第15話 薔薇色の月(後編)

「やあ、ご機嫌いかが、お姫様?」

「まあ、旦那様、こんなお時間にいらっしゃるなんて思いませんでしたわ……お仕事はよろしくて?」

「僕には大した仕事なんてないさ、このヴェローナは義父上の掌の上だもの」

 姫君の塔の扉の向こうからは、もはや聞き慣れた、穏やかなやり取りが聞こえてくる。

「今日は、具合はどう? ちゃんとお薬は飲んでる?」

「はい。毎日、お食事の後と寝る前に」

「だから最近顔色がいいんだね。美人がいっそう綺麗に見えるよ、君は本当に美しいね」

「恥ずかしゅうございますわ、旦那様」

 最近となっては立ち聞きするのも面倒になってきているが、こればかりは身に染み付いてしまったもので、やめようと思わなければやめられないし、今のところやめなくてはならない理由はなかった。侍女という諜者を入れてあるとはいえ、自分の耳で聞いてこそ分かることもある。

 パリスがことさら楽しげな声になるのが聞こえた。

「あのね、今日はクリスマスだから、君に贈り物があるんだ。だけど僕一人じゃあ、あんまり自信がないから、ビルに……っていうより、彼のお兄さんのジルベルト氏に選んでもらったんだよ。ビルには配達がてら、そのまま遊びにきてもらったんだ。入ってもらってもいいよね? 君の大好きな海賊さんだ」

「ええ、もちろんですわ」

 応じる姫君の声も弾んだようだ。こういうちょっとした声色の変化は、やはり他人が文字にした会話では伝わらない。そして、それが時に重大だったりもする……などと、こんな酷い躾をしたのもあの次兄と執事なのだから皮肉なものだ。

「もうお昼は終えたのかい?」

「いいえ、なんだか食欲がなくて」

「ならちょうどいい、僕らと一緒に食べよう。ひとりで食べるんじゃ寂しいから、食も進まないよね。ビルの楽しい冒険譚を聞きながらなら、君だってちょっとは美味しく感じるよ」

 どうやら歓迎されているらしい。もちろん嫌われている心配はしていなかったが、もし姫君が高貴な貴族としての意識を取り戻したら、パリスとウィレムの関係は不信感を持たれてもおかしくはない。何しろ、親しすぎる。

「さあビル、入って」

「せっかくお休みのところ、お邪魔をして申し訳ありません」

 招き入れられるままに帽子を取りながら一礼すると、ベッドの上で身を起こしたジュリエットが、分厚い革装丁の、彩色画入りの本をこちらに向けて差し出して微笑んだ。

「いいんですの。わたくし、休んでなんていませんでしたわ。ほら、旦那様がくださったバイキングのご本を読んでいたところですのよ。先日の、船長様のバイキングのお話が楽しくて」

「そいつは何よりだ」

 ウィレムはできるだけ自然に微笑したつもりだったが、もう立派な貴婦人と言ってもいい年齢の女性が、貴族の子弟向けの冒険書を手にはしゃいでいるのが、いささか可笑しかった。

「でも、パリス様、ひどいわ。お客様がいらっしゃるなら、先に言ってくだされば身支度くらいしましたのに」

「おいおい、君は病人だよ。ドレスでベッドに寝るつもりかい?」

「それでも、閨着のままよりずっとよろしいでしょう?」

 ジュリエット姫は、確か十六歳になられたくらいだったか。しかし、こうして髪も結わず、絹の閨着にレースの肩掛けを羽織っただけの姿は何とも無防備で、同時にひどく幼く見える。心の内が赤子同然なのだから当たり前かもしれないが、パリスの前で拗ねてみせるのも、本当に幼子のように可憐だ。

