4-6 ナーシャの憂鬱

 1週間後

 サザンはレベル66になっていた。マーレも同じ66。ナーシャは、32と健闘。キーンは、たまにサザンに同行している関係で27もある。ダース兄弟は、生産主体なのに、頑張ってレベル21になっていた。


 キーンが、トーマに現状報告がしたいと打ち合わせに来た。

「よう、マーレ。強くなったか? ナーシャは、オレを抜いたんだったな」

「キーンも、ダンジョンに、おいでよ」

「外の世界と打ち合わせしなくっちゃいけないんだ。順調か、サザン」

「今、66だ。ちょっとぎりぎりだな。レベル80になるのに、本当に1ヶ月掛かる」

「BOS級エネミーは、いっぱい見つけているんです。でも、そこに到達しようと思ったら、ジュウムの社会に関わらないといけない。それは、レベル70からなんです」

「急げないんだな。コゥエンさんにも話を聞くよ。ロードオブ召喚獣のデーターはほとんどないんだが、たぶん地球なら、火星よりあるだろ」

「情報は、何でも歓迎だ。頼むよ」


 サザンたちは、全員プレーヤーのようにパーティを組んでいた。マーレとナーシャは、召喚獣なのだが、サザンは、守りが硬いので、サポートはそれほど必要としない。それに、パーティの方が効率が良かったから、ずっと、そんな感じで戦っている。

 ナーシャは、風使いだ。惑星ジュウムのBOSたちは、怪獣が多い。超巨大なため、最初は、近づく前に随分ダメージを負っていた。今は、ナーシャのバインドで、サザンが風に押されて飛ぶように突っ込むようになった。後は、マーレと、ナーシャの遠距離支援をするというのがパタンになっている。実際は、遠距離攻撃するメンバーが欲しい。マーレが、キーンを誘うわけだ。


「仕事が終わったら、BOSの討伐に行こうね」

「おう!」



 暫くして帰って来たキーンは、とても疲れた顔をしていた。それは、ジャッキーと彩夏が、リサの現状を報告してきたからだ。リサは、いつ死んでも不思議ない状態だった。キーンは、死にまくるからと嫌がっていたが。3人は、キーンを巻き込んで、突っ走ることになった。


 ジャッキーと彩夏は、サイバーダイン社が秘匿している情報に行きつき、リサに会わせろと脅迫した。コゥエンは、ため息をつきながら、それを了承した。


 ジャッキーは、怒るようにキーンに報告した。

「リサは、いつ死んでも不思議ない。コゥエンは、最後、リサにサザンを会わせたかっただけじゃないかしら」

 リサは、自立して生命を維持できない状態だった。精神がゲームに飛んでいるどころではない。しかし、精神の話も本当で、生体ポッドの中でそうなっていた。

「最初に植物状態だとは、言っていたけど、これはひどい。私たち、半金しかもらえないんじゃない」


 この話はトーマにもした。しかし、トーマが、さほど驚かなかったので、トーマも承知していることだとキーンは思った。


 この話を聞いたサザンたちは、今まで躊躇っていた、無茶なレベル上げを実行することにした。それは、リサが囚われているゴリアスダンジョンの攻略だ。ストーリーが進まないとBOS部屋やダンジョンには入れないが、今のレベルでも、入れるフィールドがある。そこは、レベル75以上のエネミーがうようよいるところだ。


「廃墟都市に行くしかないか。あそこはフィールドだ」

「そうですね」

「キーンも行こうよ」

「無茶言うなよ。廃墟都市は、レベル75以上なんだろ。死んじゃうよ」

「だがな、その先に、ゴリアスダンジョンがあるんだ。最終フレームのあるダンジョンだ。キーンは、その入り口までついて来てくれるんだろ」


 相棒にそう言われて、断ることができ無くなった。


「分かったよ。ナーシャ、エアーバリヤーを点けたり消したりできるようになったかい」

「まだです。私の魔法は、エアーバリヤーを張ったまま使えるから。そんなに練習していません」

「オレには必要だよ。実践で覚えてくれ」


 キーンは、エルフの魂があるダンジョンで、ずっとそうしていたように、逃げ回ることになる。そして、見る見るレベルが上がっていった。

 最初、キーンは、一撃で死にまくった。アイテムや、レベルポイントが惜しいとかいうレベルではない敗けっぷりだ。しかし、しばらくすると、死ななくなった。それは、エネミーの攻撃パタンを覚えたことと、ナーシャが、エアーバリヤーのON,OFFをちゃんとできるようになったからだ。キーンが、やられていたのは、ほとんど打撃で、キーンから見ると驚異の跳躍力で、接近されたり、物陰から急に襲われたり、多勢に囲まれて死んでいた。ナーシャの、エアーバリヤーは、空気の幕でできており、打撃が来ると、その風圧で、ふよんと、避けてしまう。戦っているところが、フィールドなので、コーナーに追い詰められることもない。なかなか死ななくなったキーンは次第に戦闘に参加するようになった。


