4-7 ストーリー攻略

ゲームを始めて12日が、過ぎた。


 キーンは、レベルが30を超え、モンスター惑星サガに、召喚獣を取りに行って惑星ジュウムには、いない。サザンも、レベル70を超え、ストーリーを進めている最中だ。


 ストーリーを進めて分かったことが有る。戦争のキーマンは、双方にいるということだ。敵方の指導者がシンに浸食された古い生体ロボットで側近も浸食されているというのはわかる。これが、敵なのは、間違いないのだが、味方側の側近にもシンに浸食された者がいる。シンは、仲間に増殖する。それも、本人の中にある悪の意識を増大するのだからたちが悪い。そんなわけで、サザンたちは、味方側の、シンに浸食された側近の策略によって、牢屋に閉じ込められていた。これは、ストーリーなので、何かのきっかけで抜けることができるのだろう。リサは、一人でやっていて、このストーリーをクリアしているのだから、サザンだけでも抜けられるはずなのだが、突破口が見つからない。


「時間が惜しいな」

 サザンが、悔しがる。自分たちを牢屋に閉じ込めたのが、宝の倉庫を管理している財務大臣だとは、わかっているのだが、強行突破すると、味方の軍まで敵に回してしまうことになる。他の側近や指導者に財務大臣がシンに浸食されていることを分からせないと、たぶん、ストーリーが進まないのだ。


「この城にダンジョンがあるんじゃない」

「そうだろうな」

「ここに、私たちがいることにして、それをクリアすれば、ストーリーを飛ばせるんじゃないでしょうか」


「ここがストーリーの面白いところで、相手のタイムスケジュールで、動くしかないんだろうけど、それじゃあ、リサの命が持たないよ。たぶんさっき見つけた、壁の動く部分の穴に何かをはめ込むんだろうな」

 サザンは、いろいろあって、異能の力に頼るのは嫌いだ。だけど、リサの為だし、ここはバーチャル世界だと自分に言い聞かせてナーシャにお願いした。


「くそ、この時間を利用して、サブ職業のレベルを上げろってことか・・・・・。ナーシャ、ここにダミーを置けるかい。壁の穴は、多分鍵だろ。それのレプリカも」

「生体ロボットを私も作れると思います。鍵も問題ないです」

「サザン、貸一つだからね」

「ああ、貸一つだ」

 ナーシャとマーレは、目を合わせて喜んだ。サザンは、こいつら、何、悪だくみしてるんだ。と、思ったが、背に腹は、変えられない。二人は、あれから、夜中に、過去のサザンの魂を見つけたらこうしようと、盛り上がっていた。



 思った通り、壁の隠された穴に鍵を通すと、城の地下に通じる階段が、現れた。地下ダンジョンは、暗川を下水として使っている。そして、いざというときの逃げ道に改造したのだろう。とてもしっかりしている。しかし、使われたことがなく、モンスターの巣窟になっていた。


 ここの最終BOSは、かの、財務大臣だった。ストーリーを飛ばしているので、大臣のセリフは、よく解らなかったが、多分、紆余曲折しているのに違いない。


 サザンたちは下水の浄化槽に出た。そこの水は落とされていてがらんとしている。そこに大臣がいた。


「サザン君待ってたよ。メロリィもナスダも君に倒された。私のことも、次期に、王にばれるだろう。メロリィとナスダ以外には、浸食しないで隠していたのに、それも終わりだ。私は、君を倒して、この上にある飲み水に、私の浸食核細胞をばらまくつもりだ」


「こいつ、めちゃめちゃ悪いやつだったのね」

「小物だよ、こそこそやってたのがいい証拠さ」

「ピピッ、来ます」


 この地下ダンジョンにいる強いモンスターが、襲い掛かってきた。地下にいるモンスターは、大臣が放ったものだと判る。

 サザンたちは、この時レベル73になっていた。ナーシャでさえ51もある。雑魚を簡単に倒した。

 それを見た大臣が、自分に増殖細胞を打ち込んだ。人の形では、無くなる大臣。倒されたエネミーの細胞まで取り込んで巨大化していく。


「さっきのは撤回だ。こいつが、ここのBOSだ」


 大臣は、肥満化した元の体ののまま、風船のように膨れ、身動きできないような体系になった。しかし、中BOSエネミーをいくらでも生み出すBOSだった。その放たれたエネミーの壁をサザンたちは超えられない。BOS自体は、そんなに強そうに見えないのに、多勢に無勢、サザンたちは、永遠と、この、中BOSとの戦闘を強いられた。


