4-5 二体目の召喚獣はエルフ

 エルフの魂は、祭壇の上に、隠されるわけでもなく置かれていた。宿屋の主人は、この球に触れろと言っていた。


「二人とも、エルフの魂に触るぞ」

 二人がニコニコしながら、サザンの所にやってきた。


 さすがに、エルフの魂だ。玉の中に、魂の炎が宿っている。この球に触れると、召喚獣ゲージがマックス状態の時の巨大な召喚獣が現れて自分を紹介し

「あなたの力になりましょう」

と、宣言してくれる。


 サザンが、エルフの魂に触れると、華やかな緑の葉っぱが舞いあがり、召喚獣?が、出てきた。


「サイモン、ラヴィをお願い」

 なんだか泣き崩れて、永遠の別れを涙ながらにしている風だった。


 それも巨大ではなく、耳はとがっているが、普通の人だ。三人は、慌てて彼女の元に駆け寄ろうとした。しかし、おびただしい、葉っぱがさらに舞い上がり、彼女は、巨大な召喚獣に変貌した。召喚獣は、皆そうだが、空中に浮かんでいる。しかし、初期の召喚獣の口上は無く、しくしく泣いていた。その割には、癒しの歌のミュージックがバックに流れている。エルフは、この姿で、癒しの歌を歌う。


 キーンとマーレは、彼女に同情している風だったが、サザンは違う。


 また、厄介なのが出て来たぞ


 キーンとマーレが声をかける。

「だいじょうぶ?」

「大丈夫か」


「はー、お前、ガイア人だろ」


「ガイア? 始祖様のことですか」


 やっぱり

「自分のことは、覚えているか。名前は?」


「ナーシャです。ここ、どこですか? あれ、私、大きくないですか」


「いいから、口上を言え。デカすぎて話ずらい。口上は、こうだ『あなたの力になりましょう』だ」


 ナーシャは、パニクッになっているようだったが、サザンの言うことに素直に従った。

「あなたの力になりましょう」


 また、華やかな葉っぱがエルフを包み込み、ポンと、サザンの肩あたりに、今度は、羽の生えたマスコットのような姿で現れた。ゲームの方は、召喚獣を得たことで、BOSエネミーを倒した以上の盛大な音楽が鳴り響いている。実は、今の口上で、召喚獣契約が成立してしまった。


「あのっ、今度は小っちゃくないですか」

「我慢しろ、そんなもんだ」

 マーレが定位置に戻ってきた。エルフのナーシャの反対側の肩、左肩に、空中ちゃぷちゃぷと共に浮かんでナーシャに挨拶した。

「私、マーレよ」

「オレはキーンだ」


「サザンだ。自分のことを覚えているんだな」

「はい、ここはどこですか?」


 マーレのように自分から来たわけでは、なさそうだ


「すまん、ナーシャのことが分からないから説明しずらい。オレの頭を覗いてくれ」


「そんなことできません。私がやると、サザンさんが結晶化してしまいます」


 結晶化! なんだそれ


「大丈夫だ。ここは、仮想空間の中だ。マーレもちょくちょくオレの頭を覗いているぞ」

「うん」


「そうなんですか」


「まあ、やってみろ」


 あとで、ナーシャの話を聞いて、実際は、危なかったと知るサザンだが、結果的には、何も起きなかった。


「ここ、創生時代なんですね。びっくりしました」


「オレ達の時代を認識したんだな。やっぱり未来から来たんだ。マーレと一緒だ」

「私、未来って言ったっけ」

「言っただろ」


「サザン、オレ、ここにずっといるの嫌だぞ」

「わるい、クリアしたから、ダンジョンをテレポートして抜ける、脱出アイテムもドロップしたはずだ。だけど、リサの件は、嫌な予感がする。オレは使わないで、こいつらを鍛えるよ。キーンは、もう、レベル23だろ。フィールドに出たら、一人で移動できるさ」

「そうするよ。ダース兄弟をほっぽってばかりいられない。オレが鍛えるかな。又な、マーレ。ごめんな、ナーシャのことは後で聞くよ。本当は、ここに来れるようなレベルじゃなかったんだ」

「後でね」

「私、鍛えられるんですか」

「先に話を聞くよ。ちょっと、こっちも込み入っててな。しばらくオレたちを助けてほしいんだ」

「はい・・」


 キーンは、脱出クリスタルを使って、このダンジョンを抜けた。


 サザンたちは、エルフの魂があるBOS部屋を出て、暫く戦い。ここに来る前の休憩スポットにテントを張った。ナーシャは、レベル1からのスタートだったから、怖がって逃げ回っていたが、レベルは、キーンと同じで、びっくりするぐらい早く上がっていった。


 テントの中で休んだ時には、ナーシャは、もう、一歩も動けないといった感じだった。


「もう無理です」

 サザンが、あっと気づいた。

「そりゃそいうだ。レベル1のHPのままじゃないか。もう8だろ。HPゲージが赤くなっているぞ。マーレ、ホイしてやれよ」

「ホイ」

 ナーシャが、弱い緑の光に包まれた。その光が、浸透するようにナーシャに凝縮する。

「どう、元気になった?」

「はい、ありがとうございます。さっきまでの疲れがうその様です」

「なんだかな」

 ナーシャにとっては、ここが、現実世界に感じるのだろう。


「この中は、安全だ。話を聞かせてくれ。いったい、いつの時代から来たんだ」


「創生暦350万年後の世界からです」


「また大きく出たな。それって、地球暦か? それとも、火星暦か。もしかして、島宇宙暦なのか」


「すいません。もう一度のぞかせてください」

 そう言って、ナーシャが光り出した。

「えっと、火星暦です」


「何だって。オレは、地球人だ。それって、700万年後ってことだぞ」

「はい、宇暦だとそうなります」

 宇暦は、地球暦。人類が地球をエグゾダスした年を元年としている。


「モーラの奴、どこまで生きたんだ。本人も、その辺解っていないか。とにかく、ナーシャのことをオレ達が分かるように教えてくれ。マーレも、オレを覗いて、早く理解しろよな」

