第11話 昇格試験 part1
あれから数週間エイバとダグザの手合わせは毎日続いた。
一日に二、三回行った日もある。しかしまだ一度もダグザはエイバに勝利していなかった。
そして迎えた試験前日、今日の手合わせが最後だった。
「結局、一度も『伝導』は成功してないね」
エイバが相変わらずのレイピアを構えながら言った。その顔は不安に染められていた。
ダグザからの返答はなかった。
いつものように開始の合図と同時に彼は駆け出した。
速攻。そのスタイルは一度として変わっていなかった。
「甘いよっ!」
レイピアの鋭い突き。その切っ先は見事ダグザの胸元を
「なっ! 『幻影』っ⁈」
薄い
慌てて弾くエイバだったが、重い
そこへダグザの足払いが入る。
「ぐっっ!」
エイバは転びそうになりながらも衝撃波を『生成』しダグザとの距離をとる。
レイピアの刀身が青い光を放った。
その『伝導』の一部始終をダグザは何度も見てきた。それはもう何回もだ。エイバの親切心のおかげで手合わせの度に『伝導』が見れた。
「俺も」
ダグザが呟いた。
エイバが突進する。レイピアの刀身が空気を切り裂く音が強さを主張していた。お前では受けきれないと。
ダグザも走った。彼の体はまるで重りでもつけているみたいに重かったが、それでも進んだ。
剣戟は何としてでも避けたいと彼は思っていた。
今までの手合わせでエイバは三種類の『伝導』を見せてくれた。
衝撃波を纏わせた剣と燃え盛る炎の剣、そして凄まじい雷電を帯びた剣だ。
正直、炎と雷電なら対策はとりやすかったが、衝撃波となると話は別だった。
最初の手合わせで吹き飛ばされたように剣と剣を合わせることは不可能だ。かと言って衝撃波によって攻撃範囲も広がっているためかわすことも困難だ。
「これしかない……よな」
ダグザは突然足を止めた。驚いたエイバも立ち止まり様子を伺う。
するとダグザの左手からもう一本の
「二刀流……? 子供騙しか?」
エイバは気にして損したなという顔をして再び突撃していく。
間違いなく手詰まりなのだろうと彼は確信したのだ。
そんな戦いの最中、ダグザは目を瞑っていた。
集中したい時は目を閉じた方がよく見える。ダグザは母の言葉を思い出していた。
何度も見たろ。
いけるさ。
自分に言い聞かせた。腹に力を込めて踏ん張る。緊張で息が詰まる。
ーー失敗したって死ぬわけじゃないだろーー
いや違うだろ。彼は心の声に反論する。
「失敗なんかするもんか」
ダグザは右手のグリップを強く握りしめ、最大限魔力を送った。想いも込めた。
そして
右腕の震えが止まらない。魔力が制御しきれない。やっぱりまだ『伝導』は無理……じゃない! 彼はレイピアの刀身を右手の
しかし、驚いているエイバの顔を見れば彼には痛みなんて気にならなかった。
「相殺したっ⁈ それより、ダグザできてるじゃないか!」
ダグザは痺れる右手を自由にし、左手の
一瞬で完成する炎の剣。今度は痺れもしないし、痛みもない。うまくできたようだ。
それをエイバの喉元へと突きつける。
「僕の勝ちだ」
しばらくエイバは口をパクパクさせていたが、やがて観念したように微笑んだ。
「完敗だ。両手での連携攻撃だったとは……予想してなかった……」
エイバが頭をかきながら言った。
「ああ……咄嗟に思い……ついたんだ」
なぜだかダグザも気まずくなり流暢に話せない。
「……何だかな……正直なところお前と戦う度、ドキドキしてた……お前と剣を合わせた時こいつには勝てないって思った……だから……えっと……その……」
「僕も毎日魔法のこと忘れてエイバに勝ちたくてやってた」
ダグザはエイバの言葉を遮り力強く言いはなった。
エイバはその言葉を聞いた瞬間、煮え切らない表情を消し去った。
「悪いが、合格するのは俺だからな」
そう言ってエイバはダグザに握手を求めた。
ダグザは差し伸べられた手を無言で握りしめた。
翌日の早朝、校舎二階に位置する試験会場とされる教室前に生徒達の長蛇の列ができていた。
受験を希望する生徒が並んでいたのだ。
今回の受験者の人数は64人だった。
受験者一人一人に受験番号を手渡されていく。ダグザも寝坊こそしたもののきちんと受験番号を受け取ることができていた。
彼の番号は64番の最後だ。
「あ、ダグザも受けるんだ」
彼の前に並ぶ金髪童顔の少年は言った。どうやら受験番号は63番のようだった。
「ワルシームか……やっぱり受けるんだね」
ダグザは顔馴染みを見つけ少し安心しながら言った。そのまま話し込むこと二時間ほどで彼の出番がやってきた。
もう昼時なので、少し空腹感に苛まれながらダグザは馬鹿でかい引き戸を開ける。
「ようこそ。ヴェルター君」
試験官の一人が言った。教室内には真ん中に机が置かれていてそれを挟んで椅子があった。
試験官は三人いた。並んで座っている。
先程ダグザに話しかけてきた奴は七三分け、その両サイドは前髪が綺麗に眉上で揃えられていた。
「七三と……ぱっつん……」
彼は小声で呟いた。
「何ですか?」
「いえ、何でもないです」
ダグザは受験番号を試験官へと手渡し、所定の位置に立った。
「それでは『一等級』昇格試験第一次審査を始めます。えーっと……まず『生成』を見せて下さい」
ダグザは言われた通り剣を『生成』した。
「はい、では次に『幻影』で自分の分身を作って下さい」
彼の隣に剣を持ったもう一人の彼と同じ姿形をした幻が現れる。
試験官達が顔を見合わせ頷きあった。何か問題があったのかと彼が思っていると次の質問がきた。
「では、ヴェルター君。少しお話をしましょう。あなたは魔法遣いになりたいですか?」
ダグザは不審そうな顔をした。
「ならなければならない理由があります」
彼は一応正直に答えておいた。
真ん中の試験官はほうほうと頷いている。彼は強い嫌悪感を覚えた。
「では、少し前の話になりますがよろしいですか?」
「……はい」
「元は魔法を使えなかったようですが……なぜ魔力を発現したのですか?」
そんなことこっちが聞きたいと言いたい気持ちを必死に抑え、ダグザはゆっくりと答える。
「存じておりません」
サイド二人がメモを取っている。
彼には、この質問に本当に意味があるとは到底思えなかった。
彼らが時たま見せるにやにやとした表情にダグザは終始苛立たされていた。
そして次の質問。
「例え話をしましょう。これは戦争です。あなたはさしずめ最強の賢人といったところでしょうか。あなたが
ダグザは必死にこの質問の本質を見抜こうとした。しかしあるところで思考が止まる。
考える必要などないと。
なぜこんな馬鹿げた質問に付き合わなければならないのだろうか? そう思うと彼は止まらなくなり早口に答え始めた。
「断然
「それはなぜ……」
「確か、図書室の書物によれば死体から魔力を抜き取ることができるそうですね。この時対象の魔法を奪うことができるそうな。私は殺戮の魔法で戦争を終わらせ、敵の賢人を殺し仲間をその魔法、慈愛の心とやらで救います」
ダグザは試験官の声を遮り、
「欲張りと言われればそうなのかもしれません。しかし私は何としてでも仲間を守ります。家族を、守ります」
彼の拳がきつく握りしめられているのを見て、試験官達はたじろいだ。
にやにやとした笑いや変な目配せもなくなっていた。
「……では最後にランク3の魔法をお願いします」
試験官達も顔が真剣だった。彼がどこまでできるか試そうとしているのだ。
これは一つ目に物見せてやろうとダグザは意気込んだ。
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