第3話
三
月光の差し込む、都合よく鮮やかな夜の海だ。濃い、濃い青と珊瑚の原。僕は両脚を大らかにバタつかせて進む。付け根から動かすのがコツだ。直ぐに飽きる。海底に降り立って歩く事にした。人魚が寝ていたので突っついてみる。大きな貝のベッドだ。むにゃ、と彼女が顔を上げる。半分開いた眼は青い。長い髪は紅く、ぼさっというかむわっというか、とにかく水中でバカみたいに広がっている。僕を半目でじっと見る。僕もじっと見る。ん、と何か納得すると彼女は眠りに戻った。かわいい。どうしよう。
「あの」
声を上げてみる。一瞬でアホな空間になった。ぼこぼこと口から泡を吹き出しながら僕は喋った。口の中に水が入ってくる。塩辛い。これは罰だ。堪能しておこう。魚が目の前を横切った。うにゃ、と彼女が横になったままこちらを見る。
「なに」
「好きです」
塩辛い。彼女ははあ、と眠そうにため息をひとつ吐くとくるりと寝返ってそのまま身体を起こした。彼女は喋っても泡が出ない。
「寝てたんだけどね」
「はい」
コミュ障。
ふー、と彼女は僕の方を見て浮かび始める。
「転生者でしょ」
なぜ分かった。
「最近多いんだ。寝てる間に突然髪を撫で出すやつとか、酷いのだと襲いかかってきたやつもいたよ。あなたはまだ良心的だね。ファーストコンタクトが二の腕つんつん。まあ悪くはないと思うよ」
私寝てたけどね、と呟かれる。まいった。ここまで勝てる要素がひとつも見つからない。
「好きです」
馬鹿みたいに繰り返す。これはひどい。いや、まあそうなんでしょうよ、と彼女はくるくると宙を舞う。白い指が水を掻く。
「転生者だしね」
御察しの通りで。
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