 

 その時、声をかけて来たのは若い男だった。


お恭 「えっ、ええ…」

男  「あのぅ、ここではちょっと…。そのぅ、そこの甘味処ではいかがでしょ

   う。いえ、決して怪しい者ではありません。若旦那のことでちょっと。あ

   の、そんなにお手間は取らせませんので」

 

 見ず知らずの男と甘味処へ行くのはためらわれたが、他ならぬ拮平のことである。この男から何か聞けるかもしれない。白田屋の誰もが、拮平のことを案じている。それも、まだ、昼日中。ついでに甘いものも食べたい。


男  「さあ、参りましょう」

 

 と、男の手が背に添えられると、やはりドキマギしてしまうお恭だった。

 店の中で向かい合って座り、その時、男の顔をよく見れば何より若い。こんな若い男が拮平の何を知っていると言うのだろう。それにしては、男はにこにこしている。


男  「あの、何かお好きなものを」

お恭 「いえ、あの、その。では、汁粉を…」

 

 お恭は拮平のことを聞かなくてはと思いつつも、何か気恥ずかしくてうつむいてしまう。そこへ、汁粉が運ばれて来る。男に促されるままに箸を取り一口食べれば、何と、おいしい…。

 その、おいしさに突き動かされるように、お恭は黙って食べる。


男  「おかわりは?」

お恭 「いえ、そんな…」

男  「どうぞ、ご遠慮なさらずに」

 

 と、男はお恭の分を追加注文する。


お恭 「あの、すみません。こんなにして頂いて…」

男  「いいえ、あなたの様な方とご一緒出来るだけでもうれしい限りです」

お恭 「まあ、そんなあ…。あの、それより、若旦那の…」

男  「ああ、若旦那からはその後、何か…」

お恭 「いいえ、何もないそうです」

男  「そうですか」

お恭 「やはり、お七さんのところへ行かれたのでしょうか」

男  「それもないそうです。人をやって調べさせたそうです」

お恭 「そうですか…」

 

 と、男は何か考え込んでいる。この男は別に若旦那のことを何か知ってると言う訳でもないようだ。それにしても…。

 取り敢えずお恭は汁粉を食べることにした。ここまで来て、何を遠慮することがあろうか。お恭にとっては拮平のことなど、どうでもいいことであるが、出掛けたことへの口実にはなる。


男  「それで、大旦那やご新造様は、何か…」

お恭 「大旦那とはあまりお話したことはありません。ご新造様は少し怒りっぽい

   方です。何でも、自分に忠実でありたいとかおっしゃられて。でも、若旦那

   がいなくなったのだから、白田屋は言って見ればご自分のものなのですか

   ら、もう少し鷹揚に構えていればいいのに」

男  「そうですよねえ。でも、人の性格なんて、そう簡単に変わるものではない

   ですから」

お恭 「ご新造様のこと、ご存じなんですか」

男  「ええ、若旦那から少々伺っていたものですから。いささか身勝手なところ

   があるとか」

お恭 「いいえ、それが、いささかなんてものじゃないんです」

 

 と、お恭は自分のことは棚に上げて、如何にお芳のわがままに振り回されているかを語り出す。


男  「お恭さんも大変ですね」

お恭 「えっ、どうして、私の名を?」

男  「あっ、いや、これは…。やっぱり、あなたの前では嘘は付けませんね」

お恭 「……」

男  「いいえ、若旦那と親しくさせて頂いてたと言うのは本当なんです…。い

   や、どうも、その…」

 

 この男は何を言いたいのだろう。


 お澄は白田屋の二階でお芳と会っていた。今日もお恭の姿は見えない。

 そうなのだ、今のお恭はすべてがうわの空で、隙を見ては例の年下の男に会いに行く。


お芳 「隣の鶴七に熱を上げていたんじゃなかったのかね」

お澄 「鶴七さんじゃ、相手にしてくれそうもないんで諦めたんじゃないですか」

お芳 「そうかもね。それで、何かい。相手の男知ってるって?」

お澄 「ええ、ちょいと」

 

 仙吉がお恭と歩いている男を見て、すっ飛んで帰って来た。


お芳 「それ、どこの誰だい。もう、一日も早く、ねえ」

 

