第17話 末弟の縁談
それからはしばらく、美しいクリスマスの贈り物の話や、教会でのミサの話、あるいは先ほどの古い詩集の一節を互いに朗読したりと、和やかな雰囲気で午後の時が過ぎた。
時折妻君が疲れた様子を見せると、パリスは献身的に彼女の世話をし、汗を拭ってやったり、例の薬を入れた水のグラスを口元まで持っていったりした。
大貴族の子弟の過ごす午後としては、実に優雅かつ余裕のあるものだったのは、各所の教会や聖堂からの謁見の申し込みを、ほとんど全て義父のエスカラス大公が一人でこなしたからだ。本来なら、聖誕祭の当日の公爵家など、公爵本人はじめ一族郎党、各所からの使者への応対に追われているはずである。
そのあたりは、大公殿下はまだまだ養子に後を譲るつもりがないところを見せているのか、それとも病に伏せる妻を抱えた養子……いや、実の子を気遣ってなのか、どちらとも取れなかったが。
何にせよ、穏やかな時が流れた。
その会話の中で、先ほど話題に出たティボルト・カッツォの墓参の件が蒸し返されたときには、ウィレムは嫌な予感がしたものだが。
そのあたりは、さすがパリスが、うまく話題を反らしてくれた。
「お墓参りはあたたかくなってからって話したけどさ、そういやビル。君、いつまでヴェローナにいるの? 次の航海はいつなんだい?」
ウィレムは内心、悪友に感謝しつつ、わざとらしく辟易したような風を装って答える。
「それが、俺としては明日にでも海に出たいんだが、ちょいと次兄に止められててな。春先までは陸にいるよ。参ったことに、縁談が来てる」
「まあ、おめでとうございます!」
「とうとう年貢の納め時か、遊び人も」
ジュリエット夫人の無邪気な祝いの言葉と、厭味と皮肉と悪意の詰まったパリスの台詞に、ウィレムはただ苦笑いで応じるしかなかった。
「それでどんな家柄のお嬢さんなの、僕も知っている人かい? ヴェローナどころか北イタリア一帯の商家じゃあ、もう君ん家にふさわしい家なんてないよね。ちょっとした貴族だろ?」
パリスの分析はさすがに正確だ。
このヴェローナの経済の実権は、ほぼエスカラス公爵家とロザルド兄弟水運が握っていると言っていい。また周辺の都市、ヴェネチア、ミラノあたりは裕福な商家も多いが、教皇派と皇帝派の争いも激しい。ブレシアやラベンナあたりになると、こちらは平穏だが、ロザルド家の財力に見合う家柄は見当たらない。
海運や陸運、大農地を持つ商会同士が婚姻の絆で結束を固めていくのは、古来よりの貴族のやり方の模倣だ。事実有効な手段だが、真似をされる貴族の方は、存外これを嫌がるのもまた事実だった。商人が金を持ちすぎると、金は力となり、貴族の権威が落ちる。
借金の踏み倒しや利息の帳消しの法令を出す程度の大貴族ならまだいい。
ひどい実話がある。とある貧乏貴族が、妻と跡継ぎがスペイン風邪に罹患し、そのためにとある商家から金を借りた。ところが、借金と利息が膨らんで首が回らなくなったその貴族は、全てをなかったことにするために、神聖ローマ帝国の皇帝派と通じて、病床の妻子もろとも、金貸元の商家を街ごと焼き払ってしまおうとしたのだ。
これが、かの有名な『ボローニャ事変未遂事件』だ。もちろん、これは教皇派の迅速な手配でことなきを得たのだが。主犯とされた貴族は、既にスペイン風邪で死に墓に収められていた妻子の遺体を掘り起こされた揚句、そのふたつの死体と一緒にボローニャで最も名高いサンピエトロ大聖堂の前の広場に吊るされた。
