第12話 昇格試験 part2

 大きな音とともにダグザは一次試験会場とされていた教室を出た。

 重い引き戸を閉めて、溜息をつく。

 あまりにもあっけなく終わった試験に彼は落胆していたのだ。

『伝導』は完璧な仕上がりだった。にも関わらず試験官達の反応は薄く、すぐに彼を退室させた。


「はぁ……あとは待つだけ……か」


 ダグザは明日、『二等級』の教室に張り出される合格者一覧に自分の番号があることを願い、自室へと帰った。

 部屋に入ると明かりが消えていた。

 真っ暗で何も見えないので明かりをつけるが、ベットの一段目で寝ているエイバの顔を目にしてすぐに明かりを消した。

 彼も疲れていたのだ。

 とは言えまだ昼時だったのと、受験者は授業を受けなくていいため、彼は少し早めの昼食をとることにした。

 戸を閉める音に細心の注意を払い、部屋を出て食堂へと向かった。

 どうやらダグザと同じ考えの者が結構いたようで食堂は彼の予想より賑わっていた。

 彼はカウンターでこれといって好きでもないサンドイッチと豆のスープをたのんだ。

 席に座ると久しぶりに一人でご飯を食べていることに気づく。

『二等級』に上がってからはいつもワルシームと昼食を共にしていた。

 馴染めるはずがないと思っていたのに、クラスメイトと普通に会話することだってある。


「案外……魔法遣いも同じなのかな」


 ダグザはスープをすすりながら言った。

 昼食を食べ終えた後、ダグザは図書室で時間を潰し間も無く日が暮れると自室へと帰った。







 そして翌日、多くの生徒が待ち望んだ一次通過した者の発表日だ。

『二等級』の教室は朝からガヤガヤと賑わっていた。

 試験を受けた生徒はおよそ半数にも関わらずそれ以外の生徒達も騒がしくなるのが毎年恒例だった。

 人混みをかき分けダグザは黒板に必死に目を凝らし受験番号を早口で読み上げていく。


「47……49……53……59……64! 64あった!」


 彼は拳を握りしめ盛大にガッツポーズした。

 他にも歓喜するものや落胆の叫びをあげる者などがいる。

 そんな収まりがつかない教室に担任の教師が入ってきた。


「はい、はい! 皆さんお静かに! 私、クロエからお話があります」


 甲高い声に席に着く生徒達。


「一次合格者は三階の端の教室に移動して下さいですわ。明日の二次試験について説明があります。今回残念な結果だった人もまだ終わりではないですわ! 来年は二次へと駒を進められるよう、精進して下さいまし」


 支持された通り、ダグザを含む一次合格者達は教室を出て行った。

 廊下を歩く途中で、彼はワルシームとエイバの姿を確認する。声をかけようとしたが今は敵同士なのだということを思い出し我慢した。

 三階の教室では数人の教師が待機していた。

 教師は生徒が全員集まったのを確認すると話を切り出した。


「まずは一次通過おめでとう。君達三十二人が二次試験への切符を手に入れたんだということをしっかりと今、噛み締めてほしい」


 誰かが生唾を飲む。恐らくワルシームだろう。


「集まってもらったのは明日の試験の概要を伝えるためだ。まず毎年説明してるが、二次試験の形式等についてだ。場所は一階運動競技場。もうあらかじめ迷宮は『生成』済みだ」


 ここで一度言葉を切り質問を待つ教師。


「迷宮ってどうやって作るんですか?」


 ダグザは純粋に気になったから聞いた。周りの生徒が珍しそうに彼を見た。


「数人で同時に『生成』を行う。確か複合魔法と言ったかな……まあそんなとこだ」


 教師は辺りを見渡し特に反応がないのを確認すると話を続けた。


「君らが今年奪い合う宝物はこれだ。紅玉のオーブ……こいつはクロエ先生の私物だから壊さないでくれ」


 そう言って教師はたった今取り出した赤色にきらめく宝物を生徒達に見せた。

 紅玉と呼ばれた宝物は拳一個分ほどの大きさだった。


「明日の朝六時に開会式を行うから遅れないよう来てくれ。なお、この二次試験は試験である前に一大行事でもある。たくさんの観客ギャラリーが運動競技場の観客席に集まり、映像として映し出される君らの姿を見ている。くれぐれも興醒めするような行動は慎んでくれたまえ、以上だ」


 教師からの説明が終わると皆バラバラに教室を出て行き、途中から時間割通りの授業に加わった。もっとも授業に集中できているものは少なかったが。

 エイバなどの試験特化のみを選択している生徒は授業が無く、寄宿舎の方へ一足先に戻っていった。


「ヴェルター……ダグザ=ヴェルター!」


「あ、は、はい」


 授業中上の空だったダグザが慌てて返事をする。


「話を聞いてちょうだい! ったくもう……試験が明日だからって授業をきかない理由にはならないですわよ!」


 クロエの声がダグザの耳に刺さる。彼は仰け反りそうになりながら謝った。


「すみません……」


 そう言ってもなおまた頬杖をついて、特にこれといった理由もなく空を眺める彼だった。







 そして、翌日六時。

 運動競技場の中央にできた迷宮への入口を囲んで盛大な開会式が行われている。

 一段上の観客席からたくさんの魔法遣いや魔法区域住民がそれを眺めていた。

 生徒達は皆、胸に手を置いて贈られる激励の言葉を聞いていた。


「君達の中からまた一人、優れた魔法遣いへ一歩踏み出すと思うととても嬉しいです。互いに高め合い、学んだ仲間達が敵として試験は行われますが全力で挑んでください」


 司会進行のガウルテリオからの挨拶が終わり、残すはアズマからの言葉のみとなった。

 生徒達の前にゆっくりとした足取りで移動していくアズマを皆はまばたきすら惜しみ見つめていた。


「ん……おほん。諸君……おはよう。君達の検討を祈ろう。一つだけわしから贈りたい言葉がある。諦めたり、怯えたりする暇があるのなら、そのすくんだ足を踏み出しなさい。考える余裕があるのじゃからの……」


「はい……アズマ様ありがとうございました。では最後補足と言っちゃなんですが、こちらにいる先生方七人が迷宮内で生徒諸君を探し回っています」


 ガウルテリオが仮面と黒いローブ姿の教師陣を紹介する。そして、彼が高らかに叫ぶ。


「生徒諸君は気をつけて下さい……それでは『一等級』第二次昇格試験を開始いたします!」


 と同時にアズマが指を鳴らすと、第一次試験通過者三十二人全員がまばゆい光とともに一斉に消え去った。

 途端に運動競技場中に巻き起る大歓声。観客席の前に幾つかの画面が展開され、迷宮内を投影していた。

 生徒達はそれぞれ迷宮内の別々の場所に転移され、自身一人で壮絶になるであろう二次試験を開始させたのだった。


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