 あんなどうしようもない娘、早く出てってほしい。


お澄 「実は、その男と言うのが、ほら、かわら版屋の繁次さんの元相棒で、佐

   吉って言うんですよ」

お芳 「へえ、かわら版屋。で、元相棒って」

お澄 「ええ、詳しくは知りませんけど、繁次さんと合わなくて…」

お芳 「ふうん、じゃ、今は別のかわら版屋へ」

お澄 「そうじゃないですかね。とにかく、売れる記事を書きたいって随分張り

   切ってましたから」

お芳 「親兄弟は」

お澄 「お父つぁんと兄さんは左官職人だとか」

お芳 「それなら、善は急げだ」

 

 それにしても、あの佐吉が年上の冴えない女を相手にするとは。やはり、目的は金なのか…。

 どこで何を聞き、お恭に近づいたか知らないが、お澄はこれ以上でしゃばるつもりはない。丙午の女叩きの先鋒をやらかした佐吉のことなど、どうでもいい。


お澄 「はい、ご新造様にお任せ致します」

 

 階下に降りれば、またも女中たちに取り囲まれてしまう。


女中1「相手の男って、誰なんですか」

お澄 「駆け出しのかわら版屋で、名は、佐吉って言うんですよ」 

女中2「ええっ!かわら版屋ぁ」

女中3「やだ、そんなの…」

 

 堅気の家の娘からすれば、かわら版屋などやくざな稼業でしかない。


女中1「でも、あの人にはお似合いかも」

女中2「そうそう」

女中3「でも、こう仕事をサ、ほら、何て言ったっけ。この間のかわら版のエゲレ

   ス語特集にあった、サ、サボ…」

お澄 「サボタジュですよ」

女中1「それそれ、だからぁ、サボる。仕事をサボられちゃねえ」

女中2「でも、あの人、いない方が何かにつけてはかどると言うものよ」

女中3「それ、言えてる」

お熊 「そういうあんた達もサボってるじゃないの」

 

 と、お熊が言えば、三人の女中はバツが悪そうに台所へと向かう。


お澄 「どうも、とんだお邪魔をしました」

 

 お澄が帰ろうとした時、お恭が戻って来た。


お熊 「また、どこへ行ってたのさ。用もないのに、そう、頻繁に出かけられても

   困るんだけど」

お恭 「あの、ご新造様のご用で…」

お熊 「ご新造様はそんな用は言い付けてないって」

お恭 「いえ、あの、それは…」

 

 お熊に言われても、どこ吹く風のお恭だった。

 その時、裏口から風呂敷包みを大事そうに抱えた隣の手代の鶴七と亀七がやって来た。


鶴七 「これは、お熊さん。改めましてこの度はおめでとうございます」

亀七 「幸せを運ぶ鶴亀でございます」

 

 この時、お恭は思わず狼狽えてしまう。思えば、今は佐吉と付き合っているとはいえ、まだ、鶴七を諦めきれてない。本当は顔立ちから言っても鶴七の方がずっといい。それでも中々距離が縮まらない。そんな時、年下の佐吉から告白され、こっちでもいいかと付き合い始めたに過ぎない。

 確かに鶴七の方が顔はいいが、お熊じゃないけど、年下の男と言うのも悪くない。


----だって、あの佐吉の方が、私にホの字なんだもの。


鶴七 「お熊さん、これは本田屋一同からのお祝いの品にございます」

 

 と、風呂敷包みから現れたのは、畳紙たとうしだった。


お熊 「まあ、わざわざ、ありがとうございます」

亀七 「どうぞ、中をご覧になってください、どうぞ」

 

 と、勧められるままに、畳紙の紐を横紐をほどき上紙を開ければ、お熊は思わず俯いてしまう。


お恭 「えっ、なになに」

 

 と、お恭が手を伸ばしてくるのを鶴七が上紙を被せる様に遮る。


お恭 「ええっ、なにぃ。見せてくれてもいいでしょ、鶴七さん」

鶴七 「これは、お熊さんの大事なお衣装です」

お恭 「でも、こんな赤いの…」

----いくら何でも、こんな赤いの、お熊さんには派手すぎ!

