第16話 山猫の騎士と呼ばれた男
「やっぱり……やはりあれはあなただったのですね、パリス様」
右手に宝石の薔薇を、左手に小さな詩集を握ったジュリエットが、夫の胸にすがるように抱きついた。
「よかった……よかったわ、本当に。心が安らぎました。救われたような気がいたします」
顔こそ見えなかったが、彼女が泣いているのが分かった。
「いつも、眠るのが怖くて……夢の中に……現れては消える影のような人が……いつも、ずっとわたしを、じいっと見つめているの。でも、わたしはその方の顔も思い出せなくて、こわいのに……でもとても会いたいような、そんな不思議な気持ちで……影のように顔のない人のことを思うのが、辛かった」
「もう夢なんか怖くないよ。夢の中でも、こうして僕は君の傍にいる。もう影じゃない」
「あなたですのね……あなたなのね」
パリスも泣いていたことだろう。そう。自分の演技に酔えるようでなくては、いい役者にはなれない。
姫君の手から滑り落ちた詩集をさりげなく拾い上げ、ウィレムは鏡台の上へとそっと置いた。
さすがは我が兄ジルベルト、実にいいものを探してきやがる。ついでに、ほんの数分で一言一句覚えてみせたパリスもお見事だ。
ウィレムは内心、大袈裟に拍手でもしてやりたいところだったが、胸に手を当て、神妙な顔をして、美しい恋人たち……いや、今や一組の夫婦となった美しい男女の姿を眺めるにとどめた。実際、一枚の絵を見ているようだった。
たとえ偽りの絵画でも、醜い真実よりずっといい。
もちろん、その真実を酷いものにした張本人が自分だとバレなければの話だが。
パリスが妻を気遣って、抱いていた力を緩め、枕の方へともたれさせながら、蜜のごとく甘い声で言う。
「長い話を聞かせて悪かったね、ジュリエット。疲れていないかい?」
「いいえ、少しも。お話が聞けて本当によかったですわ、パリス様。ありがとうございました。船長様も」
夫の胸から顔を上げ、こちらを見遣ったとき、ジュリエットの大きな瞳は、ひときわ黄金の輝きを増したように見えた。
「本当に素敵な贈り物。この薔薇も、この詩も。でもわたくしには、お二人のお話が一番素晴らしい贈り物でしたわ」
と、彼女は少し悲しげに頭をかしげ、すまなさそうに首を振った。
「申し訳ございません。わたくしからは、お二人に何も差し上げられるものがなくて」
「愛しているよ、僕のジュリエット。そうやって喜んでくれているだけで、僕には最高の贈り物だ」
パリスは心からそう思っているのだろう、宮廷のご婦人方なら見ただけで黄色い歓声を上げそうなほどの、最高の笑顔で妻の手を握る。
ウィレムはこの中で、最後まで道化を演じ切った。
「俺のことは、どうぞお構いなく。ちゃんとパリスの方からお代は頂戴してますからね」
「こら。今日だけは金の話はなしにしろよ、相棒」
「はいはい、じゃあ明日の朝一番に受領証を届けさせますよ、相棒」
なんとわざとらしい馴れ馴れしさ、とんだ茶番だ。
それでも疑うことを知らない姫君は、声を上げて笑った。
「うふふ。お二人は本当に仲がおよろしくて、わたくし、ご一緒にいるだけで楽しい気持ちになりますわ」
「それはよかった。じゃあビル、明日から毎日来て」
「無理だよ。バーカ。お前らが船に来い、床を磨かせてやるぞパリス。ああ、姫様は操舵室でお茶でも」
ウィレムがうまく悪態で締めようとしたところが、パリスが思いもかけないことを言った。
「そういうところ、ジル兄さんにそっくりになってきたね」
「おいやめろ、怖いこと言うなよ!」
二人の様子に、姫様は楽しそうに笑っている。
愛されている実感のゆえか、本当に不安が払拭されたのか、清らかな笑顔だ。
愚かな男どもの喜劇、いや、無様な笑劇は成功したと言えるだろう。少なくとも、今のところは。
