第7話 舞先輩の怪我(一)

 その日は珍しく『あげは』に舞先輩がやってきた。


 「ま、舞先輩。お、お久しぶりです」


 僕は挨拶したけれど、緊張でやっぱりどもってしまった。舞先輩と話すのは緊張する。憧れの人なんだ。


 「あれ? 舞先輩、どうしたんですか?」


 舞先輩は、左腕に包帯を巻いていた。


 「ああ、昨日ちょっとな……」


 舞先輩は少し苦々しい顔をした。




 『からんっ』


 今度はひかるがやってきた。

 ひかるは真剣な顔をして、いつもの明るさがない。


 「どうしたの? ひかるちゃんも元気ないの?」


 「うん。あら!? 舞さん、珍しいね~」


 少し笑顔を見せて、ひかるは席についた。やっぱり、ひかるには笑顔が似合う。



 それから、僕達3人は、マスターが入れてくれたニルギリを飲んで、一息ついた。

 一息ついた後で、ひかるが話し始めた。


 「あのね、ここ見られてるの」


 「えっ? この間の男の人?」


 僕は聞いたんだ。この間、カウンターに座っていたメガネの人かって意味でね。


 「うん、そう、あの伊達メガネの人」


 僕は広くもない店の中を見渡した。僕らの他には、二人連れのおばあちゃんがいるだけだ。


 「あの人いないよ?」


 「うん、店の中にはいないわ。だけど、どこかでこのお店を見てるわ」


 「ちょっと待て。君らは何の話をしている? 私にも分かるように説明してくれ」


 ひかるは、この間この店に来たメガネ…… ひかるは伊達メガネだっていうけれど…… の男性の話をする。僕もじっと見られているような視線を感じたって話をする。

 話を聞いた舞先輩は、何か思案にふけるような面持ちになった。


 「で、今も見られているのか? そんな感じするか?」


 舞先輩は僕を見て言った。


 「う~ん。今は全然感じないんだけれど……」


 「いいえ。外からお店を見てるわ。でもお店の中は見られないわ。ね? マスター?」


 ひかるの問いかけにマスターはにっこり笑ってうなづいた。舞先輩は腕を組んで何やら考えている。そして声を潜めて話す。


 「実はな、私の怪我なんだが、昨日、我が家の道場でなのだ」


 舞先輩の家は、なんかの武術の道場をやっているんだっけ。武術の練習……稽古って言うんだっけ? それで怪我するのは珍しくないんじゃないのかなぁ。

 僕がそう思っているのが分かったのか、舞先輩は首を小さく振った。そして、いきなり現れた眼鏡の男に怪我を負わされたという。

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