5.3 完成していたの……

 プリズマティカは、まず家に戻った。今日は着てこなかった地理院の上着の制服のポケットというポケットをひっくり返す。帽子の裏側も改める。逆さにして振る。が、何も出てこない。もう一度袖口から、裾から布地を絞るようにして何か入っていないか調べる。肩のところで、何か小さい硬いものを掴んだ気がした。何かが縫い込まれている。はさみを使って内張を切り裂くと、銀色の鍵が太い糸でしっかりと縫い付けられていた。家や箱などの鍵ではない。取手にはBOELM という文字と四桁の数字が刻印されている。その文字にプリズマティカは見覚えがあった。心の中で快哉を叫ぶと同時に、ほんの少しだけトルウのことを見直す。その青い制服を着てゆこうかと思ったが、目立つのも良くないのでやめる。代わりに、銀の羽根飾りのついた青い帽子をはすに被る。

 水道局に行く途中で、プリズマティカはいつものパン屋に寄った。あら、しばらくぶりね、風邪でもひいていたの? という女将さんに、かろうじて笑顔を見せる。カウンタにはいつもの残り物の袋詰めドーナツはない。時刻はそろそろ夕食の準備の頃で、まだまだ売れる時間帯なのだ。

「ドーナツください」

そう言って、ポケットから小銭を出す。

「あら、いいのよ、少しくらいなら」

「いいんです。払います。もう、お金貯める必要ないんです」

「え?」

 訝しむパン屋の女将さんに、おまけしてくれたことの礼を言う。トラムの停車場で待ちながら、ドーナツをふたつ、遅い昼食代わりにする。

 

 水道局の裏の窓口には、いつもの下水掃除人達の姿はない。時間が早すぎるのだ。だが、上水道や浄水槽のなどの仕事は沢山あって、窓口は開いていた。プリズマティカは窓口に馴染みのはげ頭をみつけて、声をかける。

「なんだ。こんなに早くきたのか」

「久々だからね。ちょっとはりきっちゃって」

「ふん、はりきるような仕事か。まあ、いいや。エスリンもマリカも休みだからな。お前の今日の持ち場はこっちだ。ゲートも二時間早めに開けてやる」

 さらりと増えた仕事を押しつけようとしているのは不愉快だったが、早くゲートが開くというのはありがたい。プリズマティカは三日間預けていた電気銃とポシェットを取り戻し、腰に巻いた。

 歩いて空港のあるビルに辿り着いた。屋上で昇降機を降りたところで、係員の誰何を受けたが、一昨日にもらった臨時の通行証と地理院の紋章のついた帽子がモノを言った。

「地理院の旦那から遣いを頼まれたの」

と、言って制服に縫い込まれていた鍵を見せると、係員は納得して通してくれた。プリズマティカは電気銃を構え、電源を入れる。太陽はゆっくりと傾きかけていて、空港に停められた飛行機達を橙色に染めている。

 気がつくと、今日は大きな白い飛行船が一隻、空港の四隅に立つ係留塔のうちの一つに繋がれている。キャビンには大きな窓がついているが、客船にしては少し小さすぎるように見えた。

 そして、目指す白い船の尾翼には、鍵と同じ番号が書かれていた。

 〝マビノギオン〟のハッチに鍵はぴたりと合った。カチリと音たてて回る。だが、取手を引いても開かない。おかしいと思ってもう一度反対方向に回す。力を入れてハッチのノブを回すと、空気が抜けるような大きな音がしてハッチが下に開いた。

「あれ、鍵が開いていたってこと?」

 そう思いながら、電気銃をぶつけないように斜めにしてキャビンに入ったプリズマティカだが、反射的にその銃を正面に構えなおした。

「ごきげんよう。面白いあいさつね」

 キャビンの中央の籐椅子に、一人の女性が座っていた。緩やかなアップにしたブルネットの髪、細い顎、ぞくりとするような深い青い眼。三十才にはなっていないように見えるが、並ならぬ威厳がある。座っていても分かるほどに背が高く、スリットのついた青いスカートから覗く足は長く綺麗だった。

 プリズマティカは、その美貌と迫力に圧倒されてしばらく口もきけなかった。

 ようやく気づいたのは、その若い女性の髪に銀色の「羽根のついた目」の飾りが輝いていることだった。

「あの、ひょっとして……」

「私は、帝国地理院のアリシア・ファンダイク。お嬢さんはプリズマティカさんでいらっしゃる? できれば、その長モノを下ろしてくださると、お話がしやすいんだけど」

 プリズマティカは慌てて銃を肩から下ろして、床に置いた。

 そして改めてその女性を見る。

「まあ、立っていないで、そこにお座りなさいな」

「は、はい」

 艶然と微笑むアリシアは、八才のトルウを引き取って親同然に育て上げた荒くれ者のファンダイク提督というイメージからは遠すぎた。技術組合の青いマントがなければ、どこかの貴族の令嬢かと思うほどだ。

