4-3 複合技

 惑星ジュウムは生体ロボット惑星だ。細胞が、ナノマシンで出来ている。その単純な生体細胞は、何種類かあって、それを組み合わせて惑星の住民は、生物の様に活動している。彼らの食べ物は、鉱物系。飲み物は、油系なので、生体ロボットに混ざって生活することはできない。

 だからと言って、普通に進化した炭素系生物がいないわけではない。先住民は、エルフだった。エルフの僕がロボットたちだ。生体ロボットたちは、自立繁殖をしてはいるが、総数が1億から、1億2千万の間を推移するように調節されていた。


 主人のエルフが居なくなる時に、仲良く、自由に生きてと、指示されている。


 このロボットたちに、シン(罪)が浸食した。彼らは、制作者の自立した感情にあこがれていた。そこをシンに付け込まれた。惑星ジュウムの長い歴史ではありえない戦争状態、信じられないぐらい強い住民たち。


 プレーヤーにとっての救いは、シンに侵されていない生体ロボットたちが、プレーヤーに優しく親切なことだ。


 町の宿屋に行って、エルフの魂の話を聞き、町近くにあるララ山の地下ダンジョンに入り、魂を見つけてそれにアクセスすると、エルフの召喚獣が現れる。


 この惑星にいるエネミーは、生体ロボットたちが作った疑似動物で、デザインもカクカクしている。中にはシン化して浸食核を持った強いエネミーがいる。

 最初は、彼らの戦争にはかかわらないで、単体ストーリーやイベントをこなしてレベルを上げる。



「よし、町の宿屋に行って、エルフの魂のことを聞くぞ」

 そう言ってスタート地点から出立した。


 スタート地点。ここは、どこの惑星にもあるバベルの塔になる。この中に、高レベルのアイテム屋が入っているのだが、もう、オンラインしていないゲームなので、アイテムは売っていない。しかし、休憩所や倉庫などは機能している。ドロップしたアイテムを貯めることができるのはありがたい。


 途中出会ったエネミーを倒しながら進む。キーンのレベルは、見る見る上がっていった。

「おれも、攻略組に入れるんじゃないか」

「どうかな、レベル20ぐらいから、急にレベルが上がらなくなるんだ」


 キーンは戦わないから、魔法師を選んで後方で待機していた。

「魔法師がいた方が、良くないか」

「様子見かな、まだ雑魚だから、そんなことが言える」

「私が魔法を使えるんだから大丈夫よ」

「それが、使えるのが、初期魔法ばかりなんだ。強いエネミーが出てきたら追いつかなくなるぞ。ダース兄弟が、薬を作り始めたら、それも使うんだ」

「わかった」

「ダース兄弟たちのレベル上げもしてやらないとな。たぶんキーンもダース兄弟たちと一緒に、薬の元を仕入れるためにフィールドで戦うことになるさ」

「わるくない」



 町に入ると、自分の主人だったエルフに近い人族が来たので、住民たちはとてもうれしそうな顔をした。

「ようこそ、クレアの町へ」

 町の入り口で、歓迎された。


「人と変わらないな」

「仕様は、全く違うがな。アバターシステムは、バーチャル世界の食事を疑似体験させてくれる。住民の食べ物を食ってみろ、死ねるぞ」

「やめとくよ」



 宿屋で「エルフの魂」の話を聞いた。

 宿屋の主人は、遠い目をして、自分のご主人様のことを語ってくれた。


「へえ、あっしが、宿屋の主人になる前は、ベロニカ様に使えていました。エルフの始祖様です」


「始祖?」

 サザンとキーンは、目を合わせて怪訝な顔をする。

「どうしたの二人とも」

「後で話してやる。それより話を聞こう」


「ベロニカさまは、一族を連れて、インナーコアの地球型惑星に行ってしまわれました。その時、別の種族もついて行ったのです。いまから。3000年前のお話です」

「別の種族とは」

「龍族と人魚族です」

「私の種族だ!」


「その時、ベロニカさまが、私に、こう仰るのです。この惑星ジュウムに危機が訪れた時、私たちの原型である人族が、この惑星を訪ねるでしょう。その時、私が残した、エルフの魂のありかを教えてあげてください。きっと彼らの役に立つはずです。と。今は、モンスターが徘徊するダンジョンになってしまいました。とっても危険ですよ」