そして、主犯とされた貴族の妹は、兄の不始末を恥じ、嫁ぎ先に迷惑のかからないように、自ら飲食の一切を断ってゆっくりとした自殺を遂げた。それならなんとか病死でもみ消せる。嫁ぎ先の家名に傷を付けず、夫に再婚の余地を与えるために、それは彼女にできる最良の選択だった。その嫁ぎ先が、比較的真っ当な商売をしている小さな商家だったというのがこの話の笑いどころだ。
かくも、婚姻の絆を結ぶのは難しい。
幸いにも、上の二人の兄たちは賢い選択をした。そしてついに、甘やかされ放題の末っ子にも決断の時が迫りつつあるというところなのだ。
「それともまさか、大貴族の姫君でも奥方に迎える? そのくらい、君の兄さんたちなら買ってくれそうだよ」
パリスの指摘が見事に図星で、ウィレムは仕方なく、肩をすくめてから打ち明けた。
「パルマ公、ファルネーゼ侯爵家の養女だそうだ」
「おいおい、とんでもない名家じゃないか。すごいな」
「そうなんですの、おめでとうございます」
確かにパルマ公ファルネーゼ侯爵家は、イタリア随一の歴史と威容を誇るパルマ大聖堂の、名誉と栄光あるパルマ聖堂騎士団の将軍・提督格を代々受け継いできた由緒ある家柄だ。名家中の名家、国中に知らぬ者とてない大貴族である。
パリスの驚きと姫君の純粋な祝辞は尤もだったが、ウィレムにはこれも皮肉っぽい笑いで返した。
「いや、うちの執事の調べだからまず確かだが、どこぞの下級騎士の娘を引っ張ってきて、俺にあてがおうってんだよ。パリス、お前が一番良く知ってると思うが、パルマ公は教皇派に寝返ったばかりだ。お前がヴェローナ大公になったときを考えて、お前と仲がいいってのが評判の俺んとこに売り込んで来たんだろうぜ。まあ、そううまくいくわけもねえやな」
「気に入らないのか」
パリスは意外そうに腕を組んだが、ウィレムは皮肉らしい表情のまま、冗談めかして答える。
「気に入らねえなあ。こちらのジュリエット姫様ほどの美人がいいとは言わねえが、せめてうちの兄貴の嫁さん連中くらいには見てくれか気だてがよくてくれんと困る」
「まあ」
軽い世辞にも、ジュリエットは少女のように恥ずかしがってみせた。
「ついでに、俺があっちこっちで美人に鼻の下を伸ばしていても怒らない女じゃねえともっと困る」
「そんな都合のいい女がいるもんか」
パリスは苦笑い混じりに吹き出したが、すぐにいつもの涼しげな微笑に戻る。
「とにかく、一度会うだけ会ってみたらどうだい? 下級騎士の娘だっていっても、案外いいお嬢さんかもしれないじゃない。ついでに、君が航海に出ている間、ジュリエットの話し相手にでもなってくれるようなご婦人なら何よりなんだけどね」
「そんな都合のいい女がいるかバーカ」
これには、ウィレムの方が渋面で返した。
「だいたい、養女とはいえ、あの大パルマ公の娘だぞ。下級騎士の小娘から大貴族様のお姫様に成り上がったってえのは、普通じゃあ考えられねえ掛け金で大博打の大勝ちをものにしたってことだ。そんな図太い女が、わざわざ俺みてえな平民の倅んとこに嫁にやられようってんじゃあ、まず納得しねえ。俺ならもっと上を狙う。それこそお前さんくらいのな」
「だったら、君ん家もそろそろ爵位を買えば? 高い買い物じゃないだろ」
友人の政治的知識を信頼していればこその会話だが、パリスは平然と言い放つ。
そう、金で爵位なんぞいくらでも買える時代だ。爵位どころか、必要なら司祭や枢機卿の位だって、ロザルド商会なら手に入れるだけの資産はあるはずだ。
「だが、そう簡単にはいかんだろうな。うちは、先代の大公殿下のおかげで、まあそれなりに大きな家にはなったが、まだ家名を興してからは三代しか経っていない。成り上がり者もいいところだ、一番上の兄ならまあまだ望みもあるだろうが、俺みてえなつまらん船乗りじゃあな。一代爵も買えねえよ」
