第5話新しい拠点

現在ここはブエの森の入口のシークの住処にいる。

 シークの家は整理整頓がしっかりされている感じの小さな家だった。

 そこで3人はシークの家で歓迎されていた。


「森の薬草のお茶です。少し苦いですが、健康にいいですよ」


 容器に薄い緑色した飲み物を差し出す。

 シークは戦ったあとのように、冷酷な一面などなかったのように、笑みが似合う好青年のようになっていた。

 その光景はまるでお茶を楽しむなごやかな光景ともいえた。

 その光景をアリスはいとも簡単にぶち壊す。


「これでシークは私たちの仲間ね!言うことは守ること!わかった?」


 そんな言葉にグレンは呆れたような顔で。


「いまは新しい仲間を喜ぼうじゃねえか」


 アリスは怒気を顕に。


「まずは確認しないとだめじゃない!あとでそんな約束なかったなんていうかも知れないわ」


 やれやれという感じでグレンはアリスを見る。


「もちろんです、約束は守ります。それにしてもスレインさんの力はすごいですね。私は80年生きてますけど、スレインさんのような強い方は8武神以来です」

 シークは笑顔で褒め称える。


「あなたも8武神の一人なんでしょう?役にたってもらうわよ」


「もちろんです、と言いたいところですけど私は8武神の最下位でして、元は狩人なのでサポートがメインなんですよ。元々は弓を使っていたのですがね、剣を使ってみたら思いのほか私にあっていて、それでいまは剣を使っています」


「ということは同じ8武神には勝てないってこと?」


「ええ・・・・実力的には、ほかの8武神に及ばないでしょうね。特に上位の8武神はスレインさんといえども、そうそう勝てない相手かと」


 その言葉にアリスは激怒する。


「兄様が勝てない相手なんかいないわ、いくら仲間といえども許さないわよ!」


「も、もちろん、スレインさんはお強いので戦ってみないとわからないので、その失言でした」


 シークは頭を下げる。

 アリスは分かればよろしいという態度で頷く。

 シークはグレンにこっそり話しかける。


「あの、アリスさんがボスじゃないんですよね?スレインさんがボスでよろしいんですよね?」


 グレンは苦笑して。


「それな・・・・、俺も最初は不思議だったんだが、ボスはスレインで間違いがない。だが、決断はアリスの嬢ちゃんなんだよ。見てればわかるがな。決して嬢ちゃんに逆らっちゃいけねえぜ」


 シークは首を傾げる。


「さてこれから先、どうするか決めないといけませんわ。なにかいい提案あります?」


 アリスは皆に問いかける。

 グレンはうーんうーんと悩んではいるが、いい結論がでないことはアリスにはここ数日の旅でわかった。グレンは基本的に筋肉馬鹿なのだ、冒険とかには多少頼りにはなるが、そのほかにはからっきしなのだ。

 そこでシークは口を開ける。


「まずは拠点をつくりませんか?これ以上も仲間増やす予定のようですし、私の家ではとてもじゃないけど狭すぎますので」


 アリスは頷く。


「確かにそうね!兄様それでいいかしら?」


 スレインは表情を変えずに。


「アリスがそれでいいならいいよ」


 と答える。


「ではそうしましょう」


 アリスは嬉しそうに話す。

 シークはこの一連の動作でわかった。

 この兄妹は、ブラコンとシスコンなのだ。

 そして、本来決定権のあるスレインはすべてアリスの意思次第で決めている。 アリスはアリスで兄から了承をもらったと喜んでいる。

 つまりは・・・・アリスが法律ということなのだろう。

 グレンの話した意味が理解できた。

 グレンの方を向くと、言ったとおりだろ、と口パクしている。

 とんでもないところに入ったと後悔するシークだった。


「まずは場所ね、どこがいいかしら?」


 アリスはみんなに話すように話してはいるが、実際は違う。

 シークは知識の深い男だと一連の流れで理解していた。

 兄様は、基本無口、グレンは馬鹿、自分は経験と知識がさほどない、となるとシークの答え待ちになる。

 みんなの視線がシークに向かう。

 シークは慌てたように、考える、皆の期待がシークに集まる、シークは焦る、そして深く考える、細い目を大きく見開く。

 シークは慌てたように地図を持ってきて、開く。


「こ、ここならどうでしょうか?」


 シークの指した場所をみんなは凝視する。


「ここがなにか?小さな砦みたいだけど」


 シークは頷く。


「ここは国境沿いにある捨てられた砦なのですが、しかしながら、山賊が住み着き、近隣を荒らしまわってるそうです。」


 アリスは理解した。


「つまりは山賊を倒して奪おうってわけですね」


「そういうことです。人も入ってるので、生活物資もある程度は整っているかと思います」


「なるほどね!それでいきましょ。いいかしら兄様?」


「アリスがそれでいいのならいいよ」


 すぐにスレインは答え、アリスはそれを聞き喜ぶ。

 そしてシークとグレンは冷めた目でそれを見る。


 出発の前夜、シークとグレンは酒を酌み交わしていた。

 2人の兄妹はすでに、シークの寝床を奪い就寝していた。

 大きなため息をつく2人は、変な境遇の仲間意識で酒を酌み交わすほど仲良くなる。


「あの兄妹と約束したとは言え、不安だぜ」


「そうですね・・・」


「あんな強いとはな・・・」


「ええ・・・・」


「うまくいくと思うか?」


「どうでしょうね、確かにスレインさんは強いですが8武神の上位も私では足元にならないほど強いですから、最強は難しい道のりでしょうね」


「はぁ・・・」


「私はそれより違うことが恐ろしいです」


「ん?どんなことだ」


 シークはひとつ呼吸をして。


「スレインさんは冷静な方です。」


 グレンは頷く。


「過去の事を聞きました。いまのスレインさんがいるのはアリスさんがいるおかげだと言っても過言じゃないでしょう」


「確かにそうだな」


「もし・・・・アリスさんの身になにかあったとき、それが怖いのです」


 グレンは考える、そして最悪な結論に至る。


「考えてもみなかったぜ」


「そいうことです。私たちはスレインさんを守るというよりも、アリスさんを守ることに注視したほうがいいでしょうね」


 グレンは頷く。


「しかし厄介な兄妹だぜ」


「ええ・・・本当に」


 2人は己の境遇に呪い盃を交わした。

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