第3話 それはあんたのレベルが低いからだよ

 ここは人知れずこっそり開かれている宿屋の酒場。辺りが寝静まった頃、ドアがカランカランと音を立てる。

勇者:「おい親父、いつものやつ頼む」

 聞き覚えのあるぶっきらぼうな切り出しに、ママは眉をぴくつかせる。

ママ:「……だから『親父』じゃなくて……あら?」

 しかし、入って来た勇者を見るなり、苦言を呈するのも忘れて目を大きく見開いた。

ママ:「まぁ、なにその格好。受け狙い? 全然面白くないわよ?」

勇者:「……だったら触れるなよ……これが今いるとこの最強装備なんだからさ……」

 腐った釘が適当に打ちつけられた棍棒、迷彩布を縫い合わせた服、ただの鍋蓋、木で出来たと思われる奇抜なデザインの帽子――一体どこをどう間違えばこうなるのか。魔物ですら唖然すると思われる装備選びに、勇者のセンスを疑う。

勇者:「――っつーか装備品って町ごとに見栄えも強さも違うけどさ……だったら良いのを売ってるとこから取り寄せればいいじゃん! 魔物の強さに合わせて弱くしてんじゃないよって話!!」

ママ:「……あら、貴方にしては珍しく一理ある発言ね」

 ブドウ酒を並々注いだグラスを置いて、ママは揶揄するような口調で返した。

勇者:「……『珍しく』ってなんだよ……。こんな格好、俺だって嫌なんだよ……イベントの『イ』の字にかすりもしないような町人A・Bとかから後ろ指差されてさ……」

 ブドウ酒を一気飲みするや否や、勇者はひっくひっくと喉を鳴らした。

ママ:「あらあら、今度は泣き上戸? もう……しょうがないわねぇ……」

 弱みを見せる勇者に、ママはふぅと溜息を漏らす。

ママ:「それなら知り合いの武器商人ルートを伝って、強さと見栄えを兼ね備えた武具を譲ってもらえるよう頼んであげようか?」

勇者:「そ、そんなことが出来るのか!? だったら最初からそう言ってくれよ! ――ったく、これだから顔の汚いオカマは……」

 ばっと顔を上げて驚声を発する勇者。生来の横柄な態度が戻り、電話を手に取るママの笑顔が引き攣る。

ママ:「じゃあ……すぐにでも連絡してあげるわよ。その代わり、それ相応の対価は払ってもらうわよ?」

勇者:「えっ?!」

ママ:「セラフ・ソード64000ゴールド、銀翼の服48000ゴールド、天のバンダナ30000ゴールド、聖十字の盾28000ゴールド……合計170000ゴールド。払えるわよね? うちに20000ゴールドの借金がある勇者様ぁ??」

勇者:「……あっ……」

ママ:「なんなら世界中の武具屋さんにこれだけを売ってくれるよう頼んであげてもいいわよ? これでもアタシ、顔は広いから!」

 般若のような顔を向けられ、勇者から血の気が引いた。

勇者:「……すみません、現状維持でお願いします……」

 このとき、魔物の強さに合わせて装備品が売られているこの世界の素晴らしさを思い知ったという。

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(1分短編)愚痴 ~勇者様はいつもこんなことを思っている~ 中西ユウ @SeraphYu

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