第24話:誤解
「ところでさ。梓ってアカオニの事どう思ってるの?」
チャイムが鳴り響いた後、屋上で月玄は梓にそんな事を聞いた。その視線は真剣というわけではないが、それでも嘘は通じないと言われているようで、梓は顔を真っ赤にして狼狽えた。
「ど、どう思ってると言うのは?」
「好きなの?」
「いい人だよね! 好きだよ! 勿論!」
「人としてじゃなくて、異性としてって意味で聞いたんだけど」
「そ、それはっ……」
梓は、うぐぅと喉の奥で声を漏らして後ずさる。まだ自分でも紅哉の事が異性として好きなのかどうか判別つかないのだ。確かに好きだが、親愛とどうちがうのかよくわからない。そんな梓の様子に月玄は呆れたように苦笑いを浮かべた。
「うん。じゃぁ、梓は教室まで今日は一人で帰ってくれる?」
「え? なんで? 同じクラスなんだから一緒に帰ればいいじゃん」
「すごく嫌な予感がするから嫌だ。梓がなんとも思ってなさそうなら守ってあげようと思ったけど、まんざらでもないなら僕は一人で教室に帰る」
「意味が分からないよ」
「とばっちりはこうむりたくないんだよね。今回の事は全面的に梓が悪いと思うし」
「何の話?」
「こっちの話。ついでだから僕今日は次の授業休むね」
「え?」
「ほら、早くいかないと遅れるよ!」
よくわからないと梓が首を傾げると、月玄は半ば無理やり屋上から背中を押して彼女を外に出し、鍵を締め追い出した。
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「月玄何が言いたかったんだろう……」
よくわからないなぁと一人教室に戻るために梓は中庭を歩く。渡り廊下の方を通ってもよかったのだが、もう次の授業まであまり間がないので近道として中庭を突っ切ることにしたのだ。もうほとんどの生徒が教室に入って次の授業の準備をしている為か、人がいないそこを梓は早歩きで教室に向かう。
次の曲がり角を曲がって、校舎に入ればそこが自分の教室というところまできて、梓は急に何かに腕を引っ張られた。転びそうな勢いで腕を引かれた方に身体が持っていかれ、その勢いのまま何かに鼻をぶつけて、ぎゅぅと変な声を上げてしまった。
「痛い」
「……」
間近で人の気配がする。恐る恐る顔を上げれば、よく見知った相手がとてつもなく不機嫌そうなオーラを背負って梓を見下ろしていた。どうやら鼻をぶつけたのは彼の胸板にだったらしい。
「こ、紅哉さん。どうしてここに?」
「迎えに来た」
「今日午後の授業もありますよ?」
「知ってる」
「あ、あの……なんか怒ってます?」
「別に」
それ絶対怒ってるやつですよね? という言葉を発する前に梓は紅哉に腕を引かれ、そしてそのままずんずんと校内を進む。方向的に校門へ向かっていることに気づき、梓は慌てたように紅哉を引き留める。
「ちょ、ちょっと紅哉さん!? 今日午後あるんですよ!?」
「知ってるとさっきも言ったが?」
「じゃぁなんで?」
「……だめか?」
「え?」
そう言われて言葉に詰まる。どういう意味で言ったのだろう。まるで紅哉が自分を屋敷に帰したがっているように聞こえたのは気のせいだろうか? 梓は首をひねり逡巡した。
紅哉が自分を屋敷に返したい理由でもあるのだろうか? そこまで考えがいって、梓は閃いたように、あっ! と声を上げた。
「血が足りないんですか?」
「……」
どうやら違うようだ。眉間の皺が深くなっただけで紅哉の顔は変わらないまま。どこか考え事をしているようにも見えるが、何を考えているかまでは読み取れない。
「違うんですか? じゃぁ……」
「血を貰ってもいいか?」
「え?」
「……貰うぞ」
「ちょ!? こ、紅哉さん!!?」
いきなり引き寄せられて梓は紅哉の腕の中にすっぽりと納まった。恥ずかしいやらなんやらで、梓はその腕から逃れようと必死に抵抗を試みたが、その度に腕の力はさらに増した。
「暴れるな」
「だって、ここ学校ですよ!!」
「さっきはしていただろうが」
「はい?」
「月玄はよくて俺はダメなのか?」
「あ……え? 紅哉さん、あれ見てたんですか?」
「……」
その沈黙は肯定だった。抱きすくめられたままなので紅哉の顔は見えないが、なんだかとても不機嫌そうな雰囲気を出している。梓が紅哉の背にゆっくりと手を回すと、ぴくりと紅哉の身体が少し跳ねた気がした。
「えっと、ごめんなさい。紅哉さんが怒ってるのって、私が月玄に警戒心が無いからですよね」
「……」
「紅哉さんたちには悪いんですけど、あの、私もう月玄の事敵だと思えなくて……その、家族になる事にしたんです」
その言葉に紅哉が息をのむのが梓にもわかった。回された腕の力がさらに強くなり、もう苦しいぐらいだ。
「ふざけるな」
「え?」
「俺はあんなやつに取られるために我慢していたわけじゃない」
「なに…」
腕が解かれて梓の身体は解放される。それと同時に両肩を掴まれて強く引かれた。肩に食い込んだ指の力が強くて痛みに堪えている梓を見下ろすのは、いつもよりはっきりと赤いルビーの瞳。
「紅哉さん、あの、つきは……」
「もう、だまれ」
梓の言葉を遮るようにしたのは紅哉の言葉だけではなかった。梓は自分の唇に落とされた紅哉の唇にびくりと身体を震えさせた。ついばむような優しいキスではなかった。舌は流石にからまなかったが、それでも乱暴に何秒もかけて唇を蹂躙される。梓は抵抗するように何度も胸を叩くが、紅哉は離してくれる気配さえない。
そして、その唇からようやく解放されたと思ったと同時に、梓は首筋に鋭い痛みを感じて小さく声を上げた。
「いっ…ぁ…」
「……」
今度は首元に顔を埋めるようにして、紅哉は梓の血を啜っていた。ごくりと何度も喉が鳴る。いつもより多く飲まれているいるのは体の力が抜けていく感じで理解できた。
「紅哉さんのばかっ」
意識が沈む直前にそう言えば、少し驚いたような紅哉と目が合った。
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