第一話

【闇夜のガキ大将】

 狭く生暖かい風の吹く、真っ暗なコンクリート道。

 塾帰りの中学生、田内健はとにかく逃げたかった。何からか?分からない。その存在からだ。

「塾に行くのは、あれ程嫌と言ったに」

 もう、泣き出しそうだった。その存在は、大きく、巨大で、形は中学校のクラスにいるガキ大将に似ていたが、その存在はそれより遥かに大きく真っ黒で、何しろ恐ろしかった。

 田内健は、とにかく光の見える方に逃げる。後ろを確認しながら。

 そういえば、リレーの時はスピードが落ちるから後ろを見るなと、体育の先生に教わったなぁ、なんて考える暇はあった。

 切れた街灯の有る道で、田内健は光を見つけた。光源ではない。スターだ。闇夜で逃げる人を助けるヒーローと最近ネットで騒がれている、有名人、「バット1号」。

 スターは自ら名乗った。

「私の名前はバット1号」

 最初は、少しかっこ悪い名前だと思っていた。しかし今はそんな事どうでも良かった。

 助けて、と田内健はバット1号の名を叫んだ。

 するとバット1号はそれに応えるように右手を出すと、田内健の涙を良い匂いの黒いタオルで拭い、グーの手を作ると親指を黒い雲の有る方へ立てた。かっこいい。などと思っている3秒間。その3秒間でバット1号はその恐ろしい存在を消してしまった。

 気持ちを悪くしていた黒雲と共に。

 礼などする暇もなく、バット1号は何処かへ行ってしまった。

 いつの間にか街灯は、灯りを灯していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る