第4話 その日

少女は毎日いじめられていた。

少女は毎日泣いていた。

少年は少女を毎日助けていた。

少女は毎日、日々を忘れていった。

どうしようもない程に

自己を守るために

自己が壊れぬように。


条件が一致した『その日』

少女は涙を捨てた。


                  ❀


少女は言う。

「あの日の事は覚えていない」


無論、こんな話嘘に決まっているのだ。

少女は泣いていない。

涙を流さない限り、物事は少女の中に記憶として残り続ける。

「幸福な頭」は「涙」が無ければ成り立たぬ。


何度問おうと少女は頑として口を開かず、人の目を見ない。

無論、その瞳に「光」は映っていないわけだが。


少女は意地でも口を開かないらしい。

やれやれ、話が進まない…。

今も少女は古い木製の椅子に深く腰掛けたまま窓の外を眺めており、

こちらの話には耳を傾けてくれない。


?:『自分でまいた種だとも?』

A:「…」

?:『聞いてる?』

A「…」


?:『あの日、少女はいつも通りいじめられ

いつも通り泣いていた。

そしてDがいつも通り助けに来てくれて、

いつも通り一緒に帰っていた』


Aはそれでもこちらを見てくれはしない。

人形のようにビクリとも動かない。

Dと過ごした時間を噛み締めるように。

あの日の記憶を忘れぬように。

脳内でただただずっと君と過ごした時間を忘れぬように。


?:『しかし、ここから先はいつもと違った』


Aは自らの手を掲げじっと見つめる。

最後に確か手を繋いだのは右手だったのか。


?:『いじめっ子が追いかけてきた』


右手から目を逸らさずに

右手を庇うように左手で覆い。


?:『乱闘の末に何が起こったのかなんて分かりきった事。

三人居た相手の内一人が、Aを思い切り突き飛ばしたのだ。

無論、ただ単純にAが喧嘩の邪魔だったのだ。

確かに託けはAだった、だがしかしここではあくまでもDと喧嘩していた』


?:『喧嘩していた場所は【踏み切り沿い】』


?:『結末は…』


?:『列車に轢かれそうになったAを突き飛ばして身を挺して庇い、

代わりにDが轢かれて死んだ』


?:『良かったね。最後まで一緒に居られて』


A:「ここが私の夢の中だって事は分かってます」

A:「どうやらもうすぐ目が覚めるらしいです」

A:「教えて下さい。アナタは私の何ですか?」


やれやれ、本当に人の話を聞かない子らしい。


?:『君の…』


ほら。やっぱり時間切れ。


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