「マーレ。オレ、何回死んだ?」

「53回ぐらい」

「すいません」

「その割には、レベルが一つ上がっているぞ」

「嬉しくない、かな」


「キーン、慣れて来たでしょ。後方支援は、ナーシャに任せて、遠距離攻撃しようよ。私、合わせるよ」

「なんか久々だな、合わせ技。空飛んでいる奴やるか! サザン苦手そうだ」

「空だけだったら、飛翔アイテム使うけど、地上の方が多いだろ」

「いいんじゃない。分担よ」


 やっとパーティらしくなった。


 廃墟都市のエネミーは、惑星の住民が戦争の為に作っていたロボットだ。自分たちと同じナノマシン細胞を使っている。住人は、人間にしか見えないのに、廃墟都市のエネミーは、ここまで頑健にできるのかというぐらい強い。炭素構造ではないのに、それでも、シン(罪)は、浸食する。それも、戦争の道具とあって、浸食されているエネミーの数が半端ない。ナーシャが、巨大化して癒しの歌を歌うと、一挙にその浸食核付きエネミーが倒されポイントになる。浸食核が大きいと、その部位を根こそぎ持って行かれてエネミー達は、絶命する。ところが、小さな、まだできたての浸食核だと、癒しの歌で、えぐられた部位が癒される。更に、そのエネミーには、浸食核耐性ができる。数は少ないが、そうなったエネミーは、サザンたちを助けて戦ってくれた。そういう味方になってくれるエネミーが出るたびに、そのエネミーを廃墟から連れ出す。彼らは、その別のフィールドに居つくようになるので、そこが安全地帯になる。サザンたちは、廃墟で戦っては、安全地帯で休むようになった。


 安全地帯のほとんどのエネミーは、ナーシャに癒されたエネミーだ。ナーシャが、そこに帰ると寄ってくる。ナーシャも、そのごつごつしたのや、武器まみれのロボットを可愛がるものだからテントを張って、本当に休む時は、番犬のように周りを囲んでくれた。こういうリラックスできる時間を貰うと、リフレッシュされ、次の日の戦いの効率が上がる。サザンもレベルを確実に上げて行った。


 最初サザンは、夜になると、ゲームを抜けて現実世界に戻り、夕食を食べ、シャワーを浴び、就寝して、朝食を食べたら、また、ゲームに戻る生活をしていた。リサの危篤状態の話を聞いてからは、食事とシャワー以外、ずっとゲームの中にいる。そうしないと、マーレたちがフリーズしてリフレッシュできないからだ。

 召喚獣たちも寝る。マーレなどは、サザンを枕にYの字になって寝ている。人魚は、足がないからYの字。

 ナーシャは、自分の世界に置いてきた夫や娘のことを思って起きていることが多く寝つきが悪い。マーレは宇宙の宝石なのだろう。寝なくても平気なのだが、サザンに甘えて添い寝している。しかし、ナーシャのために、夜中に起き上がって、たまに話をする。ナーシャは、内に抱えていることを話すと少し楽になるのか、それで休んでくれる。


「どうしたの、また、眠れないの」

 マーレが起き上がって、ナーシャに声をかけた。ナーシャは、一番かわいがっているガウンという犬型の戦闘エネミーの背中に乗りに、首辺りに背中を預けて月を眺めていた。


「娘の心配?」

「どうしてわかるんですか」

「顔に書いているでしょ。それにこの前、ラヴィが、私と同じ能力を使って結晶化したらどうしよう。私は、悪い見本を見せた母親だって言ってたでしょう。根の深い取り越し苦労しているから、そうかなって思ったの」


「幻想の具現化なんて、高いリスクの割には、使いたくなる能力でしょう。そこに希望があるのなら、やっぱり娘もそうするのかなって思ってしまって・・・」


「そうねぇ、可能性の話をしていい。多分だけど、サザンは、結晶光に耐性があるんじゃない。じゃないと、ナーシャがサザンの記憶を覗いたとき、サザンは、結晶光の影響を受けているはずよ。サザンは、私達みたいな幻獣じゃなくって、現実の人だもの」


「私も、そう、思っていました」


「だから、サザンに娘を預けたらいいのよ」


「どうやってですか」


「今のサザンだと無理だし、未来のサザンも、いろんな娘が絡んでくるから無理だと思うけど、過去のサザンなら問題ないでしょ。過去のサザンの魂を借りるの。なんでもできるんだったら、それぐらい無茶した方がいいわよ」


「すごい発想ですね。マーレさんの話を聞くと元気が出ます」


「えー、冗談に聞こえた? けっこう本気だったのに」


「うふふふ、ありがとうございます」


「いいわ、安心した? もう、寝よ」


「一ついいですか。マーレさんは、結晶光を使っていない様なのに、どうやって、サザンさんの隠された記憶を覗いているんですか」


「わかんない。初めからできるのね。その記憶を頼りにサザンの所に来た見たい。サザンが、私を宇宙の宝石だって言うし、巫女、巫女ってうるさいからちょっと気になって、サザンの記憶を覗いたのね。それで分かったことは、宇宙の宝石は、科学で解明できるってことよ。最初の巫女が、宇宙の宝石をこの世界に呼んだんだけど。巫女って、元々、現実をゆがめる超能力者の中から生まれたのね。でも、巫女の能力は現実に即していた。だから、科学で解明できる。宇宙の宝石由来のナーシャの能力も、実際は、科学で解明できるってこと。そうなら、サザンの存在は、結晶光対策になるってことでしょ。私はそれに当てはまってないじゃない。だから、よくわかんない」


「じゃあ、本当に、サザンさんに娘を任せることができるんですね」


「ラミアに殺されるわよ。私は負けない気だけど」


「あっ、それ、私も見ました。じゃあ、やっぱり過去のサザンさんですね」


「冗談話にしとかないと、サザンが、聞いたら怒るわよ」


「でも、なんだか本当に元気が出てきました」


「今、元気にならなくていいわ。寝よ」

 ちょっと調子に載せ過ぎたと思ったマーレだった。

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