第12話アリス
砦を出てはや4日の旅を経て、ロンデブルク国トーラの山の麓にアリスはたどり着く。
トーラの山はかつて神が住んでいた場所とされている。その理由は神の持ち物、トーラの書が発見されたことでその名前が付けられた。
その麓、数件の家が立ち並び、その奥に大きな屋敷がある場所が剣聖レオンとその門弟の居住場所であった。
アリスの視線の先には門弟達が稽古に励んでいる。そこには男女関係なく励む姿はこの前までここで稽古をしていた、自分には懐かしさを感じさせる。
門弟の一人がアリスに気が付く、一人が気が付くと、2人、3人とアリスに気が付く。3人の門弟がかけよってくるのが見える。その一人に、アリスとかなり親しくしてくれた、サラの姿が確認された。サラは嬉しそうにアリスの目の前に来て声をかけてくれる。
「久しぶり、どうしたの?もう寂しくなっちゃった?」
笑顔のサラは屈託ない笑顔で挨拶してくれる。
サラとはここを離れる時には、碌な挨拶もせずに去っていったのが思い浮かべられる。アリスはあと数年すれば奥義習得も可能だろうと師匠に言わしめるほど優秀だったのだが、兄の噂が耳に入り、すぐに師匠と話、ここを去ったいきさつがあるからだ。
「サラ元気そうだね、師匠はどこにいる?」
アリスのそっけない態度に、サラは少し寂しそうな表情をして。
「母屋にいるよ、師匠に用事?」
アリスは頷き、そのまま母屋に向かう。
師匠と真剣勝負を挑めば、師匠を慕う門弟達はきっと私を敵とみなすだろ
少なからず、良くない感情を持たれるのは確実だ。
だから、私は私の目的の為に行動するだけだと心の中で強く思う。
そっけない態度にサラは困惑した表情を浮かべる、あれほど仲良くしていた友人が仲間が、真剣な顔でサラを拒むのだから。
それはほかの門弟達も同じようだった、動揺の色が伺える。
母屋の前まで行き、ノックもせずドアを開ける。
そして大きく口を開け声を張り上げる。
「師匠!勝負していただきたい!」
アリスの声に後ろにいるであろう門弟達がざわついてるのを感じる。
そしてゆっくりと、姿を現すその家の主。
アリスの顔を見て、ぼさぼさの髪に不精髭をはやした男が笑顔な姿を現す
「アリスじゃないか、やはり剣を中途半端に終わらせたのを後悔してきたのか?」
この人の良さそうな中年なおじさんが師匠であり、剣聖レオンである。
アリスはここに入る頃の記憶が蘇る、この師匠は見た目は人の良さそうな顔はしているが、結構な頑固である。それゆえ、ここに入門するのに3日3晩頭をさげてやっと入れたのだ。しかし、強さに関しては理解者でもある、だからこその勝負、勝負で勝てばすんなりと黒の砦に入ってくれるだろう。
アリスは、師匠であるレオンを睨み、再度言う。
「師匠、真剣勝負をお願いします。負けたら黒の砦に入っていただきたい!」
レオンは笑顔を浮かべたまま、アリスを凝視する。
アリスにとってその視線は、生きた心地がしなかった。
レオンは真剣な顔つきになり。
「本気で言ってんのか?」
「はい!」
お互いの視線が交差する、アリスが本気だとわかり、頭をぼりぼり書いて。
「はぁ~~、お前が俺に勝てると思ってるのか?奥義もできないお前が、今の言葉は取り消してやるから、また剣に励めや、な」
この師匠は相変わらずだと思う、弟子思いなのだ。でもアリスはそれに甘えるわけにはいかない。
「師匠!私は本気です。お願いします。」
頭を下げる。
はぁ~~とレオンはため息をつく、そして目を鋭くする。
「真剣勝負なら死んでもしらねえぞ」
気迫に押されそうになる、なんとか踏ん張って、それに頷く。
「わかった、じゃ俺らの道場でやるぞ、来い」
道場といっても道場などはない、あるのは自然だ。
ただし、周りに木々が極端に生えてない場所がある。
そこが剣聖の門弟達の道場になる。
2人は目的の場所に着き、対峙する。
門弟達もそれを見ようと集まる。レオンとアリスはお互い真剣な顔つきで視線を交わす。
「一つ聞いていいか?」
アリスは頷く。
「兄貴の為か?」
アリスはまた頷く。
「そかあ、お前は強いと思ったんだけどな~、兄貴の為に命を簡単に捨てる馬鹿者だったとはな。」
その叱咤ともとれる言葉に少なからずアリスは動揺する。
しかし、後にはもう引けない。
レオンは愛用の刀を肩に下げ。
「いいぜ、こいよ」
レオンが勝負の始まりを告げる。アリスは剣を構え、隙を伺う。
師匠の構えない動き、隙があるようで隙がない、それは身を持って知ってる。
隙を作らないといけない。アリスは横に移動する、と見せて一足飛びをしてレオンの頭上から斬る、レオンはそれを枯葉でも受けるように刀で受ける。
カアアアアアアン
と大きな金属音がする。
アリスは、そこから連続で最速の速さで斬る、上、左、右、下、その全てがレオンに受けられる。
「ッチ」
後方に下がり、体勢を整える、レオンは先ほどの場所から動いてもいない。
さすが師匠だという感心とともに、勝利ができるのかと心が揺らぐ。
前に勢いよく走り、斬りつける、それを受けようとしたのを見てとって更に体勢を地深く這うように落とし、足を狙う。それをジャンプで回避される。