鶴七 「お恭さんもお嫁入りの時には、是非、お作りください」

亀七 「そうですよ、そろそろお近いのでは」

 

 と、亀七にまで言われしまった。


----何さ、まだ、決まった訳じゃないのに。それに、みんな、このなの持って嫁に行くの…。

 

 やはり、こうしてみれば、鶴七の方がいいと、どこまでも面食いのお恭だった。


鶴七 「まあ、お熊さん。何をそんなに」

亀七 「恥ずかしがったりして」

お澄 「ちょいと二人とも、嫁入り前の娘さん、かうもんじゃないわよ」

 

 と、お澄が一応人妻の余裕を見せる。畳紙の中身は赤い長襦袢だった。


鶴七 「そうでした。これは失礼致しました」

亀七 「でも、これはお式のすぐ後に着てはいけませんよ。その、慣れてから、

   ちょいと刺激が欲しいなと言う頃に着るものですからね」

 

 その頃には、お里にお縫、三人の女中たちも興奮気味に回りを取り囲んでいたが、さらに、彼女たちのボルテージは上がることとなる。

 何と、そこへ真之介がやって来たのだ。


真之介「お熊、先ずはめでたいことだ。何だ、お前たちも来てたのか」

鶴七 「ええ、今、お熊さんに赤い長襦袢を着る時のことを教えて差しあげてたん

   ですよ」

亀七 「赤い腰巻もありますからね」

 

 お熊はそれこそ赤くなって俯いているが、お恭と三人の女中たちは、思いがけない真之介の出現に驚き、もう、いても立ってもいられない態で軽い地団太を踏んでいた。


女中1「あの、その、こちらが…」

女中2「えっ、どうしよどうしよ」

女中3「わっ、わっわっわあ」


 話には聞いていたけど、まさか、これ程とは…。

 何より、お恭は言葉もない。鶴七も好きなタイプだが、それ以上に真之介はど真ん中だった。


真之介「これは祝いだ」

お熊 「ありがとうございます」

 

 真之介から祝い金の包みを受け取ったお熊はそれこそ蚊の鳴く様な声で言った。


真之介「拮平がいれば、喜んだだろうに」

お熊 「あの、若旦那からは」

 

 真之介は黙って首を振る。  


真之介「お熊、拮平の分まで幸せにな」

お熊 「ありがとうございます」

 

 今度ははっきりと礼を言えたが、思わず泣きそうになってしまうお熊だった。

 お熊も拮平に会いたい…。


真之介「それで、祝言はいつだ」

お熊 「来月です。それで、こちらも今月いっぱいで…」

 

 それなら、もう少し間がある。

 こう取り巻きが多くては、ゆっくり話も出来ない。帰えって行く真之介の後をお澄が追えば、鶴七亀七も後に続く。 


お芳 「ちょいと、お前たち。何、そこで油売ってんだい!早く夕飯の支度しないか

   い!」

 

 その時、未だ真之介の余韻冷めやらぬ女中達は、お芳の迫力ある怒鳴り声に、それこそ冷や水を浴びせられてしまう。お熊も畳紙を持って立ち上がる。


お芳 「お熊、ちょいと。お恭!いつまでもそこに座ってんじゃないよ!」

 

 未だにぼんやりと、真之介が去って行った方向を眺めているお恭だった。


お芳 「聞こえないのかい!!」

お恭 「えっ、何か、言いましたか」

お芳 「言いましたかぁ。おっしゃいましたかだろ。お前もさっさと台所へ行き

   な!」

お恭 「はあい」

 

 と、例によって、ゆっくり立ち上がり、ゆっくり歩き出す。


お芳 「ったく…。それ、何さ」

 

 お芳はお熊の持っている畳紙が気になる。


お熊 「ああ、これは、本田屋の皆さんからお祝いにって…」

お芳 「ちょいと、見せとくれ」

 

 お熊は恥かしかったが、相手がお芳では嫌とも言えない。


お芳 「あら、まあ…。さすが、気が利くじゃない」

お熊 「それと、真之介様とお澄さんからも、お祝いをいただきました」

お芳 「えっ、隣の真之介来てたの」

 

 先程、お恭に言葉使いを注意したばかりなのに、いやしくも侍である真之介を呼び捨てにするとは…。


お熊 「ええ、お見えになられました」

お芳 「それで、拮平のことなんか言ってなかった」

お熊 「別に」

お芳 「そう、そんならいいわ」

 

 と、早々に去って行くが、お熊はやはり拮平に会いたい…。

 その頃、お澄は本田屋で真之介と話をしていた。


お澄 「ほら、お熊さんのすぐ側にいた女中ですよ。まあ、すべてにのろい、だけ

   ならいいんですけど。口は達者。いえ、食べる方の口もかなりのものとか。

   それでいて、病気持ち」

真之介「どんな病気だ」

お澄 「人に言えない病気ですよ」

 