「お姫様は何を着ていてもお姫様だよ。そうだろ、ビル」

「もちろん」

 水を向けられて、ウィレムは如才なく頷いた。

 塔に入る前に命じておいたせいで、軽い午餐の支度はすぐに整った。ベッド脇に張り出しテーブルをしつらえ、枕の山にもたれたままジュリエットが食事できるようにしてある。本来なら夫のやることではなかろうが、ジュリエットの小さな口元に銀のスプーンを運ぶのも、パンを小さく千切って手渡すのも、何もかもパリスが行った。彼がこの場にいるかぎりは、たとえそれが動く家具である侍女であろうが、他のいかなる者にも妻には触れさせない。そう宣言しているようにも見えた。

「美味しゅうございますわ、このスープ……とても綺麗な若草色」

「気に入ってくれてよかった、朝摘みのアスパラガスを鶏のスープで茹でて、裏ごしさせたんだよ。ほら、アスパラガスは昔から体にいいっていうから」

「こちらは?」

「干しイチジクを赤ワインで煮戻したジャムに、ビルがこの間教えてくれたデンマークのチーズを混ぜたんだ。軽く焼いた白パンに合うんだって。よかったら、少し味見してみて」

「まあ、美味しい!」

 白磁のような美女の顔が一段と輝く。その笑顔に、パリスは自らが食事をするのも忘れてすっかりご満悦だ。

 そんな幸福そのものの夫婦……というより、子供のままごとのような有様を横目で見ながら、ウィレムは無作法にならない程度にワインとチーズだけ口にした。今すぐ食えと言われればラム肉の塊でも食える程度に空腹だが、水の一滴すらもない餓えさえも何度も経験している。自分はこの場にいるだけの、ただの飾りだとわきまえていた。

「さあ、食後のお薬を」

「はい」

 パリスに促されるままに、姫君は何の疑いもなく、悪魔の血の一滴を飲み干す。

 確かにあの白子の錬金術師は天才だ。温かなスープや甘いジャムでは白皙のままだった姫君の顔色が、すぐにふんわりと愛らしい薔薇色へと変わる。瞳の黄金色はいっそう増し、それでいて白昼夢でも見ているように瞳孔が開いていた。

 さて、そろそろ俺の出番か。

 ウィレムは侍女が張り出しテーブルや食器類を下げるのを見計らい、最後のワインを喉に流し込んで、下げられていく銀の皿へと捨て置いた。

 さあ、ただの家具、部屋の飾りになりきっている時間は終わった。

 ここからは自分の、すなわち前座には前座の役割がある。

 ウィレムはそれまで座していた鏡台の椅子から下りて、絨毯の床に平伏し、ジュリエットのベッドに向かって、恭しく臣従の最敬礼を取った。

「これは我がロザルド家から、公爵継息夫人にクリスマスの贈り物です。お気に召せば幸いでございます」

 そう言いながら差し出したのは、小さな銀細工の虫かごだった。中には螺鈿でできた、きらきらと虹色に輝く玉虫のブローチが入っている。

 明国からの輸入品だ。異国情緒好みのヴェローナ大公に限らず、当時のヨーロッパでは東洋の昆虫のモチーフが爆発的に流行していた。中でもこれは、執事が親戚づてに取り寄せさせたもので、その筋の名人の作品だそうだ。姫君はまだお気づきではないようだが、実はこの玉虫、羽も開くし、脚も触覚も動く精巧な作りになっている。

