009:王立図書館殺人事件

【王立図書館殺人事件中間報告】


<背景>


王立図書館で殺人事件発生。


 <発生日時>

  十四月三日九時~十二時

 <被害者>

  図書館司書:リリーニ・パティア

 <発見日時>

  十四月三日十六時

 <検死状況>

  後頭部打撲による頭蓋骨陥没

 <被害者周囲状況>

  ・被害者血液付着の辞書。

  ・被害者が抱えていたと思われるファイル、書類、書籍類。

  ・動物体毛。(被害者飼い猫のものと思われる)

 <現在までの状況>

  ・被害者が本を棚に戻しているその背後から忍びより、後頭部を強打。

  ・凶器は図書館内で手に入れた辞書。

  ・犯行後、犯人は速やかに逃走した模様。

  ・内部犯/外部犯、両方の可能性がある。

  ・発見遅延は被害者が倒れていた場所が一般客があまり立ち入らない書庫だったことと、被害者は集中すると閉館まで出てこない癖があったためと思われる。


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 全く嫌な事件だった。被害者はうら若き乙女。まだ司書資格をとり、幾年も経っていないらしい。発見場所は図書館最奥の書庫だった。即死ではないらしく発見まで四時間もかからなければ一命を取り留めたかもしれないというのが、検死医の見解だった。

 倒れたままの被害者に面会したとき寝ているのかと錯覚するほど綺麗で、それがさらに悲哀を誘った。血の一滴も流れていないのに、彼女はすでに空調にあたりすぎて、氷のように冷え切っていた。

 生前の彼女の写真は、明るかった。海辺だろうか。青一色を背景に、風に大きくあおられた髪とスカートを満面の笑みをたたえながら押さえていた。僅か数ヶ月の後に写真を撮った彼氏かもしれない犯人に、こうして殺されてしまうなんて、全く思いもしなかったろう。

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<捜査状況>


 <容疑者>

  容疑者は以下の三人に絞られた。

  ・ジュリエッタ・ロビー

   :第一発見者。被害者同僚。

  ・ミシェル・ウィーゴ

   :被害者同僚。

  ・ダディア・ボリーニ

   :被害者恋人


 <容疑者のアリバイ>

  ・ジュリエッタ・ロビー

   :死亡推定時刻、窓口に立ち、貸し出し案内をしていた。(目撃談多数)

  ・ミシェル・ウィーゴ

   :死亡推定時刻、書棚整理をしていた。(目撃者多数)

  ・ダディア・ボリーニ

   :死亡推定時刻、睡眠中だったと証言。裏付けなし。


 <現状からの推察>

  ・被害者恋人、ダディア・ボリーニが最有力候補である。しかしながら、確定的な証拠がない。


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 どう考えても、恋人が最有力だった。ボリーニは被害者を迎えによく図書館の裏口まで来ることがあったらしい。開館中、裏口のドアは空いたままだというし、書庫は裏口からほど近いところにあった。

 全くの行きずりの犯行も考えたかったが、難しいだろうと思われた。被害者は一切の暴行を受けていない。また、金目のものも取られて居らず、書庫のものが盗まれた形跡もない。彼女を目当てに入り込み、目的を果たすと速やかに立ち去った、そう思わざる得ない。だとすれば、彼女の位置を特定できた人物が必然的に容疑者となる。

 ボリーニは、好青年だった。捜査に私見が入ってはいけないと思いつつ、私の第一印象はそのようなものだった。街の小さな工場に勤め、少ない稼ぎのうちから毎月500ピアを実家へ送金していたという。酒遊びも女遊びもしていなかったようだと、工場の従業員達は皆口をそろえていった。被害者の友人達は、ボリーニに限ってそれはあり得ないと口をそろえていった。むしろ、あるとすれば被害者本人の方だったと。


 ボリーニより、被害者の行動の方が不明な点が多いと友人達は口をそろえて言った。

 一つ目はネコ。一年ほど前に突然飼い始めたらしい。ベルラインブルーという珍しい毛並みの良いネコだ。種名の通り、真青の宝石ベルラインを思わせる綺麗な青い毛だった。(世話をしていたのは、もっぱらボリーニだったという話だが) ネコの毛はどれだけ掃除してもついてしまうものだという。……この毛は関係あるまい。

 二つ目は金回り。ネコが来たのと時期を同じくして、急に金回りが良くなったという話だった。それまでボリーニの住処だった倒壊しそうなアパートを引き払わせ、現在の普通のアパートを借りたのも被害者だったという。(ボリーニはどうにか家賃を払い続けているらしい)

 三つ目は、時折連絡が一切取れなくなるということだった。週に一日から、時には二日。大抵休館日であるため、とくに困ったことはなかったようであるが、この行方不明の間の彼女の行動になにか関係があるような気がしてならない。

 ……とにかく、まだなにか、決定的な事実が抜けているのだ。それだけは間違いあるまい。

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<問題点>


 <王立図書館アニバーサリーイベント>

  現状、書庫を閉鎖し捜査を続けているが、十四月六日の王太子誕生日イベントのために、解放するよう要求されている。調整願いたい。


 <予算>

  書庫閉鎖に伴い、特別予算発生あり。


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 ……王族というのは、暇人が多いらしい。しかも、無用なものまで有料として、ひたすら私腹を肥やしている様にしか見えない。いや、これは単なる私の私見であって、捜査には一切関わらない。

 王太子殿下は愛猫と共に図書館視察を兼ねた贈呈式を行う所存であらせらら……いて。舌を感じまった。こちらから幾ら日程変更の要請を出しても、全く受理されないどころか、無能扱いしやがった。……捜査のための閉鎖にまで金をかけやがるくせに、

 そういや、王子のネコも綺麗な青い毛並みだったな。時々図書館に入り込んではいろいろ悪さするってもっぱらの噂だ。王立ってことは、王家の庭も同然。王家のネコが出入りしても誰も文句いえないってんで、好き放題だったらしい。ひっかく、かじる、スミをトイレにつかっちまう、栞でじゃれる、ツメを研ぐ、本を落とす……トンデモねぇ。飼い主に似たんだな、きっと。

 ……おっと、これはオフレコだぜ? 俺だってまだ不敬財なんてちんけな罪で訴えられたくはないからな!

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<今後の捜査方針>


 (白紙)


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 さて、どう書くかね。これ書かないと俺は今日家に帰れないんだが。気乗りはしないが、ボリーニをもう一回召喚するか。

 あぁ、TVの向こうでにこやかに王子が手なんて振ってやがる。王子の威を借りてネコが赤絨毯の上を闊歩してやがる。このネコは頭いいんだってな。そういや、この前TVでやってたぜ。訓練すればイヌ並みにいろんな事を覚えるんだと。……まるで化けネコだな。

 そんなことはどうでも良いんだ。問題はこの、最後の一行………。



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