第6話 誰かが見ている

 「遅くなっちゃった。ひかるちゃんはもう来ているかな?」


 僕はいつものように『あげは』の扉を開ける。

 奥のテーブルにはひかるがいた。


 「やあ!」と声をかけようとした時、ひかるは僕の方を見て人差し指を一本立てて、唇にあてた。


 (しっ~ぃ)


 声をかけるなと言うことらしい。僕は頷いて、無言でひかるの座るテーブルに着く。ひかるはまだ人差し指を唇に当てている。どうしたんだろう? 


 店内を見渡すと一人の男性がカウンターに座って新聞を読んでいる。珍しくもない光景なんだけど、なぜか気になった。


 マスターが紅茶を持ってきた。


 「優太、いらっしゃい。今日は一人かい?

  アンブレって紅茶だ、今日はこれがいいんだ」


 そう言って片眼をパチリとさせた。

 ははあ、なぜかは分かんないけどひかるは存在を消しているんだな。


 僕はなぜ、ひかるの存在を認識できるかって?

 それはひかるの髪の毛が入っている小さな袋を身につけているからなんだ。

 なんでも、その髪の毛はまだ生きているんだって。

 どうやっているかは聞いてないし、どうせ僕には理解できないと思う。


 とりあえず紅茶を一口啜る。


「うげっ!」


 なんだ? このアンブレとかいう紅茶、苦い! 軽く咽てしまった。 


 カウンターの男性が気になって仕方なかったけれど、その男性は会計を済ませ、やがて出ていった。


 「もう、いいよ、優太君!」


 男性が出ていくと、ひかるが急に声を出した。


 「うん、今の人? どうかしたの?」


 「今の人、力を持っているわ。透視のね」


 そっか。ひかるは超能力を持っている人が分かるんだった。


 「ふうん、そうなんだ。

  でも、なんでひかるちゃんは存在を消してたの?」


 「なんか良い人には感じられなかったから」


 「そうなんだ。

  ところでマスター! この紅茶不味いよ~っ!」


 僕は叫んだ。


 「はははっ! 優太も力が伸びてきたんだなぁ」


 マスターは笑って代わりの紅茶を持ってきた。


 「ほれ、ニルギリだ!」


 「ありがとう。やっぱりこれだねぇ」


 僕が言うとひかるとマスターは顔を見合わせ笑った。



 「さっきの人さ、なんか僕、見られてる気がしたよ、じっと」


 「見てたわ、あの人、優太君の事。あの人はメガネかけてたけど、あのメガネがESPの必須アイテムだわ。多分、伊達メガネね」


 ひかるは、かの男性が予め、僕を目当てにこの店に来たという。

 目的までは分からないらしいけれど。

 それと先程、マスターが出したアンブレという紅茶はESP能力を抑える効果があるんだって。


 「とりあえず、気を付けることね。優太君」

 「うん」


 何をどう気を付ければいいのか分からないし、僕がどうされるってことはないと思ったけれど、頷いておいた。




……新宿のとある公園……


 二人の男がベンチに座っている。新宿のビルの一室にいた二人の男だ。


 「どうだ?」


 「今日の所はなんとも。

  ですが、あの喫茶店には他にもいそうです」


 「組織か?」


 「組織……。組織とまで纏まっているようには思えませんでしたが、はっきりとは……」


 「ふむ、でこの後は?」


 「はい、あの駐車場のVTRに映っていたもう一人の女子高生の所に行って見ます」


 「その娘も?」


 「まだ、分かりません……」


 喫茶店のカウンターに座っていた男は胸の内ポケットから1枚の写真を取り出した。そこに写っていたのは日向舞であった。


 「男を手玉に取った彼女の身体能力には目を見張るものがあります。それが超能力(ちから)のせいなのか、ちょっと興味があります。数日中に接触してみます」


 「そうか。手荒なことはするなよ」


 若い男はこくりと頷くと、立ち上がりその場を去った。


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