第9話嘘
突然の部下の報告にグレンとシークは動揺する。
「どういうことでしょうか?」
シークの顔が強張る、それはグレンも同じだった。
「とりあえず会ってみようじゃねえか、もしかしたら嬢ちゃんのいたずらかもしれねえ」
「そうですね」
2人の意見は一致する。
部下に来客を連れてくるよう命令する。
部下は頭を下げて、急いで呼びに行く。それを見てとって。
「いたずらならいいのですが、私たちも有名になりましたからね、アリスさんの変装をして、動揺させる手はずとなってると多少危険ですね」
グレンはそれに頷く。
「ああ、変装なら許さねえ、情報を引き出して痛い思いさせてやらねえとな」
グレンは肩を震わせ、怒っている様がありありとわかるようだ。
「グレンさん、いきなり殴ってはだめですよ。まずは色々確かめないといけませんからね、それに万が一もありますし」
シークの窘めに、わかってるよと返事を返して、小さな笑みを零す
しばらくして、その来客が部下と共に姿を現す。
それを見てとって、2人は驚愕する。
部下に案内された人物は、アリスとそっくりな金髪の端正な顔立ちをした美しい女性だったからだ。
「嬢ちゃんそっくりじゃねえか・・・・」
「まさかこんなに瓜二つとは、しかし魔法にも姿を似せることができる魔法があると聞きます。それかもしれません」
2人はアリスそっくりの女性を凝視し、身動きができないほどの衝撃を受けた。
2人の視線を感じたのか、多少不愉快な表情をし、礼儀正しい挨拶をするアリスと名乗る女性。
「私はロンデブルク出身のアリスと申します。剣の修行を終え、旅にでてるところ兄の噂を聞きつけ馳せ参じました、お二方のどちらかが兄でしょうか?」
その声はいつも聞いているスレインの妹とは違う声、そして姿形そっくりのアリスにいまだ動揺が収まらないシークとグレン。
そんな2人を見て、アリスと名乗る女性は少し不機嫌な顔をする。
「挨拶をしているのに、あなた方は返事もできないのか!」
その姿はアリスそっくりの不機嫌さにグレンはいつもの癖で押される。
「い、いやそういうわけじゃねえだけどよ」
グレンは今は使い物にならないとシークは思考する。
ならば私が慎重に確かめないといけませんね。
シークはアリスという名の女性の前にでて挨拶をする。
「私はスレインさんの部下のシークと申します、こちらはグレン。失礼ですが私とは初対面でよろしかったでしょうか?」
丁寧なシークの挨拶に、アリスと名乗る女性は頷く。
「もちろんだ、あなたとは今日が初対面だ。しかし、そちらの方は挨拶もできない方を兄は部下にしているようだな」
それにと間をいれて。
「ここの兵士達は私の姿を見すぎる、大変不快だ。私は今日初めて砦に来たというのに、なにかしただろうか?」
アリスという名の女性は不機嫌なことを強調するように眉をひそめる。
「大変申し訳ありません、グレンはちょっと動揺していまして、2,3質問したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
紳士的な態度をとるシークに、多少顔を緩める。
「わかった、突然参った私も非礼であろう、なんなりと聞いてくれ」
「名前はアリス相違ありませんね?」
少女は頷く。
「この砦の主、スレインさんとは会ったことはございますか?」
少女は苦い顔をする、聞かれたくない質問のように。
「会ったことはない、私が物心が着いた頃には兄とは会わせてもらえなかった」
「なるほど・・・・」
シークは考える、過去の話ではそんな話を聞いていたことがあったと、しかしそんなことは調べればわかること。
思考をしているシークを見て、少女は少し苛立つ。
「砦の主に会うのだ慎重になるのはわかるが、砦の兵士の視線、あなた方の雰囲気まるで私が怪しい人物のように感じる、ただ兄と会いたいだけだと言うのに」
少女は憤る、しかしシークの視線はそれを無視する。
今重要なのは、少女をなだめることではない。
少女の正体を確実に見極める事なのだから。
「申し訳ありません、もう一つだけ質問します。ここに来た目的はなんでしょうか?」
その質問に少女がかなり怒っている様が見受けられる、いや、怒ってるどころではない、肩を震わせ今にも殴ってきそうなほどの剣幕だ。
「ふざけているのか貴様!本気で言っているのか!」
シークは動じない、その程度で動じるほど8武神の一人は軽くない。
「本気ですとも、なぜ来たのですか?その理由を聞かねば、会わせることはできません」
ピシャリとシークは拒絶の言葉を吐く。
少女はシークの言葉を受けて、諦めたかのように深呼吸をして落ち着かせる。
「妹が兄に会う、ただそれだけだ。私は兄に会ったことはない。兄はどんな顔をしてどんな話をするのか・・・、私は知りたいのだ。兄の境遇は知っている、いや調べた。不幸な出来事だと思う。それで兄が私に会いたくないと言うのなら引き下がろう。だが!兄にも聞かず、なぜまるで犯罪人を見るような扱いを受けねばならないのだ」
少女の鬼気迫る言葉にシークは真実かもしれないと少し迷う。
もしかしたら、もうひとり妹がいるのかもしれない、それにこの少女が嘘を言ってるようにもみえない。だが、しかし万が一を考えると決断がつかない。
「わかった、どうやら本当に私を疑っているようだ。武器はここに置こう。なんなら調べてもらってもいい」
少女は腰に差してあった剣を手に取ると、そのまま目の前の机に置く。