ウィレムの分析も冷静だ。ついでに、爵位なんて面倒なものはいらないからさっさと航海に出たいというのも本音だった。
しかし、パリスは愉快そうに笑う。
「じゃあ、僕が大公になったら爵位を売ってあげるよ。アハルテケと交換ね」
「なんですの、そのアハ……」
聞き慣れない言葉に首を傾げる姫君に、パリスはとろけるような甘い声で囁いた。
「アハルテケ。この間、ジルベルト殿……ジル兄さんから教えてもらったんだ。鬣から蹄まで黄金色の馬なんだって。僕が大公になったら、お祝いに貰える約束なんだよ。ね、ビル」
「バカ兄貴どもが安請け合いしただけだ。無、理、で、す」
わざと強調して声を強めても、いかにも仲睦まじげな和夫婦の耳には入っていないようだ。
「まあ。わたくしも見てみたいですわ、金色の馬なんて。どんなに美しいのかしら」
「ね、君もそう思うよね、ジュリエット」
ああ、いや。聞こえているが無視されたな。
ウィレムはそう判断しつつも、既に自分の脳の片隅で、あの遊牧民たちといかに話を付けるかを考えはじめている自分に気づく。
「まったく、姫様にゃあ敵わねえな」
苦笑いを浮かべてから、ティーテーブルの上に残っていたデキャンタからワインを一気にラッパ飲みして、わざとらしく無法者を演出した。
「まあ、何にせよそう都合良くはいかねえよ。だいたい、こんな俺に貴族が勤まると思うか?」
「意外にいけると思うけどな」
と、パリスは例の、どこか冷ややかにも取れる微笑を浮かべてから、改めてにっこりと笑いかけた。
「その前に、まともな結婚生活が勤まるとも思えないけどね」
「だろ? やっぱりお前は俺のことをよく分かってるぜ、相棒」
こういう助け舟の出し方は、互いにもう長い付き合いだから分かり切っているとはいえ、やはり有難い。
二人きりならともかく、目の前には何も知らない無垢な子羊、麗しき姫君が、枕の山と山羊の毛皮をまるで女王の玉座のごとく鎮座ましましておられるのだから。
彼らのやりとりを楽しげに眺めていたジュリエットは、不意に思いついたような顔で、夫の方へと軽く身を乗り出した。
「でしたら、そのパルマ公の姫君を、お義父様……大公殿下のご主催の、新年をお祝いする舞踏会にお招きしたらいかがかしら? それなら、いかにもお見合いという雰囲気にもならないでしょうし。そこで少しお話をなさったら、船長様と、お相手の姫様のご相性というか、お心持ちが分かるかもしれません」
「ああ、いいね。来年の頭に晩餐会がある。そのときに舞踏会も催していただけるように、義父上に話してみよう」
「待て待て。勝手に決めるな、そこのおしどり夫婦」
自分を置いてきぼりのうちに話が進められているのに気づいて、ウィレムは急いで止めようとしたが、どうやら手遅れだったらしい。
ジュリエットは、夫から贈られた宝石細工の薔薇を両手で包むようにして見つめ、その感激に再び瞳を涙で濡らしながら、それでも何とも愛らしい笑顔を浮かべて夫に懇願した。
「舞踏会にはわたくしも、少しだけなら出てもいいでしょう? せっかく旦那様から、こんな素敵な花飾りを頂いたのですもの」
「もちろんだよ。それなら、ドレスも支度しないとね。君にはきっと薔薇色が似合うよ、早速ローマから仕立て屋を呼ぼう。ジルベルト殿に、明国の絹があるか訊いてみよう」
パリスも実に嬉しそうだった。そんな晴れやかで安らいだ妻の顔を見るのが、彼には初めてだったのかもしれない。
はしゃいだ口調で、ジュリエットが続けた。
