4話 マーレ

4-1 対等な仕事

「すきよ」


「好きよ  」


「わー、何だ!!!」

 サザンは、がばっと・・夢の中で起きた。

「あれっ、オレ、まだ寝てんのか?」


「好きよ  」


「オマエ、お前ガイアだろ」

「解らない。呼んだのは、あなたじゃない」


「いいから姿を見せろ」

「それが、分からないの。寒くて暗いところにいるのよ。周りも、自分も見えないわ」


 こりゃ、宇宙の宝石だな、くそっ、疫病神だ

 そう思ったが、地球の時ほど嫌悪感がない。あの時は、話も通じなかった。


「そうなのか。なんか思い出せよ。居るところのヒントでもいい。そしたら、お前を探しに行ける人に話をしてやる。それで、名前は?」

「だから、わからないのよ」


「だいたいオレには、魔力がない。なんでオレだ」

「あなたが、私を知っているから・・」

「いつのことだ、お前なんか知らないぞ」

「ずっと未来? よくわからない」


 未来? モーラの記憶か。いや、それだったら、モーラの所に行くよな、こいつ


「モーラって?」


「テレパシー使うんだったな。考えていようが、話していようが同じだ。モーラは、記憶を吸う蝶だよ。お姉さんのフーラの記憶を吸った時に、フーラが、モーラを祝福して、未来を見せたのさ。オレは、モーラの羽化に立ち会った。羽化の光は、モーラの記憶を放射するんだ。その記憶を覗いてみろよ」


「うん、すぐ感じること、できたわ」


「そうか、わかったら、モーラかナオミさんの所に行ってくれ。ナオミさんは、お前らの巫女だから、そっちがいいかもな。オレは寝るよ」


「ごめんなさい。二人とも感じない。あなたとは、話してる。さっき、何か思い出したら、助けてくれるって言った」


「言った。言ったが、オレには魔力がない・・・、・・・、そうか、話しているよな」


「私、あなたのこと、好き」


「なんだかな。あーーー、分かった、しばらく、オレと居ろ。ナオミさんに相談する」


 そう言ったら、声の主は、安心したのか、話しかけてこなくなった。



翌朝

 変な夢を見たなと思ったが、今日は、トーマが、仕事の話があると言っていた日だ。それも、若手ばかりを集めての打ち合わせだ。他の奴らにゃ負けたくない。気合を入れて、気持ちを切り替えた。



 今、トーマの所には、若手が6人いる。オレと、相棒のキーン。ダース兄弟。それと、ジャッキーと彩夏のコンビだ。ダース兄弟は、荒事は得意だが、頭を使う仕事に弱い。その逆に、ジャッキーと彩夏は、噂を広げるだとか、ちょっとした交渉の代理をしたこともある切れ者だ。だが、二人だけで戦闘は、させられない。そういう意味では、オレと、キーンは、バランスが良い。今回の仕事は、オレ等が貰う。



 トーマは、オレたちを事務所に呼ばないで、サムの酒場に全員を集合させた。自分が、火星に来たときに、ずっとバイトしていたところだ。いまも、変らず、ちょくちょく寄っては、親父や姐さん達と話している。

 こういう所に呼ぶということは、トーマが、オレ等に命令するのではなく、対等に交渉すると言うことだ。ダース兄弟は喜び、ジャッキーと彩夏は、緊張した。オレと、キーンは、というと、いつもの場所なので、気を緩めてしまった。


「サザン、どう、思う」

「何が」

「今回の仕事だよ」

「解らないが、命令じゃあなさそうだな」

「そうだ、これは、交渉だ。ここで、一本ぬけろってことだろ。下っ端卒業だ」

「まあな、キーンは、やる気だろ」

「ああ、どんな仕事でもだ」

 相棒との相談は、成立した。仕事は、どんなものでも取る。


 なんだ、かんだと言っても、みんなトーマの所の仲間だ。オレは、慣れた感じでカウンターに入って水を7つ用意した。オレ達だと、交渉に酒は早い。だが、水は、もう一つ必要だった。


 トーマが来た。それも、依頼者を連れて来た。どう見ても、もの凄く金持ちそうで、お付きを店の外で待たせている。トーマは、ちょっと、顔を掻きながら現れた。全員立ち上がって依頼者に愛想笑いする中、サザンだけ押し黙って依頼者を見た。


「コゥエンさんだ。サイバーダイン社の社長さんだ」

 憔悴していて見間違えそうだったが、やっぱりと思うサザン。コゥエンは、背中こそしゃんとしているが、総白髪になり、顔もしわくちゃで、以前より一回り小さく見えた。


「どうしたサザン」

 キーンが、サザンの様子に気付いた。

「あの人が、オレを牢屋に入れた人だ」


「お前を火星に逃がしてくれと言った人でもあるぞ」

 トーマが、クライアントに気を使って訂正する。

「済まなかった。ああしないと、会社は、解体させられていた」


「そのことは、最近、聞きました。聞いた時は、憤ったりわめいたりしましたが、自分の罪は、罪です。恨んでいません」


「ラミアから、聞いたんだろ。オレは、コゥエンさんとの契約で話せなかった。俺は、仕事を引き受けたんだ。わかるだろ」


 サザンは、頷くしかない。


「コゥエンさん、サザンと話したかったら、後で、いくらでも話せばいい。それより商談だ」


 うつむいていたコゥエンが、顔を上げた。


「バーチャル世界に捕らわれてしまった私の孫を助けてくれ。サザン君しかいないんだ。ロードオブ召喚獣だよ。惑星ジュームのゴリアスダンジョンの最終フレームに捕らわれてしまった。声をかけても反応しない。精神がゲームに飛んでいるのに違いない。アバターシステムをリセットできないんだ。そんなことをしたら、リサが死んでしまうかもしれない」