「二人とも、浸食核がないやつだけを倒せ、分かるだろ」

「うん、その方が気分いいかも」

「それって、どんどん、大変になるってことじゃあ」

「サザンが、ナーシャに一発逆転を任せたの」

「頼むぞ!」


 永遠とも思える戦いに終止符が打たれる時が来た。どう考えても、サザンたちの方が劣勢で、4人パーティー以上必須のような戦いだ。その上、もう、浸食核付きのエネミーしかいない。浸食核付きエネミーは通常エネミーの1.2倍の強さだ。


「フォオ、フォフォフォ。サザン君、死になさい」

 大臣は、勝利を確信した。


 その時、ファン、ランランランと、ナーシャの召喚獣エネルギーバーが満タンになった音がした。


「来たか。ナーシャ、癒しの歌だ」


 ナーシャが、祈るポーズをして、まぶしく光る。緑の柔らかい葉が、風に舞い、中BOSエネミーの倍もある大きさになる。


 髪飾りの草冠から、黄緑の光が発光し、黄緑になった長い髪が風になびく。


 風と共に歩もう

 光と共に歩もう

 収穫は満たされ

 人々は、歌う


 癒しの歌が始まった。これから、3分間、敵も味方も徐々に癒される。シンや、シンの浸食核は、更に攻撃され、浸食された者で助かる者は、シンから癒される。


 ここにいる、中BOS達は、シンに浸食された者たちばかりだ。浸食核が無くなると、ある者は、内臓をえぐられ、ある者は、頭部をえぐられる。サザンたちが手を下すまでもなく絶命して霧散した。


「ふー、逆転だ」

「サザン、見て。大臣が縮んでいく」

 ?・・・・

「そうか、巨大化していたから、体の大きさの割に、浸食核が、小さくなっていたんだ。大臣、オレ等の味方になるんじゃないか。マーレ、大臣に、ワホイ(単体強回復)だ」


「ワホイ」



 暫くして、ナーシャが元の召喚獣の大きさに戻った。サザンとマーレは、倒れている大臣を看病していた。


「この人、元に戻れたんですね」

 ナーシャが、いつもの定位置。サザンの右肩の上から、大臣を覗き込んだ。


「それが変なのよ。なかなか目覚めない」

「元の奇麗な人型に戻っているのに変ですね」


「たぶん、これは、レアなストーリー展開なんだよ。普通に考えたら、全くきれいな元の状態に戻るわけがない。そうだろ」

 部屋の中を全部浸食核付きにしないと起きない展開だったんじゃないかと思う。


「この人も、シンに耐性ができたんじゃない」

「そうだが・・」


「見て、これって、遡行の光だと思います」


 大臣は、光だし、アイテムに形を変えた。


「遡行! 時間を逆行するってことか」


「レア・アイテムね」


「この後、このアイテムを使わないといけないぐらい窮地に落とされるってことか」


「わかった。リサが、そうなんじゃない」

「そうですよ」

 ナーシャの表情を見てサザンが止めた。

「だからと言って、現実に、危篤状態から、遡行するわけないけどな」

「でも!」

「やめてくれ。人の分を超える必要はないんだよ。それに現実に影響を与えてみろ。ナーシャも、どうなるかわからない。もう一度死にたくないだろ」

「ごめんなさい」

 ナーシャもマーレも悲しそうな顔をした。


「いいか二人とも、王宮に戻るぞ。大臣が浸食されていたことを告げると、ゴリアスダンジョンに入るキーを貰えるはずだ。なに、早いペースで、ストーリーをクリアしたんだ。リサの命にだって間に合うさ」