「トルウが電文でずいぶんいろいろあなたのことを書いていたけど、そう、あなたがプリズマティカね」

「トルウが? ……いや、それどころじゃないです。トルウが捕まってしまったんです!」

 プリズマティカはアリシアに事情をかいつまんで話した。

「まあ、そんなことでしょうね。地理院に問い合わせが入ったと聞いて、近くにいたのを幸いに飛んできたけど。どうやらとんでもないところに来ちゃったみたいね。で、どうするの?」

「どうするって、その……助けられないかと」

「なるほど。もとはあの子のドジとはいえ、私としても今回の件は早めに片付けるにこしたことはないと思う。助けに行きましょうか。場所は分かっているかしら」

「学生団の本部だと思います。内壁の塔の中に学生牢があるんです」

「学生牢ねえ」

 またアリシアはひそむように笑った。そして、傍らに置いた薄いカバンから一枚の地図を取り出す。それはアルジェンティナの市街図だ。「どこ?」

プリズマティカは、都市の中心部から少し外れた外周道路の一カ所を指さす。アリシアは地図に二秒ほど鋭い視線を投げたと思うと、おもむろに立ち上がり、操縦席に向かって言った。そこで、プリズマティカは操縦室に二人の男達が座っていることに気づいた。

「〝シルマリル〟に座標送れ。48-5928, 7-748266、復唱……よし。私ともうひとり懸下して頂戴。そ、今すぐ」

 まもなく外からモータ音が響き始めた。プリズマティカは、忘れないうちにキャビン後方の金属の引き出しから慣性方針を取り出してリュックに入れた。それから、トルウから簡単な説明を受けていたいくつかの機器を、箱から出して詰め込んだ。アリシアは〝マビノギオン〟のハッチを開けて外に出ている。プリズマティカも電気銃を拾いあげて続く。

 白い飛行船が、その巨体に似合わぬ俊敏さで係留塔を離れ、プリズマティカ達の方に近づいてきた。ゴンドラの右側から、先にいくつか輪のついたロープが下りてくる。

「これに足をかけて。こっちを腰にまいて。いいわ。その素敵な銃を落とさないでね」

 アリシアは、キャビンから上半身を出して下を覗いていた人物に、右手で、上げろ、という合図をした。プリズマティカはロープを持つ手に力を入れる。足と腰がロープに釣られて持ち上がり、足が甲板から離れると、足の先から下腹のあたりまですうっと寒気が走った。あ、これはちょっと怖いかも。甲板から三階建てのビルほどの高さまでつり上げられると,飛行船は前方に移動しはじめ、突然下方の空港甲板が消えた。直下には豆粒ほどの人や電気車が行き交う夕刻の街角が、遮る物もなく鮮やかに見えていた。悲鳴を上げたいが声すら出せない。ロープに両手でしがみつくプリズマティカの反対側で、アリシアは姿勢良く片手で身体を支え、超然と眼下を見下ろしている。

「どう、素敵な眺めだと思わない?」

「……」(眺めはすてきだと思います)

 風が吹くと当たり前だが揺れる。しかし、吊られている二人が揺れたあとで、今度は釣っている飛行船が揺れて、すぐに体感の勢いが減る。そんな動きを感じていると自分を引っ張るロープと飛行船、そして自分を下方に引っ張ろうとする重力の釣り合いがちょうどおしりのあたりで重なっているように感じられる。すると不思議なことに、今プリズマティカが空に浮いているのは不思議なことでも怖いことでもない、至極当たり前のことのような気がしてきて、怖さは嘘のように消え去った。

 まもなく高度が下がり、下を歩く人々の姿がはっきりと大きく見え、一人一人の表情の違いまでもがわかるようになった。飛行船の強力な探照灯が下方に向けられ、突然の飛行船の降下に驚いて人々が上を見上げていた。やがて眼下に外周道路沿いに残った大昔の都市壁に設けられたいくつかの見張り塔が見えてきた。そのうちの一つには小さな窓がいくつかあり、灯りが漏れている。「あれです。あれが学生団の本部」

「〝シルマリル〟、あの丸っこい塔の屋上に下ろせる? 大丈夫、なんとかする」

 見ると彼女たちを吊っているロープには電話線のようなものもついていて、小さな通話機でアリシアは船に指示をだしているようだ。「下ろしたら上空三〇〇で待機。凝集聴音忘れるな。私だ。当たり前だろう」

 二人を吊った飛行船はさらに速度と高度を下げながら塔の真上に近づいて行く。塔の一階の位置にある扉から何人かのコート姿の人影が飛び出してきて、何か叫びながら空を指さしている。足下の視界に塔の丸い屋上が入ってきた。こうしてみるとかなり大きな建物だ。屋上の板張りの床が飛行船の照明に照らされて木目まで見える。かなりの勢いで降下していたが、足がつく直前で降下速度がすっと小さくなる。アリシアの手がプリズマティカの腰に伸び、素早くフックが外される。 