「まあ、綺麗! よろしいんですの、こんな高価なものを」

 驚きの表情でこちらを見下ろす夫人に、パリスは当然のように言い放った。

「遠慮せずに貰っておきなよ、ジュリエット。どうせこいつ、あっちこっちの港で、これよりずっと高価な宝石を女にばらまいてるんだから」

「バーカ。いい女にだけしかやらねえよ」

「おい、僕の妻を口説くなよ」

「俺は命は惜しくはないが、わざわざ自分の命を縮めるような真似はしねえよ。俺がお前に勝てるわけねえだろが、こん畜生め」

 床から立ち上がりながら悪態をつき、再び軽く椅子に座る。ジュリエットの大きな金色の瞳は、作り物の昆虫の放つ七色の光に吸い付けられていた。

 目の前の男二人の会話など、彼女の耳には入っていないだろう。

 全てが台本どおり。いい演出だ。

 さあ、前座は終わりだ。本番はここから、見所はここから。ウィレムは皮肉っぽく笑いながら、相棒の方を見る。

 しかし彼は既に、こちらのことなど完全に無視していた。

「それから、これは僕から」

 パリスはわざわざ一度妻のベッドから下り、片膝をついて、上着の隠しポケットから、黒絹に包まれた贈り物をそっと取り出す。

 その柔らかな布を、彼は慎重な手つきで開き、そこから輝く一輪の花を彼女に差し出した。いや、それは差し出すというより、捧げるという方がずっとふさわしい、厳かな動作だった。

「まあ……薔薇」

 薄紅色の薔薇。

 そんなものは所詮、自然の模倣に過ぎない。たとえそれが、金銀宝石やエナメルで形作られていようとも。

 だが、それが……その色、その花の種類、その一枝の形に、意味があるのだ。

「こんな真冬に咲いている花は見つけられなかったから、宝石細工で我慢してもらえないかな」

 申し訳なさそうに微笑むパリスに、ジュリエットは首を振った。確かに彼女は、この薔薇に心を動かされたのだ。

「嬉しゅうございますわ。嬉しい」

 そう夫の顔を見つめる金色の瞳には、かすかに涙さえ浮かんでいた。

「本当は、君が目覚めたときに枕元においておきたかったんだけど、さすがに無理だったよ。ごめんね」

「そんな、とんでもありません。本当に嬉しいの」

 彼女はその花飾りをじっと見つめて、美しい瞳を細めた。

「どうしてかしら。頂いたばかりのお品物なのに、なんだか懐かしい気がいたします。懐かしい、愛しい気が」

 その瞳の中の、黄金の揺らぎ。

 パリスも恐らく気づいているだろう、これが賭けだということを。このちっぽけな宝石の塊が、彼女の中に、何かを呼び起こすかもしれない。

 それをいい賽の目に転がすのは、こちらの手腕次第だ。

 パリスは妻の傍らに戻ると、薔薇の花飾りを手にしたジュリエットの、その小さな手の甲にそっと手を添えた。優しく、労るように、そして過去を懐かしむような響きを視線に乗せて。

「ああ。僕から君への最初の贈り物は、ちょうどこんな、一輪の薔薇だった。まだ僕たちが子供だった頃……ガルダ湖の岸辺の崖の先に咲いていたのを、君が欲しがって……僕が崖を下りて、取ってきたんだ」

「わたくしたち、その頃から、将来を誓い合っていたんですの?」

「そうじゃないよ。ただ僕は、君の喜ぶ顔が見たくて、ただそれだけの理由で薔薇の花を取ってきた。それは今でも、少しも変わってはいないよ。僕はその頃から、ずっと変わらず君を愛してた。君はそんなこと、知らなかっただろうけどね」

