6-5 遭難者パンドラ

 バダ号に帰ってみると、バダ号は、ケレス軍、バーム軍、火星軍に囲まれていた。二人は、慌ててサザンの後ろに隠れた。バダ号の前では、バーム軍島宇宙方面司令官が仁王立ちしていた。


 サザンは、久しぶりに会ったラミアの父の許に二人を連れて行った。


「父さん」


「馬鹿者、オマエに父さん呼ばわりされる覚えはない。それと、後ろに隠れている子供。ここに入っていいと許可したか?」


「してないです」


 二人は観念したように、マーク司令官の前に出た。マークは、ウナとも、身内の盃を交わしている。だから、二人とも、自分の孫だ。なぜか、サザンとは、盃をかわしていない。ただの親の意地だ。理由はしっているが、ラミアに子供まで生ませて放っているサザンが許せない。


「私の孫が、密航するとは・・・すぐ連れ帰る」


「まってください。二人は手柄を立てました。少しだけ、話を聞いてください」


 娘二人は、父親が、かばうと思っていなかったので、ものすごく喜んだ。


「話せ」

 サザンは、ずっと握ったままだった宇宙の宝石をマークに見せた。


「神殿の祭壇跡にありました。レミーの手柄です。そしてその後ろに階段も、それはBOOKのウナです」


 マークが、ものすごい顔になった。サザンは、この無表情なラミアの父親が、表情を変えるのをはじめてみた。


 あれ?まずかったか

 そう思ったが、間違ったことは言っていない。


「パンドラだ」

「えっ」

「その人の名前だ。女の子だよ。レミー、サザンからその子を預かってこっちに来なさい」


 恐る恐るレミーがマークの許に行く。


「レミー、この子の声が聞こえたかい」

「わからないけど泣いてた」


 マークは頷いた。

「私の腕を触ってごらん」


 レミーがマークの腕を触ると、宇宙の宝石から、光のフィールドが展開した。それも、この、コロニーを覆うほどになった。


「騎士様」と、ウナがささやいた。


 シクシクシクシク、シクシクシクシク、シクシクシクシク、シクシクシクシク、シクシクシクシク・・・・・・。


「泣き止まないのか。おれが話しかけるよりレミーの方が心を開くと思う。泣き止ませてくれ」


 レミーが、パンドラに「泣き止んで」と、話しかけるが、反応がない。ウナもレミーの後ろに来て同じことをするが駄目だ。それに、マークも加わった。


「起きた事態が重すぎたんだ」


「でも・・・」


「どうしたレミー」


「ごめんなさい、おじいちゃん。お父さんにも来てもらっていい?」


「いいぞ、おまれが、そう、思うんだろ」



「お父さん!」


「おれは、そいつらがきらいだ。人のためにならない」


 そんなことない

 それは、パンドラの最初の声だった。


「なんだ、話せるのか。泣いてもごまかされないぞ」


 実はこの時、マークは、サザンを見なおしていた。何億年も心を閉ざしていたガイアの心を開いたのだ。


 私を利用したのは、人間じゃない


「いつの話だ。今じゃない」


 ごめんなさい、騎士様、この男に触らせてください


「許可する」


「ずっとさっきまで、触っていただろ」


 そう言いながらレミーとウナを抱きながらパンドラを触った。


「アチッ!」


 サザンは、火傷したような痛みを覚えた。グローブを外すとパンドラが左手の甲に食い込んでいた。


「おまえ、離れろ」


 いやよ 今の世界がわかるまで、一緒にいるわ


「おれには魔力がない」


 サザンは、慌てた。


 それを見たマークが喜んだ。

「サザン、付き合ってやれ。レミー、ナオミから、テレパシーブロックを習いなさい。パンドラと話せるようになる」


「父さん」


「だから、オマエにそう呼ばれる覚えはない。まあ、オレと同じだ。観念するんだな。おれの左鎖骨下にもガイア人が食い込んでいる。オレも魔力はないぞ。ワハハハハハ」


「冗談じゃない」


「そうだ、ウーナ草を嗅げ、そしたら、ウナもパンドラと話せるようになる」


「むちゃくちゃだ」


 娘二人は、父親に抱きつき、見上げるように見た。二人とも、パンドラと話がしたいのだ。もう、リンドウどころではなくなった。


「一度、火星に戻るか?」


「この子たちを放っておけないですから」


「わかった、戦艦は引き揚げさせる」


 そう言って、マーク司令官は、自分のファイターアクエリアスFに帰っていった。レミーがマークから手を放すと、光のフィールドは消え、パンドラの声も聞こえなくなった。




 バダ号に戻るとキーンが、コクピットで、何やら事後処理に追われていた。


「よかった、さっきまで連行すると言って、艦を拘束されてたんだ。もうすぐ復旧する」


「すまん、映像は撮ったが、リンドウはダメだった」


「また来ればいいさ、そこのおちびちゃん達なしでな」


「おちびちゃんじゃないもん」

「映像撮ったの私よ」


「そりゃ、すごい、将来有望だ」




「すまん。プルコバに行ってくれ」


「オマエ、嫌がってただろ」


「ウナ、母さんの墓参りに行くか」

「うん」


「レミー、今だったら、一緒に行けるぞ」

「一緒に行く」


「サザン!娘も連れていくのか?」


「事情が変わった、見ろよ」


 そう言って、手の甲に食い込んだパンドラを見せた。

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