第4話 万引き犯捕まえた!

 夏休みのある日、僕ら3人はスーパー『めだいら』にいた。

 3人とは、星野ひかる、日向舞、そして僕の3人だ。へなちょこESP倶楽部のメンバーだ。

 舞先輩は入口近くのレジの後ろ辺りにいる。ひかると僕は手をつないで、香辛料の棚の所にいた。


 「あのね、スーパーの人に聞いたんだけどね。香辛料の棚の所が死角になっていて、そこに品物を持っていって万引きするんじゃないかって話なの」

 「ああ、あの香辛料の所は、なんか舌をかみそうな、あんまり使わなそうな香辛料が置いてあるよね。いつも人はいないっぽいね」

 「でしょ!? なので、そこで私と優太君は万引きの現場を確認するんだよ」

 「えっ!? どうやって?ばれちゃうんじゃない?」

 「大丈夫!私の力は?」


 ああ、そうか、ひかるは存在を消せるんだったんだ。


 「でも、僕はばれちゃうじゃん!」


 ひかるは存在を消せても僕は見つかっちゃうじゃないか!

 ひかるはにっこり笑うとこう言ったんだ。


 「大丈夫だよ。私と手をつないでいれば、優太君も存在が消せるわ」


 「へ~、そうなんだ~」


 僕らが万引きを見つけて舞先輩が捕まえるって言うのが、ひかるのストーリーだった。この説明はさっき聞いたばかりだった。


 僕はこんな時なのに、どきどきしていた。女の子と手をつなぐなんて慣れてない。手が汗ばんでくる。湿っぽくて嫌われないかな?ってドキドキしている。ひかるは平気な顔で手をつないでいる。


 「くるかな?」


 緊張に耐えられなくなって僕は聞いた。


 「たぶん来ると思うわ。私の予感は当たるのよ」


 その時だった。

 角刈りのいかつい男と、金髪の優男……チャラ男っぽい奴が目の前に現れた。いかつい男は肩からでっかい鞄をぶら下げている。チャラ男はしきりに周りを警戒しながら発泡酒のケースを持っている。

 チャラ男と目があった。……やばい、気付かれた!……

 僕は思わずひかるの後ろに隠れようとした。


 「大丈夫!じっとして」


 小さな声でひかるが言う。手もぎゅっと握ってきた。

 チャラ男と目があったと思ったんだけれど、そこには何もないように安心して発泡酒のケースを角刈りに渡した。

 角刈りはすばやく鞄にケースを入れた。


 「すげっ!大胆!」


 僕は心の中でつぶやいた。

 やがて、二人組は棚の所を後にする。よかった、気づかれなかったみたいだ。


 「ふう、じゃあ、捕まえよう!」


 「まだだめ!店の外に出ないと捕まえられないのよ。TVでやってたの」


 「そうなの?」


 二人組はレジを素通りして、舞先輩の横を通り過ぎる。

 僕は舞先輩に合図をする。そいつらが犯人だと。舞先輩はこくりと頷いた。


 二人は店を出て駐車場へ向かう。舞先輩が後ろから近づいていった。

 チャラ男は口笛を吹きながらポケットから車の鍵を出してくるくる回しながら歩いている。


 あれっ!ひかるがいない! と思ったらチャラ男のそばにひかるがいた。そして、いきなりチャラ男から鍵を取りあげて僕に放り投げた。


 「な、なに!? どうするの!?」


 僕は思わぬ展開に慌てた。


 「大丈夫!優太君、鍵を曲げて!」


 僕は慌てて鍵に力を込めた。『くにっ』って音がした気がした。手にした鍵を見ると曲がっている。


 「やった!」


 顔を上げると目の前にチャラ男が迫っていた。


 「てめえ! 何してんだ!」


 チャラ男が拳を上げた。僕は殴られると思って目をつぶった。

 『どすんっ』

 なんか音がした。僕が殴られた音かな? 痛くないなぁ。そう思ってそっと目を開けると、チャラ男が倒れていた。その傍には、腕を組んだ舞先輩が立っている。


 格好いい! 僕は舞先輩の勇士に見とれた。


 「優太君!スーパーの人に教えて!万引き犯捕まえたよって!はやくっ!」


 はっと我に帰ると僕はスーパーに走りこんでいった。

 店長さんと駐車場に戻ると、角刈りの男が発泡酒の入った鞄を振りまわして、舞先輩と戦っていた。

 舞先輩はひらり、ひらりとかわしている。やっぱり格好いい!

 チャラ男は、ひん曲がった鍵を必死に車のドアに差し込もうとしている。


 「ちくちょう!開かねえ!」


 角刈りの男は人が駆け付けたのを見ると、鞄を放り出して、駆けだした。慌てて店の人が追いかけていく。


 「優太! 朝に預けた私の荷物は?」


 舞先輩が叫ぶ。


 「えっ?ああ、それなら、そこの隅です」


 僕は10mほど離れた駐車場の隅を指差した。舞先輩はそこに走っていくと、ケースから弓を取り出した。弓に矢をあてがい弦を引く。


 『ひゅんっ』


 鋭い音がした。その後で、30m離れた所を走っている角刈りの足に矢が当たった!


 「すげえ!」


 チャラ男は店長さん達に囲まれて観念したようだ。



 こうして僕らは万引き犯を逮捕した。

 あの二人組はたくさんの仲間たちがいたんだってさ。そいつらもみんな逮捕されたらしい。


 こうして僕は地方紙に小さく載ったんだ。

 『高校生、お手柄!万引き犯逮捕!犯人グループ芋づる式に…』

……昨日、昼過ぎ、神力市のスーパーで発泡酒500ml1ケースを万引きしたとして比留川誠容疑者(21)と近藤俊彦容疑者(20)が現行犯逮捕された。逮捕には地元の私立神力高校2年生の望月優太君(16)ら3人が協力した。このスーパーでは先月から万引きが多発し警戒を強めていたが、地元の高校生達によって逮捕にこぎつけた。市内では同様な万引きなどの窃盗事件が多発しており、それらの事件との関連を調査している。……県警の調べによると比留川容疑者らは万引きグループを組織していたと思われ、芋づる式にグループのメンバーも取り調べを受けている。逮捕は時間の問題であるという。…県警は近く望月優太君ら3人に感謝状を贈る予定と発表した……



 僕らはスーパーの人や警察に感謝されたんだ。警察からは感謝状までもらったんだよ。でも感謝状をもらいに行ったのは僕だけなんだ。


 「がらじゃない!」と舞先輩は言うし、

 「私も恥ずかしいから」ってひかるも…。


 「ぼ、僕だって恥ずかしいよ!じゃあ、僕も行かない!」


  そう言ったんだけれど。


 「優太!行って来い!男の君が代表して行くべきだぞ!」


 マスターにそう言われた。またマスターは続けて、こうも言った。


 「こうして、へなちょこESP倶楽部の活動が実を結ぶのはひかる達も嬉しいんだ。君が受け取ってくることを誇りに思っているんだよ」


 結局は僕一人で行くことのなったというわけ。



 それから、しばらくはメールがたくさん来た。普段話したことないクラスメートまでがメールしてきた。やっぱり、少し嬉しかった。

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