告白の花畑~ラブエピソード~

Yuyu*/柚ゆっき

夏祭りの彼方

 縁日の数日前の事、僕は勇気を出したりしてみた。

 こういう特別な日は、なんでか自分で思っている以上の勇気が出たりすることがあったりするから。


「あ、あのさ。今度の夏祭り、一緒に行かない?」


 ずっと好きなあの子に、最近やっと話すことが出来るようになってきたあの子に、さりげなくなんて器用なことはできないから、できるだけストレートに直接そう言った。


「本当に! やったー! 今年はいつもいってるみんな、彼氏作っちゃって行く人いなかったから、どうしようか迷ってたの! 楽しみにしてるね!」


 彼女はいつもの明るい笑顔で、でも僕からみたらいつもよりも明るい笑顔でそう答えてくれた。

 僕はその笑顔が見れただけでも、正直嬉しかった。でも、僕はもっと勇気を出してみたい。

 だから、縁日の日に行われる夏祭りで、告白――


「なんてことができたらな~」

「いや、できる空気だったじゃん……」


 縁日がある三連休前の最後の登校日。昼を親友の男ふたりと食べている、僕。


「それに、溝内みぞうちとも結構仲良くなってきたんだろ?」

「そりゃあ、まあ前よりは話すこと増えたけどさ。それでも、なんかそういう好きみたいな感情はあんまり感じないし」

「そりゃ、女子はそういうの隠すの得意だし……あと、なにより溝内って天然っぽいところあるからな」

「かおりちゃんが?」

「そうそう。美術部でかわいい系でほわっとしてるのはわかるけど、だからこそ純粋な感じがあそこまででてる子、あんまりみないわ。むしろ、偏見だとしても俺がしってるああゆうタイプはキャラ作りが多い」

「か、かおりちゃんはそんなことないっつうの!」

「つまり神示がいいたいのは、自分もそう思うからこそかおりちゃんは隠すとか以前に、恋愛関係とかのイメージが自分の中にないんじゃねってことがいいたいわけだよ」


 金髪の真司しんじの言いたいことを代弁する茶髪の和也かずや。先生に度々髪は怒られたりしてるけど、不良とかじゃなくてそれ以外については、真面目だし僕のこの片思いと思われる恋だって応援してくれてる。

 ていうか、このふたりも彼女持ちだし。どっちも僕の知り合いで、かおりちゃんの友達……だからこそ、こうやって相談にのってくれてる部分もあるのかもしれない。すごい助かってる。


「まあ、でも溝内さんが一番話してる男子お前だと思うし、このさい一発かましたほうがいいって絶対! オレもそう思う」

「和也が言うのはあてにならないんだよな~。鈍感だし」

「それを言われると痛いんだが……」

「でも、俺も1回くらい伝えてみるのはありだと思うぜ。それをきっかけに考えてくれるってのもまた一歩前進だからな。その後どうなるか怖さはお前にあるかもしれないけど」

「そうかも……でも、このままっていうのも幸せだけど怖いから……やってみる!」

「よし、その調子だ! ちいさい身体に大きな心の古川彼方ふるかわかなただぜ」

「ちっちゃいのは関係ないだろ!」


 うん、こんなふたりだけどずっと相談してきたし、信じて頑張ってみる!


 ***


 縁日の夜。予定時間よりもちょっと早めに、集合場所に辿り着いてしまった。具体的に言うと30分前に。

 しかも浴衣なんかきて。デザインは質素かもしれないけど、気合入れすぎとか思われたりしないかな。思われちゃったらどうしよう。


「あ、古川君。待たせちゃったかな?」


 緊張して、待っていたら話しかけられた。その声は紛れも無くかおりちゃん。僕はそっちを振り向きながら――


「ううん。僕も早く着いた、か……ら……」

「ど、どうかな?」


 僕は途中で言葉を失ってしまった。彼女は紺色を基調としたおとなしい色合いの浴衣。花の模様などもあってとても似合っている。ただ、なんていうかすごいかわいいんだけど、可愛すぎるというか、普段と違うなんかその雰囲気に飲み込まれちゃったっていうか。


「に、似合わないかな?」

「似合ってる! 似合ってるよ! とっても……かわいい」


 最後の方は小声で呟いたんだけど、聞かれてないといいな。本当は口にだすつもりなんてなかったのに、口に出さないとなんか倒れちゃいそうだった。


「もうお祭り始まってるしいこっ」

「う、うん。行こう!」


 お祭りはとても楽しい。男友達とまわった祭りとは全然ちがって、それが楽しくなかったなんていうつもりはないし、こちらも楽しいんだけど……なんていうか、楽しさだけじゃなくて充実しているというか。心がいっぱいになる楽しさ――そんな感じだった。


「なんか普段食べてるものでも、こういう時に食べるとさ。すごい美味しいって思う時ない?」

「あ、あるかも。古川君もそんなこと思うんだ」

「へっ!? 僕、いつもそういうことばっかりしか考えてないよ!! どんな風に思われてたの!?」


 かおりちゃんの前で変なことしてたかな。不安になってきた!?