 軽い酩酊感を覚えながら、周囲を確認した。端のほうに小屋のようなものがある。下に降りるための階段があるのだろう。プリズマティカは電気銃を構え、階段室に向かって一歩を踏み出した。 

 そのとき。

 階段室の木の扉が大きな音とともにはじけ飛んだ。そして、木くずと土煙の落ち着かぬうちに、その向こうから一体の機械警邏がその巨体を現した。トラムを三台いっぺんに走らせたようなモータ音と、赤く光る二つ目がおどろおどろしい。だが、あれは本当に目なのだろうか? 目そのものが光っていて、見えるのだろうか? そもそもあの自動機械は目で何かを見つけることができているのだろうか?

 そして、隣では、アリシアが、まあ、と少女のように可愛らしい感嘆をもらしていた。「これは、その、いろいろ素敵ねぇ。一ついただいて帰れないかしら」

 プリズマティカはここでようやく納得した。なるほど師弟だ。

 機械警邏は、確かめるような足取りで一歩前に踏み出した。板張りの床面がきしむが、重さには十分耐えられそうだ。そしてまた一歩。プリズマティカは行進している機械警邏を何度も見たことがあるが、実際に人間に対して攻撃なり捕獲なりをしているところを見たことはなかったし、それができるとも思っていなかった。だからと言って、相手の出方を見るというような悠長なことは言っていられそうもない。電気銃を構え、電源を入れる。モードを放電にセット。照準を機械警邏の顔に定め、「アリシアさん、目をつぶって!」と叫んで、引き金を引く。

 ばしん、という轟音、銃口から電弧が機械警邏の胴体の真ん中に伸びたことが、まぶた越しにわかり、金属の灼ける臭いが立ちこめる。放電が終わり、目をあけると、機械警邏の胴体の中心は直径三〇サンティほどが灼熱してぼんやりと赤く光っていた。しかし、その光はみるみる弱くなってゆく。機械警邏はプリズマティカの攻撃をしっかり見届けた、といわんばかりにおもむろに両腕を上げると、ゆっくり、そして次第に速度を上げて襲いかかってきた。振り下ろされた拳を転がって避けると、今度は上半身をぐるりと一八〇度回転させ、右腕の電気銃を構えた。

「!」

 プリズマティカは後も振り向かず、塔の端をめがけて全力で走った。背後で、ぱしん、という間抜けた音がしたが、放電は襲ってこない。電気銃の射程は短く、また、床面が木でできているので、電弧が着地できないのだ。ただし、十分に目くらましにはなるし、場合によっては黒こげになるかもしれない。

 機械警邏は、今度はアリシアに向き直った。アリシアは、いつの間にか右手に細長い棒を構えている。それはどう見てもただの棒にしか見えないが、どこにそんなものを持っていたのか、スカートの下に隠していたとも思えないし。

 アリシアに向かって機械警邏の左腕が振り下ろされる。アリシアは、それを両手に持った棒で受け止めた。すさまじい金属音が響き渡る。プリズマティカは目を見張る。信じられない力だ。いや、あの棒は、実はかなり重いものかもしれない。しかし、機械警邏の動きが止まったのはほんの一瞬だった。アリシアを押しつぶそうと腕が降りはじめる。そのとき、アリシアの持っていた棒が忽然と消えた。いや、そうではなかった。その棒は短い棒にロープのような芯が通ったものだったのだ。機械警邏の腕を躱したアリシアは、すり抜けざま、ムチ状になっていた多節棍を硬直させ、脚にたたき込んだ。再び鈍い衝撃音が鳴り響いた。だが、機械警邏には全く効果がないように見える。プリズマティカはアリシアの元に走った。アリシアは息も乱していない。

「プリズマティカ。あなたの銃はあと何発撃てるの?

 アリシアは、ゆっくりとこちらに向き直ろうとする機械警邏から目をそらさずに訊いた。

「さっきみたいに長いのが五発です。ちょっとした火花ならその三倍くらい」

「囮になって」

「はい」

 プリズマティカは迷わず機械警邏めがけて走りだした。電気銃は置いておきたかったが、脅威とみなされなくては囮にならないかもしれない。そもそも、この機械警邏が遠隔操縦なのか、自分で考えて敵を襲っているのかわからないのだが。

