第3話森のエルフ
ここサイラス国首都エルマンの酒場で一風変わった風景が伺える。
周囲の客はある一定の方向の3人に興味があるように視線を映す。
そこに賑わった酒場の風景はない。
視線の先の3人は、なんでもないかのように気にしてないそぶりだった。
「これでグレンは私たちの下僕ですわね!」
嬉しそうに金髪の美少女がそう囁く。
下僕と言われた大男は苦笑いをして怒った素振りも見せず頷く。
「ああ・・・俺の負けだ、約束は約束だ、しかしよう下僕はないんじゃないか」
グレンは訴えるようにアリスに告げる。
「さすがに聞こえがわりいや、仲間ってことでだめかい?」
グレンの訴えにアリスは憮然とした態度を崩さない。
顎に手を乗せ考える素振りをみせ。
もうひとりの男に語りかける。
「お兄様、こんなこと言ってますけど、どうしましょうか?」
お兄様と言われた男、スレインは考える素振りもみせず。
「アリスがそれでいいのならそれでいいよ」
ただそれだけを告げる。
アリスはまだ考える、そしてパンと手を叩いて。
「わかったわ、仲間でいいわよ、ただし裏切ったら承知しませんよ」
横柄な態度でグレンに言う。
グレンはやれやれと諦めた顔して。
「それでたのむわ、裏切ったりはしねえよ。ただいくつか聞かせてほしいんだわ」
アリスはグレンの言葉に興味もなさげにいいわよとだけ告げる。
「俺の拳を無傷で防いだありゃなんだ・・・・、その男・・・いやボスがつかった魔法にしては詠唱も魔力も感じられなかったんだがよ」
その質問にそんなことかとスレインではなく、アリスが答える。
「お兄様は最強ですからね、そんなこと簡単にできますわ」
答えになってない答えにグレンは呆れる。
「いや、もう少し詳しく教えて欲しいんだが・・・」
めんどくさいという態度を露にも隠さずアリスは答える。
「しょうがないですわね、あれは兄様が使いたいと思ったことを具現化したものですわ。簡単に言うと兄様そのものが魔法陣のようなものだとおもいますわ。」
その言葉に驚く。
「なんだそりゃ・・・人そのものが魔法陣ってことかよ」
「そんなものですわ、まあ兄様に聞いた感じで話しますけど魔法陣というよりも、兄様が使いたいと願った術式を兄様は体で構築し、その使いたい術式に作り変えるわけですわね。それで魔法とは違うものすら作り出すことができるもの・・・正確なことはわかりませんけど、そんなところでしょうね」
「なんだと・・・そんなことが可能かよ、ありえねえ」
グレンのうろたえる態度をみてさも自分かのように、アリスはふふんと偉そうにする。
「しかしよ・・・・例えそれが真実だとしてもよ、俺の攻撃が通用しねえって理屈にはならねえよな」
その質問にスレインは口を開く。
「壊すことは可能だよ、僕の使ったのはいわば防御魔法のようなものだ。壊すことは可能、ただしグレンの攻撃力が壊すに至らなかっただけのこと」
「そかあ・・・・いくら多少手加減しての攻撃とはいえ、壊すこともできなかったってことかい、あの光の玉も同じ原理かい?」
スレインは頷く。
グレンはうなだれる、あまりの世界の次元に違うことに。
「質問はそんなところでしょうか?では次の話に移りましょう、グレンを下したこの国には他には強い方はいないのでしょうか?」
グレンは顔をあげる。
「もうひとりいる、8人の世界最強と言われる8武神の中の一人だ」
アリスは驚いた顔でグレンを見る。
「そんなものがいましたの?初めて聞きましたわ、兄様はご存知?」
スレインは首を横に振る。
「初めて聞いた」
グレンは破顔する。
「おいおい、初めて聞いたのかよ仮にも冒険者ギルドにいたんだろ?噂にも結構なってるんだぜ」
「興味なかった」
グレンは大きなため息をつく。
うちのボスは最強を目指すという割には物を知らなすぎることに。
こりゃ大物かなんなのかわからなねえなと諦めにも似たため息を。
「ではまずはそこですわね、明日には出発しましょう。その者の名前はなんていうのかしら?」
「そいつは8武神の最下位のエルフなんだが、名前はシークって名前だったと思う。森の入口に居を構えてるって噂だな」
「そう」
とアリスは興味なさげに返事する。
おいおい、相手の能力もきかねえのかよと、なんて奴らだよとグレンは2人を見る、2人はさも当然かのように余裕の表情を崩さない。
エルマンから1日の道程を経た、大森林があるブエの森に3人はたどり着く
アリスはかなりグレンに対して、不機嫌だった。
というのも、グレンのクランの解散のために予定より3日ほど出発が遅れたからだ。別れの宴会をする、クランの解散の手続きをする、グレンは3日の時間がかかったのだ。
グレンは不機嫌なお嬢様に話しかけられずにいた。
「ボスよ、いつも妹はあんな感じなのよ」
スレインはアリスを見る。
スレインに対して決してみせない態度をしている。
「初めて」
「まじかよ・・・最近ボスよりお嬢様のほうが俺は怖いぜ」
グレンの怯えた態度に、スレインは羨ましくも思う、自分には決してみせないアリスの表情だから。
そうして8武神の一人シークの家にたどりついた。
シークの家は大きな森の入口前にあった。
