後編
後編
翌日、可憐は勤め先からまっすぐに帰宅した。やはり姿は多少違うが、地球人と大差はないのだ。食物を摂取して排泄し、酸素を取り入れ二酸化炭素を排出する。
となると、何時間も狭いアパートにほったらかしにするのは、少々気の毒な気もする。それに、誰かに見つかったことを考えると心配になる。
地球人は、自分達との違変を感じると、相手が友好的でも、攻撃的になるものだ。
「ただいま~、ルーク!」
6畳間が一つあるだけの狭いアパートだ。隠れる場所なんてないし、誰もいないのは明確だった。何かあったのだろうか?!
「ルーク! ルークってば! ウワァッ!!!」
突然目の前に、宇宙バイク(?)にまたがったルークが表れた。そう、何も無い空間に、いきなり出現したのであった。
「あ、帰ってたんですね。ここは、磁場と電磁波が微弱なんで、瞬間移動が簡単にできました」
「ちょっと~、まさか、外出したの~??」
「すみません、一応、尻尾と耳は隠してますよ」
たしかに、野球帽を目深に被って、尻尾はスーツの中に隠れている。
「でも、そのスーツだけでも”宇宙人っぽい”じゃないの。誰かに見つかったらどうすんのよ・・・」
「ちょっと、愛車が気になりまして、それに、これがないと帰れないですから・・・」
「だったら、ちょっと待ってくれたらいいのに・・・、でも無事で何よりだわ」
「光速エンジンとバリヤ装置がいかれてるんで、宇宙空間に出るのは無理なんですが、空間移動装置とワープ装置は大丈夫でした」
「でも、じゃあ、どうするの?」
「救助の宇宙船を気長に待つしかないですね、これは、帰ったら謹慎処分になりそうです」
アパートの一室を占領しているバイク、今夜は一体どこに布団を敷いたらいいのだろうか。
「そうだ、昨夜話してくれた、あなたをひどい目に合わした男。ちょっと、仕返ししてやりませんか?!」
「・・・・・・別に、もう、いいわよ。馬鹿な夢見た私が、迂闊だったんだから・・・」
「そんなことありません。悪い事をした生物には、それなりの罰を受けなければなりません。それが、宇宙の刹那です。
こちらの言葉では”目には目を””因果応報”ってゆうんですかね」
ルークは、ニコリと笑顔を見せた。
「さあ、後ろに乗ってください」
テレポーテーションの瞬間とはどんなものだろう、目の前に見えるルークの背中が、自分の腕が、じわじわと空気に溶け込んで消えていく。
痛みなんてものはないが、身体がうず痒いような変な感じがする。そして、視界は真っ暗になった―――。
シュパッと、鋭利な刃物で首を切り落としたような音とともに、視界にはルークの背中が見えた。腕も脚もきちんと付いていた。これが、瞬間移動ってものだったのか・・・。
こんな体験をした人間は、地球人の中でも、そんなにいないだろう。
「ここは・・・?」
「例の男が、女性と一緒に食事をしているようですね」
潮風と波止場でよく聴く、ボォーっという船の汽笛の音。ここは港の上空だった。湾岸沿いの洒落たフレンチレストラン。
高次の(私が買ってやった)ランドクルーザーが、傾斜した駐車場に止めてある。
「まったく、せわしない男ね。相手の女性、身体も心も財産も、何もかもアイツに奪われて捨てられちゃうんでしょうねえ・・・」
「そんな感じでもなさそうですが、相手の女性」
「何でそんなこと解かるのよ?」
「こちらのメディアを利用させて貰って、ちょっと地球人の心理を研究さしてもらいました。
やはり、こちらから、コンタクト取りたくないタイプが多いですね。それに、美的感覚も細かいデータに拘っています。
目、鼻、口の設置バランスの比率があって、その位置が少々ずれてるだけで、不快に感じる・・・ある意味、そこまで拘ってるのは面白いですが」
「私は、バランス崩れてますからねえ」
「そして、この小さな島国の生物が、一番拘りを持ってるみたいです。
そして理解不能なのは、どうしてこんな小さな大陸を、境界線で分けるのですか?? 同じ星なのに、”国”という概念が存在しているのが、不思議でなりません。
あ、話しが反れてしまいました。要するに、容貌のバランスが地球人の好感に適してる生物は、周りの生物が称賛賞揚しますよね。
そうなると、他生物に優しくされるのが当たり前になって、感謝の気持ちがなくなる、性格も悪くなっていく、そのパターンが多いようですよ」
「そんな考え方もあるのね。私は、不細工な奴は僻み根性で捻くれていくから、性格が悪くなる。ってよく聞くわ。だから、美人は性格もいいんですって」
「地球生物の歴史と行動を見てると、そうは思えませんけどね」
そしてルークは、懐からPDAのような物を取り出した。しかし、〇〇〇〇んの四次元〇〇ットのように、いろんな物が収まっている不思議なスーツだ。
「え~っと、あの乗り物の制御は・・・と、あれま、実に原始的な制御装置だ。これならコントロールも容易ですね・・・」
ルークは液晶画面の上で、指を世話しなく動かしている。
「では、やっちゃいましょう! 見てて下さいね」
無人のはずのランドクルーザーがするすると動き出す、傾斜した駐車場なので加速がつく。そして、レストランのエントランス付近に突っ込んでいった。
「うわぁ、どうなってるの??」
