第2話妹の出会いと生きる目的

目の前に現れた少女に突然お兄様と言われ、スレインは困惑した。

 思考がおいつかなかった。

 自分はいつも孤独だった。

 いつも一人だった。


 そんな自分にお兄様と言う目の前の少女にただただ困惑した。

 妹の事を思い浮かべる。

 親にはほとんど妹の姿もみせてもらえなかったが、赤ん坊の頃の姿はいまでもうっすら思い浮かべることができる。

 妹と目の前の少女がスレインにはどうにも一致しなかったのも困惑のひとつだった。

 だからスレインは


「誰・・・」


 とぶっきらぼうに言った。

 目の前の少女は少し驚いた顔をした。

 すぐ笑顔になって、体のすみずみまで見せるように一回転して


「妹のアリスです、お忘れになりましたか?」


「・・・・・・」


 スレインは答えることができなかった。

 そんな姿のスレインを見ても、アリスは笑顔を崩さなかった。


「お兄様、本当に探しましたわ。お兄様の情報を聞いて向かってもそこにはお兄様はいないんですもの。」


「なぜ僕なんかを探したの・・・」


「当然じゃないですか、私は妹のアリスですよ。お兄様を探すのは当たり前です!」


 アリスは笑顔から怒ったような顔で


「父様や母様は兄様を追い出した最低な人です!もうあんな人は親とは思いません!」


 怒りを顕にしたアリスをスレインはただ呆然と見つめる。

 自分を探しただって・・・なんでなんのために理解ができない。

 僕を探して何の意味があるんだろう。

 わからない・・・わからない・・・・

 ただ呆然と立ち尽くすスレインをアリスはまるで気にしないように。


「お兄様、もう逃がしませんよ。」


 本当に嬉しそうな顔で言った。


「お兄様が冒険者になられたと知って、私も頑張ったんですよ!剣も修練しましたし。魔法も頑張ったんです!特に魔法は少し自慢なんです!」


 アリスはそう言って、スレインの腕にしがみつくように両腕で抱いた。


 あれから2人は村の宿屋にたどり着いた。

 村の名前はピコタ村という名前だった。

 ここにたどり着くまでにスレインは無口だった。

 2人は同じ部屋に泊まり、向かい合わせで話していた。

 といってもアリス一人で話してるだけだったが。


 アリスは聞いた。


「お兄様また冒険者やるんですの?したいことはないのですか?」


 アリスの質問に答えられなかった。

 今まで、したいことなんて考えたこともなかったから。


「わからない」


 と答えるしかなかった。


「そうですか、お兄様はお強いんですからお兄様を迫害した人よりもずっとお強いんですから、力をみせつけてやりましょ!」


 なんでアリスと名乗る少女はこんなにも無邪気にそう言えるんだろ。

 確かに、僕は恨んだ、憎んだ、そして自分の力を嫌った。

 それをどうにかしたいとすら自分にはどうでもよかった。

 僕は


「わからない」


というだけだった


 出会って1月が流れた。

 アリスは相変わらず献身的に僕に話しかけてくれ、優しくしてくれた。

 僕もアリスの優しさに惹かれ、よく話すようになった。

 信頼できる人がやっとできたきがした。

 僕はアリスの為なら、なんでもしようと思えるようになった。

 アリスを傷つける人がいるなら僕は許せないとそう思えるようになった。

 1ヶ月、冒険者の仕事はしてない。

 この平和な時間を僕は楽しんだ、安心できた。

 そんな時、アリスはまた同じ質問をしてきた。


「お兄様は、なにかしたいことないですの?」


 僕は考える。

 あの時とは違う、真剣に考える。

 でもわからなかった。

 アリスさえ側に居てくれればそれで僕は幸せなのだから。


「わからない」


 僕の答えはまた同じ答えがでた。

 んーとアリスは考えるように顎に手をのせ悩む仕草をとる。

 そして手をぽんと叩き。


「お兄様、私思いつきました。お兄様がもう2度と迫害されないように、お兄様が世界最強になればいいんですわ!」


世界最強・・・・あまりにも突拍子なことを言う妹に、苦笑する。


「だけど、あれですわね、一人一人強い人倒してたらめんどくさいですわね」


 また考える仕草をする妹が今はただ愛おしい。

 スレインがアリスを見てると、手を叩き。


「お兄様、すごく強い人を倒して仲間にして、そいつにやらせればいいんですわ。名案ですわ!」


 僕はその提案に

「うん」


 と答えた。

 妹の考えなら僕はそれを叶えたい。

 僕のためじゃなくても、妹のためなら叶えたい。

 だから僕は深く考えずにそう答えた。

 アリスはその言葉を聞き笑顔でスレインに抱きつき。

 自分の提案を賛成してくれたことに喜んだ。

 埋めた顔をだし


「ここらへんだと、魔闘拳のグレンっていう人が有名ですわね」


「じゃ、そいつからやろう」


「はい!」


 ピコタ村がある国はロンデブルク国の西の国サイラス国にある。

 サイラス国にある首都エルマンにその目的のグレンがいる。

 グレンはサイラスで一目を置かれるほどの有名人だ。

 冒険者ギルドの一人でありSランク冒険者でもあり、炎の拳というクランのリーダーでもある。

 魔力を練った火の拳で圧倒的な火力を生み出すサイラスでは最強の一人と目されるほどの男だった。