 そう言いながら、場所を教えてくれた。


「ありがとう。今度泊まりに来るよ」

「お待ちしています」

 サザンは、今日中に、エルフの召喚獣を手に入れる気だ。エルフの魂が眠るダンジョンは、町の北東にあるララ山の奥にある洞窟に入ったところにある。


 このダンジョン名は、『黄泉の白糸』。ここに入るころには、キーンのレベルは10に上がっており、後方支援をするようになっていた。キーンは、サザンと一緒にダンジョンに入る気満々だ。


「オレも行く」

「死んでも知らんぞ」

「そしたら、バベルの塔で復活するさ」

「ドロップアイテムとお金は、全損だがな」

「今回の探検は、イレギュラーから始まったんだ。いいだろ」

「私、イレギュラーじゃないもん」

「おっ、マーレ、ずいぶんオレらの話についてこれるようになったな」

「へへん。そう言えば私、始祖の話。聞いていないよ」

「ああ、そうだった。ダンジョンに入る前に一休みしていくか」

「そうだな」

「賛成」


 三人は、薪を囲んで休憩することになった。


 薪の火を見ながら、キーンがボソッと言った。


「始祖か・・」

「バージョン1のモンスター惑星サガで、人魚を獲得した時は、始祖の話なんか無かった」

「それで、始祖って」

「宇宙の宝石と人が結合して生まれた、新しい種族さ。始祖を中心に、その一族は、繁栄する。マーレも宇宙の宝石だと思うんだが。まあ、細かいことは、オレの頭を覗いてもいいぞ」

「そうする」


 宇宙の宝石は、ガイアだ。元は、地球や火星の様な惑星だった。長い時が経ち、太陽が巨星になった後爆発しないで、まれに自分の重力に押し潰されて、中性子星になることが有る。中性子は、陽子や電子より小さな素粒子で、地球が中性子星の中で、中性子だけになり、押しつぶされると、ちょうど人の手に収まる宝石ぐらいの大きさになる。

 中性子性の表面には、薄いが、光る海がある。彼らは、ここで、一つの命を得た。しかし、初めから感情があったのは、生命を宿していた星ぐらいだ。後は、感情を求めて人の世界にやって来た。その時、反重力で、自分を軽くし、バリヤーで放射線を抑えた。そうしないと、人の世界には、入れない。来るとき、異次元の道を通ったため、そう言う能力も、持っている。彼らは、人に寄り添う性質がある。


 この宇宙の宝石は、元より、宇宙の宝石と人が合体した始祖をガイア人と呼ぶ。始祖は、人と合体したため、自分の種族を増やすことができる。その種族もガイア人と呼んだ。


「じゃあ、エルフは、ガイア人ということになるな」

「134年前のゲームソフトだぞ。たまたまだろ。ガイア人なんて最近だ」

 サザンは、ありえないと否定する。


「へー、ラミアが好きなんだ」

「お前、そこを覗くか」

「だって、ガイア人なんでしょ」

「ラミアは、ラミアさ。そうか、ラミアは、始祖なんだ。マーレが行きつくわけだ」


 キーンが、なんか嫌な予感がすると、始祖のことを気にした。

「何で始祖だ。請負元の孫だったか、リサが囚われているっていう内容がよくわからないだろ。気になる」

「そうだな、気になる」 サザンも、キーンに同意した。


「ラミアっていい子ね。でも、私も負けないわ」

「マーレの感情は、たぶん、モーラのだよ。早く自分が何者か思い出してもらいたいけど、今は、リサの救出が先だ。悪いが、付き合ってくれ」

「私、このゲーム好きよ」

「オレもだ」

 キーンも、マーレも、このゲームに、はまった。


「よし行くぞ。マーレは、警告音の練習かな。弱い相手でも、オレに警告してくれ」「ピピッ、ね」



 ララ山のダンジョン、黄泉の白糸は、外の初期フィールドと違って、レベル60がしっかりあるダンジョンだった。キーンが、怖がって逃げ回る。サザンは、後ろから敵が来ることもあるんだから、自分から離れるなと指示する。キーンは、この後、マーレの警告音に何度も救われた。

