万引き犯退治大作戦

第2話 無理でしょ!?

 このところ僕は学校の帰りに『あげは』に立ち寄るのが習慣になっている。

 『あげは』はひかるに連れて来てもらった喫茶店だ。この店はちょっと変わっていて、コーヒーはメニューにないんだ。

 僕は気になってマスター聞いてみた。


 「あのさ、気になってたんだけど、なぜコーヒーがないの?」


 そしたらマスターは笑った。


 「おれが嫌いなのさ。苦いだけでちっとも美味くないぜ。そうは思わないかい?」


 本当は、僕は毎朝コーヒーを飲んでいて、好きだったんだけど、

 「うん、僕もあまり好きじゃないよ。」

 って嘘をついちゃった。

 「ふふふ、優太。無理しなくていいぜ。毎朝飲んでるんだろ?」

 「えつ!? どうしてそれを?」

 

 マスターはそれには答えずに、黙って紅茶を出してくれた。


 「これはな、ニルギリって紅茶だ。優太向けだと思うんだがどうだ?」


 僕は飲んでみた。


 「美味しいや!なんかすっきりした感じだね」


 お世辞じゃなくて、本当に美味しかった。

 

 「ふふふ、ニルギリはミルクティーなんかに合うと言われているんだが、俺はストレートがお気に入りだね」


 マスターは満足そうに肯いている。


 マスターは謎が多い人だな~。年は四十歳くらいだろうか。でもなんか格好いいんだよな~。

 僕はマスターの男っぽさと、さわやかな笑顔に憧れる。


 しばらくすると『からんっ!』とドアを開ける音がした。

 

 「マスター!ただいま~っ!ニルギリ頂戴~っ!」


 元気よくひかるが入ってきた。そして僕のテーブルに座った。これもいつものことだ。


 「ねえ、優太君、駅前のスーパーで万引きが多くて困ってるって知ってる?」

 「うん、なんか先生が話してたよ。うちの生徒が疑われてるのかなぁ」

 「かもね~」

 「疑われるのっていやだね。僕、よく行くんだ、あそこ」


 ひかるは下唇を軽く噛んで斜め上を眺めている。これはひかるの考えるときの癖だ。その顔がとっても絵になって、可愛くて思わず見とれてしまう。

 

 ふいにひかるが僕の目をじっと見た。


 「な、なに?ど、どうかした?」

 

 僕はどきどきした。


 「ねえ、優太君。捕まえようよ」


 「え~っ!無理だよっ!」


 大きな声で僕は即座に断った。


 「どうして? 優太君の倶楽部初活動だよ」


 にっこりと笑ってひかるは言う。


 「でもさ、あそこのスーパー広いしさ。もし、もしだよ…。その犯人をさ、見つけてもだよ。僕、弱っちいし、逃げられちゃうよ」


 慌てて、再び訴える。

 だって、怖いよ~っ。犯人に逆に掴まって殴られたらやだし……。


 「大丈夫。もう一人の会員にも手伝ってもらうから」


 ひかるはにっこり笑った。その笑顔に僕は全然弱いんだ。


 「う、うん、できるかな?」

 「できるよ。優太君ならね」

 「そ、そうかなあ。じゃあ、どうすればいいの?」

 「うん、また明日、ここで考えようね。もう一人も呼んでおくね」

 「うん」


 こうして僕はスーパーの万引き犯を捕まえることになってしまった。


 はあ、無理だよな~ぁ。どうして、やることになっちゃったんだろう…。はぁ…。

 僕は自宅に帰り、ベットに横になりながら天井を見上げて何度目かのため息をついた。


 次の日の放課後、ため息をつきながら重い足取りで『あげは』の扉を開けた。

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