和やかな雰囲気で会話が進むかと思われたその時。
「そういえば、ウィレム様のお話を伺って気になってしまったのですけれど」
「何を?」
ジュリエットの言葉に、パリスの形のいい眉がわずかに動く。
ウィレムは鋭く目配せした……警戒しすぎるな、芝居がもう少し続くだけだ、と伝えようとしたが、彼は神経質そうに眉根に皺を寄せたまま、労りを装った視線で妻の表情に見入っている。
彼女は夫の反応には気づかないのだろう、ただ愛くるしく首を傾げて、また何かを思い出そうと口ごもる。
「ああ、いえ、先ほどお話くださった、わたくしの従兄の……ええと……」
「ティボルト殿ですな。ティボルト・カッツォ殿。姫様のお母上の甥御様です」
パリスが口を挟む前に、無礼を承知で、ウィレムが素早く言い終えた。わざと船乗りらしい手短な口調にしたのは、余計なことを喋らせないためだ。
最善の選択をしろ。時は俺が稼ぐ。
今度は、パリスにもその意図は伝わったらしい。彼にはこの状況に対処するために、考える時間が必要だ。
パリスは優しく妻の手を握り、彼女を労る様子を続けながら、必死に頭を巡らせているはずだ。
無論そんなことを知るはずもないジュリエットは、夫の手に自分の手を重ねてから、勇気を振り絞ったような声で訊ねた。
「従兄は、皇帝派に……殺されましたのね?」
「はい。残念ながら。俺は、できればご婦人の前では、あまりこういう血なまぐさい話はしたくないんだが」
「いいのです、わたくしが教えていただきたいの。船長様、お願いいたします」
黄金の瞳の懇願に捕まって、逃げられる男など早々いるものではなかろう。ウィレムは仕方なさそうに肩をすくめてから頷いた。
「犯人は捕らえられましたの?」
「捕えました。大公殿下の護衛兵が」
いつもの軽快な口調はなりを潜め、いかにも船長然として、高貴な身分の方へのご報告と言う体裁にした。
「正確に言えば、自らの犯した罪の重さに耐えかねて、廃墟同然の聖セバスティアヌス教会で自死していたのが見つかったのです」
事実を淡々と語っているように見える。その方が説得力がある。
奇しくも、執事と次兄の整えてくれた装束が役に立った。今の彼は、パリスの友人の楽しい海賊さんのビルではなく、ロザルド水運商会第一外洋航海船舶船長ウィレム・ロザルドだ。
「ですから、あの教会をあんなに美しく作り替えたのは……表向きは新しい神父様をお迎えするための改修ということになっておりますが、大公殿下のご本心は、古い血なまぐさい歴史を消し去っておしまいになりたかったのでございましょう。ヴェローナのためにも、奥方様とパリス殿下、お二人の未来のためにも」
わざと二人に敬称を用いたのも、話題をできるだけ深刻に、真実味を持って受け取らせるための演出だ。
「大公殿下は、その下手人とそれに加担した者どもの死体を、あの円形闘技場(コロッセオ)で縛り首にして晒しました」
「まあ……」
ジュリエットは口元を押さえたが、それだけでは隠せないほど動揺した。
ヴェローナの最も有名な古代遺物は、かの円形闘技場だ。ローマ帝国の、それこそパクス・ロマーナの時代から受け継がれた名所中の名所。かつては剣闘士たちが互いに、あるいは獣どもと殺し合いを演じ、今でも誇り高き騎士たちの騎馬決闘の会場としては一番人気だ。
ざっと三万人は客が入れる大きさの闘技場の真ん中に、わざわざ絞首台が組まれ、両手両足を縛られた死体が四つ、首つり縄をかけられて突き落とされた。とうに死んだ人間がぶら下がっただけだというのに、見物客は熱狂の声を上げたものだ。
今も昔も、死が最高の見せ物であることに変わりはない。
「当然の報いだ。君の大切な従兄を、僕たちの大切な友人を殺めるなんて」
パリスもようやく頭が回りはじめたらしい。彼は妻の額に短く口づけすると、勇気づけるようにその肩を抱いた。
いいぞ。相棒、調子が出てきたな。
ウィレムはそう判断し、口調を少し崩して、というより、いつもの荒くれ者らしさに戻して続けた。
「闘技場には満員の人だかりでしたよ。刑死になった奴の持ち物ってえのは、船乗りにとっちゃ厄よけのお守りだって言われてるんです。死体が下ろされた途端に剥ぎ取り合いの奪い合い、指輪や首飾りはもちろん、服もブーツも端切れになるまで千切られて持っていかれます。まあ、一番人気があるのは死刑囚の歯なんですがね。奥歯を首飾りにすると難破しないって言い伝えがあって、ヤットコでこう引っこ抜く」
「ひっ」
「ああ、こいつは失礼しました。つい調子に乗っちまって。血なまぐさい話は嫌だと手前で言ったのにな」
ジュリエットが短い悲鳴を上げるのは見越していた。ちょっと怖がらせてやらなくては、死のおぞましさに現実味が出ない。
道化役というのは大変だ、船長と海賊と、ついでにパリスとジュリエットのお守りまで一人でこなすのだから。
と、ウィレムはまた口調を、比較的堅苦しいものに戻して……それでもところどころでは、故人への親しみを示すために話し方を変えた。
「ティボルト殿の名誉のために申し上げるが、彼は腕の立つ男でした。カッツォ(猫)という御名になぞらえて、『カバリエ・ディ・カッツォ(山猫の騎士)』なんて異名で呼ばれたほどのお方です。お人柄もとても勇猛で、胆が据わってて、義理堅く、信仰の篤い、尊敬に足る人物でね。あんなことさえなければ、今頃はパドヴァの聖アントニオ騎士団に師団長として着任なさっているはずだった。俺は結構、あの人に信仰のことや女付き合いのことじゃあ説教されたけど、でも、航海のことはいつも褒めてくださってました」
いささか褒めすぎではあるが、大体の部分で真実だ。特に聖アントニオ騎士団の団長の件は、我が信頼する長兄カイラス・ロザルドが仲介に入って権利を購入したのだから間違いがない。
「俺が十五で船乗りになるって決めたばっかりの時にね。あの人は、海に立ち向かう勇気のある奴だけが船乗りになるんだ、お前は嵐に向かっていく勇敢な男だ、って言ってくれたんだ。本当に嬉しかったですよ。柄にもなく、誇りに思った」
そのとき、ウィレムは軽く目を伏せて、その時の感動を思い起こした。
ただし、その台詞を言ってくれたのは、いま話題に上っている『山猫の騎士』ではなく、長兄カイラスだったのだが。
使えるものは自分の思い出でも使え。売れるものは魂でも売れ。それがうちの家訓だ。
ウィレムはわざとらしく涙を堪える芝居をしながら、ジュリエットに向かって口元だけで笑った。
「なんていうのか、ティボルト殿は、男の中の男、って感じかな。上手く言えねえけど」
「船長様は、従兄のことがお好きでいてくださったのですね」
彼女は心から労しげにこちらを見つめる。
顔も覚えていない従兄のことより、目の前で洟をすするふりをしている男の方が心配というあたりは、ジュリエットらしいといえばらしいのだが。
やはりここは、もう少し盛り上げた方が良さそうだ。
「ええ。俺はあの人のことが好きでした」
ウィレムは言いながら、素早くパリスに目配せをした。今度は一瞬で伝わった確信があった。
「僕も好きだったな。ジュリエット、君のこともね、従兄としてというより、一人の騎士として、誇り高い戦士として守りたいと思っておられたように見えたよ」
パリスは穏やかだがしっかりした口調で、妻に言い聞かせる。
そうだ、よし。いいぞ。
ならばこちらも、芝居に気が乗ってくるというものだ。
「ああ。そうとも。正々堂々とした決闘なら、ティボルト殿はそう簡単に負けたりしなかったはずだ。いや、あの人が負けるはずがない、そもそも負けてなんかいねえんだ。闇討ち同然に襲われた、だから殺されたのです。それも一対一じゃなく、犯人とその一味によって」
ウィレムは我ながらいささかやりすぎかと思ったが、怒りを抑えきれない風を装い、椅子を蹴って立った。
「許しがたい。許せるもんか、そんなこたあ! ああ……これは、とんだ失礼を」
と、軽く頭を振り、ジュリエットに深々と一礼して詫びた。
冷静さを取り戻そうと必死になっているふりをして、水を飲むのも、わざとらしく溜め息をつくのも、もちろん忘れてはならない。
「ともかく、主犯とその一党は正当に処断され、また犯人の一族につきましても、大公殿下が領地と資産を全て没収して、犯行に少しでも関わったものは投獄、それ以外の者も追放となさいました。正しいご判断だったと思います。それがきっかけになって、この街では過激な皇帝派は粛正されましたし、もっと利口な者はほとんど隠遁するか、法皇猊下にお許しを願い出ました。ヴェローナの治安は回復しました、神のお恵みのある街に戻りましたよ。もう貴女様の御身に危険が及ぶことはありません」
激昂したふりは疲れる。だが、紳士のふりはもっと疲れる。
ウィレムはジュリエットを安心させるために出来るかぎり温厚そうな笑みを浮かべてから、普段彼女に見せている顔に戻って見せた。
「おかげで、我が家も安心して商いに精を出せます。有難いことですよ。まあ、俺は仕入れ担当なんで、儲けは上の兄貴が出すんですがね」
いつもの皮肉めいた笑みの方が、彼女の心を解きほぐす効果は高かったらしい。ジュリエットは美しい顔にごくわずかな悲しみと微笑とを浮かべて、貴婦人らしく軽く会釈した。
「そんな恐ろしいことがありましたのね……お話し下さってありがとうございます、船長様」
「いえ、こちらこそ。俺も、どなたかに聞いて頂きたかったのかもしれません。『山猫の騎士』は一度も負けてはいないってことを」
「僕たちの英雄だったものな、ティボルトは」
パリスがうまく言葉をつないでくれた。彼の話術は、本当に宮廷で相当鍛えられたらしい。なんと、ウィレムの物語を保証し、ついでに自分の自慢までするという離れ業までやってみせた。
「僕の剣の指南も、子供の頃からこっそりティボルトがしてくれていたんだよ。だから、僕もこう見えて、結構強いんだから。君のことは命を賭けて守るからね」
「こう見えてどころか、こいつの腕は本物ですよ。俺なんざ足下にも及ばない、というより、まともにやり合って勝てるつもりがこれっぽっちもない」
ウィレムは謙虚さからではなく、本心からそう言った。
「ふふん」
パリスはと言えば、当然だとばかりに鼻で笑ってみせただけだ。それが厭味に見えないのだから、美男はなんと得なことか。しかもこの色男には、本物の腕前をさらに格上げする異国のサーベルまでぶら下がっている。
その剣の技は、妻女の耳にも既に届いていたらしい。ジュリエットが夫を見る目は、心なしか誇らしげだ。
「パリス様のお腕前は、侍女から聞きましたわ。銀の鎧を二つに切ってしまったって」
「本当の話ですよ。綺麗にまっ二つだった。何しろ俺はその場にいたんだから、保証しますよ」
「でもティボルトなら、もっと綺麗に切ったかもね」
パリスがわざと楽しげに思い出話を……ジュリエットが思い出せないでいる過去の世界について語っているのに気づいて、ウィレムはその話に乗った。
「いや、多分ティボルト殿なら、こう言ったさ」
と、いかめしいしかめ面を作り、ことさら声を太くして、生前のティボルト……彼女の知らぬ従兄の物真似を試みた。
「わしにはこんなサーベルはいらぬ、こんなものはバターナイフじゃ! 両刃の重剣を持て! この屋敷にある最も重い剣をだ!」
これには、思ったよりも似ていたと見えて、あるいはひどく滑稽で、パリスのみならずジュリエットまでが笑った。