 サザン以外は、何の話だと全く理解できなかった。


「リサちゃん、まだ、やってたんですか」

「ああ、一人でな」


「サザン、おれ等にもわかるように話してくれ」

 ダース兄が、何の事だかわからんと首をひねりながら、サザンに聞く。キーンは、内容など、どうでもいい。

「サザン、さっき決めたことを忘れるなよ」


「サイバーダイン社は、知ってるよな」

「ロボット開発会社でしょ」

 ジャッキーが、分かると答える。


 そうかそれで、ジャッキーと彩夏を呼んだんだ。じゃあ、ダース兄弟が、バックアップだな。


「あそこには、宇暦250年に廃止になったアバタースーツセットがある」


 コゥエンが引き継ぐ。

「実は、この、アバタースーツが、ヒューマノイドを開発するのに一番適しているんだ。生体ポッドが、使用者のパラメーターを全部調整してくれる。それをもとに、ロボットを作ると、人としか思えない動きをする」


「おれの親父は、ここの開発主任だった。だから、自宅にも生体ポッドとアバタースーツのセットがあった。ジャッキーと、彩夏は、生体ポッドを触れば、すぐく理解出来ると思うぞ」


「……、引き受けてくれるのか」


「だから、恨んでいないと言ったでしょう」

 キーンが、オレ達は、どんな仕事で引き受けると決めていたと、うんうんと、頷いている。


「おい、サザン。オレ達は理解できていないぞ」と、ダース兄弟。


「すまん。今から、134年前(火星暦)に、2万人ものプレーヤーが行方不明になった事件があったんだ。その時、アバタースーツと生体ポッドを使ったバーチャルゲームが全盛だった。ゲームの名前は、ロードオブ召喚獣。そのせいで、ゲームも、アバタースーツセットも危険だということで廃止になった」


「そうなんだが、この、アバタースーツセットは、元々、ロボット開発プログラムの実機だったんだ。だから、開発用に細々と使われていた」


 頷くサザン。

「アバタースーツセットというのは、バーチャル環境がダイレクトに、プレーヤーに跳ね返ってくるから、プレーヤー本体の能力も必要になる。それも、地球仕様だぞ。ダースたちが居ないとオレだけじゃあレベル上げに時間がかかってしまう。バックアップしてくれ。オレのレベルは、60だ。ちょうど、バージョン1をクリアしてバージョン2になったばかりで、止めたんだ」


「オレ達が居ないと、バーチャル世界を渡っていけないんだな」


「いいのか。さっき聞いただろ宇暦250年に2万人も行方不明になった」


「オレ達は、アウトローだろ。命を惜しんでいたら仕事ができない」


 トーマが、ニヤッとする。キーンも平気だ。


 トーマが仕切った。

「ジャッキーと彩夏もいいか。おまえたちが、生体ポッドの管理運営だ」

 二人とも頷く。

「よし、じゃあ、コゥエンさん。交渉してくれ」

「トーマさん、オレは?」

「キーンは、サザンがOKだったらOKだろ」

「いや、OKですけど」

「わははは、すねるな。お前は、ダース兄弟と一緒にバックアップだが、ゲームを遊んでもいいからな。ダンジョン手前まで、サザンについて行けよ。相棒だろ」

「了解です」


「すまない、リサは、植物人間のようになっているから、アバタースーツシステムは、食事も、睡眠も、排泄もできる環境にしてある。だが、神経が持たない。医者には、1ヶ月が限度だろうと言われた。1ヶ月経ったら、心停止するようなことが有っても蘇生できるように環境を整えて生体ポッドをOFFする気だ。だが、精神まで保証しないと言われた」


 ?・・・

「なぜ、やらせていたんです。あれの最終ボスは、一人で倒せる相手じゃない」


「サザンのことは、秘密にしていたんだ。リサには、火星に行ったとごまかした。リサは、また、サザンとロードオブ召喚獣がやりたかったんだろうね。それに、生体ポッドは、本人を鍛えるだろ。体だけじゃあないIQが300を超えたんだ。200年以上もバージョンアップを続けていたんだ。安全性だって自信がある。こちらも、嬉しくなってしまってね。止められなかったんだ」


「サザン、生体ポッドってそんなにすごいのか」


「アバタースーツもよ。学習機のハード版だと思えばいいのよ。学習機は、体を鍛えてくれないけどアバタースーツは、体も鍛えるのよ。だから反応速度が上がる。まだ、あったなんて、驚いたわ」