 機械警邏は、プリズマティカに合わせ上半身を回しながら、再び銃の右腕を持ち上げた。どうやら上半身は三六〇度以上回転できるのではなく、あるところで足を踏み換える必要があるらしい。ところが、そのたびに機械警邏はたたらを踏むような動きをする。良く見ると、足首の付け根の部分のゴムのカバーが破れ、そこから油が漏れている。アリシアは外殻ではなく関節の隙間を狙って多節棍を打ち込んでいたのだ。プリズマティカに気を取られていた機械警邏への次のアリシアの攻撃はより的確だった。プリズマティカの動きにあわせ、背後から大胆に足下に近づくと足首の関節部分に二回、三回と打撃を加えたのだ。四回目は、多節棍を逆手にもって関節部分に突き刺した。機械警邏の左腕が振り回され、アリシアはそれを後に転がりながら間一髪で避ける。機械警邏はアリシアに向かって進もうとするが、左足を前に踏み出したとたん、動きが止まった。ガリガリという耳障りな機械音が足の辺りから響いてくる。アリシアの攻撃は成功したようだ。

 しかし、機械警邏は動きを止めなかった。立ち上がったアリシアに向けて右手の電気銃を構えたのだ。アリシアは塔の端のぎりぎりまで後退していて後がない。

「でかぶつ! こっちよ」

 プリズマティカは、(聞こえているのかどうかわからないが)大声で叫びながら機械警邏に突撃した。しかし、機械警邏はプリズマティカにはかまわずアリシアに向かって銃を放った。

 その一撃はアリシアの構えていた多節棍の先端に着地した。まぶしい光と共に棍棒の先端が熔解して蒸発し、アリシアは棍棒を手放し、転倒した。機械警邏は強引に足を引きずりながらアリシアに向かって近づき、再び銃を構えた。プリズマティカはとにかく機械警邏の動きを止めようと、アリシアに倣って足首に電撃を打ち込もうとしたとき、それに気づいた。

 機械警邏は太い電線の束を引っ張っていたのだ。それは機械警邏が昇ってきた小屋から伸びていた。

 プリズマティカは床を這う電線に直接電気銃の銃口を接触させると、溶断モードに切り替えて引き金を引いた。

 電気銃の電弧に続いて高圧電流が短絡する火花が派手に飛び散った。

 やった、と思ったのもつかの間、プリズマティカは、機械警邏の動きが止まらないことに気づいた。内蔵の電池か! 機械警邏はアリシアに向かって進み続ける。アリシアはさっきの電撃で目を痛めたのか、すぐには動けないようだ。右手の銃が再び咆吼し、塔の外周に取り付けられていた金属の手すりに着弾して火花を上げる。アリシアは意を決したように方向を定めると機械警邏の傍らを一気に走り抜けた。

 ところが機械警邏の動きは止まらなかった。アリシアの姿もプリズマティカの姿も見つけられないようだ。上半身を左右に回してその姿を探しながら、下半身はまっすぐにアリシアのいた塔の端に向かって進み続ける。機械警邏の腰の部分が塔の端の狭間(ツィンネ)にぶつかり、だが、上半身の勢いはそのまま狭間を乗り越えると、その姿はもんどり打って柵の向こう側に消えた。プリズマティカとアリシアが塔の端に辿り着いたのは、大きな建物が倒れるような地響きが響いた後だった。十メートルは高度があるだろうか。塔の真下、うつむきに地面にへばりついている機械警邏の姿があった。あろうことか、手足ははまだぎこちなく動いている。膝を曲げ、腰を上げ、腕を縮めながら上半身を持ち上げた。その上半身がぐるりと周り、二つの赤い眼が塔上のプリズマティカを捉え、右腕がぎりぎりと嫌な音を立てながら持ち上がり、そこでぴたりと動かなくなった。やがて赤い眼がゆっくりとその光を失っていった。

「よくやった(グートゥゲマハト)」

 アリシアがプリズマティカの肩を叩く。「助かった。ありがとう」

「いえいえそんな」

 プリズマティカは、それでも少し誇らしかった。アリシアの戦いぶりは美しくて凛々しく、そのアリシアにほめられたことが嬉しかったのだ。

 プリズマティカとアリシアは、同時に機械警邏が昇ってきた階段室の方に眼をやった。強敵は倒した。いよいよ下のトルウのいる学生牢に突撃だ。

 二人が無言で頷き合ったとき。

 その階段室の方から異音が響いてきた。

「うそお……」

 プリズマティカは思わず呟いた。もう一体の無傷の機械警邏がその真っ赤に燃える眼をあらわし、そして、上半身を、全身を塔の屋上に晒した。

 しかも重ね合わさるモータ音はますます大きく、とまらなかった。新たに昇ってきた機械警邏の後からもう一体が上半身を見せたのだ。

「アリシアさん、何体出てくるかわからないけど、そろう前にやっちゃいましょうよ」

「一般的には良い考えよ、プリズマティカ。でも今は待って。役者がそろう前に拍手をするのは下品というものよ」

 二人が見守るなか、最終的に五体の機械警邏が屋上に姿を見せた。

 いや、そうではなかった。彼らの後から、インヴァネスコートに身を包んだ一〇名ほどの人影が、階段を埋め尽くす六本の太いケーブルを大儀そうに避けながら昇ってきたのだ。

 女学生も二人ほどいる。多くは身の丈ほどの錫杖をもち、真ん中に立つ一人は手に短銃を持っているようだ。アントレイヴァスだ。威嚇というには銃口がずれすぎていたが、絶対に安全とはいえないだろう。彼らは、ずらりと並んだ機械警邏の前にもう一列の人垣を作った。アントレイヴァスが微笑さえ浮かべながら言った。