 しかし、利点もある。相手は、強いエネミーだから、キーンのレベルが、瞬く間に上がる。


「オレ、強くなっているんだよな。全然そんな気がしない」

「仕方ないさ、相手が強すぎるんだよ。もうプロテクトが使えるだろ。防御を強化しろよ」

「そうする」

「私にお礼は?」

「ありがとう、マーレにもプロテクトをかけるよ」

「うん、ありがと」

 二人は、それなりにゲームを楽しんでいた。



 キーンのレベルが、20に達した。


「サザン、レベル20になっちゃったぞ。ダース兄弟も連れてくればよかったな」

「3人も初心者が居たら、きっと全滅してたさ。それより、何か魔法を覚えたか」


 キーンがライトボードで調べる。

「オレは火系が得意みたいだ。ファイ、ワファイ、マファイと、三つある。どれも単体攻撃だ」

「マファイがあるのか。じゃあ、マーレと複合技が使えるぞ。普通の召喚獣じゃあ無理かもしれないが、マーレならできる」

「そうなの!」

 褒められたと勘違いするマーレ。


「ファイ系の攻撃魔法は、普通全部火の玉だ。だけど、マファイは、点攻撃なんだよ。エネミーの中で、爆発させることができる。もちろん表面もだ。その爆発地点にウォーターシュートを打つんだ。爆発する前に火の玉が膨れるから場所は、すぐ解る。そうすると、水の玉が一挙に蒸発して爆発するんだ。威力倍増だ」

「面白そう」

「キーン、内破じゃあ効果ないぞ、表面だ」

「やってみるよ」


 実際は、水玉弾の回転数を上げると、マーレのレベルだと強いウォーターシュートが撃てるのだが、一度にいろいろ教えるのは無理だと判断したサザンが、それを教えなかったので弱いままだ。しかしそれが功を奏した。水玉弾が強すぎると蒸発爆発しないで、火が消える。今の弱さで丁度いいコンビとなった。


 動きの遅い熊みたいなエネミーが出た時に2人は、何度も試す。キーンも、マーレも、単体だとレベル60のエネミーに、効果的な攻撃ができなかった。複合技だと、怯むし、倒す時間が早くなった気がする。


 サザンは、ボスエネミーとの戦闘では、キーンをパーティから外そうと思っていた。パーティーに組み込まれていたら、相当離れていても、ボスの攻撃が届くからだ。しかし、ちょっと考えが変わった。


 それから、ずいぶんダンジョンの奥に入ったので、サザン達は、テントで安全地帯を作って休憩した。キーンが、ライトボードを見て、なんだかなーという顔をした。


「サザン、オレ、レベル20から上がってない。20になってずいぶん経つよな」

「だろう。20から、急にレベルが上がらなくなるんだ。だけど、ボスを倒すと、きっと上がるぞ。死ぬ確率も高いけど、どうする」

「やろうよ」

「逃げるのもうまくなったし、せっかく、マーレとの複合技覚えたからな。行けるとこまで頑張るよ」

「面白くなってきたー」

 二人ともやる気だ。


「わかった、じゃあ、作戦だ。マファイと水玉弾の複合技をボスの目の前で爆発させてくれないか。怯んで動きが止まると思う。そこをおれが叩く。たぶん永遠とそれをやらないといけないと思うけど。まともに戦うより早く倒せると思うんだ」

「やる!」

「やるわ」

「水爆させたら、すぐ移動するんだ。絶対、攻撃していたポイントを狙ってくると思う。まごまごしてたらやられるぞ」

「すぐ移動ね」

「ヒット&アウエイだな」


 二人は、今までの戦いで何かをつかんだ。それに、相手が強くて大変だけど成果もしっかり上がっている。キーンとマーレは、ゲームが楽しくて仕方ないようだ。

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