ドーンッと派手な音を立てて、大理石造りのカウンターを破壊して止まった。車体はシュウシュウと煙を上げて、ボンネットはクチャクチャになっている。
幸いその付近には、人はいなかったので、ケガ人はいないが、店の中では、何事かと全員がざわついていた。
「ギャ―――ッ!!! 俺の車がっ!!」
「あんたの車かっ!! どうしてくれるんだっこれっっ!! 弁償してもらおうかっ!」
「そんなこと知るかよっ! こっちは客だぜっ! 何だ、その態度はっ!」
客であることを嵩に入れ、無茶苦茶な理屈をこねる人間は多い。だが、支配人と思われるその男、顔を真っ赤にして怒りを顕にしている。
「あんたが、きちんとサイドブレーキをかけんかったからだろうがっ!! あんたが悪い!! 弁償だっ!!」
支配人は、高次を突き飛ばした。そして、コント番組のお決まりのように、車体のドアが四つガランと外れた。振動で、埃や鉄屑が空中に舞う。
ついでにタイヤのエアーが抜けていって、バンパーが床に打ちつけられ、ペシャンコになった。
「何だよ~、これ、もう使い物にならねえじゃんか~」
「とにかく、あんたの車はどうでもいいっ! 店内の壊れた物は全て弁償してもらうぞっ!!」
「そんな~」
すっかりショボくれている男に、可憐は少々気の毒な気もしたが、かなりにひどい目に遭わされているのだ。同情する気にもなれなかった。
「最低~、カッコ悪ぅ~」
連れの女性は、呆れ顔で高次を軽蔑するように眺めている。
「美知子~、どうしようか・・・・・・?!」
「知らないわよ~、私、帰る~、もう、電話しないでよねっ」
「おまえ、そりゃないぜ~」
高次は、彼女にすがっていった。
「離してよっ! 金も車もない男なんて冗談じゃないわよっ!」
その女性は、バケット型のブランドバッグで高次の頭を思い切り殴った。高次はドサッとひっくり返ってしまった。女の方は、さっさと店の外へ出てしまった。
「まあ、これくらいの目には遭うのも当然ですよ」
上空の見物人は、スッとした表情で闇に消えていった。
ピピッと、ルークのPDAが呼び出し音えお鳴らす。
「・・・・・・・・・、救助船の迎えが来たみたいです。北極点上空で待機してるって・・・」
「じゃあ、もう、帰っちゃうんだ・・・・・・」
「・・・・・・ええ、ここに留まっていても、仕方ないですし・・・」
「そうね・・・・・・・・・」
「いろいろとお世話になりました。まさか、この地球で、こんなに優しくしてもらえるとは、思わなかったです・・・」
「私も、すごく、楽しかった・・・・・・」
何ともいえない沈黙が、可憐とルークを支配した。可憐は、このままでいいのか、このまま永遠の別れを告げてもいいものかどうかと、自問自答していた。
可憐のアパートの部屋、ルークは宇宙バイクにまたがっていて、いつでも出発でる状態だった。ただ、可憐からの、きちんとした別れの言葉を待っているだけだった。
このままでいいのだろうか、この地球で生活を送ったところで、幸せになれるのだろうか・・・。
当たり前の夢を見ることも否定され、努力しても認めてはもらえない・・・。
いつまでたっても、馬鹿げた支配思想に宗教思想に侵略と略奪と紛争が絶えない
この世界。。。
豊かな国の人間は、そんな不幸が起こってることを知ろうともしない。そうだ、ここにいても何も変わらないのだ。だとしたら・・・・・・・・・・・・
「ルーク、私も連れてって!! あなたの星に」
「えええ~っ!!!」
「いいの、私には失う物も、余分な荷物も何もないのっ! 精神的にも実質的にも身軽なんだから」
「でも・・・、あなたの星でも”家族”というものがあるでしょう。突然いなくなったら、肉親が悲しみますよ」
「それはいいの、私、孤児だったから・・・・・・」
「―――――」
「それに、私だって、全然努力しなかったわけじゃないわ。当たり前の夢をかなえるために、お洒落だってダイエットだって、がんばったわ。
でも、世間では、”元が悪いのに、何をしたってダメだ”って笑い者にするだけなのよ。
あなたの星に行ったからって、受け入れてもらえないかもしれない。
でも、解からないけど、この地球にいる方が、私にとってはいい事なんて何もないと思うの。
それに、これは新しいチャンスだと思う。だから、連れてって、お願い・・・・・・」
「・・・・・・解かりました。じゃあ、一緒に行きましょう!
ややこしい入星審査がありますけど、永住となったらもっと大変ですけど、あなたの精神思想なら大丈夫ですよ。
少なくとも、僕は大歓迎です」
「ルーク、ありがとう・・・。いろいろと迷惑かけるわね」
「いいえ、じゃあ”帰りましょう”、僕らの母星へ・・・・・・」
簡単に身の回りの物だけ整理して、可憐はルークのバイクに乗り込んだ。瞬間移動が始まる、もう、ここには二度と戻って来れない。それでいい。
可憐は思った、自分がいなくなって、悲しんでくれる人はいるのだろうか・・・、多少の騒ぎは起こるかもしれないが、大したことじゃない。
この地球なんかどうだっていい。自分の存在が消えたことに、誰にも気付いてもらえようがもらえまいが関係ない。
未知の場所が、待っているのだ。
私の彼は宇宙人 茅ヶ崎ぽち @pochitamax
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