「ジルベルト様って、船長様のお兄様ね? お兄様方にも是非ゆっくりお目にかかりたいわ。先日のおミサの時には、遠くからご挨拶しただけですもの。きっと素敵な方々なのでしょう? きっと……」
と、そこまで一気に話して、姫君の金髪の頭が、不意に崩れるように寝台に落ちた。
「ごほっ……うえっ」
少し前に口にしたものを戻しているようだ。
だが、パリスは嫌な顔ひとつせず、侍女すら呼ばずに、彼女の口元を拭い、汚れた閨着の前掛けを取り替えた。吐瀉物で汚れた毛皮の敷物は床に投げ出し、新しい毛皮を箪笥からとりだして敷き直して、そこに優しく彼女の体を横たえる。
「ああ、ついはしゃがせすぎちゃったんだね、ごめんよ。君はまだ病人なのに」
「楽しかったのですもの。ごめんなさい、パリス様」
「いいんだよ。僕も楽しかった」
パリスは優しく妻の額に口づけすると、山羊の毛皮の敷き布の上に最高級の毛布を肩までかけてやり、優しく言い聞かせた。
「今日はもう、少しお昼寝でもした方がいいね。夜も早めに休んだ方がいいよ。また時を忘れて、朝告鳥が鳴いたら困るしね」
「はい。そういたします」
と、不意に彼女は、毛布にかかった夫の手に自分の指を添わせて、不安げに訊ねた。
「今夜はお義父様の……大公殿下の晩餐会ですわよね? そのあとに、ほんの少し、少しだけでいいのです。お顔を見せにきて下さいませんか、旦那様。それならわたくし、心安らかに眠れる気が致しますの」
「ああ、ジュリエット。なんて嬉しいことを」
言われたパリスはあっという間に有頂天、最高に機嫌が良くなったのが端から見ても分かる。
「必ずおやすみの挨拶を言いにくるよ。君が眠るまで、ずっと手を握ってる。約束するよ」
「ありがとうございます、旦那様」
「さあ、食後のお薬を飲んで、今は少しの間だけおやすみ、ジュリエット。また後でね」
彼女は言われるがままに、夫の差し出した薬瓶から宝石のような液体を一滴口にし、枕の山の中から名残惜しそうにこちらを見つめた。
「お待ちしております、パリス様。船長様、ごきげんよう」
「ごきげんよう。よい午睡を、姫様」
扉を閉めたときには、既に姫君は眠りについていたかもしれない。
汚れ物の始末を侍女に命じてから、二人は塔を去った。
錬金術でも黒魔術でもどっちでもいい。それが神の教えに逆らうことなのもよく分かっている。
だが、塔の暗い階段を下りていく男たち二人には、彼女にはそれが必要なのだと……自分たちにはそれしかないのだと、外で吹きすさぶ雪風より冷酷に分かっていた。
長く細い螺旋階段を下りながら、ウィレムはふと、パリスに問いかけていた。
「舞踏会なんて開いて大丈夫なのか。鬼門にしか思えんが」
ことの顛末を全て知っている者ならではの忠告だが、パリスはごく当たり前のように、いつもの涼しげな表情で答えた。
「それは任せて」
自信たっぷりの目だ。
今までのやり口から見て、この手口は、恐らくパリスにとって最も得意な方法なのだ。
「分かった」
ウィレムは素直に、それを受け入れた。
人の心を操る技。それは、我が家の執事ばかりの技巧なのだと思っていたが。今ではすっかり、自分がパリスの片棒を担いでいる。皮肉と言えば皮肉だし、当然と言えば当然の成り行きかもしれなかった。
そんなことを考えていると、水槽のある塔の一階のあたりで、不意にパリスが訊ねてきた。
「それより、例の侍女はいいのか。君に縁談があると知ったら、僕たちを裏切ったりするんじゃ?」
「その心配はない。俺よりいい男を紹介した」
「君よりいい男?」
ウィレムはさりげなく、宵闇の散歩を装いつつ、中庭のベンチの一つにパリスと並んで腰掛けると、ひどく酷薄な笑いを上げて真実を告げた。
「うちの執事」