「これはこれは大変勇ましいことですな、ご婦人がた。たった二人で突入とは。それとも無謀と申し上げた方が良い……」

「私は地図作成組合先任親方にして帝国地理院第八調査部部長、アリシア・ファンダイクである」

 お前の演説など最初から耳に入っていないとでも言うように昂然とアリシアは言った。学生のうち何人かが、明らかに動揺して左右の同僚を見渡すようなそぶりをしたが、残念ながら学生達の多くは、アリシアの肩書きの意味を良く理解できていないようだった。アリシアは続けて宣言した。

「そちらで確保している当院の調査員マティウス・トルウの引き渡しを要請する」

「それは異な事を。こちらからの問い合わせに対して、地理院はマティウス・トルウなどという者は在籍しない、と回答していますぞ」

 何が、ますぞ、だ。アントレイヴァスの言葉遣いがおかしくなっている。かなり緊張しているのは間違いない。

「些細な間違いだ。かの者はパンノニアの出身で姓・名の順番が違う。地理院の担当者の誤謬であろう。謝罪する」

 そうだったのか、とプリズマティカはいまさらに驚いた。

「それは……それでは」

「マティウス調査官を拘留する根拠はそれだけか?」

「い、いや。彼は不法に都市の下水道に侵入ようと……」

「地理院はこちらの政府から正式な調査依頼を受けている。その依頼は未だ有効であるから不法ではない。他に拘留の根拠は?」

「こ、こ……」

「そもそも、貴君らは事象学組合の学生組織あるいはそのメンバで構成される自警団ではないか? その君達は何かの法を守るために存在しているか?」

「我々は学生団である!」

 思い出したようにアントレイヴァスは叫んだ。「我々の任務は都市と組合を敵から守ることである。しかるにマティウス・トルウは騎士修道会と都市政府の間の混乱に乗じ、下水道の深淵部にある空白地帯に達して組合の重要な秘密を暴こうとしたのだ。これは学生団として看過できるものではないっ」

「その言や良し」 

 だしぬけにアリシアは拍手した。

「とはいえ、我が地理院も人類の版図の拡大と未知の克服という崇高なる目的を奉ずる組織。意見が合わないのではなんともしようがないな」

 そう言ってアリシアは、青いマントの内側に手を入れたので、すわ、銃でも出すのか、と一同が色めきたったところが、アリシアが出したのは黒い手帳のようなものだった。そして、これ見よがしにそこから一枚の紙を取り出した。

 小切手だった。

 あんぐりと口をあけたのは、プリズマティカだけではなかった。

「もし、マティウス・トルウを解放してもらえるなら、地理院から学生団へ寄付を申し出たい。とりあえず一万リューでどうか」

「い、一万?」

 アントレイヴァスは目を白黒させている。プリズマティカは、心底あきれかえった。アリシアの唐突な行動にもだが、一万程度の金額でびびっているアントレイヴァスに対してだ。一万といえば、プリズマティカがほぼ一年間で得る下水掃除の収入に近い。決して少ない数字ではないが、騎士修道会はそれほど手厚く学生団を支援していたわけではなさそうだ。

「では二万ではどうか」と言うアリシアの表情に、微笑みが浮かんでいることにプリズマティカは気づいた。

「マティウス調査員を逮捕し、半日にわたって拘留することで地理院の活動は大幅に制限され、諸君らの論法によれば、それは事象学組合側の利益にもなったといえる。諸君らは十分な仕事をしたわけだ。だがそれ以上の拘束に対しては地理院も是とせず、周囲の飛行船艦隊を集結させて武力による威嚇をするという」

「……艦隊を集結だって?」

「そこで、和解だ。地理院の強大な飛行船艦隊をもって脅迫されたとなれば、誰も君を責めはしないさ」

 アントレイヴァスはきょろきょろと左右の僚友に目をやるが、彼らも鏡に映したようなおどおどした表情で見返すだけ。だが、居並ぶ中でひときわ小柄な娘が、長身の僚友達の間をかき分けるようにして前に進み出ると、良く通る声で言った。ウルスラだ。

「だまされちゃ駄目。地理院の飛行船は太陽光を使った光学攻撃だから夜間は無力よ。相手はたった二人。私達の施設に勝手に侵入して器物を壊した廉で捕まえてしまえばいいのよ」

 おお、と我に返ったように一同が勇み立った。アリシアと言えば感心したようにその娘に向かって目を細める。プリズマティカは舌打ちし、大げさな動作で電気銃の電源を入れ直した。だが、勢いづいたウルスラは、微笑さえうかべてひときわ高い声で指摘した。