まるで森の門番をしているかのように建っていた。
家の前に行きノックをする。
しばらくして、中から中肉中背のグレンよりも小さく、スレインよりも大きい男が現れた。
髪は緑色をしていた、見た目からわかる優しい男を思い描ける風貌だった。
「どなたですか?」
男はそう問いかける。それと同時にアリスが言葉を発する。
「勝負しなさい!負けたらあんたは私たちの仲間になるのよ!」
男は突然の言葉に目を見開く、男の目は細めで目を見開いても普通の人の目の大きさ程度だった。
「突然そんなこと言われても、どういった事情ですか?」
アリスは説明する。
最強を目指してること、人手が足りないから仲間を集めてること。
男は得心が言ったように、頷く。
その男の顔には、冷酷な顔が伺えた。
「わかりました、しかし私は・・・・」
「知ってるわよ!あなたは8武神の一人なんでしょ?」
「それを承知で挑むのですね」
「当たり前じゃない」
「なら、もう言葉はいりませんね。森のはずれの平原でやりましょうか」
4人はなにもない平原まで移動する。
シークには優しそうな顔とは裏腹に殺気がほとばしる。
グレンは嬉しそうに、噂通りだなと自分も闘気をみなぎらせる。
シークという人物は見た目とは裏腹に勝負に関しては冷徹な男だった。
その強さから、真剣勝負には情を一切いれないことから、挑戦するものは少ない。
「ボス、まずは俺にやらせてくれよ」
グレンは嬉しそうにスレインに話す。
スレインはアリスを見る。
アリスはそれを見て頷く。
「わかった」
グレンは満面の笑みで。
「よっしゃ!」
と叫ぶ。
「シーク!俺がまずは最初だ、構わないだろ?」
「よろしいのですか?一番最初に一番強い人がでてきて」
シークの言葉にグレンは苦笑する。
「うちのボスは俺よりつええぞ」
「そうですか、わかりました」
シークの目にはそうはみえない。
純然たる戦力を感じる森の民であるシークには、明らかにグレンの魔力、肉体がスレインを凌駕していると感じるからだ。
おそらくは、グレンの雇い主なのだろうとシークは思う。
だからボスと呼んでいるのだろう。
そしてグレンが負ければ、そのボスはでてこず、そそくさと逃げ帰るのだろうと推測できた。
グレンとシークの2人は対峙する。
グレンは右手に魔力を込める。
シークはロングソードを抜き去り構える。
アリスの掛け声がこだまする。
「はじめ!」
グレンは一目散にシークに向かう、強烈な一撃は当たれば簡単に大の大人ですら消し飛ばす。
そのグレンの動きをみて、シークもグレンに向かう。
グレンの一撃がシークに向かって飛ぶ、シークは避ける、いとも簡単に避けたと思われたシークの顔は苦痛に歪む。
「なんて炎なんですか、避けてもやけどしそうです」
「へっ」
グレンは笑う。
「避けてるだけじゃ、俺の炎は防げねえぜ」
「なるほど」
シークは下がる、グレンの拳が届かない位置まで、そして猛烈な速さでグレンに向かう、剣を振る尋常じゃない速さで。
「ッチ」
グレンは突然のシークの行動に慌てる。
尋常じゃない速さの剣がグレンの腕を掠める。
「あぶねえあぶねえ」
「ほう、避けましたか。さすが噂に名高いグレンですね」
「お前に言われても嬉しくねえよ」
2人は笑う。
最高の戦いができることを。
シークはヒット&ウェイを繰り返す。
グレンの拳が振れば後方に下がり、猛烈な速さで追撃をする。
グレンはそれをみて避ける、そして左手にも魔力を込める向かってきたシークに当てる。
シークは一瞬慌てるが、なんなく避ける。
それを幾度ともなく繰り返す。
次第にシークの剣はグレンに無数の傷をつくる。
シークはグレンの炎により、少しずつやけどをつくる。
勝負を決したのは一瞬だった。
シークの目にも止まらぬ速さの剣閃が2つに分裂する
速さだけの剣、それがシークの最高の技。
グレンは1つ目の剣を避けた体でシークに左手の一撃を放った時、グレンの左手にシークの2つ目の剣が刺さる。
「ぐぅうう」
グレンは苦痛で顔が歪む。
シークは下がる。
「まだやりますか?左手を負傷しては勝負が見えたとおもいますが」
グレンは左手を見る、傷から血がだくだくと流れている。
「まだそんな技隠してやがったのか」
シークは当然のように笑う。
「どうしますか?」
グレンは大きなため息をひとつつき。
「降参だ、うちのボスにまかせるわ」
そんな言葉にシークは拍子抜けした。
グレンはそう簡単に降参するような男に見えないからだ。
「ほう、潔いですね。しかしそのボスは相手になりますか?」
グレンは苦笑する。
「俺は前座だ、うちのボスをみて驚くなよ」
「あなたほどの男がそこまで・・・・」
「治癒魔法を使えるのか?ボスに治してもらおうか?」
「お構いなく、私もエルフの端くれ、中位の回復魔法程度はつかえますよ」
フッとグレンは笑う。
「ボス交代だ」
そんな声を聞き、アリスは呆れる、兄様に手をわずらせるなんてという感情で
スレインはシークのいる場所まで進む。
その歩幅はゆっくりと、しかししっかりと前に進む。
その表情には感情がみえない。
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