「お~あぶねえあぶねえ」
まったくそんな素振りをみせずに、レオンは言う。
そしてレオンはニヤリと笑い。
「いいぜ、お前に奥義みせてやるぜ」
そう告げる。
師匠レオンの奥義が来るとアリスは内心焦る。
奥義を使われた師匠には剣すら受けてもらえず、ただやられた記憶が浮かぶ。
奥義 斬釘截鉄。
アリスは焦る心を落ち着かせるように、深く息吸って吐く。
最速の速さで前に出、小手を狙う、その剣が当たる瞬間、今まであった手が消えそれと同時に脇腹に急激な痛みがはしる。
「グッ」
急激な痛みにアリスは声を出す、そしてすぐに後方に下がる。
脇腹を見ると、深くはないが出血が結構でてるのがみてとれる。
アリスにはすぐわかった、手加減してるのだと。でなければ、私がここに立っていることはできていないだろう、師匠はそれで降参すると思っているのかもしれないが、動ける限りは私は諦めないと決めた。
アリスは左右にフェイントをかけ、斬るモーションをとる、それを引いてレオンの体を狙って突く、突く瞬間にまたそこにあったはずの体が消え、それと同時に左腕に痛みが走る。
ありとあらゆる動き、今まで培って来た鍛錬の結果を繰り返す、しかしそのどれもが当たる瞬間に消え、そして切り傷を作る。
それが幾度ともなく繰り返され、アリスは膝をつく、息は乱れ、立っているのもやっとだとわかるほどだった。
「師匠、もう勝負つきました。すぐ治療をしないと」
サラの叫ぶ声が聞こえる。
レオンはその声に反応せず、アリスを鋭く見つめる。
アリスの目がまだ諦めていないことを現す、しかしその体には無数の斬り傷があり、いつ倒れてもおかしくないほどだった。
頭は朦朧とし、体が鈍い、方向感覚が狂ってるように視界が歪む。
それでもアリスは体を起こし、剣を振る。フェイント、剣の太刀筋を変えて、剣を振る。
その結果アリスの体はその度に傷を増やす。アリスの視界が大きく歪む、真っ暗な闇が襲う。
闇の中に両親の姿が映し出される、両親は私を溺愛してくれた。
それはもう、なにかから守るように・・・。
しかし、私にはそれが窮屈だった。
両親の愛だと思うとそれが拒めなかった。
私には兄妹がいないと教わった、私はそれを当たり前の様に受け入れていた。
しかし私は何度か彼の姿を実は何度か見ているのだ。元々わんぱくのせいか、たまに抜け出して見ていたのだ。
彼は納屋で暮らしていて体は痩せ、私とは対極に位置する彼を兄とは思ってもいなかった。
多分私はそれを現実と受け入れられなかったんだと思う。知らないふりをしていたのだから。
あるとき、私に衝撃的なことが起きる、納屋の彼が姿を消した頃だろうか、一人の女の子に叱られたのだ。髪は緑色をしていたと思う。
女の子は泣いて私に言ってきた、どうして助けてあげないんだって、どうして見ないふりするんだって、実の兄をどうしていないものにするんだって。
私はそこで気がついた、知らされた。彼が兄だということに。
私は両親に何度も兄の事を聞いた、だけど答えてはくれなかった。
私は兄のことを調べた、そして後悔だけが残った。
私はどうしようもない愚かだという後悔だけが残った。
目の前の現実に目を背け、なにを私はのうのうと暮らしていたんだろう。
もう後悔はしたくない、だから助ける力を身に着けようと思った。
レオン師匠は入門をなかなか許してはくれなかったけど、何日も粘ったら許してくれた。剣の修行を頑張って頑張っていた時、ふと門弟の誰かが兄の噂を話しているのを聞いた。
私はいてもたってもいられなくなり、その日のうちに師匠を説得し、その場を去った。兄は元気そう?かわからないけど、兄は仲間に囲まれてた、幸せそうだった。
私の姿をしたティラには驚いたけど。今度は後悔しないよう全力をつくすと決めた、だから・・・・・私は逃げない。
アリスは目を開ける、周りには心配しそうな門弟が見ていた。
どうやら私は失神していたようだ。
私は立ち上がろうとする、足がガクガクと震える、剣を杖がわりにしてなんとか立ち上がる。そして師匠であるレオンを見る。
師匠は驚いた顔をしていた。
「まだ、お・・終わっていません」
私は精一杯の力で声をだす。
門弟達がなにか言っている、だけど朦朧とする意識の中、言葉に聞こえない。 今はどうでもいい、ただ目の前の師匠を倒さなければいけないということだけ認識してればいい。
師匠を見ると、師匠の口が開く、私の耳には言葉として入らない。師匠のいつもの余裕の笑みではなく、心配そうな表情をしている。
私は口元が緩む、師匠もそんな顔するんだなと思って。
「うわあああああああ」
私は師匠に向かって走る、走っているつもりだ、もしかしたら歩いているのかもしれない、そして構えもなっていない剣で斬る、剣が異様に重い、それでも振る後悔しないために剣を振る。
師匠はそれを躱す、当たらない、反撃も来てる感じがしない、来てるのかもしれない、感じないだけなのかもしれない。
私は力いっぱい剣を振り続ける。
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