「脅したってだめ。その電気銃は非接地容量型だから、単一の相手に大穴を開けるか、精々派手な花火を散らすかのどっちかしかできない。多人数相手に使える武器ではないわ」

 嘲笑がわき起こる。ウルスラは軽く顎を引くようにしてプリズマティカをにらみつけた。

「へえ、さすが学者さんの卵だけあってもの知りねえ」

 この兵器オタクめ。プリズマティカは自分がいらついているのが分かったが、それは武器選択の不適切を指摘されたことにではなく、即座に気の利いた言い返しができなかったためだ。腹立ちまぎれというわけではないが、プリズマティカはウルスラの立っている床に狙いを定めると、引き金を引いた。

「きゃっ」

 電気銃の銃身の下から小さな瓶(アンプル)が飛び出し、ウルスラの足下に着弾して割れ、破片と液体を飛び散らせる。続いて本体の引き金を引く。数本の、細く、しかし強烈にまばゆい電弧が学生達の足下に飛ぶと、周囲から一斉に悲鳴があがり、学生達は文字通り飛び上がって転倒した。

「現場の工夫ってのを馬鹿にしないことね。あたしはこれで二〇匹のおばけナメクジを同時に相手にしたこともあんだからね」

 アリシアは、そんなプリズマティカを見てため息をつくと、僚友に助け起こされたウルスラに向かって優しく言った。

「さて、あなたの言っていたのは我が地理院の誇る太陽光集光反射砲のことね」

「そ、そうよ」

「確かにあれば晴天以外では効率が悪いので、実はこの一〇年以上使われていないし、あの船にも載っていないわ」

 全員の目が、頭上、まるでアリシアを守護するように紫色の空に浮かぶ飛行船に注がれた。自ら衝突防止灯を点滅させているのでよく見える。動揺が、かすかに学生達の間に広がった。

「でも地理院の光学兵器はそれだけじゃない。最近は……」

反射式全並進光光線砲レフレクティフガンツアラインリヒツカノーネのことなら、それも無理よ!」

 アリシアは、ほう、と興味深くウルスラを見つめた。

 プリズマティカもウルスラに対する考えを少しだけ改めた。少なくともあれだけの早口言葉を言えと言われたら自分には無理だ。

「全並進光光線には連続的に四〇〇〇ジュール毎秒の電力が必要。それをまかないうる発電機は飛行船に積めるような質量じゃない。だから地上から打ち上げた光線を反射するしかないけど、そんな地上設備をこの都市の内部に展開する場所も、時間もなかったはず。だって、あなたの船がこの都市に入ったのは、つい四時間前のことなんですからね!」

 そこまで調べていたのか。

 両足をふんばり、熱弁する様子はかわいらしい。ロジェのことさえなければ、実は友人になれたかもしれないな、とそのときプリズマティカは思った。

 一方、アリシアの感想は、少しばかり冷淡だった。「教えてあげましょうか。お嬢様フロイライン。沢山の方法と可能性を考えること。一番良い方法と思えるものでも、常に代替手段を考えることが大事。それはあたしたち技術屋にとってもだけど、あなたたち科学者にとっても役にたつことだと思うけど」

 当のウルスラは目を白黒させている。わずかに後退ったのは、多分、自分の告発があまり効果がなかったということだけは分かったからだろう。

「具体的に言うと」

 アリシアの手がすっと上がり、都市の中心部を優雅な挙措で指さした。「この都市にはもう四日も前から地理院の船がもう一隻入っていて、それは地上に係留されていて、そうね、あたしの部下が気を利かせていれば、地上電源とも繋がっているんじゃないかってこと」

 アリシアとウルスラの会話をプリズマティカは完全に理解していたわけではないが、何が起ころうとしているのかは、ほぼ予測できた。プリズマティカは学生達に向けて叫んだ。

「みんな、前に来て、危ないわ! 機械警邏から離れて!」

「プリズマティカ、大丈夫よ」アリシアは不敵に笑い、上空で耳を澄ませているであろう部下に静かな声で命じた。「撃て」

 確かにそれはプリズマティカが予想したような派手な演出は何一つなかった(少なくとも最初は)。真ん中にいた機械警邏の胸の中央に白い明るい点がぽつんと浮かび上がった。そして、その周囲はみるみる灼熱化して溶け始めた。白い輝点は斜め上に動き、次いで往復するように下に動いた。作動油に引火したのだろう、小さな炎があがる。ばん、と何かがはじける音がしたと思うと、その機械警邏の上半身が斜めに切断され、ずるりと滑り、床に落下して雷のような轟音をたてた。床板は割れ、上半身はめり込んで、まるで床面から二本の腕が尽きだしているようになった。

 全然大丈夫じゃないじゃん!