好きなように調べろといわんばかりに、両手をあげる。
シークは頷く。
「わかりました、剣はそのままの状態で会わせましょう。しかし、妙な動きをするとどうなってもしりません」
少女は少し微笑むような笑顔を見せ、頷く。
シークは近くにいる部下に、スレインを呼ぶよう命じた。
今まで固まっていたグレンがシークに顔を寄せ。
「本当にいいのかよ?」
「構いません、剣はそこに置いたのです。距離さえ取れば万が一もないでしょう」
数分後、スレインとアリスは姿を現す
スレインは事情を聞いたのだろう、少女を一瞥してすぐに視線を逸らす。
そこには何の感情も伺えない。
しかし、スレインとは別にアリスはそれを見て顔を強ばらせ、非常に動揺する様子が見て取れた。
そこにはいつもの偉そうにしているアリスの姿は見えなかった。
アリスの手は小刻みに震え、今にも泣き出しそうな表情の姿が誰の目にも明らかだった。
それと同時にアリスと名乗る少女も驚愕した顔をする。目を見開き動揺している。
「なんで私がもうひとり・・・」
アリスと名乗る少女の小さく呟く声が聞こえた。
スレインは目の前のアリスと名乗る少女ではなく隣にいるアリスを心配そうに声をかけようとする。
アリスはそれを拒否するように、首を振る。
目を大きくつむり、数秒閉じた後、目を開け決心したような顔をする。
そして口を開け言葉を紡ぐ。
「あ~あ、ばれちゃった」
その声は震え、今にも泣きそうな表情でそう言った。
周囲はそれを聞いて驚く。
そして、アリスはゆっくりと指輪をはずす。
今まで外した姿を見せたことのない指輪を取る。
それと同時にアリスの姿は、ぼんやりと光、すこしずつ姿を変える。
姿を現したのは、髪は緑色、耳は尖っていて、今までのアリスよりも背丈が小さく、そしてまだ幼さが残る少女の姿だった。
周囲の驚きを気にせず、アリスであったであろう少女は。
「兄様ごめんなさい・・・・だましていました。私は妹のアリスではありません」
そう言ってエルフの少女の頬から涙が零れる。
「私は7歳の時に兄様に救われたエルフなんです。私はそれで生きる希望ができた、生きることができました。だから・・・兄様を助けたかった。兄様に元気になってもらいたかった。だから最強とかは別にどうでもよかった、兄様が生きる目的になればただそれでよかった。最強にならなくてもよかった。私は皆さんをだましていました。嘘をついていました。アリスさんの姿を借りだましていました。ごめんなさい」
エルフの少女の目からはどんどん涙が流れる。
周囲は理解できずに唖然とする。
今までアリスだった少女が、アリスじゃないことに、そしてアリスの姿をしていた少女がアリスだったことに、ただ困惑する。
先に口を開いたのはシークだった。
「つ・・・つまり、アリスさんではないんですね?」
少女は頷く。
「ごめんなさい・・・」
エルフの少女は泣く、謝罪の言葉を囁きながら。
スレインはエルフの少女に近寄り、ゆっくりと体を抱きしめる。
エルフの少女は驚き、体をビクッと震わせ、スレインの顔を見る。
スレインはアリスの目を見つめ。
「知っていた」
スレインはそう言った。
エルフの少女は目を見開く。
スレインは尚も言葉を続ける。
「最初から知っていた」
「うそ・・・・」
「僕は、最初会った時から知っていた。だって妹は金髪なのに、君は緑だった。妹じゃないって一目でわかった」
「そんな・・・変化の指輪をしていたのに・・・うそ・・・」
「僕はだって最強だろ?僕の目には最初から君の姿が写っていた」
エルフの少女は首を振る。
「知っていたのなら、どうして一緒に・・・・」
スレインは柔らかい表情で。
「妹と一緒にいるのは当たり前だろ、僕は君の兄様なんだから」
エルフの少女はスレインの体に顔を埋める。スレインの胸の中で子供のように泣きじゃくる。
スレインは頭を撫でる、愛しい者を壊さないようゆっくりと撫でる。
「それに僕は君に救われた、だから君が隠したいと思ってたから、僕は言わなかった」
その言葉にエルフの少女は更に泣きじゃくる。
そんな2人を見て、シークとグレンはやれやれと言った表情で見る。
「いつもの兄妹だな」
「そうですね」
アリスはただその光景に呆然としていた。そして一言。
「えっ、一体何が」
その小さな声の質問に答える者は誰もいなかった。
1時間後やっと泣き止んだ少女は事情を話、自己紹介をした。
「私の名前はティラです。みなさんだましてごめんなさい」
グレンはそれに手を振る。
「もう謝るのはやめようぜ、そいうのは性にあわねえ」
「そうですよ、スレインさんの妹、それでいいじゃないですか」
そんななごやかな雰囲気が流れる中。
アリスは事情を理解し、行き場のない感情をどこにぶつければいいのか悩む
ぶつける相手が、いままで泣いていたテイラにぶつけることもできず、なんとか胸の中におさめることにした。
「大体事情はわかった、まさか私の姿を借りてるなんてね。そのお詫びとして、しばらく泊めてもらうわ。今から宿のあるところまで行くのめんどうだし」
そんなアリスの言葉を受けて。
「ありがとう」
ティラは感謝の言葉を告げる。
ティラの話で分かったことは全て嘘だったこと。
偉そうな態度も、演技をしていたこと。
それを聞いた、シークとグレンはそれは嘘だろ・・・と納得はしなかったが。
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