第9話 舞先輩の怪我(三)
「……という訳なのだ」
舞先輩は昨日の道場での出来事を僕らに話した。
それって、その男の人が強かったってことじゃないのかなあ。話を聞く限りじゃ、舞先輩の方が強いようだし、そんなに気にすることではないようだけれどな。
そんな僕の考えを読み取ったのか舞先輩はさらに話をつづけた。
「あのな。自慢話のようになるから、あまり言いたくないのだが……。
私はここ数年、道場では負けたことがない。道場主である父でさえもだ。
私に触れることのできる者もいないのだ。うまく説明できないんだが、相手の動きが分かる、というか感じるんだ。どのように攻めてくるかがな」
そういうものなのだろうか。
「だが、試合の最中、その男の動きはほとんど分からなかったのだよ。特に後半にな。私にははじめての体験なのだ。
それに不自然なのだ。武道の試合で眼鏡をかけたまますることはない。危険だろう? 普段、眼鏡をかけている者でも、そういう時は外すかコンタクトを使用するのが普通だ。眼鏡を外すように言ったが『ご心配なく』と外さなかったのだ」
どちらかというと運動が苦手な僕にはよく分からない。
だけれど、ひかるにはピンとくるものがあったらしい。
「なるほどね。やはり、伊達メガネは超能力者ね」
「そうなの?」
「うん。必要がなかったから、今まで言わなかったんだけれど、舞さんの武術の才能は一つの超能力なの」
ひかるはそう言って話し始めた。舞先輩もひかるの話に、疑問をぶつけたりしながら話を聞く。
ひかるの話を要約するとこういうことだ。
武術に限らず、一芸に秀でている人の中には、超能力と思われる人がいるのだそうだ。例えば野球では、投手が投げた球を止まって見えると言った人がいたらしく、その選手もたぶん超能力者だろうと。
舞先輩の場合、やはり相手の動きが読めるというか分かってしまうらしい。それは超能力なのだそうだ。舞先輩の場合、能力がある所に、鍛錬を重ねて自分の物にしたってことなんだって。たとえ殴られるって分かっても避けるだけの運動神経や反射神経がなければ殴られちゃう。そういう超能力を補う努力があって、今の舞先輩があるって言っていた。ちなみに舞先輩の超能力(ちから)は超運動能力というらしい。
その舞先輩に怪我を負わせた。男が超能力者と考えるのが自然だということだった。
「そうか。私のあの感覚は力の一つだったんだな。ようやく分かったよ」
そう言った舞先輩はちょっと嬉しそうだった。
「でも、優太君や舞さんに目をつけてどうゆうつもりなのかしら?」
ひかるは下唇を軽く噛んで、斜め上を向いていた。何を考えているのだろう。
「ともかく、二人とも気を付けてね」
何をどう気を付ければよいのか分からないが、僕は頷いた。
すぐに『伊達メガネ』の男は僕らの前に現れる。それは意外な形でだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます