4-12 別れ
安全地帯。それは、廃墟の街を抜けたところにある。後ろに森を控え、そのわきには湖もある。サザンたちが、休んでいたところは、芝生が敷き詰められた広い場所だった。
リサの両親と祖父のコゥエンが、芝生の少し盛り上がっているところに立っていた。サザンに背中を押されたリサが、両親のもとに走る。両親は、リサを抱きしめた。それを微笑ましく見るコゥエン。マーレとナーシャも笑顔になる。
そこに、今回のスタッフ全員が集まった。
キーン、ダース兄弟、ジャッキーと彩夏のコンビだ。みんなニコニコしている。ジャッキーが、事の経緯をサザンに話した。
「サザン、お疲れさま。良い話と悪い話があるわ。どっちを先に聞きたい?」
「そりゃ、いい話だろ」
「今回のギャラは、満額降りるわ。リサを両親に会わせることができたからよ」
「そうだな、で、悪い話は」
「リサの命が、もう、持たない」
「どういうことだ」
そうは言ったが、サザンも薄々そう思っていた。
「体を動かすには、脳からの指示がいるでしょ。その信号が、頚椎に伝わっていないのよ。今は、強制的に延命しているのね。でも、サザンも聞いたでしょ。1ヶ月しか持たないって。もう時間切れよ」
「そうか」
サザンは、そう言って黙ってしまった。
キーンが気を遣う。
「リサは、サザンの幼馴染だ。そっとしといてやろう」
そう言って、キーンが、ジャッキーたちをリサの方に連れて行った。
サザンは決心したようにマーレとナーシャを見た。
「ナーシャ、リサの余命は?」
「筋肉が弛緩しだしてる。今夜が峠です」
「まだ時間があるんだな」
「遅くなると、脳に影響が出るかもしれません」
「・・・わかった。マーレ、リサを浮かせることができるだろ」
「反重力ね、できる」
「両親と、ゆっくり話をさせてやりたいが、お別れだ。オレが、リサに話すよ。リサをゆっくり浮かせて、両親から離してくれ。二人とも、お別れだな」
「サザンが危なくなったら助けに行く」
「私は、観測者ですよ。どこにいても見守っています」
「オレはいいよ、娘を見守れ」
「じゃあ、たまに見守りますね」
「ああ、そうしてくれ」
そう言って、ライトボードを出して、召喚獣と通信した。
「リサ、急で悪い。もう、時間がないそうだ。マーレに実体化してもらえ」
「ここで?」
「それは、まずいだろ。マーレにリサを浮かせてもらう。自分でやるなよ。5分後にスロットに戻すぞ。しっかり別れをしろ」
「サザンは、一緒にいてくれるの?」
「最後まで、付き合うさ」
「うん」
サザンから、そう聞いたリサは、両親と少し話しをした後、急に自分のことが分かると切り出した。
「お父さん、お母さん、おじいちゃん。私、死ぬんでしょ。自分のことよ。分かるわ」
それを聞いた両親が泣き出した。コゥエンもそうだが、ちらっとサザンを見る。
「私、悲観してない。最後に、サザンに会えたし、ゲームもクリアした。サザンを呼んでくれて、ありがと、おじいちゃん」
「リサの気持ちは、分かっていたよ。本当は、ゲームをさせたくなかったんだ」
「うん、ごめんね。今度、ちゃんと、お礼を言うね」
それを聞いたコゥエンは、すべてを理解した。
「ははっ、期待しないで待っている」
両親は、それを聞いて、更に泣き出した。
「マーレやってくれ」
リサが、ふわっと少し浮く。
両親が、リサにすがるように手を伸ばすと。リサの体は、その手をから逃げるように更に浮かんだ。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい。ありがとう」
そう言うが早いかリサは、ふわーっと空中に浮かんで、パッと消えた。
サザンが、召喚獣をスロットに戻したのだ。
泣き崩れるリサの両親。コゥエンは、そこに立ち尽くした。
暫くして落ち着いたリサの両親が、サザンにお礼を言った。コゥエンとは、また、サムの酒場で会おうと言って別れた。
ダース兄弟とジャッキーと彩夏のコンビに、もう少しここにいていいかと断った。
サザンは、キーンと二人で、召喚獣たちと本当の別れをすることになった。
サザンが、リサを呼んだ。キーンは、自分のレベルが低いのを呪った。
「サザンたちが羨ましいよ。ゲームをクリアしたんだろ。最後は、どうなったんだ」
「内緒。それを話したら面白くないでしょ」
「だって、もうやれないだろ。このゲーム」
「どうかしら」
サザンが、また、変な顔をした。
「何だよ、意味深なこと言って。マーレ、話せよ」
「キーンに聞いた方が早いんじゃない。ジャッキーと彩夏に、私たちのことを看破されたのよ」
「そうですよ。その上、コゥエンさんに全部正直に話したんです」
「なんだって」
「すまん、オレは、うそは吐けるんだが、顔が正直なんだ。コゥエンは、いいんだろ」
「それで、ジャッキーと彩夏は何て言った」
「火星の地下世界に、ロードオブ召喚獣を流行らせるんだと。その上、マーレ達にも会わせろだってさ」
火星はテラホーマされたばかりで、地下シェルターの世界が、そのまま残っている。政府が地上をメインにしたため、地下は、警察や法から逃れるような場所になっていた。
「了解したのか」
「ジャッキーたちは、マーレたちに好意的だよ。それに、リサのことは、相当やってくれた。ゲームクリアまで延命するよう頑張ってくれたのは、あいつらだ」
「バカ、それは、あいつらも、ロードオブ召喚獣をやりたいからだろ」
「いいんじゃないか。なんで、昔、プレーヤーが消えたのか知らんが、今は、大丈夫だろ」
マーレたち、この後、このゲームをどうしたんだ。さっき礼なんか言わなければよかったと思う。
「交渉してしまったのなら、仕方ない。マーレ、ナーシャ、リサ、いいか」
「キーンの頼みならね」
「頼むよマーレ」
「分かったわ」
「私は、かまいません」
「もう少し、ロードオブ召喚獣ができるのね。OKよ」
なんか、こいつらから目が離せないぞと思ったが、ここでお別れだ。彼女たちは、結局この後、過去の自分の魂に会いに行く。
「リサの時間がない。お別れだ。マーレ自身も、ナーシャも実体化させてくれ。じゃないと、ずっと、オレの召喚獣だからな」
「私は、構わないよ」
「さっさとやれ」
なんだか、いつもの会話になって和む一同。
「すまん、キーン。キーンは、マーレの結晶光に耐えられない。先にログアウトしてくれ」
キーンとお別れをする3人。また、4人だけになった。
「リサ、こっちにこい。お前らもだ」
そう言って、三人を抱いた。
「マーレは、突き抜けたことを言っているが、宇宙の宝石だ。実際は、巫女に近い。最後は、マーレに決めさせろ」
宇宙の宝石の性格は、大らかで、人を傷つけず、やさしい。わるい者は、魔法時代に、巫女の騎士によって意識を奪われ、中性子星の光る海に返されている。ただ、それが全部でないことをサザンは知っている。
頷く三人。三人は、サザンに口づけした。
「やってくれ」
マーレの胸が光り出した。その優しい光は、このフィールドを覆うほどになる。そして、三体の召喚獣は、一体一体カプセルのような光る空間に包まれた。中に浮かぶリサに炎と雷が、ナーシャには、華やかな葉っぱと風が、そして、マーレは、眩しい光と発火するシャボンに包まれた。
結晶光空間の中で、三人は、仰け反った。
リサは、一度、龍になったように見えた。ナーシャは、元のエルフにもどる。
マーレは、美しい人になり光り出した。その光は、羽化の光だった。記憶の放射にサザンが包まれる。
その記憶は、遠い過去だ。魔法時代の崩壊で、魔法惑星バースにある魔法の元、光燐水が連鎖爆発をしていた。その中で、マーレであるワールドは、何とか、この、惑星バースを維持しようと能力を全開にしていた。
「ワールド、あなたでも無理よ。このままだと、あなたまで消し飛んでしまう」
ワールドの持ち主は、三代目巫女ミーニャだ。ミーニャは火龍王の嫁で、炎の塔の神殿の柱に結晶化して食い込んでいる。
「もし今、私達、宇宙の宝石が一つでも爆発したら、宇宙の宝石が連鎖反応するのよ。太陽系そのものが無くなる。そうでしょう。ミーニャも力を全開にして。光燐水を九つの巫女の神殿に封印するのよ」
惑星全体に広がっている光燐水が、封印されていく。それは、気の遠くなるような作業だった。ワールドは、時間を押しとどめて、この作業をしていたが、もう限界だ。それに、爆発した光燐水は、封印することも、別空間に飛ばすこともできない。宇宙の宝石と言えど、惑星規模の、それも中性子爆発を自由にできない。
「これ以上は無理よ」
「大丈夫、外にいたみんなは、沙織の所に避難させたわ」
沙織は四代目巫女。今は、巨大な宇宙クラゲになっている。
「ミーニャ、あなたは、炎の神殿だから大丈夫よ。私は、風の神殿から軌道上に出てしまった。ここでお別れね」
すべてを把握するには、こうするしかなかった。
「ワールド!!!!」
そこで、意識が切れ、真っ暗になる。
・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・。
いつまでも続くと思われた暗闇に、一条の光が差した。
「サザン、好きよ」
その気持ちは、永遠の時かと思われるほど続く。
「サザン、好きよ」
「私も好き」
それはいつしか自分の意識になる。
「好きよ」
「好きよ 」
「わー、何だ!!!」
サザンは、がばっと・・夢の中で起きた。
「あれっ、オレ、まだ寝てんのか?」
「好きよ 」
「オマエ、お前ガイアだろ」
「解らない。呼んだのは、あなたじゃない」
「いいから姿を見せろ」
「それが、分からないの。寒くて暗いところにいるのよ。周りも、自分も見えないわ」
サザンは、マーレのことを理解した。優しい子だ。サザンは、泣いていた。
気が付くと、誰もいなくなっていた。
「…、あいつら、行ったか」
サザンは、ゲームをクリアした時のような清々しい気持ちで、この空間を後にした。
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