第8話予感

スレインの住む砦は人で溢れかえるサイラスで有名な砦。

 そんな砦の名前を、サイラスでは知らないものはいないだろ。

 その砦の名前は黒の砦。

 黒い髪と黒い目をした主を頂く、サイラス最強の集団の砦だ。

 砦の名前を変えるに至って、グレンが提案したことがきっかけだった。

 グレンは前の名前では俺たちにふさわしくねえと言い、スレインが頭なんだからそれにふさわしい名前をつけるべきだと、そんな簡単な理由だった。


 そんな黒の砦の日常は平穏な毎日だった。

 スレインの噂を聞きつけ、やってくる傭兵や村人達

増える部下達、そしてグレンの活躍も砦の噂を一躍買う。

 グレンは、当初山賊、盗賊のねぐらを部下達を率いて殲滅した。

 それは獅子奮迅の活躍でもあった、もちろんアリス、シーク、スレインも参加はしたが、グレンの活躍が一番あったおかげだろう。


 そのおかげもあってか、盗賊や山賊はなりをひそめサイラスの民は畏敬の念を送ることになる。

 グレンはとても部下に慕われている。グレンの訓練は生易しいものではないが、訓練が終われば、頼れるお兄さん的な存在だった。言葉の節節には知恵も感じらせないが、その代わり上官や部下という壁も作らなかった。

女癖も悪く、酒もよく飲むそんなグレンは砦ではムードメーカーとも言えよう。



 黒の砦、最も活躍した人物はシークというエルフの男だった。

 グレンの目立つ活躍は、シークの下積みの努力の成果でもあったといえるだろう。

 彼は、砦運営にはかかせないほどの逸材だった、剣の才能はもちろんのことではあったが、それ以上にも知恵と経験があった。そのおかげで砦運営がうまく回ってると言えるだろう。彼はすべてにおいて経営者向きと言えるのだから。


 そんな彼をもってしても2人の兄妹の扱いにはよく頭を悩ませる。

 スレインは基本無口であるためか、シークはその考えを深く理解することができない、怒ったところも、笑ったところも、喜んだことも、悲しむこともしない彼の最善の道がどこなのかシークには理解ができないのだ。

 そして対極的なのがアリスという名のスレインの妹である。

 彼女はよく怒り、笑う、そしてシークの計画を遅らせる最大の問題児だった。 無視をすればいいと思うかもしれないが、それはできない。なぜならば、すべての方向は彼女の言葉ですべて決まるといっても過言ではないのだから。砦の頭、スレイン、彼が妹の意見を全て良しとするせいであった。


 そんな兄妹は基本いつも一緒でいる。概ねアリスが一人で話すが、スレインはそんな彼女を邪険にもしなければ、笑顔をみせることもない。

 しかし、シークは仲間になって一緒に生活して分かった。

 2人の兄妹はシスコン、ブラコンという域を超えた、心の拠り所のような存在同士であることが理解できた。

 シークは思う、あの戦いで負けた時、この兄弟の道がどんな道になるのかを一緒に見るのも悪くないと、だからシークは献身的に尽くす、自分が楽しむために。


 砦の生活に慣れて、8武神タレルの細かい情報を調べている最中の平穏な1日だった。

 グレンとシークはよく酒を飲む、同じ兄妹に振り回される仲間意識からか、よく酒を酌み交わす。そんないつもの2人の中に今日はアリスも酒の席に入る。


「今日も一日おつかれさんと」


 グレンは酒の入ったコップを頭上にあげて、乾杯の音頭をとる。


「お疲れ様です」


 シークもグレンにあわせて、コップを頭上にあげる。

 アリスだけは上げずに俯き、ぶどうのジュースを両手に持っていた。


「嬢ちゃんどうしたんだ?今日は元気がねえな、いつもの元気はどうした」


 グレンの心配そうな声を聞いて、アリスは慌てて頭をあげて乾杯をする。


「なんでもないわ!かんぱ~い」


 アリスの無邪気な声がこだまする。

 シークは首を傾げる、いつものアリスの雰囲気と違って。


「スレインさんと何かあったのですか?」


「何もないわよ!ただちょっとだけ、不安というか・・・」


 シークは優しそうな笑顔で。


「スレインさんはあなたをとても大事に思ってますよ」


 アリスはそれを聞いて、偉そうな態度を見せる。


「当然じゃない!シークは心配しすぎですわ」


 いつものアリスに戻ったとグレンとシークは笑う。


「それこそ嬢ちゃんだな」


「ええ、それこそアリスさんです」


 そんな2人の笑い声にアリスは赤面をする。


「ところでよお、シークお前すげえよな」


「なにがですか?」


「いや、なにがってよお前ボスの顔見ただけで、感情よめるんだからよ、どうやってんだ」


 ああ・・・とシークは顎を手にのせ。


「感情は読めませんよ、ただ是か否かがここの生活で多少わかるようになっただけです」


「それでもすげえな、俺にはさっぱりだぜ」


「わずかな顔の変化があるんです、本当にわずかな顔の変化が、それで判断してるんですよ」


「ど、どんな変化?」


 アリスはすごい勢いでシークに詰め寄る。


「えっ・・・アリスさんならわかってるかと思ってたんですが」


 アリスはもじもじと指を交差させ、恥ずかしそうな顔をする。


「わからないわよ・・・・兄様はいつも優しいもの」


 シークは微笑む。、


「アリスさんのときは、きっとそうなのでしょう。スレインさんはきっと喜んでいると思いますよ」


「やっぱりそうですわよね!」


 コロコロ変わるアリスの表情の変化にグレンは大声で笑う。


「嬢ちゃんでも、ボスの話だと可愛いもんだな、グハハハ」


「ええ・・・本当に」


 そんな2人の生暖かい笑顔でアリスは赤面し、酒宴の席を後にする。


「もう!兄様にいいつけてやる」


 と言葉を残して。


 そんななごやかな酒宴の時間は流れる。



 酒宴の席に、部下が駆け足でやって来てドアを開ける。


「失礼しやす、あの酒宴の席で申し訳ねえんですが、スレイン様に来客が来たんですが、その・・・・」


 部下は歯切れない言葉で、話す。


「誰が来たんだ?」


「それがその・・・・」


 あまりにも歯切れの悪い部下にグレンは顔をしかめつける。

 シークは首を傾げる。


 いつもははっきりとした口調で、話す部下がこんなに歯切れが悪いことに疑問が沸く。

 グレンは少し苛立つ。


「はっきりいいやがれ!」


 グレンの怒声が飛び交う。

 部下は冷や汗を流しながら、グレンの怒声に驚いて背筋を伸ばしながら。


「はい、あ・・・あの・・・アリスお嬢様がきや・・・した」


 2人は首を傾げる。

 アリスは今まで一緒にお酒を飲んでいた、今はスレインの部屋にでもいるのだろう。

 しかしこの部下はそのアリスを来客と言った。


「どいうことですか?」


 シークがそう聞くのは当然だろう。

 砦の主の妹を来客などとは呼びは普通しないのだから。

 シークのきつい口調を、部下は困惑した表情で聞いている。

 今にも倒れそうな部下は、精一杯の力で言葉を発する。


「そ・・・それが、外からやってきて、見た目もアリス様で、その・・・スレイン様に会わせろと、自分はアリスと名乗り。私たち門番もなにがなんだかわからな・・ないんです」


 シークとグレンはどういうことだと、視線を交わす。


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