「旦那様……」

 ジュリエットの黄金の瞳から、ついに感動の涙が滴り落ちた。

「覚えていないの。わたし、覚えていないの。ごめんなさい、本当にごめんなさい」

 彼女は声を上げて泣いた。夫への敬語も、来客の存在すら忘れて。それまで必死で取り繕っていた貴婦人の仮面が、ついに外れた。

「いいんだ。いいんだよ。僕は君がいてくれればそれでいいんだ、ずっと。子供の頃からずっと」

 パリスはただ優しく、力強く、妻のやせ細った体を抱きしめた。

「僕のお姫様は、僕の天使は、君だけだ。僕は永遠に君のものだ」

 何千回と繰り返されたであろう愛の言葉に、ジュリエットはさらに泣き伏した。

 何千回と放ち続けた愛の矢が、ようやく一矢、彼女の心に刺さったのかもしれない。

 上出来だ。

 単なる見物人になり切っていたウィレムは、友人がうまくやったと分かっていた。

 しかし、この舞台がこれで幸福な終わりを迎えるはずがないことも、十分すぎるほど承知していた。

 ジュリエットが泣き止み、いささか落ち着きを取り戻し……夫の胸から顔を上げた。

 さあ、第二幕だ。ここからが、役者としての俺の出番だ。

「あの……では、もしかしたら」

 予想通り、彼女は心の奥底にかすかに浮き上がっては沈む記憶の欠片をつなぎ合わせて、夢でも見ているような声で言った。

「いつのことかは覚えておりません。でも、ぼんやりと……覚えがあるのです。どこか、夜の……バルコニーで、わたしは誰かを待っていたような気がします。月が……そう、月が出ていたような。そうして、こんな風にどなたかに手を握ってもらったような……」

 ジュリエットはパリスの空色の目を見つめて、問いただすように訊ねた。

「あれは、あなたですの?」

 疑いではない、純粋に思い出せないがゆえの問いだろう。だがそれを彼女の目の見て頷く勇気は、果たしてパリスにあるかどうか。

 ここで道化が技を見せなくてどうする。

「ああ、それね」

 と、ウィレムはあごに手を当てて、いさかか考えるふりをしてから、相棒の方を大袈裟に振り返った。

「もうネタばらしちゃってもいいよな、パリス」

「何を?」

 答など訊いていない。

 ウィレムは軽快だが明確な口調で語りはじめた……彼と彼女の物語を。

「それはね、姫様。パリスがまだ公爵家の養子になるかどうかって瀬戸際で、貴女との婚約もしていない頃の話だ。その頃のこいつは、大公殿下の遠いご親戚という扱いで、街外れの古い館に一人で住まわされていたんです。まあ、要するに大公殿下がこいつの行状や人柄を見計らっていらっしゃったんでしょう。可哀想にね、腫れ物扱いみたいなもんでさ。召し使いの一人もいやしない。あんまり気の毒だったから、うちのお袋が……あー、私の母がですね、お身の回りのお世話ができる下男を、押し掛けで仕えさせてたくらいだったんです」

「あれは有難かったよ。本当に、君の母上にはご心配ばかりかけたよね、今でも恩義に思ってる」

「まあ、そんな話はいいやな」

 と、わざと話の腰を折ってから本題へ戻す。

 まるきり商人の技術だ。

 本当に大事な商品を売り込みにかかる時は、前口上が一番大事だと、ウィレムは長兄から教えられてきた。

 前口上は大袈裟すぎてはいけない。

 出来るかぎり事実がいい。

「それで、その頃はジュリエット様が十三か十四か、とにかく大切なお年頃だったから、キャピュレット様のご両親も、パリスや俺らや、とにかく若い男連中との付き合いを一切お禁じになっていたんです」

 ウィレムはそう言いおいてから、慌てたふりをして付け足した。

「ああ、ご両親様を悪く言うつもりはないんですよ、お気を悪くなさらないでください。その頃は、教皇派と皇帝派の争いが特に激しくて、この街はひどく危なかったんだ。毎日のように殺し合いがあって、街じゅう、剣戟の音と銃火の煙、怪我人の呻き声と、血の臭いで満ちていた。道を歩けば死体が転がってるのが当たり前でした。あなたの従兄のティボルト殿も、そのために命を落とされたのだし。ご両親はとにかく、御身がご心配だったんでしょう」

「まあ」

 ジュリエットが少し驚いたようなため息をつく。

 彼女が自分の話に引き込まれているのを確認するには、十分すぎる反応だった。

 そしてついに、ウィレムは物語の核心へと踏み込む。

「でも、このパリスの馬鹿野郎がね、その頃にゃあもう姫様に夢中っていうより、本気で恋の矢に撃たれてたもんでね。どうしても、一目だけでも貴女様に会いたいって言うもんで。それで俺が手引きして、貴女様のご実家のお屋敷の寝室、そう、白いバルコニーのある可愛らしいお部屋でしたね。あのバルコニーにちょうど手が届くくらいの高さに、お庭の樫の木の枝をちょっとばかり剪定させた。庭師に小遣いくれてやってね」

 さて、ここからが道化の芸当だ。

 とくとご覧じろ、公爵継息閣下。

「それでパリスが貴女のところへ忍んでいった。ええ。綺麗な月の夜だった」

 彼は不意に立ち上がり、ステンドグラスの窓へと手をかけた。

 ステンドグラスとは名ばかりの、これは鉛とガラスで作られた厳重な格子戸だ。まともな男では開けるのにも苦労するだろうが、ウィレムはそれを、力任せに押し開けた。

 冷たい風。奥方の体を案じて、パリスが彼女の肩に白い毛皮をかける。

 開いた丸窓のちょうど斜め先に、真昼の月が出ていた。少し欠けはじめたばかりの、白く輝く月が。

「薔薇色の満月の夜でした。そんな明るい夜なんざ、衛兵に見つけてくれって言っているようなもので、俺は止めた。だがこいつは、聞きやしなかった。貴女に会えるなら死んでもいいと、こいつは俺にはっきり言った」

 真剣そのものの顔でそう告げると、ジュリエットが息を呑むかすかな音が聞こえた。

 それからウィレムは、道化として最高の笑顔、皮肉っぽくて意地悪な、いつもの口元だけの笑みを浮かべた。

「一目会って、薔薇の一輪を手渡したらとっとと帰る手筈だったのに、パリスはいつまでたっても出てこねえし、しまいにゃあ朝告鳥は鳴き出すし、本当に逃げるのにゃ苦労したんですよ。バイキングとやり合う方がまだマシだ」

 一気に並べられた悪態に、パリスは眉を八の字にする、例の困り顔を作って微笑み返す。

「だから、あの時は本当に悪かったと思ってるよ。でも、時を忘れてしまったんだ」

「そんなことがありましたのね。その時もこうして、わたくしの手を握っていてくださったの?」

 宝石の薔薇を持った彼女の手を、パリスは両手で包み込み、夢見るような口調で言った。

「ああ。愛の証しに、最初の贈り物の時と同じに、こうして薔薇の花を一輪贈ったんだ。二人で、月を見ながら……愛の詩を読んで……」

「どうなさったの、お泣きにならないで、パリス様」

「思い出したら泣けてきちゃって。すまない、ジュリエット」

 パリスは頬を伝う涙を拭った手で、上着からもう一つ、彼女への贈り物を取り出した。

「これも君に。そのときの詩集だよ……前の屋敷から探してきたんだ」

 古い革装丁の、小さな一冊の本。

 金の消えかけた文字で『吟遊詩人の唄(カンゾ・デ・トルバドール)』とかろうじて読める。

 ジュリエットは震える手でそれを受け取り、今にも粉々に崩れ落ちそうな表紙を怖々と開いて、その最初の詩に目を留めた。

 最初の詩を彼女の代わりに、パリスの美しい声が暗唱する。

「あなたは麗しい僕の薔薇。あなたの刺は僕を傷つける。その傷までもがいとおしい。触れると怒り、だが離れると枯れると脅す。あなたは酷い恋人、薔薇のように美しい。あなたがつける僕の傷、そんなものまでもがいとおしい。もしあなたが僕に触れることを許してくれるなら、僕は貴女を花の女王として扱おう。他の全ての花が嫉妬して枯れるだろう、あなただけが永遠に、僕の心で咲き誇る」

 途中から、彼の声は震えていた。涙を堪えているのだろう。

 それでも何とか、彼は短い詩の全文を歌い上げ終えた。

「あなたは麗しい僕の薔薇、あなただけが僕の愛」

 いい詩だ。

 薔薇色の月の夜にはふさわしい。

 いや、きっとふさわしかったのだろう。

 だが、昼飯時には甘すぎて……いや、自分のやったことを思い出して、ウィレムは反吐が出そうだった。

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