 と、お澄は小声で病名を告げる。


お澄 「本人は貧血だと言ってますけど、そこはお芳さん医者の娘ですから。ま

   あ、そこのところをぼかされて、嫁入り口の世話を頼まれたそうなんですけ

   ど、ほとほと手を焼いてますよ…。いいえ、別にお芳さんが手を焼こうがど

   うしようが知ったこっちゃないんですけど、まあ、最後まで聞いてください

   ませ」

 

 お澄が隣の女中のことをくどくどと、それも真之介に聞かせるからには何かあるのだろうと思っていた。


お澄 「それが、どうやら、こちらの鶴七さんが好みで、抜け出してはお店にやっ

   て来てるそうです。でも、鶴七さんには客としてしか相手にされず、着物買

   わされてるとか」

 

 小太郎が鶴七は商売上手だが、噂好きでそれも入り口付近でとやかく言うので困ると言っていた。


お澄 「ところが、そんなお恭に男が出来たそうなんです。それも、年下の」

 

 お澄は茶を飲む。どうやら、ここからが本題の様だ。


お澄 「その相手の男、誰だと思います」

真之介「誰とは。まさか知ってる男か」

お澄 「ああ、旦那はお会いになったことありませんかね。それが、かわら版屋の

   繁次さんの元相棒の佐吉ですよ」

真之介「あの男か…」

お澄 「ご存知でしたか」

真之介「ああ、繁次と一緒のところを見かけたことがある」

 

 売れる記事を書きたいと意気込むあまり、八百屋お七の事件から、丙午年の女叩きの記事を書き、そのことで、繁次とも袂を分かつことになった男である。


お澄 「ええ、お芳さんにしてみれば一日でも早く追っ払いたいばかりですから、

   相手が誰であろうと構わないんですけど。それにしても、あの佐吉が、あん

   な年上の女と…。余程金に困ってんでしょうねえ」

真之介「いま、佐吉は何やってる」 

お澄 「よくは知りませんけど、どこかのかわら版屋に潜り込んだそうです。それ

   ならそれで地道にやればいいのに。あの性格じゃあねえ」



 職人も商人も長い下積みを経て一人前になるのである。とかく、目立ちたがり屋で手っ取り早く格好を付けたい男には向かない。そんな時、一つの事件をきっかけに名を挙げた男がいた。それがかわら版屋の繁次である。


佐吉 「繁次さんくらいにはなりたいんですよね」

 

 初めて会った時、佐吉は言った。だが、繁次とて一朝一夕にとんでもない特ダネを掴んだと言う訳ではない。努力の積み重ねと言ってほしい。それをやっていればなれると思っている…。

 だが、少なくとも繁次は、佐吉のその意気込みを買っていた。それにも増して功を焦り、その暴走を止められなかった責任は自分にもあると思っている。他のかわら版屋に移ったことは知っていたが、まさか、こんな形でその後の佐吉の消息を知ろうとは…。


繫次 「へえ、あいつがねえ…。金目当てで女に?」

 

 だが、女には別に好みの男がいるとか、それを落とそうと躍起になっているとか。これは、もう、笑うしかない。


繫次 「で、病気持ちって知ってんの?」

お澄 「さあ、どうかしら。でも、そんなこと、どうでもいいじゃない」

 

 と、お澄も笑っている。

 

 笑えないのは当事者だけである。お恭はここに来てまだ迷っていた。だが、そんな迷いもお芳が吹き飛ばしてくれた。早速にお恭と佐吉の親たちに掛け合い、話をまとめるべく奔走する。そして、お恭も一応渋々と言う態で承諾させられる。


----まっ、仕方ないか…。


 それより先に、お熊が暇を取ることになった。その日は白田屋、本田屋は言うに及ばず、近く店の手の空いた者たちが見送りに来ると言う華やかなものだった。これには迎えに来たお熊の兄も驚いていた。

 そこへ、真之介にジョンとみかんを連れた忠助もやって来た。


お熊 「まあ、旦那様まで。あら、ジョン」

 

 真之介は拮平の代わりにお熊を見送りに来たのだ。

 拮平と共に弥生を訪ねる旅の日の朝、まだ、暗いうちから握り飯と朝茶を用意してくれたのは、このお熊だった。昼時、うまそうに拮平がその握り飯に嚙り付いていたのを思い出す。 

 お熊の嫁入りを誰より喜んだだろうに…。


真之介「お熊、幸せにな」

お熊 「はい、ありがとうございます」

----次は、私の番ね。



 







































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