 アントレイヴァスは、目の前数十サンティのところに落下した機械警邏の上半身を見つめながら腰を抜かしている。隣の機械警邏が右手の電気銃を持ち上げて飛行船に狙いを定めるが、もちろん届く距離ではない。ぱん、ぱん、と虚しい音だけが響く中、四秒ほどで肩から右腕が切断され、これも派手な音とともに電気銃ごと床につきささった。その衝撃で、辛うじてバランスを保っていた下半身だけの機械警邏がゆっくりと傾き始め、隣に立っていた同僚にぶつかった。そいつは反対の足を踏み出してバランスを取ったが、光線による溶断面が腕にくっついてしまい、暫く前後に揺れていた後、二体もとろも後向きにひっくり返った。

 アリシアが左手を水平に振る仕草をすると、飛行船からの攻撃は終わった。

 目の焦点のさだまらないアントレイヴァスに歩みより、苦笑を浮かべてしゃがみ込んだ。「今ので一万五千リューに値下がりしちゃったけど、ここらで手を打ったほうがいいんじゃない?」

 アントレイヴァスは、何度も頷いた。微笑みながら手を差し出すアリシアに怪訝そうな顔をしたが、すぐに頷くと、インヴァネスのポケットから鍵を取り出して手渡した。アリシアは、その鍵をプリズマティカに向けて放り投げた。

 プリズマティカは、呆然と立ち尽くす学生達と生き残りの幸運な機械警邏達の間をすり抜けるとき、例によって不様に尻餅をつき、焦点の合わない目を中空に漂わせているウルスラに目をとめた。ロジェがいなくなったこと、ウルスラは知っているのだろうか。そのことについて、多分プリズマティカは全く責任がないとは言えないはずで、詫びを言った方がいいのじゃないだろうか。

「ウルスラ、あの……」

 しかし、一歩近づくと、ウルスラがこんなことを呟いているのが聞こえた。

「……すごい……メーサー式動力伝達型全並行光光線砲、完成していたの……」

 ずり落ちかけた眼鏡の奥で、大きな瞳が潤んでいるのは、敗北感ではなく、感動によるものらしい。

 さあ、トルウの救出を急ごう。

 プリズマティカは、この建物に入ったのは初めてだったが、外からは何度か見たことがあったので、だいたいの構造は見当がついた。二階から降りてきた階段の下に、さらに下に向かう小さな階段があった。それを半階分ほど降りたところに、かつて学生牢として使われていた部屋があった。大きな木の扉があり、そこに作られた窓には大時代な鉄格子がはまっている。南京錠をあけて鉄の扉を開くと、トルウは部屋の隅の机に向かってなにやら書き物をしているようだった。

「トルウ! 大丈夫?」

「ああ、ごらんの通りだ」

 トルウは、顔も上げずに言った。部屋の反対側にはやはり鉄格子のはまった窓があり、上から街灯の光が差し込んでいる。部屋の中には冷光灯がなく、トルウは、窓から漏れる灯りを頼りに作業をしていたようだった。「なんか、いろいろ聞こえたよ。まさか助けに来てくれるとは思わなかったな」

 トルウは椅子から立ち上がって、牢の出口まで来ると、笑って言った。

「ありがとうプリズマティカ」

「ありがとうってあんた、助けが来なかったらどうするつもりだったのよ!」

「殺されるとは思ってなかったなあ。ほとぼりが冷めたら解放されるだろうから、空白地帯の捜索をやればいいと思っていたんだが」

 のほほんと言うトルウに向かって、プリズマティカは怒鳴り声を上げた。

「まったく信じらんない! ねえ、ちょっと聞いて。あたし多分、わかった。パスカル・アルファがどこにいるのか」

 トルウの目が細められ、何? とささやくような声が返ってきた。

「絶対に自信があるってわけじゃない。笑わないって約束してくれるなら言う」

「約束する」

 プリズマティカは深呼吸するように息を吸い、右手を胸にあてた。

「あたし。あたしがパスカル・アルファなんじゃないかって」

 トルウもまた大きく息を吸い、そのまま吐き出した。「なるほど」

「一年より前の記憶がないこととか、ロムステットの町で何か思い出したな気がしたとかあるけど、いちばん、変だなって思ったのが、ニコルさんにあったとき」

「ニコルさん?」

「フォジフォスやパスカルの同僚で、もう組合を引退したメートルの人。私の顔を見て、どこかで会ったことがあるって言ってた。おかしいよ、だってあたしが事象学組合に出入りするようになったのってこの一年だし、ニコルさんが組合を引退したのは三年前だよ。それからこれ」