 2人はエルマンへ向かうグレンを下し従わせるために。


 エルマンは活気賑わう、首都と思える大きさの街だった。

 人々の商いの声は道を歩くたびに溢れ。

 都会と感じさせるほど商品が豊かだった。

 その中央に位置するギルドに2人は入る。

 ギルドは大勢の様々な職業の人々が熱気を含んで賑わっている。

 アリスはその中でも億さずに進む。

 中央につくと


「この中にグレンという方はどこかしら?」


 と大声で叫んだ。

 周りの人々はそんな声を聞き、アリスに注目した。

 アリスの姿をみて、馬鹿が現れたとばかりに笑いが溢れた。


「答えなさい!グレンはどこにいるの?」


 笑い声がこだまするなか、赤髪で身長は2mはありそうな屈強な男が手をあげる。

 その男は小馬鹿にするような笑みを隠さずに手を挙げていた。


「そう」


 アリスはその男に近寄る。


「あなた勝負しなさい、負けたら下僕になりなさい!」


 突然のアリスの言葉に周りはさらに笑う。

 本物の馬鹿がきたという笑いで。

 グレンも突然のことに目を丸くして、さらに嫌な笑みをする。


「嬢ちゃん、まだはやいんじゃないのかい?おしめもとれてないような年で俺と勝負するのか?やめといたほうがいいぜ」


 アリスは周りも気にせず。


「私が戦うんじゃないわ、お兄様が戦います。いい負けたら下僕になるのよ」


 周りはさらに笑う。

 グレンはアリスの言葉に真面目な顔をする。


「いいかい嬢ちゃん、ここから先は冗談じゃすまねえぞ。今なら冗談ですますから、帰んな」


 グレンの睨みにもひるまず。


「冗談でこんなこと言いますか、勝負しなさい」


 グレンは怒気を含んで。


「わかった、後悔するなよ」


「相手は入口にいるお兄様ですわ」


 酒場の人の視線がスレインに集まる。


「なるほど黒髪かい、納得した」


 首都からでて、平原の場所を選びスレインとグレンは対峙した。

 その周りにはギルドにいた連中も結構な数がきていた。

 観衆はグレンの勝利を疑ってないように、スレインを嘲笑いながら注目する。


「黒髪とはね、こりゃまた珍しいのがきたもんだ。だがよ、いくら黒髪でもな有名になるのはほんの一部だ、ほとんどは多少才能がある程度だ。調子にのると死ぬぞ」


 グレンはスレインをねめつける。

 スレインはどことも吹く風のように気にしていなかった。


「ッチ、グレン様もなめられたもんだぜ」


 グレンは怒りをあらわにする。


「痛い思いさせて後悔させてやる」


 アリスは片手をあげて。


「手を振ったら、開始ですわ、いいですわね!」


 スレインは頷く。

 グレンはスレインを睨みながら頷く。

 そしてアリスの手が振り下ろされる。


「開始!」


 それと同時にグレンは右手に魔力を込める。

 足はスレインへ向かって走る。

 スレインは微動だにしなかった。

 グレンの右手は目でもクッキリ見えるように、炎の魔力が顕現してるとはっきりわかるほど炎が渦巻いてた。


「動かねえだと、バカが」


 グレンの拳がスレインに振られる。

 スレインはそれにも動かない。

 拳がスレインの体を殴打する。

 それと同時に爆風が強烈な熱気を持って辺り一帯に吹く。


「へへ、こりゃ死んじまったな」


 勝利を確信したグレンの目の前には

 スレインが先ほどと変わらない位置に微動だにせずいた。


「なっ!ばかな」


 確実に当てた魔力を込めた拳。

 普通なら上半身粉みじんになるほどの強烈な拳の一撃を受けて、スレインの体は傷ひとつつかずにそこにいた

 グレンは下がる、現実にありえないことに驚いて。


「こんなもんですか、噂ほどじゃないですね」


 何事もなかったようにスレインは呟く。


「アリス、この程度で役に立つのかい?」


 アリスは答える。


「今はそれで我慢してくださいお兄様」


 グレンは恐怖する。

 今起きた現実に、この2人のやり取りに


「なんだこりゃ・・・夢でもみてるのか」


 困惑するグレンに


「次は僕の番ですね」


 グレンの体がビクッとはねる。


 スレインは右手をあげ手のひらを上にする。


 詠唱も術名もない技を手の平に展開する。

 その手に無数の光の玉ができる。

 そして行けと命じる。

 無数の光の玉は猛スピードでグレンに向かい、グレンの体を貫く


「ぐはぁああああ」


 体、足、腕に光の玉が意思を持つかのように命中し貫く

 光の玉は勢いを衰えることなく、グレンの体を貫いてなお、グレンの体を目指し反転し、何度も何度も体、足、腕を貫く


「ぁあああああああ」


 それを何度か繰り返したとき、グレンは地に伏す。

 足は立つこともできず無数の穴ができ、腕はあげることもできない穴ができていた。


「ま・・・・いった」


 グレンは薄れゆく意識の中でそうつぶやき意識を閉ざす。

 その言葉を聞き、スレインは光の玉を何も無かったかのように消す。

 グレンに近寄り、その体に触れた。

 ただそれだけの動作だけでグレンの傷はみるみるふさがる。

 観衆は沈黙する。

 今起きたことが現実なのかと。

 そしてスレインとアリスの目的の一歩が終わる。

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