 学習機は、羊水の中に入り生体電気で情報をインプットする。ジャッキーと彩夏は、基礎学習を1年も早く飛び級した天才だ。それは、学習機を改造して無理やり情報を詰め込むという、違法をしたからだ。しかし、本人たちは、大人の方がバカだと思っている。


「ジャッキーの言う通りさ。本人の能力向上だけを考えると、学習機なんかへだぞ」


「その割には、普通だよな。サザン」


「オレは、13でやめている。子供用に調節されていたんだ。成長期になった時は、少年院だったしな」

「すまない」

「もう、いいです。仕事の事を教えて下さい」


「依頼自体は、単純だ。リサに、脱出アイテムを届けてほしい。だが、いる場所が高レベルの者でないと入れない。最低でも80いる。普通の人間が1ヶ月で80になるのは無理だ」


「クリアするには、85から90いるんでしたね」


「あれから4年もあったんだ。リサは、もう、93もある」


「それでも、一人で入るなんて、無茶だ。最低でも、4人でパーティを組まないと無理なのに」


「リサの生体ポッドとリンクできる機材は、火星に6基ある。生体ポッドのメンテナンスは、こちらでやる気でいた。だが、トーマ君が、うちでやりたいというんだ。職員は、そのバックアップになる」


「ジャッキーと彩夏なら、1週間でマスターするさ」

 トーマは、核心を持ってコゥエンに話す。二人は、顔の表情で、ものすごい意気込みを見せている。


「報酬なんだが、うちは、15万クレジットだす」


 この場にいる若手全員が、大喜びする。


「お前ら、これは、成功報酬の話だ。オレが、受け元だぞ。6万貰う。内1万は、経費だ。成功したら、一人1万5千。それでいいか」


 二人で3万クレジット。宇宙艇の頭金になる額だ。トーマは、本当に、ここで、独り立ちしろと言っているようなものだった。


 全員了承した。


 交渉が成立して、ジャッキーと彩夏が、外にいるサイバーダイン社の職員と会社に向かった。ダース兄弟も、「自分たちが被験者になる」と、言ってついて行った。


 サザンは、久々に、コゥエンと、話をするのであった。サザンが、カウンターに入り、コゥエンが、カウンターに座った。トーマとキーンは、遠慮した。コゥエンは、社長という枠を超えて、開発主任だった父親と懇意にしていた。現在ある家庭用の執事ドロイドは、二人のアイデアだ。人権など無かったドロイドに、ある程度の立場を築かせいることに成功した作品だった。


「おじさん、老けましたね」

「当たり前だよ。君は、孫と同い年だ。成長したなサザン。君の成長した姿も見たかった」

「トーマが宇宙艇の仕事をくれたんです。火星で、うまくやっています」

「健二君の体調がおかしいのには、気付いていた。だが、原因がわからなかった」

「父は、事故です。おれが、母さんを殺した時に、オレをかばって死にました。体が弱っていたんです」

「宇宙の宝石か。開発には、必要なものだったが、結果が悲惨だ。君のお母様も正気ではなかったのだろう」

「今となっては分かりません。自分は、母さんから、宇宙の宝石を取り上げたかっただけなんです」

「・・・・・、・・・・・。」

「研究の方は?」

「止めてしまった。君が許してくれたら、再開するかな」

「お断りします」

「だから、研究は、そう言うことだ」

「はい・・・」


「リサだが、君のことを好いているようだ。だが、突っぱねてくれ。友達でいてくれるのは構わん」

「問題ないです。火星で、好きな子ができました」

「知っている。ラミア君だったか。宇宙の宝石とは、縁が切れないようだな」

「そのうちねじ伏せてやりますよ」

「火星の方が自由だ。地球じゃあもう、宇宙の宝石の研究許可は降りない。健二もいないし、面白くもない」

「おじさんも、こっちに引っ越したらいいんです」

「会社を引退したら考えるよ」



 キーンとトーマは、遠目に二人を見ながら一杯やっていた。思ったより、仲良さそうなので、初めから関わっているトーマは、安心した。キーンは、二人の会話を聞いてしまった。

「サザンの奴、母親を殺したんですか初めて聞きました」

「事故だ。サザンは、母親が所有していた宇宙の宝石を取り上げたかっただけだ。母親は、それを持った時からおかしくなっている」

「でも、刑務所に入れられた」

「会社を存続させるためだったそうだ。宇宙の宝石の詳細は、公表できない。事件にするしかなかったと言っていたな」

「ひどい話だ」

「どかな、サザンの両親は、あの会社の研究者だった。実績も残している。地球だと、こういうスキャンダルは致命的なんだ。会社の職員全員が路頭に迷うことになる。製品だって、リコールされた。あの社長の老け方見ただろ。苦渋の選択だったんだ。事件から、3年も経って、オレにサザンを逃がしてくれと依頼してきた。一番苦しんでいたのは、コゥエンじゃないか」

「オレには、分からないです」

「サザンの相棒だからな。まあ、コゥエンのことは、許した見たいだろ。キーンもそうしろよ」

「わかりました」

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