「ふふっ、冗談だよ」

「からかってたの!? もう……」


 なんとなく、顔が赤くなってると思う。それをごまかそうと、手に持ってた缶ジュースを飲む。


「うぅん、ちょっと喉乾いたな」


 そんな時、彼女は無意識のようにそんなこと呟いた。言った後に、はっとしてる姿もかわいいと思ってしまう。


「これ、飲む?」


 僕は半分ほど残ってる、缶ジュースを差し出してみる。


「いいの?」

「うん」


 彼女は缶ジュースを両手で持って飲む。いつもの彼女だな。

 ただ、少しして何故か顔を赤くする……どうかしたのかな? アルコールは入ってないはずだけど。


「あ、あの……ありがとう」

「うん。飲んじゃってもいいよ?」

「う、ううん。大丈夫。まだ結構残ってるし」


 そう言って返された缶ジュース。たしかに女の子が豪快に飲むとかじゃないなら、残ってる方かも。残りは一気に飲み干してしまう。

 横を見ると、かおりちゃんの顔は赤い。本当に大丈夫かな――


「あ、あのさ……」

「ん?」


 何故かかおりちゃんは恐る恐るそう言ってくる。味の好み合わなかったのかな?


「これって、間接キスってやつかな……」

「…………あっ」


 そこでやっと彼女の表情を理解する。ていうか、なんで僕も全然気づいてなかったの!? やばい、なんかすごい顔暑くなってきた。


「古川君って、たまにそういう所あるよね……」

「そういうところって?」

「なんか、よくわかんない所で、抜けてるっていうのかな?」

「う、うぅ……」


 お互いを目を合わせられず空を見て、そんな風に話す。

 そしてかおりちゃんはこう言う。


「意識した?」


 僕はこう答える。


「……意識した」


 意識してもらおうと思って今日誘ったのに、何故か僕は意識することになってるよー!


 僕の喉は、ジュースで潤ったはずなのに、すごい乾いていた。


 ***


「ここが良いスポットなの?」

「うん。人少なくて、花火綺麗に見える所だよ」


 夏祭りも終わりの時間が近づく。この地域の夏祭りは最後に花火が上がる。

 できるなら、花火中になんてロマンティックなことしたいけど、音とか考えると現実的じゃないよね。


 穴場なせいでベンチとかはないけど、ちょうどいい高さの石垣はある。

 ふたりで隣でそこに座る。花火まであと5分。


「もうすぐだね」

「もうすぐだね」


 僕は彼女の言葉にそう答える。


 告白するんだ――でも、なんて!? 1年の頃から好きでした? 入学式の日に一目惚れしました? ちっちゃい身体でも、心にある愛は大きいです? わけわかんなくなってきた。


 混乱した頭のなか、石垣においてあった右手に温かい感触がある。

 少し見てみると、かおりちゃんの手がある。

 その手に僕は――少し触れてみる。

 抵抗とか逃げられたりすることはない。でも離す。


「楽しかったよ。今日」

「……うん。僕もすごい楽しかった。ありがとう」


 そんな話をしてるうちに、時間は過ぎていく。そんな時、また右手が、握られる。


「わたし、古川君のこと好きなのかな」


 そんな質問を、僕は多分すごい考えた。考えたはずだけど、自分でもよくわからず。


「好きかもね」


 そんな答えを返してしまった。


「僕は……溝内さんのこと、好きかも」


 かもじゃない。本当は好きなはずなのに。


「わたしも、古川君のこと好きかも」


 時間の流れがすごいゆっくりに感じた。だから、僕は――


「僕は溝内さんの……かおりちゃんのことが好きです」


 大きくも小さくもない声で、気持ちは最大に込めて言った。


「わたしも古川君……彼方君のことが好きです」


 はっきりと、そんな声が聞こえた。その瞬間に、空には花火が上がる。

 どんな花火だったかはよく覚えてないけど、綺麗だった。

 そして最後にその手を優しく握り返して、目があって、お互いに。


 ――大好きです。

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