第20話:通学2
「えぇっと、梓、冗談?」
二人のうち気の強そうな女生徒、きぃと呼ばれた少女が恐る恐るといった具合に梓に聞いてくる。梓はそれに首を振って紅哉の腕を掴んだままもう一歩詰め寄った。もう一人のユウと呼ばれた溌剌そうな少女は梓が詰め寄るのと同時に一歩下がる。
「ひっ!」
「おい、いい加減にしろ」
「あっ!」
紅哉が苛立たし気に梓の腕から自分の腕を抜き取って大きくため息をつき、数歩距離を取った。
「怖がらせてどうする」
「いや、だって、紅哉さんだって怖がられたままじゃ嫌でしょ? なんか夜ちゃんと寝なかったら枕元に立って脅す存在になってるんですよ? いいんですかそのままで! なまはげのまんまで!」
「なまはげって…。別に俺は困ってない。お前が気にする必要は無い」
「気にしますね! 大いに気にします! なまはげですよ、なまはげ。ちょっと笑いましたよ。男子たちの間では山吹っ飛ばせるとか噂になってるんですよ。え? もしかして全力出したら吹っ飛ばせるんですか?」
「そんなわけがないだろう! どこの怪物だ。大体、そんな噂はほっとけばいいだろう。じきに収まる」
「収まってないからこんな風に噂が噂を呼んでるんですよ! めんどくさいのはわかりますけど、そろそろ本気でイメージアップ考えましょう! まずは積極的に人目に出るようにしましょう!」
「どんだけ鬼畜なこと言ってるか自覚あるか? 出ていく俺にもだが、出てこられた方にも双方にダメージがあるとか意味が分からんだろうが!」
「いやいや! 私思ったんですけど、わかる人にはわかると思いますよ。紅哉さんいい人ですもん! 優しさ満点です! あれです、紅哉さんの事は私が守りますから積極的に外に出て行ってみましょう!」
「お前の中で高評価なのは嬉しいが断固として拒否する。大体、俺がお前を守るならわかるが、なんでお前に守られないと……」
「私に何もできないと思ってますね! 紅哉さんの悪口言う人に食って掛かるぐらいの根性は持ち合わせてますよ!」
「わかってる! それぐらいの根性がある事は重々理解してる! 頼むからするなよ!」
「ははっ!」
二人の言い合いに割って入ったのはきぃの笑い声だった。その声に梓と紅哉の二人とも彼女の方を向く。
「ごめん! ごめん! あまりにもびっくりしちゃって! 梓、もう一度聞くけどその人本当にあのアカオニって呼ばれる人なの?」
「え? うん。でも、あんまりその呼び方私は好きじゃないかなぁ」
「じゃぁ、今度から私も紅哉さんって呼ぶね。えっと、いいですか?」
「…好きにしたらいい」
紅哉は戸惑ったようにそう返す。きぃはそんな紅哉に安心したように笑みを強くした。
「えっと、紅哉さんって噂ほど怖くないってのはわかったよ。本当に普通の人だね。目は赤いって聞いてたんだけど…カラコンなのかな?」
「うん、送り迎えしてくれる時は大体カラコンみたい。一度見せてもらったらいいよ! ルビーみたいで綺麗だよ!」
「いやー。それは卒倒する自信があるからやめとくわ。梓にはちょっとわかんないかもだけど、吸血鬼って力の上下関係に結構敏感なんだよ。私なんかがその赤い目を近くで直視したら倒れちゃうかも。遠目からならなんともなさそうなんだけどね」
「そうなんだ。知らなかった」
ほほうと梓が頷くと、後ろから紅哉にこつんと小突かれた。何事かとその方向を見ると、紅哉が前を指しているのが目に入る。
「あぁ! ユウちゃん!」
指した方向では、もう一人のクラスメイト、ユウが泡を吹いて倒れていた。梓はそれに慌てて駆け寄る。
隣のきぃは肩を竦めさせているだけで助ける気配はない様だった。
「あの子には『怖がらせて悪かった』と伝えてくれ」
「自分で伝えたらいいじゃないですか? 多分梓もそうさせたいと思いますよ」
「まともに会話できないだろう。それに無駄に怖がらせるのも不本意だ」
「まぁ、そうですね。ユウにはもうちょっと時間が必要かなー」
「よろしく頼む」
「はーい。でも、時間はかかるかもしれませんけど、紅哉さんが噂ほど怖くないってわかってくれると思いますよ。ユウも他の子も。黙って梓に守られたらいいじゃないですか?」
「……」
途端に嫌そうな顔になる紅哉にすみませんと一言謝って、きぃは梓に起こされたユウを背負う。
「梓はそのまま紅哉さんに送ってもらって! 私はこのまま学校の保健室直行するからさ!」
「一人で大丈夫?」
「平気! 平気! じゃぁ、失礼しました!」
ユウを背負って梓たちに背を向けたきぃは一人楽しそうに足を進める。
「馬に蹴られちゃいそー」
誰にも聞こえない声でそう呟いたきぃは心底楽しそうな笑みをたたえてた。
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「きぃちゃんはわかってくれると思ってたんですよー」
「一人卒倒してたけどな。ついたぞ」
「何度だってチャレンジですよ! ありがとうございます」
紅哉と梓の二人は校門で立ち止まった。そこにはまだ人影はないがいずれ人が集まるだろう。
「じゃぁ、帰りも来てくれるんですよね?」
「あぁ」
「楽しみにしてます! じゃぁ、行ってきます!」
「梓っ!」
紅哉は学校に向かおうとする梓の手を引っ張って止めた。その顔はどこか悩んでいるような、不満を持っているような変な顔だ。梓も紅哉のその様子に立ち止まり首を傾げた。
「今日みたいなことはもうやめろ。学校でも極力俺の事は話すな。契約した事はもう知れ渡っているだろうから隠せないだろうが、繋がりがある事は出来るだけ隠せ」
「……いやです」
「いいから、言う事を聞け」
「いーやーでーすー!」
「心配してるんだ」
「わかってますよ、そんな事。紅哉さん優しいですよねー。知ってます? 私意外に強いんですよ」
大丈夫です! と笑って紅哉の手をやんわりと外し梓は学校へ消えていった。
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