 プリズマティカは内ポケットからフォジフォスの置き手紙を取り出して広げてみせた。

「あたしがいつも『センスないからやめて』って言ってたガラステーブルの下にはさまっていた」

「宛先はないね」

「じゃあ、トルウは誰宛だと思うの?  だれかはおいといても、パスカルとしての記憶をとりもどして欲しいって、そういう風に書いてあるとしか思えないんだけど」

 だが、トルウは手紙の内容に衝撃を受けた様子はなかった。

「傾聴に値する仮説だと思う。仮説は検証すべきだね」

「じゃあ、いこうよ、下水道に。行くんでしょ?」

「ああ。でも行くのは僕一人だ」

 プリズマティカは耳を疑った。「は? どうして? あたしがいなくちゃ……」

「君の仮説がただしければ……いや、正しくてもそうじゃなくても、どうもあまり良いことにはならないような気がする。装備と下水道の扉の鍵を貸してくれるかい」

「そんな、ここまで来て置いてきぼりだなんていやよ!」

「誤解するなよ。君の身が心配で、危険だからいくな、とかそんなんじゃないんだ。純粋に任務の達成上の観点で」

「そんな誤解するわけないでしょ!」

「あらあら二人とも意地っ張りねえ……」 

 その声に、トルウはぎくりとした様子で、プリズマティカの肩越しに怯えたような視線を投げた。

「マ……師匠……じゃなかった提督! どうしてここに」

「プリズマティカ、こっちの商談はまとまったわ。なかなか上がってこないからどうしたのかと思って来たら、案の定、どきどきシーンの真っ最中か。ごちそうさま」

「そんなんじゃないです! 見ればわかるでしょ」

「あたしは別にこいつが心配とかじゃなくて。ってかなんですか、『どきどきシーン』って?」

 二人の抗議は完全に重なったが、アリシアは抗議の内容に興味はなさそうだった。ただ、表情から笑みを消すと、右手の人差し指を立てて手招きする仕草をした。「トルウ、こっちいらっしゃい」

「はい」

 トルウはプリズマティカの横を抜け、神妙な面持ちでアリシアの前に進み出た。

 と、アリシアはいきなりトルウに強烈な平手打ちを食らわせた。それは女性が示威行為として行うような可愛らしいものでは全くなく、肩から腰の捻りまで加えた徒手攻撃の一種であり、明らかに覚悟して両足を踏みしていたトルウの上半身を危うく倒れそうになるまでぐらつかせた。

「トルウ、あんた自分のやったことが何なのかわかってるんでしょうね」

「はい」

 トルウは口ごもったような声で答えた。口の中を切ったのかもしれない。プリズマティカは単純に同情した。

「この仕事、もともとあなたの全責任と権限で進めている案件でしょ。それを本国に身分照会された? は、情けない! アイネイアスが気を利かせてごまかしてくれなかったら、調査依頼自体がキャンセルされて折角のチャンスが水の泡になるところだったのよ」

「申し訳ありません」

「あの、アリシアさん、その、元はと言えば、あたしが余計なことをあの泥棒猫娘に言ったから」

「あなたは黙ってなさい」

「汚い言葉づかいするな」

 言葉が重なった。言いたいことはあったが、プリズマティカは黙った。

「捕まったら捕まったで自分でなんとかしなさいよ。やり方はいくらでも教えたでしょう? 袖の下は渡したの? なんのために大金持たされたと思ってるの。かわいこちゃんとディナーとしけ込むためじゃないのよ」

「いや、それはそれでその」

「忘れたの? 金がだめなら、だまし通せ、脅せ、たらし込め」

「たらし込めって、だってそれは相手が……」

「あんただってその筋好みのかわいい顔してるんだから、その気になれはどうだってなるでしょ」

 プリズマティカは想像し、脳裏に浮かんだその壮絶な風景に絶句した。

 とんでもない人だ、このアリシアという人は。自分の愛弟子というか子供同様のトルウに向かって、何を言っているのか、いや、そもそもこれまで何を教えていたのか。

 しかし、トルウは大人しく頷いた。「わかりました。以後、気をつけます」

「結構。じゃ、あたしはこれで帰るから。ちゃんと最後まで自分でカタつけなさいよ」

「ああ、待ってください。この子、プリズマティカをお願いします」

「ちょっと待って、あたしは一緒に行くって言ってるでしょ」

 怒鳴りながらプリズマティカは、トルウとアリシアとの間で数瞬の間、目線によるやりとりがあったのを見逃さなかった。アリシアは目を細めて言った。「ああ、そういうことなら、一緒に行きなさいな。きっちり終わらせる必要があるんじゃなくて?」

「でも、そうしたら……」

「まったくもう、女の子一人守れないでどうするよ、少年」

「トルウ、行こう」プリズマティカは、トルウの腕を掴んで引っ張った。「空白地帯に一番近い降下口でいいのよね」

「ああ、そうだけど」

「ほらね。あんたがあたしを守るんじゃなくて、あたしが守るの。仕事なんだから」

「いや、それには異論はないけど」

「ああ、うるさいわね、あんた達、さっさと行きなさいっ」

 言葉とは裏腹に笑みを浮かべたアリシアの剣幕から逃げるようにトルウとプリズマティカは地下牢からの階段を駆け上がった。

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