「そうする。私が、サザンに解説するのね」


「頼むよ。そうだな。ナーシャの始祖や一族のことから頼む。本当は、ガイア人が嫌いなんだよオレ。その辺を早めに聞いときたい」

「ラミアだってそうでしょ」

「だから、マーレのことも嫌っていないだろ」

「えっ、そうなの。サザン、はじめっからそう言ってよ」

「いま、照れるな。後にしてくれ。ナーシャ、オレの見立てなんだが、マーレは、宇宙の宝石だ」

「そうなんですか、初めてです。始祖さまの原型ですよね」

「ごめんね、私、記憶がないみたい。サザンがいればいいんだー」

「とにかく話をしてくれ」


「始祖様は、ベロニカ様です。世界石の子と人族から生まれました」

「世界石? 宇宙の宝石か」

「そうです」

「ベロニカって、ゲームと同じ名前ね」

「そうなんですか」

「いやな予感がする。わるい、二人とも、ロードオブ召喚獣のことも覗いてくれ。その方が話が早い」

「ヘルプでなくていいの」

「この際だ」


「面白そうですね」

「面白いわよ。私たち、すっごく強くなるんだから」


「それで、世界石っていうのはどういうものなんだ」


「普通、宇宙の宝石は中性子だけでできていますよね。だから、原子や電子のことを忘れてしまっているんです。異世界を構築しても、幻のようなものになります」

「異世界だからな」

「ところが、世界石は、その、原子や電子の古い記憶も、覚えているんです。世界石は、異世界を現実世界に構築できる」


「すごいな、ロードオブ召喚獣も、現実世界にできるのか」

「どうでしょう。ここは、電脳世界ですから」

「できるんじゃない」

「何だよ。モーラの記憶か」

「なんとなくよ」


「ですから、その子孫の私たちにも、稀に、そう言う能力を持って生まれてくる者がいるんです。私もそうでした。でも、私たちエルフは、人族と世界石の子が合体した始祖様から生まれた者です。その能力を使うと、体に多大な影響が出て、結晶化してしまいます。私もそうなりました。でも、意識が切れる寸前で、ここに飛ばされたようです」


「そう言えば、『サイモン、ラヴィをお願い』って、言ってたわ」


「サイモンは、私の夫です。夫は、火龍です。エルフの私との間では、子供を作れません。私は、彼の子供を作るために、この能力を使いました。ラヴィは私たちの子供です。でも、抱くこともできなかった」


「無茶するな」

「はい・・」

「でも、子供ができたんでしょ。良かったじゃない」

「それに、結晶化したんだろ。なのに、ここにいる。この時代には、巫女がいるぞ。宇宙の宝石も、ガイア人もいっぱいいる。何とかなるだろ」

「真っ先に覗きました。まだエグゾダスしていないです。全員ここにいます」

「そうなんだが、世界石は、初耳だ。一番の情報元は、まだ発掘されていない。そうだろマーレ」

「うん、サザンの知識ってすごいのに世界石に行きつけないもん。なんだか邪魔されているみたい。でも、海王様と海母様がいるから大丈夫よ」

「オレの知識って、やっぱりすごいんだ。おれは、その知識を理解できないから使えない」

「バカだもんね」

「そこは、覗かなくていい」


「それで、サザンさん。本当に何ともないですか」

「何が?」

「私、テレパシーも使えますが、サザンさんの知識を無理やり引き出すのに、知識の具現化をしています。ですから、弱いですが、結晶光を使っているんです」

「そうなのか!」

「大丈夫じゃない。ナーシャも影響出てないし」

「脅すなよ」


 ナーシャのことが分かったサザンは、ナーシャのことは何とかするから、今は、自分たちを助けてくれとお願いした。


「すまん、おれの頭を覗いたから知っていると思うが、オレは、友達を救いたい」

「リサさんね」

「しばらくオレを助けてくれ。この仕事が終わったら、ナオミさんに相談する。マーレのこともだ」

「私は、今のままでもいいけど」

「自分が、何者か知りたいだろ」

「それは、そうだけど」


「エルフの召喚獣は、癒しが得意だ。オレ達の生存率がぐっと上がる。それに、シン(罪)に、浸食されたエネミーを癒しながら、浸食核だけを攻撃する。浸食核を持ったやつは通常のエネミーの1.2倍は強い。ナーシャは、強敵対策になるし、回復が得意なんだ。パーティのサポート役にもなる」


「やります。良いことですもの」


「ねえ、ナーシャ。ライトボードは、出るかな。出るんだったら、召喚獣だけど、ナーシャもプレーヤーだよ」

「右手で、こう、ドラッグしてくれ」

「出ます」

「ヘルプは読めるか」

「読めます」

「よし、後は、ヘルプを読んでくれ。マーレは、初めから、サブ職業が、ファッションだって決まっていたけど、ナーシャは、自分で決めていいからな」


 ナーシャは、迷わずウォッチを選択した。アイテム鑑定ができ、エネミーのサーチ範囲がずば抜けて広い。この世界の観測者になった。

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