 今回の攻略で、サザンとマーレは、ゴリアスダンジョンに入れるレベル75に、ナーシャも一挙にレベルが上がって、レベル56になっていた。



 ストーリーは最終局面に進み、戦艦どうしの戦いが始まろうとしていた。サザンたちは、その前に、この、惑星ジュウムにシンが入り込んだ元の場所、隕石ダンジョンであるゴリアスに向かう。サザンたちは、シンの大元を断つ。


 ゴリアスダンジョンに入ってみると、エネミーのレベルは、75から、80もあり、1日目は、エネミーたちの行動パタンを覚えるのに費やしてしまった。


 その日は、攻略が進まないまま、安全地帯で休むことになった。そこに、惑星サガからキーンが帰って来た。左肩には、人魚が浮かんでいた。


「キーン、お帰りー」

 マーレが、嬉しそうにキーンを迎えた。


「マーレ、ミャウと替ってくれ。こいつ、話さないんだ」

「普通だろ。NPCなんだから」

「ごめんね、私は、サザンがいい」

「そうだよな。おっ、ナーシャ、元気になったな。よくわからないけど、落ち込んでいただろ」

「キーンさんにもわかるぐらい落ち込んでいました?」

「落ち込んでたわよ」

「すいません、最近元気になりました」

「そりゃよかった。とりあえず今の状況になれたんだよ。サザンいつものアイテムだ。ナーシャが元気なんならいらないか?」

「いるよ。ダース兄弟によろしく言ってくれ」


「それで、どうだ。ストーリーは進んだか」

「そうさ、だから、ここにいる。ゴリアスダンジョンにも入れる」

「いいぞ、早いペースだ」

「ゴリアスダンジョンは、もっと大変そうだけどね」

「そうなのか、明日から入り口まで付き合うよ。でも、その後は、ゲームを抜ける。向こうとこっちを行ったり来たりする気だ」

「リサが危ないのか?」

「それは、ずっとそうだが、サザンの仕事が終わりそうだろ。その時、リサを殺させない。言っている意味わかるか」

「何とかなるのか」

「まだ何とも言えないが、ジャッキーと彩夏が、交代でリサを見に行ってる。ジャッキーが、「コゥエンは、リサに、サザンを会わせたら、楽にしてやる気じゃないか」って、この間、真顔で言ってた。おれは、ジャッキーと彩夏のサポートもすることになったんだ」

「頼むよ」

 何となく覚悟をするサザン、マーレとナーシャは、顔を見合わせた。




 その夜中、マーレが目を覚まして、ふわふわ浮かんで、ナーシャの所にやってきた。

「寝ないと体がもたないわよ」

 ナーシャは、ガウンの背中に乗り、首辺りに背中を預けて月を見ていた。


「私、大してサザンさんのお役に立っていないんじゃないでしょうか」


「そんなことない。この間の地下ダンジョンのBOSの時だって、ナーシャでかしたって言ってたし、ゴリアスそのダンジョンに、入れるようになったのもナーシャのおかげじゃない」


「リサさん、助けたいですね」

「うーん、私は、サザンに賛成。無理に現実をねじ曲げることない。でも、リサに、このゲームはクリアさせたいかな」

「無理ですよ。アバタースーツは、現実の人が動かさないと。バーチャルに反映しないんですよ。リサさん危篤状態なんでしょ」


「そうだけど、リサの器を生体ロボットに移せば、自立して、この世界を歩けるんじゃない」

「あっ! はい」


「普通は、できないわよ。でも、ナーシャは、この間、生体ロボット作ったし。それも、作れって言ったのサザンだし」


「すごく怒られません?」


「私たち、サザンに貸一つ持ってるじゃない。リサに聞いて、いいって言ったら、サザンを説得しよ」

「賛成です。でも、意識が戻ったら外の人がどうするかわからないじゃないですか。時間がないかもしれない。先行していいですか」

「うん、賛成」



 そんな話があって、しばらくダンジョン攻略に従事する日が続いた。

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