「ああ、そうだ、きっとそうだ。それで、一発で鎧をぺっちゃんこにしたよ。切るなんて面倒なことはしないでね」
「そんな方でしたのね、本当に豪快だわ」
その有様を想像したのだろう、ジュリエットは夢見るように金色の瞳を細めた。
そして、そんな勇壮な従兄のことをかけらほども覚えていない自分に気付き、少し悲しげな笑みを浮かべた。
「わたくしも、その従兄に会ってみたかったわ……あ、いえ、なんて言ったらいいのか」
「いいんだ、分かるよ」
パリスは優しく妻の額に頭を持たせかけ、彼女の美しい金髪を繰り返し撫でた。
「親しいはずの人に、会ったことすらないような気がするなんて。君は、僕たちなんかよりずっと辛いし、苦しいだろう」
「はい。会いたいです……いえ、思い出したいですわ」
彼女の瞼は軽く閉ざされ、そこからは細い涙の筋が流れ落ちた。
自らの信仰と信念のために、命を捧げた男がいる。
自分たちの街を守るために、無惨にも殺された男がいる。
それほどに素晴らしい人物が従兄だったと知って、彼のことを何ひとつ思い出せないとは、身を焼かれるような思いだろう。
妻の髪を優しく撫でながら、なんとも美しい声色で、しかしパリスはとどめの一言を言い放った。
「懐かしいなあ。会いたいよ、ティボルトに」
「俺もだ」
「やはり皇帝派は許せぬ。残党どもも全員吊るす」
それは義父の大公の演説そのままの台詞だったが、パリスの端正な顔から、冷たい氷のような声で発せられると、また違う凄味があった。
その迫力に、傍らの妻は一瞬息を飲んで、夫の美しい横顔を見つめたものだが。
ウィレムはそのやり取りを眺めて、十分満足した。
実際、パリスは完璧にやった。
感傷的な台詞の後の厳格な処刑宣言のせいで、ジュリエットの心は一瞬、当然そちらに向けられた。
すなわち、既に死んだ素晴らしい男は従兄のティボルト・カッツォだと、彼女の心にはしっかりと刻まれたはずだ。他の名前も存在も、彼は……いや、彼とウィレムは、彼女の中から巧妙に消し飛ばしたことだろう。
何もかも計算通りだ。
共犯者たちの目配せはほんの一瞬だったが、それだけで全てが伝わった。
かくしてウィレムは、過去の英雄を懐かしむ少年から、荒くれ者の頭領の顔へとすみやかに戻り、口元だけの笑みでジュリエットに謝した。
「すみません、姫様。俺のせいで、なんだか湿っぽくなっちまって」
「いいえ。従兄がお二人にそんなに慕われていたと知って、とても嬉しゅうございます」
答える彼女は、本当に心から感謝しているようだった。わずかに潤んだ目も、赤らんだ目元と頬も、感激の余韻にまだかすかに震えている肩も、何もかもが美しかった。
枕元に常に置いてあるのだろう、彼女は銀のロザリオを取り出して握り、神への祈りを捧げてから、控えめな態度で夫に願い出た。
「パリス様、ご都合のよろしいときにで結構ですから、従兄のお墓に連れて行っていただいてもよろしいですか?」
「ああ、君の体調がいい日に、皆で行こう。もう少しあたたかくなったら、天気のいい日にね」
「なら、ティボルト殿が大好きだったポートワインと鴨肉のパイを忘れんなよ」
と、ウィレムは最後にもう一度、道化の仕事を果たした。
「ふむ、このパイは少し火が通りすぎだな。わしはもっと赤肉が多い方がいい。お前たちももっと肉を食え、肉は血の源だ、戦士は肉を食わねば戦えぬぞ!」
「あはは……お墓の下からまでお説教されるのか、僕たち」
「そりゃそうだろ、相手はあの『山猫の騎士』だぜ」
たいして似てもいない物真似だったが、ウィレムの言葉に、夫婦は顔を見合わせて笑った。
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