耳にした瞬間、パリスの白皙の顔色がさっと変わった。
「はあ!? まさかアイン・シャンのことを言ってるの!?」
「ああ、彼女はすっかりアインに夢中さ」
「まさか! いくら田舎娘でも、色付きと寝るのか」
無理もない。この時代、白人至上主義というより、人間と呼んでいいのはキリスト教を信じる白人だけで、それ以外は家畜以下の扱いだった。愛玩動物の方が、奴隷同然の召し使いなんぞよりよほど可愛がられたご時勢だ。
だがウィレムはこともなげに、下品に舌を出しながら笑った。
「色付きの方が巧いらしいぜ、ついでにでかいらしい」
「君ってやっぱり最っ低」
辟易したのか、ついに我慢の限界を超えたのか、それともその両方か。つくづく忌々しげに吐き捨てるパリスに、ウィレムは葉巻片手に追い討ちをかけた。
「もっと最低なことに、うちの執事は阿片使いだ」
「うっわ。君には負けるよ、この悪党め」
普通の人間なら、このまま席を蹴って立ち去るだろう。そのまま大公殿下か、教皇庁かに破門の宣告を頂戴に上がっても不思議はない。
しかし、彼がそんな真似などするはずはないことくらい、ウィレムにはよく分かっていた。
パリスは彼から新しい葉巻を受け取り、吸い口を切って、ゆったりと煙を吸った。
「まあ、納得だけどね。あの侍女の教会での立ち回り方なんて、ちょっとできるものじゃないよ」
「シャン家の間者に手ほどきを受けたらしい。あいつは人にものを教えるのが巧いしな」
陽が落ちかけていた。昼と夕暮れとの狭間の中、 モロッコ式の噴水のさらさらとした音。木々の梢が互いに触れ合う音、衛兵たちの見回りの靴音だけがかすかに響く。
冷えきった空気の中、ただ流れていく葉巻の煙。
そこでじっと動かない二人の青年は、まるでこの中庭の彫刻のようだった。
葉巻の一本が灰となって終わり、ようやくウィレムが思い口を開く。
「それにしても名演だったな、パリス。お前は役者になれる」
「君の方こそ」
「いや、俺の話のほとんどのところは嘘じゃねえ、俺たちの生い立ちなんてのはただの思い出話みたいなもんだからな。ティボルト殿のことも……ま、台詞は兄貴のだが」
「そう、僕たちの話は嘘じゃない。これっちぽっちの嘘もないよ。全て、何もかもかが事実だ。バルコニーの場面は、演者が違うだけさ」
そう言い切ったパリスの顔は、冷酷というより、まるで悪魔のように美しかった。
確かに、あの男……死んだ男の記憶を、ジュリエットは確かに、パリスとの出来事だと信じた。
だがそんなことが、果たして最後まで貫き通せるものだろうか。
「ああして、彼女が思い出すことを……一つ一つ、お前との出来事だと信じ込ませていくつもりか」
「まあね。幸いなことに、僕とあの男は髪も目の色も同じだ。恋するもの同士なんて、どうせ互いの目しか見ていない。なんとでもなるさ」
パリスの言葉はあくまで冷たく、平然としたものだった。何らかの確信があるような、完成された態度に見えた。
その氷の冷たさに、ウィレムは一瞬だけたじろぎ、すぐに思い直した。
「なんだか分からねえ北海航路の氷山に突っ込んで死ぬより、お前のために死ぬならいいや。全くお前は、生まれのいいならず者だ。この悪党め」
「道具立てを用意してくれているのは君だ。立派な共犯者だよ。悪党め」
「全く、涙ぐましい友情だな、相棒」
「ふふん」
二人はそれからもしばらく、中庭で葉巻を吸っていた。
何も語らず、何も伝えず。
ただ、噴水の音を聞き、いつかやってくるかもしれない夜を待ちながら。
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