第5話 E
目が覚める。アラーム設定をしている時刻から30分程早い目覚めだった。
木製ベッドのすぐ横にある古びた窓のせいでひゅうひゅうと隙間風が漏れてとても寒い。夏は良いが冬は特にツライ。まぁ、夏もツライと言えばツライ。ただの虫ならまだしも蚊が結構入り込む。部屋の中で蚊取り線香を焚くわけにもいかないので結局何もしないで寝て、朝起きるとあちらこちらに刺された箇所がありとてもかゆいのだ。
Dが死んで今日で五年。
私はDが死んでからというものの精神、心を病んでしまい、療養という名で田舎にあった別荘というほどのものでもないが、父方が持っていた別宅に住んでいる。
父親と母親は通勤時間がここからだととてつもなくかかってしまうので仕方なく元の家に住んでいる。私はというと母親曰く「親戚のおばさん」というEさんに世話をしてもらっている。
母親がおばさんなどと言うのでふくよかな年配の方が来られるのかと思いきや、
Eさんは結構若い女性の方でいつも清潔そうなワンピースや森ガール的なふわふわとした服を着ている至極優しいお姉さんだった。
私の事を過保護に心配し、何か頼めばすぐに答えてくれる。
奴隷という響きは好きではないが言われてしまえばそんな感じである。他人から見たとするならば。無論、私はそんな事は思ってない。
話を戻す。
私はDが死んでから、Dが死んだ時の記憶が無くなってしまった。
医者はすぐ戻ると言ったが、このままもう戻らないのではという不安が頭をよぎってどうしようもない不安がずっと襲い掛かる。
そうしている内に気付いたら、私は自らの体の動脈が通る箇所のあちらこちらを切りつけ、部屋の中で血を吹き出しながら倒れていたらしく、精神病院へと搬送された。その時はどうやら大量出血でとても危険な状態になっていたらしい。
あの時の私はとても幼かったというのに、見事に動脈が流れる箇所を刃物で切り付けるという所業を成し遂げたのだ。有り得ない話だが本当の話なのだ。全く恐ろしい。
「あら。もう起きたの!?」
声がした方向、窓同様木製でできた年代ものの開けられたドアの向こう、
白いワンピースを着たEさんが立っていた。
Eさんの朝は早いらしい。
髪はきちんとまとめあげられているし、白いワンピースが家事のあれこれで汚れてしまいそうなのだが、紺の質素なエプロンを身に纏っている。
まだ脳は起きていないらしい。ぼんやりと霞がかかったようなもどかしさを感じつつ、ボケーっといつもの様にEさんをただ見つめる。
お世話になってるEさん、とても感謝しているのだが、寝起きの時だけではなく日常でも話す事がまだできていなかった。必要最低限の話の受け答えしかしていない。
私はもう何も人と話す気力が無くなってしまったようだった。
Dが死んでから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます